企画力とは?『ハリー・ポッター』がベストセラーになったワケ

企画力とは1

企画力とは、どんな能力でしょう。アイデアを次々に提案できること? 企画書作りがうまいこと? 課題を自分で設定できること?

企画力の高い人は、豊かな発想力をもって斬新なアイディアをアウトプットできるだけでなく、情報収集能力に優れています。自分の考えを説明するにあたって、必要なポイントをうまく押さえた言葉選びも得意です。

企画力の高い人は、「仕事ができる人」ともいえます。どうすれば、そうなれるのでしょう? 今回は、企画力の定義を確認しつつ、企画力を高める方法をご紹介します。

企画力とは

「企画力」とは何でしょう? 「提案力」や「創造力」とはどう違うのか、疑問に思う人もいるかもしれませんね。

企画力とは、課題を発見したうえで、魅力的な解決法と実現可能なプロセスを描き出すスキルのこと。「ナレッジの共有・活用」を重視したコンサルティングやセミナーを手掛ける株式会社資産工学研究所の代表取締役・坂本善博氏は、企画力を次のように定義しています。

企画力とは、創出された新価値・アイデアを実現構想にまで高め成果や収益に導く力です

(引用元:富士通|本質博士の仕事塾 太字による強調は編集部が施した)

坂本氏によると、企画力はビジネスパーソンの推進力となるスキルなのだとか。イノベーション(新たな価値の創造)実現のプロセスにおいて、創造力・企画力・提案力の3つが必要とされるそうです。

  1. 創造力:既存の知識・知恵から独自の価値を生み出す。
  2. 企画力:新たな価値を、実現可能かつ成果・収益を生み出すかたちにまとめる。
  3. 提案力:まとめた企画を、説得力をもって説明する。

また、『企画力 「共感の物語」を伝える技術と心得』の著者で、「ソーシャル・イノベーション」を掲げるシンクタンク・ソフィアバンク代表の田坂広志氏は、企画力について次のように語っています。

プロフェッショナルの世界において、企画力とは、「企画を立案する力」のことではなく、「企画を実現する力」のことだからです。正確に言えば、企画を立案し、提案することを通じて、人間と組織を動かし、それによって企画を実行し、実現する力のことなのです。

(引用元:田坂広志(2004),『企画力 「共感の物語」を伝える技術と心得』,ダイヤモンド社.太字による強調は編集部が施した)

「企画力が高い」とは、アイデアを立案するだけでなく、説得力のある提案をし、企画を実現できることを意味するのですね。

企画力とは2

企画力がある人の行動パターン

企画力とは、生まれつきの能力なのでしょうか? ロックバンド「ビートルズ」のように数々のヒット作を生み出した人々は、「天才」のように感じられ、生まれつき特別な能力を持っていたのだと思いたくなるかもしれません。

しかし、企画力は天賦(てんぷ)の才ではありません。あなたも、企画力がある人たちの習慣を取り入れてみれば、企画力を高めることができますよ。

『クリエイティブ・スイッチ 企画力を解き放つ天才の習慣』(早川書房、2018年)の著者アレン・ガネット氏は、マイクロソフトを筆頭に600社以上をクライアントに持つ市場調査ソフト制作会社・TrackMavenの創業者兼CEO。ガネット氏によると、「ヒットメーカー」たちが成功した理由は、天才的な能力ではなく、ある “習慣” なのだそう。

『クリエイティブ・スイッチ』を参考に、企画力がある人の行動パターンを4つご紹介します。

大量に情報収集している

企画力のある人は、ひらめきの源を求めて常にアンテナを張っています。

アンテナを張っていれば、知識が増えるのはもちろん、世間の流行にも気づきやすくなります。これからヒットしそうなトピックをいち早く見つけたり、自分のアイデアが時代遅れでないか判断できたりするのです。

世界的ベストセラー『ハリー・ポッター』シリーズの作者であるJ・K・ローリング氏も、作家の卵に向けて「いちばん大事なのは、私のようになるべくたくさんの本を読むこと。よい本とはどういうものなのかがわかるし、語彙も広がるから」とアドバイスしています。自分の分野に関する情報に触れれば触れるほど、ものの良し悪しの判断がつきやすくなるのです。

