時間をかけずに「理解+記憶」するための2つの勉強法。世界記憶力グランドマスターが教えます

池田義博さんインタビュー「より速く理解して記憶する2つの勉強法」01

勉強にじっくりと時間をかけられていた学生時代までと違い、社会人の勉強は「効率」との戦いです。いかに時間をかけずに理解し、そして記憶するのか。それが勉強の成否を分けると言ってもいいかもしれません。

記憶力を競う日本記憶力選手権大会で6連覇を果たし、世界記憶力選手権では「グランドマスター」の称号を日本人で初めて獲得した池田義博(いけだ・よしひろ)さんが、より速く理解して記憶するふたつの勉強法を教えてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子

頭の回転が速い人は、「速い記憶」と「遅い記憶」の照合がうまい

記憶には、「遅い記憶」と「速い記憶」のふたつの種類があります。「遅い記憶」はいわゆる長期記憶で、貯蔵庫のように情報を長く残しておくための記憶です。一方の「速い記憶」は一般的に短期記憶と呼ばれるもので、「考える」「理解する」ために働く記憶であり、貯蔵庫に残すために情報を加工処理している工場のようなものです(『記憶力がいい人は「2つの記憶」を使い分けている――どういうことか “記憶のプロ” に聞いてみた』参照)。

もちろん勉強にも、学んだ情報をしっかり頭に留めておく遅い記憶は重要ですが、より重要度が高いと言えるのは速い記憶かもしれません。理解できていないものを、遅い記憶に留めておくことは難しいからです。

では、考える、あるいは理解する場面において、速い記憶はどのように働いているのでしょうか。物事をより深く理解しようと思えば、インプットされた新しい情報を、「このことは、以前に学んだあのことと構造が似ているな」といったふうに、すでに頭のなかにある既知の情報と照らし合わせることがポイントとなります。

もちろん、これまでまったく知らなかったことをゼロから学ぶことも可能ではありますが、速い記憶の段階で遅い記憶の情報と照合することで、より深く効率的にすばやく理解できるのです。

そして、この情報の照合がうまい人こそが、「頭の回転が速い人」なのだと思います。それこそ、振られたお題に対してすばやく的確な発言ができるような、頭の回転が速いコメンテーターの頭のなかでも、情報の照合が起きているのでしょう。

彼ら彼女らは、ただまっさらの状態の頭で、お題についてゼロから考えているわけではないはずです。「このことはあのことと構造が似ている」「こういう考え方があるのだから、こういう考え方もできるだろう」「似たお題を振られたときに、こんなコメントをして評価された」など、頭のなかにある遅い記憶の情報と、お題という速い記憶の情報を照らし合わせ、「いまするべきはこういうコメントだ」とすばやく判断しているのだと思います。

池田義博さんインタビュー「より速く理解して記憶する2つの勉強法」02

記憶の性質を活かした「イメージ音韻ループ法」

では、速い記憶を活用した記憶法・勉強法を紹介しましょう。ひとつが、「イメージ音韻ループ法」という方法です。「音読」という記憶法はむかしから存在しますが、記憶の性質という観点から見ると、音読は記憶のためにとても有効です。

脳の「大脳新皮質」は、手や指、目、耳、足など体のあらゆる部位をすべてモニターしています。ただし、それらの部位をすべて均等にモニターしているわけではありません。最も重点的にモニターしているのは手と指です。それから唇、舌、耳と続きます。つまり、手、指、唇、舌、耳からは、ほかの部位と比べるとより多くの刺激を脳が得ているのです。

そういう意味では、手や指を使う記憶法がより有効であることは確かですが、唇や舌、耳を使う音読もそういった方法に負けず劣らず有効だと言えます。

イメージ音韻ループ法もこの性質を活かし、覚えたい情報を繰り返し声に出して読むことが基本となります。でも、ただ単に声に出して読むだけでは、記憶の定着にはかなりの時間を要します。そこで、より効率的に記憶するため、「イメージ」を利用するのです。

