アートに全然興味ない人は “3つの力” が伸びない。

アートに興味を持たない人がマズい理由を秋元雄史さんが解説01

一般的な日本人にとって、「アート」と言うとあまり身近ではないかもしれません。美術館巡りを好む人もいますが、それもあくまでプライベートの趣味程度のものという認識なのではないでしょうか。

でも、新刊『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』(プレジデント社)でも注目される、東京藝術大学美術館館長の秋元雄史(あきもと・ゆうじ)先生は、「日々のビジネスにおいて、アートの知識や考え方は大きな武器となる」と語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

アートに興味を持たない人がマズい理由を秋元雄史さんが解説02

ビジネスの場で求められる人間力を高めるためのアート

『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』(プレジデント社)なんて本を出していながら、本当のところは、アートとビジネスはまったく異なるものだと私は考えています。その一方で、ビジネスにおいてもアートの知識や考え方が重要となるとも考えているのです。

とは言っても、デザイナーなどよっぽどクリエイティブな仕事をしている人は別として、美術的な発想がすぐに目の前の仕事に生かせるといったことは、ほとんどないでしょう。「ビジネスにはアートが大切だ」と考えて、いくら美術館を巡っても、日頃の仕事に使えるようなネタが転がっているなんてことは、おそらくありません。でも、仕事をしていくうえで、アートは必ず役立ちます。

いま、リベラル・アーツが再評価されていることから考えても、人間の総合的な力――人間力の価値が上がってきている時代といえるでしょう。ビジネスのスキルに加えて人間力を持ち合わせていないと、現在はビジネスにおけるさまざまな場面を突破しにくくなっているのではないでしょうか。その人間力を高めるために、教養の側面としてのアートが重要になるのです。

アートに興味を持たない人がマズい理由を秋元雄史さんが解説03

アートは国境を超えた最強のコミュニケーションツール

また、いまは日本国内でも、自身とは属性が異なるさまざまな国の人と出会う機会がどんどん増えています。昔だったら、仕事をする仲間や相手も同じ日本語を話す日本人で、すぐに仕事に入ることができました。ところが、値踏みすると言うと語弊がありますが、いまは相手によってはその立場や価値観をまず確かめないといけない。

とは言っても、セクハラやパワハラなどにも敏感ないまは、微妙な事柄についてあまりダイレクトに相手に聞くことはできません。そのとき、相手の価値観やバックボーンを知るためのツールとして、アートが非常に有効なのです。昔から、「酒の席では政治と宗教と野球の話はタブー」だという言葉がありますが、その逆の手段としてアートが役立つわけです。

人間関係をスムーズなものにしていくためのアートを軸とした会話は、海外ではよく見られるものです。特にヨーロッパの場合は、生まれた国や地域によって、それこそ宗教も政治的立場も歴史的背景も違うもの。同じフィールドで円滑にビジネスをしていくために、アートは必ず身につけておくべき教養なのです。

特に欧米のエリート層にある人たちは、豊かな教育を受けているだけではなく、人間的な魅力があって他者に対する理解が深いという特性があるように思います。それらの特性は、アートをはじめとした教養によって培われるもの。そういったヒューマンな部分が欠如したまま、ただ金儲けがうまいというような人は、本当の意味での信用を勝ち得ることができません。

日本でもようやくダイバーシティーという言葉が浸透し始め、多様性の重要性が増しているとされるいま、人間関係においていらぬ誤解を招くことを避けるためにも、アートが持つ力をもっと生かしてほしいと思うのです。

アートに興味を持たない人がマズい理由を秋元雄史さんが解説04

アートで培われる読解力や観察力が課題を明確にする

もちろん、アートが力を発揮するのは、先に述べたような人間力を高めたりコミュニケーションツールとして役立ったりする場面に限りません。ビジネスにおいて壁にぶつかっているような状況でも、大いに力を発揮してくれます

たとえば、何が問題なのかわからずに仕事がうまくいかない状況は、多くのビジネスパーソンが経験しているものです。そこで何が必要でしょうか? それは、そういう状況にさせている一番大きな要因は何かとか、その状況をどう見れば課題が明確になり全体像が見えやすくなるのか、と考える作業であるはずです。

こういった状況では、問題点が見えないことが一番の問題なのであって、問題点さえ見えれば解決したも同然だからです。ただ、この作業はとても抽象的なものでもある。だからこそ、その作業を進めるために、アートで培われる読解力や観察力がものを言うわけです。

みなさんは、図工や美術の授業と聞くと、どういうものを想像しますか? ほとんどの人が、絵を描いたり工作をしたりする内容をイメージしたのではないでしょうか。ところが、欧米の学校における美術の授業では、制作というものをほとんどしません。では、何をするかというと、作品の鑑賞なのです

生徒たちは、美術館に行って作品を見ます。そして、自分なりにその作品のテーマを読み解き、自分は何を感じたかを論じる。そのようにして、子どもの頃から日常的にアートに触れるなかで、先に挙げた読解力や観察力が培われているのではないでしょうか。

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ビジネスで重要な「身体感覚」もアートによって磨かれる

また、いま述べた「自分は何を感じたか」へ目を向けることも大切です。私は、仕事において自分自身の「納得感」を大切にするべきだと思っています。

商談でも企画書作成でもプレゼンでも、相手を説得するのは意外と簡単です。なぜなら、話す内容や書いている内容が破綻していなくて筋さえ通っていれば、基本的に人は納得するからです。

でも、それにも例外はある。立場を入れ替えて、説得される側に立って考えてみてください。ある人から持ちかけられた商談は、きっちり筋が通っていてとても説得力があるものだった。でも、妙な身体感覚というか、「本当にこの商談を受けていいのか?」「なぜかもやもやするぞ」といった違和感を抱いたといった経験はないでしょうか。

理由はわからないけれど、そういう「納得感」がないときは、結果としてその自分の感覚を信じたほうがいいことも少なくありません。そして、その自分なりの身体感覚も、アートに触れることで磨かれていくのだと思うのです。

アートに興味を持たない人がマズい理由を秋元雄史さんが解説06

【秋元雄史さん ほかのインタビュー記事はこちら】
ビジネスに必要な「直感」と「感性 」。アートを通して磨いていく方法があった!
日本の経営者たちも好む現代アートには「心のストレッチ」の作用がある。

【プロフィール】
秋元雄史(あきもと・ゆうじ)
1955年生まれ、東京都出身。東京藝術大学美術館館長・教授。東京藝術大学美術学部卒業後、作家として制作を続けながらアートライターとして活動。1991年、新聞の求人広告を偶然目にしたことがきっかけで福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社。「ベネッセアートサイト直島」として知られるアートプロジェクトの主担当となり、開館時の2004年より地中美術館館長、公益財団法人直島福武美術館財団常務理事に就任し、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターも兼務する。2006年に同財団法人を退職し、翌2007年に金沢21世紀美術館館長に就任。10年間の勤務ののちに退職し、現在は東京藝術大学美術館館長・教授、及び練馬区立美術館館長を務める。『一目置かれる知的教養 日本美術鑑賞』(大和書房)、『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』(大和書房)、『直島誕生 過疎化する島で目撃した「現代アートの挑戦」全記録』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『おどろきの金沢』(講談社)、『日本列島「現代アート」を旅する』(小学館)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

 

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