「固定概念」は間違い? 固定概念・既成概念との違いとは

「固定概念」は間違い? 固定概念・既成概念との違いとは

「固定概念」という言葉をよく耳にすると思います。「固定観念」「既成概念」「既成観念」など、似た言葉が多いため、それぞれの違いや使い分けを知らない人は多いのではないでしょうか。

今回は、そんな「固定概念」の意味や、類語との区別のほか、固定概念にとらわれることで生じるデメリット、そして固定概念を打破する方法をご紹介します。

「固定概念」の意味

「固定概念」とは、「その人にとっては当たり前の考え」「なかなか変わらない思い込み」のような意味で使われている言葉です。しかし、「固定概念」という言葉は正式な日本語として存在しません

正しくは「固定 “観念”」。ほとんどの辞書には、固定観念はあっても、「固定概念」は載っていないのです。

『大辞林』第三版によると、固定観念とは「心の中にこり固まっていて、他人の意見や周りの状況によって変化せず、行動を規定するような観念」という意味。自分のなかで凝り固まっている考えやイメージが、固定観念です。

【固定観念の例】

  • カレーは茶色いものだと決まっている
  • 低緯度に位置する国は暑いに違いない
  • 誕生日にパーティーをしないなんてありえない

【固定観念の使い方】

  • 固定観念を打破しよう
  • 固定観念にとらわれることなく考える
  • 年下は年上に敬語を使うべきだというのが、あの世代の固定観念らしい

では、なぜ「固定 “観念”」は正しく、「固定 “概念”」は誤りなのでしょう? 「観念」と「概念」の意味を比べてみれば理解できます。

「観念」の意味

『大辞林』は、観念を「物事について抱く考えや意識 」と定義しています。物事についてどんなイメージをもっているか、ということです。

「カレー」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか? 茶色くて、ジャガイモや肉やニンジンが入っている家庭的なカレーライスをイメージする方もいれば、さらさらとしたスープカレーや、ナンが添えられているインドカレーをイメージする方もいるでしょう。あなたが思い浮かべる「カレーといえばこれ!」というイメージこそが、カレーについての観念なのです。観念の例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • カレー:茶色くて、ジャガイモや肉が入っている
  • 山手線:緑色の車体で、いつも混雑
  • マツコ・デラックス:毒舌だけど愛嬌がある。身体が大きい。よく黒い服を着ている

「概念」の意味

概念は、『ブリタニカ国際大百科事典』において、「Aについての経験的事実内容ではなく、Aに関する論理的、言語的意味内容をさす」と解説されています。観念は主観的なイメージを指す一方、概念は「カレーとは何か」という客観的な事実や辞書的な定義を表すのです。

たとえば、カレーの概念であれば、「インド発祥の辛い料理で、香辛料で具材を煮込んだもの」。山手線の概念は、「東京都内を走る環状線」という具合になります。以下の表に、観念と概念の違いをまとめました。

  観念(イメージ) 概念(辞書的な定義)
カレー 茶色くて、ジャガイモや肉が入っている インド発祥の辛い料理。香辛料で具材を煮込んだもの
山手線 緑色の車体で、いつも混雑 都内を走る環状線
マツコ・デラックス 毒舌だけど愛嬌がある。身体が大きい。よく黒い服を着ている 株式会社ナチュラルエイト所属のタレント・エッセイスト

「固定概念」という言葉を深堀りするにあたり、「概念」と「観念」の違いを確認しておきましょう。

「固定概念」が間違いなのはなぜ?

では、なぜ「固定概念」という表現は不適切なのでしょう?

