「記憶力はほぼ集中力」。記憶力日本一が提唱「集中と理解を最大化」できる勉強ノート術

池田義博さんインタビュー「集中と理解を最大化できる勉強ノート術」01

みなさんはどこで勉強をしていますか? コロナ禍の影響もあって、オンライン学習など自宅で勉強しているという人も多いはずです。しかし、誘惑に満ちている自宅では「勉強に集中できない……」と悩んでいる人もいるのではないでしょうか。

ただ、この「集中力」こそが、「理解や記憶をともなう勉強においては最重要」だと言うのは、記憶力を競う競技において6年連続日本一に輝いたことがある池田義博(いけだ・よしひろ)さん。集中力と記憶の関連性、そしてしっかりと集中して勉強するための方法を解説してくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子

「覚えよう」という意志と集中力こそが、記憶のスイッチ

私たちはひとことで「記憶」と言いますが、じつは記憶には3つの段階があります。情報を覚える「記銘」、覚えておく「保持」、覚えたことを思い出す「想起」です。これらの3段階を経てようやく記憶となるため、情報を覚える最初の段階である「記銘」が非常に重要であることはおわかりでしょう。覚えていない情報を保持したり想起したりすることなどできるはずもないですよね(『記憶力がいい人は「2つの記憶」を使い分けている――どういうことか “記憶のプロ” に聞いてみた』参照)。

ところが、この重要な記銘をおろそかにしている人も多いのです。人の顔と名前を覚えるのが苦手だと言う人もいますが、こういう人には、「自分はどうせ覚えられないから」と半ば諦めていたり笑い話にしたりして、そもそも覚えようとしていないケースも目立ちます。

「覚えよう」という意志や集中力こそが、しっかりと記銘するためのスイッチとなってくれます。そういう意味では、「記憶力はほぼ集中力」と言ってもいいかもしれません。

実際、ある記憶学習における検証では、集中力と記憶の関連性がはっきりと示されています。なんらかの情報を覚える記憶学習では、音楽やラジオを聞きながら行なう場合には、記憶の定着率が大きく下がるのです。なぜなら、脳は非常に優秀なために、自分自身では音楽を聞いていないつもりでも脳が聞いているからです。つまり、脳が集中できない状態になるのです。

歌詞のある音楽は、記憶や勉強にとって大きな障害となります。脳が歌詞を追うからです。では、歌詞のない音楽だったらいいかと言ったら、この場合でも脳はメロディーやコード進行といった曲の流れや法則性を追います。

そうして、覚えたい情報の理解や記憶に脳のリソースを100%集中させることができなくなり、結果として記憶の定着率が下がってしまうのです。

池田義博さんインタビュー「集中と理解を最大化できる勉強ノート術」02

集中が阻害されにくい聴覚を使う学習法をチョイスする

また、脳が集中できない状態になるという意味では、視覚にも注意が必要です。私たちがどの感覚器から最も多くの情報を得ているかというと、その答えは目です。インプットする情報の8割を目から得ているといわれています。

つまり、それだけ目は敏感で優秀な感覚器と言えるのですが、逆にそのことが集中にとっては障害となりえます。「デスクの上が散らかっていると、勉強の成果が出にくい」といったことも言われますが、参考書の内容などしっかりと集中したいこと以外にも、目は視野に入った膨大な情報を脳に送り続けるからです。そうして脳が集中できなくなり、理解や記憶を邪魔してしまうのです。

このことは、私自身も体感しています。私が過去にやっていた記憶競技には、ランダムの数字の並びを覚えるという種目があります。しかしこの種目には、紙に書かれた数字を制限時間内に覚えるものもあれば、「スリー、ファイブ、セブン、ファイブ……」といったふうに、1秒間隔で読まれる数字をその場で覚えていくものもあります。

そして、後者のほうが圧倒的に集中しやすいのです。目をつぶっていれば数字を読む声だけに没頭できるからです。やはり、紙に数字が一覧で書かれている場合、覚えたい数字とは別の数字やほかのものが視野に入ってしまい、集中が阻害されるのだと思います。

