勉強やビジネスの世界で活躍する “その道のプロ” をお招きし、セミナーやワークショップを提供するプログラム『StudyHacker Square』。その第8弾のセミナー『ネイティブの感覚を体感せよ! こころで感じる進行形』が、東京・渋谷にて開催されました。

講師としてお招きしたのは、“英語職人”時吉秀弥さん。StudyHackerにおいても、全25回にわたる連載『英語職人・時吉秀弥の英文法最終回答』をご寄稿いただきました。

文法規則の丸暗記に嫌気がさしている……。なんで英文法のルールにはこんなに例外が多いのか? 膨大な数の英文法規則をなかなか覚えきれない。このように、文法の無味乾燥な暗記作業に悩んでいる方も多いはず。

でも実は、文法は人間の心理を反映したもの。我々が「世界をどう見ているか」の表れなのです。つまり、単なる規則ではなく“意味”。人間の心理、そして言語の本質を直感的に理解できれば、忘れにくくなるだけでなく、瞬時に正しい表現を紡ぎ出せるようになります。セミナーの模様をレポートしながら、その方法を探っていきましょう。

「赤」「犬」「猫」を思い浮かべてみてください

「赤」という色を思い浮かべてみてください。りんごのような赤をイメージしたでしょうか、それともお寿司のマグロのような茶色がかった赤でしょうか。普段一言でまとめられている「赤」ですが、実は色々な赤があることに気づくことでしょう。りんご、バラ、マグロ、カエデの葉っぱ……どの色も微妙にずれた違う色をしていますが、全部同じ「赤色」と呼ばれています。

同じように、人間がモノを分類するとき、例えば「犬」「猫」と表現するときのことを考えてみましょう。「柴犬」「ゴールデンレトリバー」「チワワ」など色々な種類がいますが、私たちはどれも「犬」という一つの単語で表現しますね。「アメリカンショートヘア」「ペルシャ」「シャム」なども、見た目は全然違うのに、私たちは全て「猫」だと認識しています。こうした「赤」「犬」「猫」 の例でわかるように、一つの言葉は単一の意味でできているのではなく、少しずつずれたいくつかの意味が集合してできているのです。

みなさんは、英語を勉強するときに、「なぜ一つの単語に複数の意味があるのかな?」と疑問に思ったことがあるでしょう。例えば “day”という単語に「1日」「曜日」「昼」「時代」といった意味があるように。実は、一つの単語の中に複数の意味がある、というのは、「犬」という単語の中に「チワワ」とか、「ゴールデンレトリーバー」とか、一見随分見た目が違うのだけど、でも何か共通のつながりをもった要素が複数含まれている、というのと同じ原理で起きている現象なのです。

では、もっとも犬らしい犬は何か、考えてみてください。日本人にとってみれば柴犬あたりですかね。このように、その語が示す「もっともそれらしいもの」を「プロトタイプ」と言います。「犬」という単語の意味の地図を見てみると、柴犬のようなプロトタイプの周りに、チワワやパグやアフガンハウンドのような、「派生」した色々な種類(=色々な意味)が存在しているのです。例えば先ほどの “day”で言えば、「1日」がプロトタイプで、そこから「一週間のうちのある1日=曜日」とか、「1日=太陽と関係がある=昼、日中」、「過ごした日々(days)=時代」といったような派生が起こります。

本セミナーのテーマ「進行形」のプロトタイプは「動作の途中、動作の進行中」です。しかし、そこからさらにいくつかの意味が「派生」します。そして、その派生の仕方は決して無意味にランダムなものではありません。チワワやパグや柴犬といった細かい違いに惑わされずに全体を「犬」として理解するように、進行形でもさまざまな用法を統一的に理解できるものなのです。英文法でも英単語と同じように、英語ネイティブが持つプロトタイプのイメージを意識し、そこからの用法の派生の仕方を理解することで、複数の文法規則が一気に丸ごと、全体的に理解できるのです。

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「単語と文法の学習は違う」「文法項目には多様でバラバラな用法がある」は誤解

単語は意味の勉強で、文法はルールの勉強だ。そう思っている人はいませんか。実はこの発想は間違っています。単語も文法も構文も、言語は全て「意味」なのです。単語に意味があり、熟語に意味があるように、各文法項目もそれ自体が「意味」であり、構文もまた「意味」のユニットです。

文法を学習するとき、よく「◯◯用法」という言葉を耳にしますね。例えば現在完了なら、「経験」「結果」「継続」用法があると学校で習った方も多いでしょう。でもこれらは実は、用法というよりは、意味なのです。言ってみれば「現在完了」という単語が持っている、複数の「意味」なのです。

文法を意味として捉えることの3つのメリット

文法を意味として捉えることには、多くのメリットがあります。

まず、例外に容易に対応できるようになります。英文法を意味として正しく理解せず、ルールとして単なる暗記に頼っていると、例外になかなか対応できません。ところが、文法とは人間の心の中の映像を映した「意味の体系」なのだと知り、背後にある心理を理解すれば、もっと柔軟に対応できるようになります。

次に、実際に英語を使うとき、ミスの数をぐっと減らすことができます。英語を話したり書いたりすると、学習者である私たちはどうしてもミスをしてしまうものですね。しかし、英文法を意味として理解することで、英語ネイティブの思考を垣間見ることができます。そのため、一般の学習者が作ってしまいそうな、ネイティブから見て不自然な表現を、大幅に減らすことができます。

最後に、英語の処理スピードが上がります。文法を意味として理解することで、体の底から「直感的」に英語を使えるようになります。英文を読むとき、会話を聞くときも、いちいち文法規則に当てはめて考える必要がなくなり、瞬時に理解できるようになるでしょう。

クイズ! will と be going to の使い分け

本セミナーのテーマ「進行形」に関連したクイズに挑戦してみましょう。あなたが海外出張でロンドンに行くとします。空港でフライトを待っているとき、たまたまアメリカ人の友人と鉢合わせたとしましょう。

“Why are you here?” と聞かれたあなた。さて、回答は以下のどちらが正しいでしょうか?