まず、「観念」というものは、ひとつの物事に対してさまざまなバリエーションが存在します。カレーの場合、一般的な茶色いカレーだけでなく、グリーンカレーやレッドカレー、チーズカレーなどたくさんの種類があり、そのすべてが「カレーの観念」と呼ばれる資格をもっているのです。にもかかわらず、「カレーは茶色いものだ」「カレーにはジャガイモが入っていなければならない」と、特定の観念に固執してしまったとき、それが「固定観念」となります

一方で「概念」とは、さまざまなバリエーションに共通する要素を抽出した辞書的な定義ですから、ひとつしかありえません。カレーの場合は「インド発祥の辛い料理」です。辞書によって言い回しは多少変わるものの、内容は基本的に共通しています。

多数の「観念」に共通する要素が「概念」。多種多様なカレーの「概念」には、「インド発祥の辛い料理」という共通要素がある。これが「概念」。

「観念」と異なり、「概念」は唯一のもの。つまり、もともと固定されています。そのため、“固定概念” という言葉は、“頭痛が痛い” や “馬から落馬する” のような、意味の重複した不自然な表現なのです。

観念が複数あるうち、固執しているたったひとつ観念が「固定観念」。一方、「概念」とはそもそもひとつしかないため、「固定」という言葉は適さない。よって、「固定概念」は誤り。

とはいえ、言葉の意味や用法は時代によって変わるもの。「固定概念」が辞書に載る日がいつか来るかもしれませんが、今の時点では「固定観念」か「既成概念」を使うほうがベターです。

「固定概念」の類語「既成概念」

「固定概念」と混同されがちな類語として「既成概念」があります。既成概念とは、読んで字のごとく「すでにできあがっている(従来の)概念」のこと。先述した固定観念が「ひとつの観念に凝り固まっている」という意味だったのに対し、既成概念は「概念が旧態依然として古めかしい」という意味なので、ニュアンスが異なります。とはいえ、日常会話レベルでは、同義の言葉として扱っても差支えないでしょう。

たとえば、「カレーの既成概念が覆った」と言うときは、「インド発祥の料理で、香辛料で野菜や肉などを煮込んだもの」という定義の一部あるいは全体が覆るわけです。「固定観念が覆った」と表現するのに比べ、より根本的な部分において革新的である、ということになります。「香辛料を使わないカレー」「煮込まないカレー」などでしょうか。

ちなみに、「既成 “観念”」という表現は存在しません。「概念」は、ほかの誰かが作り上げたり定義したりしたものなので「既成」といえますが、「観念」は、ひとりひとりの内面にあるイメージなので、「既に定義されている」とは考えにくいためです。

ここまで出てきた「固定概念」にまつわる表現をまとめると、以下のとおり。

  • 「固定観念」→OK
  • 「固定概念」→誤り
  • 「既成観念」→誤り
  • 「既成概念」→OK

「固定概念」の類語「既成概念」

固定観念(既成概念)にとらわれるデメリット

「固定概念」あらため、固定観念ないし既成概念は、多くの場合、“悪者” として扱われます。あなたも、「固定観念にとらわれるな」という教えを耳にした経験があるはず。

固定観念・既成概念にとらわれる何よりのデメリットは、視野が狭くなることです。たとえば、「目玉焼きにはしょうゆをかけるもの」という固定観念をもっている人は、ソースやケチャップには目もくれません。ひょっとしたら、ソースやケチャップをかけたほうがおいしいかもしれないのに、試すことすらしないのです。

ビジネスの場合、しょうゆは「従来の慣習」、ソースやケチャップは「改善策」や「新たな挑戦」に置き換えられます。あなたの職場は、非効率的なやり方に固執していたり、どう考えても不合理な慣習を引きずっていたりしませんか? そうだとすれば、「仕事とはこういうもの」「うちの会社はこういうもの」という固定観念にとらわれ、思考停止に陥っている恐れがあります。

ヤマト運輸株式会社の元会長・小倉昌男氏は、固定観念を打破した成功例として、自身が生み出した「宅急便」サービスを挙げています。1970年代初頭の運送業界では、業者の大口荷物を輸送するほうが儲かると考えられていました。小倉氏は、その固定観念を取り払い、個人宅から個人宅へ小さな荷物を運ぶ「宅急便」を開始。新たな市場を開拓したのです。