ただし、興味のある情報にしか触れない、というのは、あまり効果的ではなさそう。『一流の人は上手にパクる 仕事のアイデアがわいてくる大人のカンニング』(祥伝社、2015年)の著者・俣野成敏氏によると、ビジネスに関して情報収集する場合、自分の興味や嗜好(しこう)という "枠" を取り外すのがコツなのだとか。

好き嫌いに関係なく、テレビのCMやポストに入れられるチラシなどにも目を向けてみましょう。「おや?」と違和感が働いたら、なぜそこが気になったのか、考えてみてください。素朴な疑問を無視しないことで、キャッチできる情報の質と量が変わるそうです。

他者をお手本にしている

企画力のある人は、他者の作品やヒット商品のパターンを分析し、自分のアイデアに取り入れています。『クリエイティブ・スイッチ』を訳した千葉敏生氏によると、優れた翻訳書や翻訳仲間の訳し方を自分と比べ、良い部分を取り入れるのは、上達に欠かせないプロセスだそうです。

お手本となるのは、自分と同じ分野の人・物だけではありません。俣野氏によると、ビジネスでは、業界の垣根を取り外して縦横無尽に情報を組み合わせて使いこなす "柔軟性" が大事なのだそう。

あの定番商品「ポカリスエット」が生まれたきっかけは、大塚製薬の技術部長が、手術後の医者が栄養補給に点滴液を飲むのを見たことでした。皆さんも、他業界の人気商品を分析し、自分の企画に取り入れられる要素がないか考えてみては?

クリエイティブ・コミュニティを持っている

企画力のある人は、コミュニティ作りを通じてスキルを磨き、モチベーションを養い、手を貸してくれるパートナーを見つけています。

たとえば、電気自動車メーカー・テスラや宇宙開発を手がけるスペースXのCEOを務めるイーロン・マスク氏も、自分ひとりの力で数々の偉業を達成してきたわけではありません。マスク氏は、アメリカ航空宇宙局(NASA)のほか、日本のパナソニックや中国の電池メーカー・寧徳時代新能源科技といった大企業だけでなく、多くの投資家や賛同者の協力を得ることに成功しました。新しい世界を切り開く試みを成功させるには、「クリエイティブ・コミュニティ」が必要なのです。

クリエイティブ・コミュニティは、以下のメンバーで構成されています。

  1. 一流の教師:業界のイロハを伝授し、フィードバックを与えてくれる
  2. 相補的なパートナー:自分の欠点を補ってくれる
  3. 創作の女神:モチベーションを与え、斬新なアイデアを出し、ときには最高の力を引き出してくれる
  4. 卓越したプロモーター:名声を築いていて、自分を高く評価し、後押ししてくれる

たとえば、あなたが翻訳の仕事をしているのであれば、クリエイティブ・コミュニティは以下のようになるでしょう。

  1. 自分の訳文に目を通してフィードバックをくれる、大学時代の先生
  2. わからない英語表現について質問できる、ネイティブの友人
  3. 切磋琢磨し合い、翻訳について語り合える、翻訳者仲間
  4. 翻訳学校などで講師を務める、一流の翻訳家

クリエイティブ・コミュニティを作るにあたり、特に「卓越したプロモーター」を見つけるのが難しいと感じるかもしれませんね。その分野で名を成し、教育にも力を注いでいる人物の講演会やセミナーに参加してはいかがでしょう? チャンスをとらえ、自分をうまくアピールできれば、「卓越したプロモーター」を得られるかもしれませんよ。

ブラッシュアップを繰り返している

企画力がある人は、自分の作品や商品が形になっても満足せず、ブラッシュアップを続けて完成度を高めています。

たとえば、ポール・マッカートニー氏の天才的ひらめきによって誕生したとされる、ビートルズの歴史的ヒット曲「イエスタディ」。実際には、「ひらめき」から2年近くもかけて構成が練られたそう。周囲の人々は、未完成の曲をうんざりするほど聞かされたとのことです。ブラッシュアップに時間をかけたことで、作品が最高の形に仕上がったのですね。

