みなさんには「ライフワーク」はあるでしょうか。ライフワークとは、一般的に「自分の人生をかけられる仕事」とされ、「天職」とも呼ばれます。それをもっているかどうかで人生の充実度が大きく変わるのはイメージできるものの、やりたいことを見つける方法がわからないという人もいるかもしれません。
脳科学者としての知見を活かしてうまくいく人とそうでない人の違いを研究する西剛志さんが、やりたいことを見つける方法を教えてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
西剛志(にし・たけゆき)
1975年4月8日生まれ、鹿児島県出身。脳科学者、分子生物学者。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。博士号を取得後、特許庁を経て、2008年に世界的に成功する人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。うまくいく人たちの脳科学的なノウハウや、才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦まで1万5000人以上に講演会を提供。テレビやメディアなどにも多数出演。『認知バイアスの教科書』(SBクリエイティブ)、『世界一やさしい 自分を変える方法』、『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』、『脳科学者が考案 見るだけで自然に脳が鍛えられる35のすごい写真』、『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(いずれもアスコム)など海外も含めて著書多数。
仕事には3つのカテゴリーがある
ひとことで「仕事」と言っても、その種類はさまざまです。イェール大学の研究では、仕事には、「ジョブ」「キャリア」「コーリング」の3つのカテゴリーがあるとしています。「3人の石工」という有名な寓話を知ると、これらの違いを理解しやすいでしょう。
レンガを積んでいる3人の石工に、ある人が「なにをしているのですか?」と尋ねました。すると、1人めの石工は「親方の命令でレンガを積んでいるんだ」、2人めは「レンガを積んで塀を造っているんだ」、3人めは「人々がお祈りをするための大聖堂を造っているんだ」と答えました。
1人めの石工は、仕事の先にある目的に対する意識が薄く、「お金のために仕方なく働く」といった姿勢です。こういった仕事がジョブです。2人めは、目的を達成したり職業人として成長したりなど、「自分の成長や業績のために働く」姿勢です。こういった仕事はキャリアと呼ばれます。
そして3人めは、仕事の先にある目的をしっかり見据えたうえで、仕事に対して「好き」や「人のために」という姿勢があります。こういった仕事が、「天から呼ばれる仕事(役割)」という意味で、コーリング(Calling)と呼ばれます。
このコーリングこそが、いわゆるライフワーク。「本当にやりたいこと」「天職」などと呼ばれるものです。生涯を通じて「生きる原動力」となり、働くなかで感謝やよろこび、ワクワク、幸せなどポジティブな感情をいくつも与えてくれるものです。現在、このコーリングの研究は欧米で精力的に行なわれており、200以上の論文がここ10年で報告されています。
ライフワークを見つけると、幸福度が高まり収入も上がる
やりたいことが見つかるメリットは、数多く存在します。まずは、幸福度が高まるということ。やりたいことが見つかっているかどうかで、脳の司令塔である前頭前野が活性化して「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌量に大きな差が生まれるのがわかっています。もちろん、たくさんの幸せホルモンが分泌されるのは、やりたいことが見つかっている人です。
また、ライフワーク(コーリング)は人のために行なう人がほとんどですが、もし目の前の人や社会のために懸命に活動している人がいたらどんな気持ちになるでしょうか? スペースXやテスラを創業したイーロン・マスクも地球を救うために活動し、巨万の富を得ましたが、人や世のなかのために活動している人は周囲から大きな信頼を寄せられるようになります。
そのため、逆にその人がピンチに陥ったり助けを求めたりしたときには、多くの人たちが助けてくれます。仕事の場面で考えたら、ひとりでは到底成し遂げられないような大きな成果を挙げられることにもつながるでしょう。
そうすると、必然的にビジネスパーソンとしての評価も高まり、結果として収入も上がっていく傾向があります。実際、ライフワークを見つけられている人ほど、そうでない人と比べて収入が高いという研究結果もあります。
ほかにも、ライフワークを見つけている人は仕事熱心だとか、自己肯定感が高い、肉体的にも精神的にもストレスを感じにくい、脳の老化を軽減できることが世界的なリサーチからわかっていて、そのメリットは枚挙にいとまがありません。逆に言うと、ライフワークを見つけられないデメリットも、それらと同じ数だけあるのです。
ライフワークの意外な盲点〜「格好いい」に潜むリスクと罠
そう聞くと、誰もがライフワークを見つけたいと思うでしょう。ライフワークを見つけられない理由とは、どんなものでしょうか? その理由は数多くありますが、そのひとつが、「格好いい仕事に就きたい」という思いです。
子どもの頃の私の同級生に、「医師になりたい」という人がいました。「どうして?」と聞くと、「格好いいから」「みんなにちやほやされそうだから」と答えるのです。つまり、自分の「やりたい」ではなく、まわりから評価される「他者承認」を求めていたのです。
それでも、周囲から評価され続けられるなら大きな問題には発展しないでしょう。ところが、他者承認は自分でコントロールできません。周囲からの評価など、ちょっとしたことが原因で大きく変わってしまうもの。
そうして周囲からの評価が下がってしまうと、他者承認を基準に仕事を選んだ人は「仕事がおもしろくない」と感じるようになってしまうのです。ですから、まずは自分の「好き」を基準に考えるのが大切です。
既存の仕事のなかで考えず、自分で仕事をつくり出す
そして、ライフワークを見つけられないもうひとつの理由は、「既存の仕事のなかからライフワークを探そうとしている」ことです。もちろん、既存の仕事のなかに自分がやりたい仕事を見つけられる人もいます。でも、既存の仕事は自分ではない他人がつくった仕事のため、自分の特性に完全に当てはまる仕事が見つからないというのもよくあるケースなのです。
かつての私自身も、このケースに当てはまるひとりでした。学生のときに段ボールで送られてきた就職資料のすべてに目を通したのですが、そのなかには私がやりたい仕事はひとつもありませんでした。そうして、当時は就職ではなく博士課程に進む選択をしたのです。
いまの私の仕事は、「人生がうまくいく人とそうでない人の違いを脳科学的観点から研究し、うまくいくためのノウハウを提供する」というものです。こんな仕事は、既存の仕事のなかにはありませんでした。つまり、既存の仕事のなかでライフワークを見つけられない人は、自分自身で仕事をつくらなければならないのです。
今では「ゲーム」×「スポーツ」でeスポーツプレーヤー、「ドローン」×「動画撮影」でドローン撮影家、「科学」×「法律」で発明弁護士など、むかしは考えられなかった仕事がたくさん生まれています。
そういった仕事をつくるためには、「融合させる」という考え方が大いに役立ってくれます。「アイデアは既存の要素の組み合わせに過ぎない」という言葉もありますが、これは仕事にも当てはまるのではないでしょうか。逆に言うと、融合させるだけで新たな仕事を生む可能性もあるのです。そのためにも、世のなかにどんな仕事があるのかを知るのも大切です。
「こんなことは仕事にならないだろう」などと思考を制限せずに、自分が少しでも興味関心があることどうしを組み合わせてみてください。そうすることがまったく新たな仕事を生み、それがライフワークになって驚かれることもあるかもしれません。
【西剛志さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。