このように、イノベーションを生み出し現状を改善していくためには、固定観念・既成概念を疑い、打ち破ろうとする意識をもつことが大切なのです。

固定観念(既成概念)にとらわれるデメリッ

固定観念(既成概念)をもつメリット

とはいえ、固定観念・既成概念は悪い点ばかりではありません。むしろ、私たちが生きていくのに必要なものだといえます。イエール大学心理学教授のポール・ブルーム氏によると、固定観念のおかげで、私たちは未知の物事や出来事について推測し、対処できるのだそう。

たとえば、家を出るときに空を見て「今日は雨が降りそうだなあ」と思い、傘をもっていくことにした、というのはよくありますよね。このような推測は、「こんな空模様の日は雨が降るものだ」という固定観念に基づいているといえます。もっとも、「こんな空模様」のとき、常に雨が降るわけではないのですが……。

ほかにも以下の例のように、私たちはこれまでに培った固定観念(経験)に基づいて、日常のさまざまなシーンで判断を下しているのです。

  • 老人なのだから、立っているのはつらいに違いない。席を譲ろう。
  • 6月なのだから、今は晴れていても、あとで雨が降るに違いない。傘をもっていこう。
  • この広告に出ている商品はあまりに安すぎる。品質が低いに違いない。

固定観念を全くもたないのは、何も知らない赤ん坊や子どものようなもの。あらゆる物事について「これはどんなものだろう?」「これは何だろう?」とゼロから考えはじめるのであれば、判断のスピードが落ち、推測の精度も下がるでしょう。

固定観念・既成概念は、私たちが生きるうえでのメリットを有しているぶん、容易に打破できないものなのです。

固定観念(既成概念)をもつメリット

固定観念(既成概念)からの脱却方法1:ターンオーバー発想法

では、とらわれてしまっている固定観念・既成概念から脱却するには、どうすればいいのでしょうか? 方法を2つご紹介します。

まずは「ターンオーバー発想法」。人材開発コンサルタントである潮田、滋彦氏の著書『アイディアがどんどんわいてくる! 知恵の素』(PHP研究所、2007年)によると、ターンオーバー発想法とは、「当たり前だと思い込んでいることを書き出したうえで、ひっくり返す」という方法です。

ターンオーバー発想法を用いると、「ポテトチップスはサクサクしている」という固定観念から、「柔らかいポテトチップス」という斬新なアイデアが生まれます。ターンオーバー発想法のやり方を具体的に見ていきましょう。

1. 当たり前になっていることをリストアップする

まず、ひっくり返すターゲットとなる「当たり前のこと」をリストアップしましょう。ポテトチップスの新製品を開発するなら、ポテトチップスに関する「当たり前」の要素を、以下のようにどんどん書き出してください。

  • サクサクしている
  • だ円形である
  • しょっぱい

2. 裏返しにする

書き出した「当たり前のこと」を、裏返しに考えます。

  • ポテトチップスはサクサクしている→柔らかいポテトチップス
  • ポテトチップスはだ円形である→四角いポテトチップス
  • ポテトチップスはしょっぱい→甘いポテトチップス

3. アイデアを具体化する

常識を裏返すことで生まれたアイデアを掘り下げ、具体的なイメージに落とし込んでいきましょう。

  • 柔らかいポテトチップス→ゆでたてのジャガイモのような、ホクホク食感のポテトチップス
  • 四角いポテトチップス→クラッカーのように食べられる、正方形のポテトチップス
  • 甘いポテトチップス→メープルシロップ味のポテトチップス

固定観念・既成概念を離れた斬新なアイデアが求められているとき、ターンオーバー発想法が大いに役立つはずです。

固定観念(既成概念)からの脱却方法1:ターンオーバー発想法

固定観念(既成概念)からの脱却方法2:ゴードン法

固定観念・既成概念から脱却する2つ目の方法は「ゴードン法」。経済専門のリサーチ会社・矢野経済研究所の『アイデア発想法16 どんなとき、どの方法を使うか』(CCCメディアハウス、2018年)によると、ゴードン法では、まずテーマを抽象化してからアイデアを考えはじめます