J・K・ローリング氏も、『ハリー・ポッター』シリーズを執筆するにあたり、全7巻の筋書きを完成させてから1作目を書きはじめたことで知られています。創作メモには、第1巻の第1章だけで、15種類ものバリエーションがあるとのこと。膨大な時間をかけ、結末までの道筋を精緻に練り上げることで、巧妙に伏線を敷くことができたのです。

皆さんも、作品・商品が完成しても終わりにせず、人に見せて意見を聞いたり、新たに思いついたアイデアを取り入れたりして、クオリティを高めてみてはいかがでしょうか。

優れた企画力は、天性の才能ではなく、企画力を向上させる行動パターンから生まれます。皆さんも、できそうなことを取り入れ、企画力を磨いてみてはいかがでしょう。

企画力とは3

企画力を向上させるフレームワーク

企画力は、習慣だけでなく、トレーニングによっても身につけられます。『ビジネスフレームワーク図鑑 すぐ使える問題解決・アイデア発想ツール70』(翔泳社、2018年)で取り上げられているフレームワークから、企画力の向上に最適なものを3つピックアップし、筆者が取り組んでみました。

オズボーンのチェックリスト

「オズボーンのチェックリスト」は、9つの質問に答えることで視野を広げるフレームワーク。収集した情報をアイデアとして落とし込むのに使えそうです。筆者は、「映画館」をテーマにやってみました。

企画力を高めるのに使える「オズボーンのリスト」は、「転用」「応用」「変更」「拡大」「縮小」「代用」「置換」「逆転」「結合」の9個から成る。

「オズボーンのチェックリスト」を使用することで、普段は考えもしないアイデアが浮かびます。どうしても埋まらない項目は、そのテーマについて情報が足りていない部分かもしれません。新たに情報収集する際の参考にしてみましょう。

4P+誰に何を分析

「4P+誰に何を分析」は、自社と競合他社の戦略を大まかに整理できるフレームワーク。ライバルを分析し、良いところを自分に取り入れるのに使えます。筆者は、「カフェ」をテーマに作ってみました。

  自社 競合A 競合B
誰に(ターゲット) 20~30代
ビジネスパーソン・学生
10代後半~20代半ば
トレンドに敏感な若者
20~40代
スタイリッシュな大人
何を(届ける価値) 飲食しながら仕事・勉強できる環境 最新トレンドの飲食物
インスタ映えする空間
お茶のアロマとこだわりの家具
長いできる空間
Product
(製品)
作業しながら飲み食いできる飲食物
WiFi・電源
トレンドに合う商品
種類が豊富
オーガニック素材
おしゃれなお茶・お菓子
くつろげるソファ・個室
Price(価格) 高くも安くもない 低価格帯
ポイントカード
高価格帯
Place(流通) 主要駅付近
オフィス街
駅ビル おしゃれな一軒家
大通りから遠い
Promotion
(販促)
オウンドメディア Instagram ファッション雑誌

作成手順は、次のとおりです。

  1. 自社と競合他社の名前を書く。
  2. 各項目に該当する情報を調査する。
  3. わかったことを書き込む。

完成したら、競合他社の項目のうち、感銘を受けた点や、取り入れたい点をピックアップしてみましょう。あなたの企画のブラッシュアップに役立つはずです。

ロードマップ

企画力には、説得力のある提案をし、他者を巻き込む力も含まれるのでしたね。相手の共感を得るには、具体的な作業計画を示す「ロードマップ」が使えます。目標までの道筋が可視化されているので、事業の将来像をひと目で伝えられますよ。

筆者は、「新しい食事代わり用飲料を開発し、販売を促進する」ことを目標に、作成してみました。

企画力を高めるのに使えるフレームワーク「ロードマップ」。
作成手順は、次のとおりです。

  1. 右上に目標と達成期限を書く。
  2. 左下に現状を書く。
  3. 最終目標と現状を踏まえ、中間目標を設定する。
  4. 「市場への仕掛け」として、営業やプロモーションなどの外部戦略を記入する。「組織の体制」として、人材の採用・育成、システム構築などの内部戦略を記入する。