そのため、聴覚を使う学習法をチョイスするのも、理解や記憶を促すためには有効です。いまはオーディオブックがありますから、むかしながらの参考書や問題集だけでなく、そういったサービスを利用してみるのもいいでしょう。

池田義博さんインタビュー「集中と理解を最大化できる勉強ノート術」03

授業に集中できて理解が深まる「PITAノート」

また、授業や講義といったかたちでの勉強も、集中が難しい勉強法のひとつです。先生や講師の話に集中しているつもりでも、そこからなにかを連想したり理解を深めたりしようとすると板書がおろそかになりますし、きれいに板書しようとすると今度は話に集中できなくなるからです。

そこでおすすめしたいのは、私が「PITAノート」と名づけたノート術です。授業に集中するには、なによりも予習が重要です。まったく予習をしていない状況で、その場で入ってきた新しい情報を理解して記憶するというのは、脳にとって非常に負荷が高い行為だからです。

また、心理学において「プライミング効果」と呼ばれる現象も、予習の重要性を示しています。プライミング効果とは、「あらかじめ受けた刺激(情報)が、その後の思考や行動に影響を与える現象」を指します。たとえば、テレビ番組でラーメン特集を見た翌日に、自分では意識していなくてもラーメン屋に入ってしまうようなことですね。そのプライミング効果を勉強に活かすのです。

具体的には、まずノートの左ページと右ページそれぞれの真ん中に縦線を引き、見開き2ページを4分割します。そして、これらを左から順に以下のように分けます。

【PITAノート】

  • Preparing(準備)エリア
  • Information(情報)エリア
  • Thinking(思考)エリア
  • Answering(回答)エリア

池田義博さんインタビュー「集中と理解を最大化できる勉強ノート術」04

一番左のPreparingエリアを予習に使います。たとえすべてを理解しきれなかったとしても、自分なりに予習をして疑問点などを書き込みます。これがプライミング効果を引き出してくれて、実際の授業において集中したり理解したりすることを助けてくれるのです。

次のInformationエリアは、板書スペースです。ここは単純に、作業のためのエリアとなります。

3つめのThinkingエリアは、授業を受けているときに浮かんだ疑問点やアイデアなどをメモしておくスペースです。脳はとても優秀な器官ですが、もちろんウィークポイントもあります。「ワーキングメモリ」と呼ばれる、思考するために情報を一時的に記憶しておく能力は、一度に書き込める容量がそれほど多くないのです。そのため、たくさんの情報がワーキングメモリに残されていると思考力は低下していきます。それを防ぐため、気になったことを書き出していき、ワーキングメモリをフリーにして思考に集中させるのです。

最後のAnsweringエリアは、Thinkingエリアにメモした内容の解決に使います。授業のあと、疑問点について考えたり、先生に質問をしたり、書籍やネットで調べたりして、その回答を書き込む。あるいは、アイデアを整理してみるのです。

これら4つのエリアの使い分けにより、しっかりと授業に集中できて理解も深まり、そして記憶にも残りやすくなると思います。

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【池田義博さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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【プロフィール】
池田義博(いけだ・よしひろ)
一般社団法人記憶工学研究所(MEI)所長。「記憶力日本選手権大会」最多優勝者。日本人初「世界記憶力グランドマスター」獲得者。大学卒業後、エンジニアを経て塾を経営。教材のアイデアを探していたときに出会った記憶術により記憶という能力に興味をもち、日本記憶力選手権大会への出場を決意。40代半ばでの初出場にも関わらず、10カ月の練習で優勝を果たす。その後、2019年まで出場した同大会で6連覇。また、2013年にロンドンで開催された世界記憶力選手権において日本人初の「グランドマスター」の称号を獲得。現在は『IP記憶法』を開発し、記憶力も含め、世の中の多くの人たちの「脳力」向上に貢献することを自身のミッションとして活動中。『世界記憶力選手権グランドマスターの驚くほど簡単な記憶法』(日本能率協会マネジメントセンター)、『読むだけで記憶力が倍増する本』(マキノ出版)、『一度読むだけで忘れない読書術』(SBクリエイティブ)、『子供の成功は記憶力で決まる』(朝日新聞出版)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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