たとえば、新商品を開発するとき「斬新なポテトチップスとは何か?」とそのまま考えはじめると、ポテトチップスについての固定観念に影響されてしまい、アイデアの幅が限定されてしまいます。そこで、ゴードン法では、あえて「ポテトチップス」という具体的なテーマを伏せ、「斬新な味のお菓子とはどんなものか?」「ジャガイモを使った新たな料理とはどんなものか?」という具合に、ポテトチップスの要素の一部に着目し、テーマを抽象化したうえで考えはじめるのです。

ゴードン法の詳しいやり方を、4つのステップにまとめました。

1. アイデアを出したいテーマを決める

まず、テーマを明確にします。

  • ポテトチップスの新製品
  • 斬新な缶コーヒーの新製品
  • ジップロックの新しい使い方

2. テーマがもつ要素を抽出する

次に、テーマから、特徴や機能などの要素をピックアップしましょう。

  • ポテトチップス→ジャガイモでできている、お菓子である、サクサクしている
  • 缶コーヒー→飲料である、主に仕事中に飲む
  • ジップロック→密閉できる、透明な袋である

3. 1つの要素に着目し、抽象的なテーマを設定する

抽出した要素のうち1つを選び、具体的なテーマを伏せ、抽象的なテーマを設定しましょう。ポテトチップスの「素材(ジャガイモ)」という要素に着目すれば、「ジャガイモを使った新たな料理とは?」「ジャガイモの新たな調理法とは?」というように、「ポテトチップス」という本来のテーマを隠して問いを立てることができます。

【ポテトチップス】

  • ジャガイモ→「ジャガイモを使った新たな料理とは?」
  • お菓子→「今までにないお菓子とは?」
  • サクサクしている→「食感がサクサクした、新たな食品とは?」

【缶コーヒー】

  • 飲料である→「今までにない斬新な飲料とは?」
  • 主に仕事中に飲む→「仕事中に飲むのにふさわしい、新たな飲料とは?」

【ジップロック】

  • 密閉できる→「密閉ツールの新たな使い道とは?」
  • 透明な袋である→「透明な袋の変わった使い道とは?」

4. 抽象的なテーマをもとに発想する

抽象化したテーマをもとに、アイデアを生み出しましょう。「ジャガイモを使った新たな料理とは?」というテーマなら、「ジャガイモにシロップをまぶしたスイーツ」「ジャガイモを乗せたパイ」など、「ポテトチップス」という既成の枠ではできなかっただろう発想が浮かびやすくなります。

  • ポテトチップス
    「ジャガイモを使った新たな料理とは?」→ジャガイモにシロップをまぶしたスイーツ
  • 缶コーヒー
    「仕事中に飲むのにふさわしい新たな飲料とは?」→脳を活性化するドリンク(ポリフェノールが多いコーヒー)
  • ジップロック
    「密閉ツールの新たな使い道とは?」→大切なものを保存する(貴金属やアクセサリーを保存するためのジップロック)

ご紹介した「ターンオーバー発想法」「ゴードン法」を活用して、固定観念・既成概念にとらわれない発想を目指しましょう。

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「固定概念」という言葉が誤用であること、そして固定観念・既成概念を打破する具体的な方法を解説しました。新商品・企画のアイデアに困っていたり、現状を改善したいと考えていたりする方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。

>>「具体」と「抽象」を自在に使いこなしてレベルアップする方法
>>「概念化」の意味とは? 概念化能力のトレーニング法3選
>>抽象的思考とは? 苦手な人でもできるトレーニング5選

(参考)
矢野経済研究所 未来企画室(2018)『アイデア発想法16 どんなとき、どの方法を使うか』, CCCメディアハウス.
小倉昌男(2012),『小倉昌男の人生と経営』, PHP研究所.
潮田、滋彦(2007),『アイディアがどんどんわいてくる! 知恵の素』, PHP研究所.
コトバンク|固定観念
コトバンク|観念
コトバンク|概念
TED|先入観は良いことになり得るか?

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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