どうも直観が働かず、瞬時にいい判断ができない。 すぐ誘惑に負けてしまい、仕事も勉強もガタガタだ。 感情に乏しく魅力がないのか、どうも人受けが悪い。 本を読んだり勉強したりしても、ほとんど覚えられない。
――いろんな悩みがありますが、こうした悩みがあるならば、「脳」の“あの部分”を鍛えましょう! さっそく説明します。
1. 直観力に乏しいならば「大脳基底核」を鍛えなさい
時間がないため即座に判断したら、意外にも大正解だった――この状況は、直観力がしっかりと働くからこそ生まれます。直観力に乏しいと、日々のあらゆる場面で瞬時に判断しなければならないとき、なかなか決められなかったり、的確な判断ができなかったりという事態が起こります。
自分は直観力が乏しいかも? と感じたら、「大脳基底核」を鍛えましょう。方法は、将棋を単純化した「5五将棋」を訓練すること。コンピューターゲームや、ボードゲームで楽しめます。
2007年から行われてきた理研脳科学総合研究センター 認知機能表現研究チームのプロジェクトでは、 大脳基底核が直観の創出に大きく関与していることが発見されています。これは、プロ棋士の直観的思考をつかさどる、重要な脳領域なのだそう。
そんななか、理化学研究所は、将棋の経験がない20人の被験者を対象に「5五将棋」の訓練を4カ月間行い、脳の働きを測定・比較したそう。その結果、素早く無意識に次の最善手を考え出す直観的思考能力が上達すると同時に、プロ棋士と同じ直観的思考の神経回路(大脳基底核にある尾状核を通る神経回路)が発達することを確認したそうです。この研究は、米国の科学雑誌『The Journal of Neuroscience』の2012年11月28日号に掲載されました。
2. すぐ誘惑に負けるのならば「前頭前皮質」を鍛えなさい
明日は大事な会議があるから早々に帰ろうとしたら飲み会に誘われ、つい参加してしまった。勉強しようと机に向かった矢先、「今から来ない?」と友人から誘われ、つい「行く行く」と返事をしてしまった。目の前にスイーツがあると「ダイエットは明日から」になってしまうなど、すぐ誘惑に負けてしまうなら、「前頭前皮質」を鍛えましょう。
アメリカの心理学者、ウォルター・ミシェル(Walter Mischel)氏の発見によれば、誘惑に直面したとき、人は、誘惑の刺激に反応する「大脳辺縁系」と、誘惑に対してゆっくりと対処する「前頭前皮質」という、2つの脳領域を使用するそう。
「大脳辺縁系」は、不安・恐怖・怒りなどの情動や、食欲などの基本的生命活動をコントロールしており、「前頭前皮質」は理性的な判断や、理論づけを可能にします。つまり、「前頭前皮質」がしっかりと働けば、誘惑を跳ね除けられるわけです。この部分を鍛える(活性化=血流を良くする)にあたり、有効とされているのが以下の6つ。
・瞑想 ・マインドフルネス ・自由な落書き ・ボーっとする ・のんびり散歩 ・運動
前頭前皮質はストレスに弱いといわれますが、これらの活動はストレスの軽減・解消にも役立ちます。
ちなみに「大脳辺縁系」と違い、「前頭前皮質」は早く起動できません。誘惑が目の前に現れたら、“ちょっと我慢”が必要です。生理学研究所教授の柿木隆介氏によれば、おおむね3~5秒だけグッとこらえれば、「前頭前皮質」が動き出すとのこと。
3. 人受けが悪いなら「感情系脳番地」を鍛えなさい
本能や感情に動かされず、冷静に判断・行動できる理性的な人は、仕事がデキるという印象が強い一方、「感情的な人」には、すぐ怒ったり、落ち込んだりするといったネガティブな印象がつきまといます。しかし、その反面、感情が豊かな人には、人を引きつける独特の魅力があるのです。
感情豊かな人がいるだけで、その場が明るくなることもあるでしょう。仕事で理性は不可欠ですが、いったん仕事から離れてみると、感情豊かな人の素直さや、一生懸命さに、裏表のない正直な人と好印象を持つことがあるのではないでしょうか。
その、感情の形成に関わる一番重要な脳の部位は「扁桃体」です。株式会社脳の学校・代表取締役の加藤俊徳医師によれば、扁桃体を中心に、視床や視床下部を含む領域を、「感情系脳番地」というそう。この脳番地の発想は同氏によるものですが、その原型は約250年前にも存在していたそうです。
「感情系脳番地」を鍛えることにより、感情表現が豊かになりつつ、穏やかな気持ちも維持できるのだそう。加藤医師によると、鍛え方は次のとおり。
・楽しかったことベスト10を書き出す――過去の記憶で現在の感情をコントロール ・新しい美容院や店、スポットなどを開拓――感情を揺さぶる初めての体験をする ・物言わぬ植物やぬいぐるみに話しかける――ストレスなく感情表現しながら脳をクールダウン
4. 記憶力が悪いならば「海馬」を鍛えなさい
一応、本をたくさん読むようにはしているが、なかなか記憶に残らない。勉強しても、あまり覚えられていない気がする……。そんなときは、記憶をつかさどる脳の「海馬」を鍛えましょう。その方法は次のとおり。
・適度な運動 ・ランニング ・ヨガ ・太極拳 ・笑う
運動すると筋肉が FNDC5 というタンパク質を放出し、海馬のBDNF(脳由来神経栄養因子)濃度を高めてくれるそう。また、関西福祉科学大学教授・理学療法士の重森健太氏によれば、走った後の人の血流反応を見ると、とくに真っ赤に反応しているのが海馬と前頭葉なのだとか。
筑波大学体育系 征矢英昭教授らによる2018年の研究では、ヨガや太極拳などの超低強度運動が海馬を活性化し、記憶能の向上に役立つと明らかになりました。また、メプス細胞検査研究所によると、笑うと脳の海馬の容量が増えて、記憶力がアップするとのこと。
ぜひお試しください!
*** こちらの記事『すぐ誘惑に負けるのは “前頭前皮質” が弱っているから!? 「自制心」を取りもどす3つの方法』では、誘惑に打ち勝つ方法を詳しく紹介しています。よろしければ、一緒にご覧くださいね。
(参考) 理化学研究所|素人でも訓練によりプロ棋士と同じ直観的思考回路を持てる 理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)|直観をつかさどる脳の神秘――将棋プロ棋士に見られる大脳基底核の特異な動き 信州大学(現代GP) - 信州発“学び”のビッグバンプロジェクト -|運動構造機能学|神経・脳の生理学 エディテージ・インサイト|「落書き」が脳に効くことが最新の研究で明らかに 東洋経済オンライン|仕事がデキる人は走りながら脳を鍛えている Tarzan Web(ターザンウェブ)|集中力を高める仕組みとその実践法! 脳の4部位を活性化するマインドフルネス NIKKEI STYLE|感情はどこから? 実は生存をかけて脳が下した判断 筑波大学|短時間の軽運動で記憶力が高まる! ~ヒトの海馬の記憶システムが活性化されることを初めて実証~ メプス細胞検査研究所|メスプNEWS|2016年11月号.pdf Study Hacker|脳が働かないときにやるべき10のこと。“まず笑う” のが良いという意外な事実。 柿木隆介著(2015),『どうでもいいことで悩まない技術』,文響社. 加藤俊徳著(2014),『アタマがみるみるシャープになる!! 脳の強化書』,株式会社あさ出版.