日本の経営者たちも好む現代アートには「心のストレッチ」の作用がある。

日本の経営者が現代アートを好む理由――秋元雄史さんインタビュー01

現代アートに日常的に触れている人は、そう多くはないはずです。なかには、「難解そう……」とネガティブなイメージを持っている人もいるかもしれません。

ただ、新刊『アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法』(プレジデント社)でも注目される、東京藝術大学美術館館長の秋元雄史(あきもと・ゆうじ)先生によれば、「日本の経営者たちの多くは現代アートを好む」のだとか。その理由はどんなものなのでしょうか。併せて、初心者のために現代アート鑑賞法も教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

日本の経営者が現代アートを好む理由――秋元雄史さんインタビュー02

日本の経営者たちが現代アートを好む理由

国内外問わず、エリートと呼ばれる人たちはアートに対して強い関心を持っていることが多いのですが、日本の経営者たちの場合、現代アートを好む傾向にあります。まずは、そもそも現代アートとはどういうものかを解説しておきましょう。

現代アートの大きな特徴として、世の中を分析したり解釈したり批判したりするものということが挙げられます。しかも、主体がすごくはっきりしている。たとえば、LGBT問題や少数民族問題をテーマにした作品なら、アーティスト自身がそれらの問題の渦中にあり、その立場から自分なりの発信をしているという具合です。

また、その表現手法はじつにさまざま。近代までの美術は、たとえ抽象画にしても、あくまでも造形の美術であり、そのなかで自由に表現したものでした。でも、現代アートとなると、それも崩れてきます。絵の場合もあれば、ダンスや光、最新のテクノロジーを使ったものもあるのです。

さて、なぜ企業のトップにいる人間が現代アートを好むのでしょうか? それにはもちろん、単純に趣味だということもありますが、現代アートを自分なりの判断材料のヒントにしている側面もあると思うのです。

トップの人間は、自分が先頭に立って時代を読んだり、ある問題に対してなんらかの答えを出したりする立場にあります。そのとき、情報を得たり判断のためのヒントを得たりする材料のラインアップのひとつとして、アートを重視しているのです。その理由は、先に述べたように、現代アートがその名の通り、いまの世の中をアーティストたちそれぞれが表現したものだからなのでしょう。

そして、アートが「国際言語」だからということも、経営者が現代アートを好む理由です。生まれた国や母国語の違いにかかわらず、どんな相手に対しても、アートを通じてコミュニケーションを取ることが可能だからです(『アートに全然興味ない人は “3つの力” が伸びない。』参照)。

日本の経営者が現代アートを好む理由――秋元雄史さんインタビュー03

都市部の人は美術館、地方の人はアートフェスティバルへ

では、現代アートにあまりなじみがない人は、どのように現代アートに触れていけばいいのでしょうか。この点では、都市部に住む人が比較的恵まれています。特に東京の場合、森美術館や国立新美術館、東京都現代美術館など、現代アートを鑑賞できる美術館が充実しています

しかも、それらの美術館では、たとえばアメリカの画家であるバスキアなど知名度の高いアーティストの作品を展示するような、できるだけ間口を広げた展覧会をすることも多く、現代アートにあまりなじみがない人も抵抗なく楽しむことができる仕組みをつくっています

地方の場合、現代アートを扱う美術館というと、青森、金沢、京都、大阪、福岡にあるくらいでしょうか。しかも、いまの時代はどんどん保守的になっていて、現代アートを扱うことが以前より減っています。

いま、テレビ番組でも日本を賛辞するようなものが増えていると思いませんか? これは、明らかに日本という国が保守化していることの表れです。時代、経済、アートといった世界は完全にリンクしますから、たとえばソニーが革新的な製品をどんどん世に送り出していたような日本経済が元気だった時代には、日本の現代アーティストも国際的に大きく活躍したものです。

一方、保守化が進んでいるいまは、山川草木のようなヒーリング効果の高いアートが求められていて、これまで現代アートを扱っていたような美術館も攻めた作品を展示することが減っています。