ロードマップを作成すると、目標までの長期的なイメージを可視化できるため、ほかの人と共有しやすくなります。事業の将来像を示せるため、企画を実現するための説得力が強まるのです。

以上、企画力のトレーニングに役立つフレームワークを、3つご紹介しました。筆者の場合、テーマを決めた直後は具体的な計画が思い浮かばなかったものの、見本を参考にしてフレームワークを埋めていくと、発想がじわじわと広がっていくのを感じました。企画をまとめるコツは、こうやってつかんでいくのですね。

皆さんも、企画力を養うトレーニングとして、ぜひやってみてください。

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企画力を学べる本

最後に、企画力を身につけたい人にオススメの本をご紹介します。

『クリエイティブ・スイッチ 企画力を解き放つ天才の習慣』

著者のアレン・ガネット氏は、2016年、「世界に影響を与える30歳未満の30人」として、『フォーブス』誌の「30 Under 30」に選出された人物。世界的なヒットメーカーや研究者たちに対する、2年間ものインタビューをまとめた本が、『クリエイティブ・スイッチ 企画力を解き放つ天才の習慣』です。

『クリエイティブ・スイッチ』には、ビートルズやローリング氏をはじめ、大人気YouTuberや、アイスクリームの開発チームまで、超一流クリエイターたちのエピソードが次々と登場。天才と呼ばれている人々が、長い苦労の末にヒットを生んだ過程が明らかになります。

クリエイターだけではありません。モチベーションの研究で知られるトロント大学のグレン・シェレンバーグ教授や、「聴けば聴くほど好きになる曲」と「うんざりしてくる曲」の違いを調べるユニークな実験をした、神経科学者のエムラ・デューツェル氏など、第一線で活躍する研究者たちの興味深い成果も紹介されています。

ガネット氏は、多数のインタビューを分析し、"天才" たちに共通の行動パターンを発見しました。それをまねすれば、私たちも企画力を身につけられるはず。「自分にはヒット企画をひらめく才能がない……」とくじけそうになっている人や、企画力を身につける方法で悩んでいる人に、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

『ビジネスフレームワーク図鑑 すぐ使える問題解決・アイデア発想ツール70』

『ビジネスフレームワーク図鑑 すぐ使える問題解決・アイデア発想ツール70』は、フレームワークに関するベストセラー。企画運営のプロセスを「問題発見」「課題解決のアイデア」「戦略の立案」など7つに分け、各段階で役に立つフレームワークを70個も解説しています。

フレームワークの解説だけでなく、作成の見本もあるため、非常にわかりやすいのが特徴です。読者への特典として、全フレームワークのテンプレートをPowerPoint形式でダウンロードすることもできます。『ビジネスフレームワーク図鑑』があれば、見本を参考にしつつ、手軽にフレームワークを作成できるのです。企画力を磨くための実践的な書籍として、強くおすすめできる一冊。

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企画力は、情報収集・模倣・協力者作り・ブラッシュアップという行動パターンを身につけ、トレーニングをすることで、誰でも鍛えられます。皆さんも、ぜひ実践してみてください。

(参考)

アレン・ガネット著,千葉敏生訳(2018),『クリエイティブ・スイッチ 企画力を解き放つ天才の習慣』,早川書房.
田坂広志(2004),『企画力 「共感の物語」を伝える技術と心得』,ダイヤモンド社.
河西智彦(2017),『逆境を「アイデア」に変える企画術 崖っぷちからV字回復するための40の公式』,宣伝会議.
俣野成敏(2015),『一流の人は上手にパクる 仕事のアイデアがわいてくる大人のカンニング』,祥伝社.
株式会社アンド(2018),『ビジネスフレームワーク図鑑 すぐ使える問題解決・アイデア発想ツール70』,翔泳社.
富士通|本質博士の仕事塾
大塚製薬|ポカリスエットの誕生秘話

【ライタープロフィール】
上川万葉

法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。

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