まずは文章を読んで理解します。先にもお伝えしましたが、理解できていないことを記憶することは困難だからです。理解したあとは文章を音読します。そして、同時に頭のなかで文章から連想するイメージを思い浮かべるのです。この繰り返しが記憶の定着を助けてくれます。

なお、「文章から連想するイメージ」と言いましたが、思い浮かべるイメージはなんでもかまいません。文章の内容に即したものではなくとも、その文章内のなんらかの言葉がきっかけで「なぜかいつもあの出来事を思い出すんだよな」といったことでもいいのです。重要なのは、覚えたい情報にイメージという新しい情報をつけ加えることであり、このことが記憶の定着を促すのです。

池田義博さんインタビュー「より速く理解して記憶する2つの勉強法」03

スピードをもって繰り返しテキストを読む「バレットチェック法」

続いて紹介するのは、「バレットチェック法」というものです。「バレット(bullet)」は、「弾丸」、あるいは箇条書きの項目を示す「・」のマークを意味する英語。つまり、バレットチェック法は、箇条書きを利用した勉強法となります。この勉強法は、資格試験勉強など範囲の決まっている勉強に適しています。

独学で資格試験勉強をするとき、みなさんはどのように勉強しますか? 初めて学ぶことなら、ひとつひとつ確実に理解しながら勉強を進める人もいると思います。よって、参考書を1ページめからじっくり時間をかけて読んでいく人もいるでしょう。

しかし、この勉強法は脳のメカニズムから言うとおすすめできません。というのも、「ゴールが見えない状態」では、脳が不安を感じるからです。これから学ぼうとしていることはどれくらいのボリュームなのか、どのくらいの難易度なのかといったことを脳が気にしてしまい、パフォーマンスをしっかりと発揮できないのです。

そこでまずは、スピードを意識して参考書を1回読みます。そうして、全体像やゴールを見せてあげて脳を安心させるのです。ただ、もちろん1回読んだだけでは、その時点における理解度や記憶の定着は強いものではありません。

それでも、1回読むあいだに、脳の働きによって「これが重要そうだ」「ここは理解するのが難しそう」といったポイントが見えているはずです。それらを箇条書きにして抜き出すのです。その内容は、たとえば専門用語のような単語レベルの短いもので構いません。

続いて、箇条書きの項目をひとつずつ見ていき、それらについて「これは○○ということ」などと自分で端的に表せるかをチェックしていきます。「そんな短い言葉で大丈夫なの?」と思う人もいるかもしれませんが、むしろそのほうがいいと言えます。なぜなら、短い言葉で表せるということは、その内容を抽象化してしっかり理解できているということだからです。

そのように箇条書きの項目をチェックしていき、説明できたものには「○」、できなかったものには「✕」を書き込んでいきます。あとはこの繰り返しです。脳は「✕」がついた項目を意識してくれていますから、2回目以降に参考書を読むときにはそのことに対して集中的にパフォーマンスを発揮してくれます。こうして、理解や記憶の定着が強まっていくのです。

池田義博さんインタビュー「より速く理解して記憶する2つの勉強法」04

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【プロフィール】
池田義博(いけだ・よしひろ)
一般社団法人記憶工学研究所(MEI)所長。「記憶力日本選手権大会」最多優勝者。日本人初「世界記憶力グランドマスター」獲得者。大学卒業後、エンジニアを経て塾を経営。教材のアイデアを探していたときに出会った記憶術により記憶という能力に興味をもち、日本記憶力選手権大会への出場を決意。40代半ばでの初出場にも関わらず、10カ月の練習で優勝を果たす。その後、2019年まで出場した同大会で6連覇。また、2013年にロンドンで開催された世界記憶力選手権において日本人初の「グランドマスター」の称号を獲得。現在は『IP記憶法』を開発し、記憶力も含め、世の中の多くの人たちの「脳力」向上に貢献することを自身のミッションとして活動中。『世界記憶力選手権グランドマスターの驚くほど簡単な記憶法』(日本能率協会マネジメントセンター)、『読むだけで記憶力が倍増する本』(マキノ出版)、『一度読むだけで忘れない読書術』(SBクリエイティブ)、『子供の成功は記憶力で決まる』(朝日新聞出版)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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