ですが、いまは地方の人も現代アートに触れることができる別のかたちが出てきました。それは、瀬戸内国際芸術祭などのアートフェスティバルです。地方のなかでも、それこそ過疎地が町おこしの一環として行っているケースもあるので、ぜひ足を運んでほしいですね。

日本の経営者が現代アートを好む理由――秋元雄史さんインタビュー04

現代アートに触れることは心のストレッチになる

さて、先にお伝えしたように、現代アートの表現は自由ですから、実際に美術館やアートフェスティバルに行ってみても、作品をどう鑑賞すればいいのかという取っかかりがない場合もあるでしょう。たとえば、作品によってはさまざまなもので構成されていて、どこからどこまでが作品かわからないというものもあります。

そういうときは、現地にあるカタログを見てみましょう。カタログには写真がありますから、先のような例でも、「ああ、写真に写っている範囲が作品だな」と理解できます(笑)。

また、なかには「無題」というタイトルのものもありますが、ほとんどの場合は作品テーマを表現したタイトルがあって、その作品に込められた制作意図やキーワードが説明書きされています。そういった情報を事前に見ておけば、難解だと思われがちな現代アートに対する抵抗感はぐっと減るはずです

あるいは、特にアートフェスティバルの場合には、現地にアーティスト本人がいる場合も少なくありませんから、本人と直接話をすることでも作品の理解を深めることができます。でも、アーティストによっては気難しい人もいるものです。そういうときは、ボランティアのガイドの人たちが開いている鑑賞会に参加してはどうでしょうか。たいていは無料ですし、有料でも500円程度です。

ボランティアの人たちはみんな優しくて、気難しい人はいません。しかも、ガイドの内容もなかなかうまく考えられていて、学校の講義のように一方的に話すのではなく、「最初に何が目に入りましたか?」「どこからどこまでが作品でしょうか?」というように、参加者に質問を投げかけて盛り上げながら、作品を解説してくれます。

そんな入り口からでもいいので、これまで現代アートになじみがなかった人にも、ぜひ新たな刺激を受けてほしいと思います。それは、心のストレッチのようなものかもしれません

普段の生活で使う筋肉は、決まった同じ部分だけです。すると、その筋肉ばかりが疲労したり、あるいは使っていない筋肉が凝り固まったりしてしまう。

でも、現代アートに触れることは、普段使っていない筋肉を使って収縮させたり伸ばしたりすること。その心のストレッチによる刺激から、経営者たちも重視する独特の感覚を手に入れてほしいと思います。

日本の経営者が現代アートを好む理由――秋元雄史さんインタビュー05

【秋元雄史さん ほかのインタビュー記事はこちら】
アートに全然興味ない人は “3つの力” が伸びない。
ビジネスに必要な「直感」と「感性 」。アートを通して磨いていく方法があった!

アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法

アート思考 ビジネスと芸術で人々の幸福を高める方法

  • 作者:秋元雄史
  • 出版社/メーカー: プレジデント社
  • 発売日: 2019/10/30
  • メディア: 単行本

【プロフィール】
秋元雄史(あきもと・ゆうじ)
1955年生まれ、東京都出身。東京藝術大学美術館館長・教授。東京藝術大学美術学部卒業後、作家として制作を続けながらアートライターとして活動。1991年、新聞の求人広告を偶然目にしたことがきっかけで福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社。「ベネッセアートサイト直島」として知られるアートプロジェクトの主担当となり、開館時の2004年より地中美術館館長、公益財団法人直島福武美術館財団常務理事に就任し、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターも兼務する。2006年に同財団法人を退職し、翌2007年に金沢21世紀美術館館長に就任。10年間の勤務ののちに退職し、現在は東京藝術大学美術館館長・教授、及び練馬区立美術館館長を務める。『一目置かれる知的教養 日本美術鑑賞』(大和書房)、『武器になる知的教養 西洋美術鑑賞』(大和書房)、『直島誕生 過疎化する島で目撃した「現代アートの挑戦」全記録』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『おどろきの金沢』(講談社)、『日本列島「現代アート」を旅する』(小学館)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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