(1)I will go to London.
(2)I’m going to London.

will は未来形じゃない?  be going to の根本の意味は?

自信を持って答えられましたか? 早速クイズの解説に移りましょう。

(1)で登場する will は、学校では「未来形」と習いましたね。でも実は、この解釈は正確ではありません。will の持つ根本の意味は「心がパタンと傾くこと」。そこから①「よし、〜しよう」という「意思決定」が生み出す「〜するつもりだ」という意味と、②「こうなるだろうな」という「判断、予想」が生み出す「〜だろう」という意味がwillのプロトタイプ的な意味として出てきます。

空港まできて「よし、じゃぁロンドンに行くことにするよ(OK, I will go to London.)」と意思決定することは、普通じゃないですよね。よっぽどお金持ちで、毎回空港に来てからそのときの気分で「ここで行くぞ!」と意思を固め、それから航空券を購入してそのまま海外に行くような人ならいいですが、今回は海外出張であり、もともと行き先が決まっていますので、不自然に聞こえてしまいます。

一方、「進行形」のプロトタイプは「動作の途中」でしたね。そのため(2)は「ロンドンに行く途中である」ことを意味します。ロンドンに行くには、航空券を購入し、スーツケースを引っ張り出して荷造りをし、空港に行き、入国審査をしてから飛行機に乗るという一連の流れが必要ですね。現在空港にいるあなたは「ロンドンに行く」という一連の流れの真っ最中ですから、be going to を使うのが一番自然になります。

文法に支配されるのではなく、文法を支配せよ

みなさん、我々人間は「時間」をどのように理解していると思いますか?「時間」は抽象的な概念で、手で触れることも見ることもできません。人間はこの「時間」という概念を「場所」に例えて理解しています。場所は「これから向かう前方」「既に通り過ぎた後ろ」「今現在いるところ」というように、目でその方向を見、手で指さすことができる具体物です。そこで私たちは実は、直接触れることのできない「時間」を、実際に触ることのできる「場所」に置き換え、理解しているのです。

我々が、見えるはずもない未来を「前にあるもの」と感じ、過去を「後ろにある」と感じるのはこのせいです。例えば「見込み、将来性」を意味するprospectの語源は「前方(pro)」を「見る(spect)」ということです。人間は「未来」「過去」のような“時間”の概念を「前」「後ろ」という“場所”に置き換えて理解しているのです。

今回のテーマである進行形ですが、これは「動作の『途中』」、つまり「動作の終了というゴールに向かって進んでいる途中」というイメージを持ちます。例えば I am making sandwiches.なら「サンドイッチの完成というゴールに向かって、今、進んでいる途中、最中」ということです。進行形は時制の話ではあるのですが、「道を進む」という場所的なイメージで理解できるものなのです。

このように、日常の具体的なものに例えて抽象的なものを理解することを「メタファー(隠喩)」と言います。メタファーは比喩の一種なのですが、単なる文学的な飾り付けを超えて、人間がどのように世界を見ていて、どういうふうに物事を意味付けしているのかを示す、人間の心の中を見せる「窓」となっています。英文法には、英語独特のメタファーを通して、英語ネイティブの「世界の見方」「意味付けの仕方」が如実に反映されているのです。

ネイティブの心理をイメージで理解し、意味として学ぶことで、直感的に英語を使うことができるようになります。これは、文法を支配する側に回るということです。英文法の膨大な規則の暗記や、その文法規則を使っていいのかどうかに悩まされているとき、私たち学習者は英文法に支配されています。しかし、言葉を読み聞くだけでなく、書き話す時には文法に支配されるのではなく、文法を支配する側にまわらなければいけません。自分の心に浮かぶイメージに合う文法を、その場で選択し、使わなければいけないのです。各文法項目のプロトタイプ、つまり根本の意味とイメージを理解することで、我々学習者も英文法を支配する側にまわれるのです。

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以上、セミナー内容をほんの一部だけご紹介しました。第1弾セミナー『ネイティブの感覚を体感せよ! からだで覚える英文法』では「自動詞・他動詞」「意味のユニットとしての5文型」「名詞の可算・不可算のイメージ」や「冠詞」、第2弾セミナー『ネイティブの感覚を体感せよ! こころで感じる進行形』では上記の考え方に基づき、「進行形の本当の意味」や「なぜ進行形は近い未来や一時的な状態を表せるのか」「状態動詞 vs. 動作動詞」「知覚動詞のイメージ」「なぜ状態動詞や知覚動詞は進行形にできないか」などを教えていただきました。

英語ネイティブの心理をイメージで捉える→無味乾燥になりがちな英文法の単なる暗記を卒業でき、楽しく学べる+体を使い、心で感じるから忘れにくい+直感的に理解できるから、ミスなく瞬時に英語を使える+例外にも容易に対応できる→高度な英語力を育成できる……

認知文法を活用して英文法を学ぶ学習法で、この相乗効果が実現します。これについてもっと詳しく知りたい方は、ぜひ時吉さんのインタビュー記事もご覧ください。

英語職人・時吉秀弥の英文法最終回答 第1回 「日本語と英語 世界のとらえ方」
英語職人・時吉秀弥の英文法最終回答 第2回「英語らしい表現・日本語らしい表現」

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