思考には3つの種類があることを知っていますか? まずは「直観」、2つめは「論理的思考」、そして「第3の思考」とも呼ばれる「無意識思考」です。
その無意識思考研究の第一人者であり京都芸術大学客員教授の影山徹哉(かげやま・てつや)先生によれば、「無意識思考にはビジネスパーソンにとって有用な多くの特長がある」そう。無意識思考を行なうためのポイントとあわせて解説してもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹
無意識思考がもつ、驚くべき4つの特長
私が提唱している「無意識思考」にはいくつかの特長があります。まずは、それらを紹介しましょう。
【無意識思考の特長】
- 情報処理容量が大きい
- 適切な評価ができる
- バイアスがかからない
- 斬新なアイデアを出せる
1つめは「情報処理容量が大きい」ということ。以前に解説したように、私たちの思考には3つの種類があります(『意思決定は「論理 or 直観」どちらが優れているのか? 経営脳科学者の意外な答え』参照)。そのうち、それこそ複雑な情報処理ができそうに思える論理的思考によって処理できる情報量は、ビット数という単位で言えば10〜60くらい。でも、人間の情報処理量は、1,000万以上と言われています。つまり、論理的思考によって処理できる情報量はきわめて小さいのです。一方、無意識思考が扱える情報処理量は、論理的思考に比べて桁違いに大きいことが研究によりわかっています。
2つめの特長は「適切な評価ができる」ということ。新入社員の採用試験を行なっている会社があるとします。その会社では、「コミュニケーション能力が高い人材を採用しよう」と事前に決めていました。そして、面接の場にひとりの東大生がやって来た。その東大生のコミュニケーション能力は決して高いとは言えません。それなのに、東大生というブランドが魅力的に映り、迷ってじっくり考えた結果、採用してしまった……。
これは、論理的思考のデメリットによるものです。心理学においては「重みづけのエラー」といいますが、論理的思考は、じつは「適切な評価をする」ことが苦手なのです。その結果、本来の目的を果たせないことにもなる。一方で、無意識思考の場合には適切な評価ができますから、こういった問題も起こりません。
コロナ禍のいまこそ必要とされる無意識思考
無意識思考の3つめの特長は「バイアスがかからない」ということです。論理的思考の情報処理のかたちはトップダウン処理というもので、先に頭で考えて結論を導きます。そのため、先の新入社員採用の例にも通じることですが、たとえば「血液型がA型の人はこういう人、O型の人はこういう人だ」といったふうに、頭のなかにあるさまざまなバイアスが働くことになる。その人の言動や振る舞いなどはあまり考慮されません。もちろん、それでは正しい結論を導くことは難しくなってしまいます。
一方の無意識思考の場合は、ボトムアップ処理というかたちで情報処理をします。簡単に言えば、見たり、聞いたりするものについてそれぞれバラバラに分析・認識する方法です。たとえば、人の性格や特徴を認識するにあたって、血液型などにとらわれることなく、言動や振る舞いなどを総合的に考え時間をかけて行ないます。そのため、余計なバイアスの影響を受けることなく、正しい結論を導くことができます。
最後の4つめの特長は「斬新なアイデアを出せる」こと。論理的思考とは、言ってみれば学校の算数や数学で使われるような思考です。「こうだからこうだ」と論理を積み重ねていき、決まった答えを導き出す。そんな答えが斬新なものになるわけもありませんよね。ありきたりのものしか生み出せないのです。そんな論理的思考では導けない、「え? なにそれ!?」と周囲を驚かせるような斬新なアイデアを生むことができるという特長をもっているのが、無意識思考です。
この特長は、ビジネスパーソンにとって重要なものであるはずです。特にコロナ禍のいまなら、これまでになかったビジネスモデルや新規事業を生み出す必要性に迫られている業界で働く人もいるでしょう。そういう人は、ぜひ無意識思考を行なうことを考えてみてください。
目的意識がなければ、無意識思考は働かない
では、どうすれば無意識思考ができるようになるのでしょうか。押さえるべきポイントは3つです。
【無意識思考を行なうポイント】
- 無意識思考を起動させる時間を確保する
- 考えるべきこととは別のことに注意を向ける
- 目的意識を明確にする
1つめのポイントは、「無意識思考を起動させる時間を確保する」こと。これは、ビジネスパーソンにとってはひとつの鬼門かもしれません。時間に追われる多忙な人が多いでしょうし、それこそ上司の目もある。「新規事業案を考えてくれ」と上司に指示されたなら、「きちんと考えている姿勢を見せなければならない」とどうしても考えがちです。すると、論理的思考ばかりをすることになってしまう。それでは、先にもお伝えしたようにありきたりのアイデアしか生まれません。無意識思考を起動させるには、ある程度の時間が必要なのです。
2つめのポイントは、「考えるべきことととは別のことに注意を向ける」こと。無意識といっても、じつはなにもしないでぼーっとしているだけでは無意識思考が起動することはありません。「別のこと」とは、散歩でもいいですし音楽を聴くといったことでもいい。とにかく論理的思考のようにしっかり頭を働かせることとは異なる、気晴らしになるようなことに注意を向ける必要があるのです。
そういう意味では、コロナ禍においてリモートワークをしている人には無意識思考をやりやすい環境になっていると言えるでしょう。これまでと比べれば上司の目を気にしすぎるようなこともないでしょうし、気晴らしになることに注意を向けやすくもなっているはずです。
そして、最後のポイントが「目的意識を明確にする」ことです。いくら無意識思考とはいえ、「新規事業案を考えよう」と思ってもいない人の脳が勝手に働き、ある日突然、斬新な新規事業案が降って湧いてくるなんてことはありえません。無意識思考によってなにをしたいのか――その目的意識をしっかりもち、かつ必要な情報をインプットしたうえで「寝かせる」。そうすれば、無意識思考が素晴らしい結果を導いてくれるはずです。
【影山徹哉先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
意思決定は「論理 or 直観」どちらが優れているのか? 経営脳科学者の意外な答え
「3種類の思考」はこうして使い分ける。最善の決定、斬新なひらめきを可能にする思考術
【プロフィール】
影山徹哉(かげやま・てつや)
1982年9月19日、福島県生まれ。京都芸術大学客員教授。経営脳科学者。博士(医学)。東北大学経済学部、同大学院経済学研究科博士課程前期修了。米国パデュー大学留学後、中小企業支援機関に経営コンサルタントとして勤務中に、福島市にて東日本大震災に被災。身近な人も含め、多くの死を目のあたりにしたことで、人生観が劇的に変化。後悔のない生き方をしたいと、以前より興味のあった脳科学研究を志す。その後、東北大学大学院医学系研究科博士課程(脳科学専攻)に進学し、脳機能イメージング研究の第一人者・川島隆太教授、杉浦元亮教授に指導を受ける。博士課程在学時には、東北大学学際高等研究教育院の博士研究教育院生に選抜され、文系、理系の枠を超えた世界最先端の文理融合研究に携わった。東北大学加齢医学研究所人間脳科学研究分野研究員を経て、現職。専門領域は、脳科学、コーチング心理学、経営心理学。大学教員を務める傍ら、高校生向けの講義、一般向けの各種講演、個人コーチング、法人向けコンサルティングを行うなど幅広く活動している。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。