「仕事で失敗した動揺から、作業に集中できない……」
「失敗から立ち直れず、周囲にますます迷惑をかけている……」
このように、失敗を引きずることで “負のループ” に陥ったことはありませんか。この状態が長く続くとストレスがたまりますし、仕事のパフォーマンスも落ちかねません。
失敗を引きずってすぐに落ち込んでしまう自分を変えるには、「精神的な回復力」を高めるのが効果的。とは言っても、なにか鍛錬を重ねたり厳しいトレーニングに耐えたりといった難しいことをする必要はありません。失敗したときに「これをしない」と決めて思考の癖を改善するだけでも、精神的な回復力は高めていけますよ。詳しく見てみましょう!
失敗を引きずらない人に共通する「精神的な回復力」の高さ
エグゼクティブコーチの三浦将氏をはじめ、複数の識者が「失敗を引きずらない人の共通点」として挙げているのが「レジリエンスの高さ」です。レジリエンスとは心理学用語で「精神的な回復力」のこと。もともとは、環境学で生態系の環境変化に対する復元力を表す言葉なのだそう。
このレジリエンスが高まると、心の安定感が高まり、もっと力を発揮できるようになる――『「レジリエンス」の鍛え方』の著者である久世浩司氏はこう述べています。久世氏によれば、次のリストの中で当てはまる項目が6個以上ある場合はアンチレジリエンス(レジリエンスが高くない状態)なのだそう。0~2個の場合はレジリエンス、3~5個の場合はプリレジリエンスです。いま現在のレジリエンスの高さを確かめるために、ぜひチェックしてみてください。
- 嫌なことがあると2日以上引きずってしまう
- 仕事の悩みを思い出し、眠れないことが多い
- 問題が起きると、立ち向かうより逃げ出したくなる
- 自分の強みがわからない
- 自分は運が悪いほうだと思っている
- 睡眠を充分にとっても、気持ちが元気にならないことが多い
- 他人と比較して、自分の劣っている点を気にしがちだ
レジリエンスを高め、失敗を引きずらないための「10のしないこと」
上記の項目にたくさん当てはまってしまったとしても、まだ落ち込む必要はありません。レジリエンスが高くなく失敗を引きずってしまいがちな人は、失敗を過度に恐れていたり自分に余計なプレッシャーをかけたりしている可能性があります。そういった思考の癖をひとつひとつ取り除いていけば、レジリエンスも高まって失敗を引きずらずにすむようになるはず。というわけで「9のしないこと」を考えてみました。
「自己否定の癖」や「0か100か思考」があると危うい
前出の三浦氏は、レジリエンスと自己肯定感の高さは紐づいていると言います。つまり、自己否定に陥らない人は失敗を引きずらないということ。一方で、失敗を引きずる人は「うまくいかない=自分のすべてがダメだ」という思考が癖になってしまっているのだそう。 自分を極度に否定しないために、「自分の人格を否定しない」「謙虚と卑下を混同しない」ことを心がけましょう。
また、「批判をすべて正面から受け止めない」「すべての人に認めてもらおうとしない」のも大切です。批判を受けたり、誰かから認められなかったりした場合も、「そう思う人もいるだろう」くらいの気持ちで受け流しましょう。三浦氏によれば、ダメージに対する心の耐性も、レジリエンスが高い人の特徴なのだそうです。
失敗は「引きずる」のではなく「活かす」のが大事
失敗はたしかに引きずらないほうがよいですが、かといって、すべてを受け流してしまっても進歩がありません。そこで、「『無理かもしれない』と決めつけない」「失敗=無意味だったと思わない」の2つを心がけるとよいでしょう。
振り返って「無理かもしれない」「無意味だった」と否定的なことを考えると思考力や記憶力が低下すると指摘するのは、脳神経外科医の林成之氏。成功や発見の陰には、必ず失敗があります。失敗から何かの法則を見つけ出すことこそが成功への過程だと考えて、失敗の経験そのものをネガティブにとらえすぎないようにしましょう。
また、気持ちの切り替えとして「『次は頑張ろう』で終わらせない」「過去の成功体験に固執しない」ということも大切です。
一見前向きな「次は頑張ろう」という言葉は、何を頑張るのかはっきりしておらず漠然としているためかえって脳を混乱させると、林氏は述べます。頑張ろうという気持ちが湧いてきたのならば、具体的な計画や目標を掲げるのが大切です。
そして、「あのときはうまくいったのに」「昔はもっとできたのに」といった成功体験への固執は、新しいことへの挑戦心を弱めたり、必要以上に慎重にさせたりすることで、パフォーマンスを下げる原因になります。林氏によると、これらの体験記憶が脳に与える影響は大きいので、意識的にフラットな状態に戻すことも気持ちの切り替えとして効果的だそうです。
時には「運のせい」にするのも悪くない
最後に挙げるのは「すべての失敗に明確な原因があると思わない」――すなわち「運」に関するお話です。失敗は適切に振り返ることで糧になりますが、一方で「運」というどうにもならないものに左右されることもあると述べるのは、『世界の一流36人「仕事の基本」』の著者である戸塚隆将氏です。
ビル・ゲイツ氏の妻であるメリンダ・ゲイツ氏が、夫の成功要素のひとつとして「運」を挙げた話を例に、「頑張りや勇気がもたらした結果も、運がもたらした結果も、“努力” としてひとくくりにすべきではない」と戸塚氏は言います。なぜなら、失敗の原因はすべて自分の努力不足と思い込んでしまい、自信を失う原因になるからです。
「今回は運が悪かった、タイミングが悪かった」――時にはこんなふうに運のせいにするのも、失敗を引きずりやすい心にとっては安心材料となるでしょう。「不運の要素」と「もっと頑張れること」を切り離してて考えることで、地に足のついた努力ができるようになります。
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失敗する体験は、何度味わってもつらいものですよね。しかし、自分にはどうしようもないケースもあるので、自分を責める必要はありません。また、とらえ方によっては、失敗は成長までの途中経過にもなります。ぜひ、失敗を引きずらないための「9つのしないこと」を実践してみてくださいね。
(参考)
THE21オンライン|もう、失敗を引きずらない! 「自己肯定感」の高め方
NIKKEI STYLE|失敗を引きずらない「立ち直る力」の身につけ方
林成之(2009),『脳に悪い7つの習慣』, 幻冬舎.
川﨑康彦(2016),『ハーバードで学んだ脳を鍛える53の方法』, アスコム.
戸塚隆将(2017),『世界の一流36人「仕事の基本」』, 講談社.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。