「いつも綿密に勉強計画を立てているのに、どうもうまくいかない」とお悩みなら、「ざっくりとした勉強計画」に変えてみませんか? 悩みが解決するかもしれません。勉強のプロフェッショナルたちの言葉や、心理学研究、医療機関や自動車工場の事例をもとにその理由を説明しましょう。
そもそも予定は狂うもの
働きながら米国公認会計士試験と司法試験に合格した弁護士の佐藤孝幸氏は、学習計画を細かく立てないそうです。なぜならば、そもそも予定は狂うものだから。
ビジネスパーソンであれば、周囲との連携や取引先の都合により予定が変わることもあるでしょう。家庭があれば、子どもの急病などでやむなく予定を変えることもあるはずです。
そんなとき、綿密な計画であるほど予定の立て直しが厄介です。予定が崩れて今日やるべきことが繰り越される状況が続けば、挽回することが困難になるかもしれません。遅れを取り戻せなくなればストレスがたまり、モチベーションも低下するでしょう。
そのため佐藤氏は学習者に対し、細かい勉強計画は立てず、たとえば “この1カ月は基礎的な勉強をする” などと「ざっくりした長期プラン」を立て、今日と明日に何をやるかだけ考えるようアドバイスしています。そのほうがストレスもたまらないとのこと。
また、目標達成の経験が増えると勉強が楽しくなり、意欲が湧いて好循環が生まれるので、今日・明日の勉強スケジュールは確実に達成できる範囲に留めるといいそうです。
“ざっくり” でパフォーマンス向上
一方、アメリカのユタ大学は2011年に、「ざっくり(曖昧さ)」がパフォーマンスを向上させると主張しました。
ユタ大学教授のHimanshu Mishra氏らは、「確実な情報の硬直性(融通が利かない性質)はポジティブな解釈を思い止まらせるが、曖昧な情報の柔軟性はポジティブな期待を生み出すのでパフォーマンスを向上させる」とアメリカ心理学会の研究ジャーナル『Psychological Science Vol. 22』で発表しています。
たとえば「英単語を毎日20個覚える」という計画を立てたものの達成できなかった場合、「あーあ、ダメだなぁ」と自分を責め、意欲を低下させてしまうかもしれません。しかし、「英単語を毎日5~30個くらい覚える」というざっくりした計画なら、「今日は5個覚えられたから次はもっと頑張ろう」と前向きになれて意欲が湧くということです。
これは前出の佐藤氏が述べた、成功体験の効力にもつながります。学習意欲が高まれば、成果も出やすくなりますよね。
スケジュールの余白で柔軟になる
また、矢崎会計事務所所長の矢崎誠一氏は、勉強時間が3,000時間は必要だと言われる会計士試験の勉強をする際、1週間のうち5.5日分だけ勉強計画を立てて、あとは空白のままにしていたそうです。
その1.5日分の空白は、達成できなかった計画をこなすためや、不完全な部分の復習、急にやる気を失ったときの休息日に使っていたとのこと。つまり、勉強計画がうまく進まなかったとき自由に使って調整できる余白を設けていたのです。
じつは、経済学教授のセンディル・ ムッライナタン氏と、心理学教授のエルダー・シャフィール氏が共著した『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』(早川書房)にも、共通するエピソードが記されています。
手術室が不足していたアメリカのセント・ジョンズ地域医療センターが、専門アドバイザーに従い「通常は使わない手術室をひとつ空けておく」ようにしたところ、なぜか受け入れられる手術がグンと増えたそうです。手術室が足りないのに手術室を増やさず、むしろ手術スケジュールを削るかたちで問題を解決できたのは、この病院の本当の問題が「手術室の不足」ではなく、「急患用の手術室の欠如」であったからです。
すべてきっちり計画された状態に、上の例で言えば急患など予定外のことが入り込むとスケジュールの組み替えが必要になり、簡単に計画が崩れてしまいます。結局それで、非効率な状況が生まれてしまうというわけです。
また、ノンフィクション作家の野地秩嘉氏によれば、世界的企業であるトヨタの自動車工場(広汽トヨタ)も、常に空きスペースを用意しているそうです。
そもそもトヨタは、改善のためなら面倒な生産ライン引き直しも躊躇しないそうですが、いつも空きスペースがあれば、より生産ラインを引き直しやすく、より改善しやすくなるということです。
「ひとつ空けておく手術室」も「トヨタの自動車工場の空きスペース」も、矢崎氏の勉強スケジュールに組み込まれた空白に通じます。それは余裕であり、柔軟性であり、融通が利くざっくり感でもあるのです。
「ざっくり勉強計画」のポイント
これまでの内容をふまえると、「ざっくり勉強計画」のポイントは次のとおりです。
- ざっくりとした長期計画を念頭に今日・明日やることを決める
- 今日・明日の勉強計画はこなせる範囲に留める
- 今日・明日の勉強計画は「〇〇~〇〇まで」などと幅をもたせる
- 勉強計画は詰め込まず空白の日を残しておく
つまり、勉強計画は “ざっくり” がいいのは、柔軟で計画倒れしにくく、ストレスを低減でき、意欲が湧いて、パフォーマンスが向上するからです。
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勉強計画はざっくりがいいことと、その理由を説明しました。よろしければ参考にしてみてくださいね。
(参考)
センディル・ ムッライナタン 著, エルダー・ シャフィール 著, 大田直子 訳(2015),『いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学』, 早川書房.
ResearchGate|In Praise of Vagueness: Malleability of Vague Information as a Performance Booster
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