エンハンシング効果とは? やっぱり「褒める」のが一番大切だった

エンハンシング効果とは01

「エンハンシング効果」という言葉を聞いたことはありますか?

エンハンシング効果とは、簡単に言えば「報酬を利用して、結果的に活動自体から得られる快感や満足感といったモチベーションを高める効果」のこと。部下の指導に悩んでいるビジネスパーソンや、やる気を出さない後輩に困っている大学生がぜひ知っておくべき効果です。

本編では、エンハンシング効果の意味と活用方法、エンハンシング効果と対照的な心理効果であるアンダーマイニング効果についてご紹介します。

エンハンシング効果とは

エンハンシング効果とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。まずは、人がやる気を出すために必要な「動機づけ」(motivation)についてご説明しましょう。

『心理学ビジュアル百科』(創元社)によると、動機づけとは、ある目標に向かって行動を起こし、目標の達成に向けて行動を持続させる過程を指す言葉です。英語のまま「モチベーション」と言ったほうがわかりやすいかもしれませんね。

「動機づけ」には、「内発的動機づけ」「外発的動機づけ」があります。「内発的動機づけ」とは、なんの見返りがなくても「おもしろい」「もっとやりたい」といった、その行動自体から得られる快感や満足感が行動の動機を与えることです。たとえば、仕事自体にやりがいを感じて一生懸命働いたり、ただ楽しいから学校へ行ったりすることなどが挙げられますね。

対照的に、外発的動機づけは、「賞賛されたい」「賞金が欲しい」といった報酬を得るため、もしくは「怒られたくない」「罰を受けたくない」といった望ましくない結果を避けるために行動したい気持ちになることを指します。たとえば、給料のためにしぶしぶ会社へ行ったり、家族に叱られたくなくて仕方なく学校へ行ったりすることは、外発的動機づけに基づいた行動と言えるでしょう。

内発的動機づけと外発的動機づけに関係している心理効果が、エンハンシング効果です。同志社大学准教授の脇田里子氏、近畿大学准教授の越智洋司氏によると、エンハンシング効果は、報酬などの外発的動機によって内発的動機づけが高められることを指します。

たとえば、ビジネスパーソンが、上司から「このプロジェクトが成功したら社内での評価が一気に上がり、昇進につながるかもしれない」と告げられて、評価や昇進のために尽力し始めたとしましょう。努力しているうちに、仲間と協力してひとつのプロジェクトを成し遂げる楽しさや、仕事に打ち込むことの充足感を知り、プロジェクトの遂行自体に夢中になってしまうかもしれません。

あるいは、「友だちに会えるから」「行くと親や先生に褒めてもらえるから」といった理由で英会話教室に通っていた子どもが、徐々に英会話自体に楽しさを見出し、「もっとたくさんの英単語を知りたい」「もっと流暢(りゅうちょう)に英語を話せるようになりたい」「英語の絵本を読んでみたい」英語の勉強に打ち込み始めることもあるでしょう。

上記はまさに、外発的動機づけによって内発的動機づけが高められる「エンハンシング効果」の例です。このように、エンハンシング効果とは、報酬などの外発的動機づけを利用して、結果的に活動自体から得られる快感や満足感といった内発的動機づけを高めることを指します。

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エンハンシング効果に関する実験

エンハンシング効果に関する実験では、発達心理学者のエリザベス・B・ハーロックが1925年に報告した賞罰実験が有名です。

ハーロックは、子どもたちを3つのグループに分け、グループごとに対応を変えながら、算数の試験を数回受けさせた。

・試験のたびに褒められ続けるグループ
・試験のたびに叱られ続けるグループ
・何も言われないグループ

その結果、褒められ続けたグループは、徐々にやる気が向上し、成績が上がりました。一方、叱られ続けたグループは、初めは叱られないように努力したものの、その後も叱られ続けるとやる気が低下していったそう。

前述のように、エンハンシング効果を発生させるための外発的動機には、「報酬を得るため」「望ましくない結果を避けるため」といったものがあります。しかし、上記の実験からわかるように、「褒める」「賞品を用意する」などで外発的動機を与えるほうが、「叱る」「罰則を与える」などよりも効果的にやる気が生じるでしょう。すなわち、エンハンシング効果を発生させるには、「報酬を与える」ことが効果的であると言えます。

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エンハンシング効果を活用するための「褒め方」

では、エンハンシング効果を活用するには、後輩や部下に対して、どのような報酬を与えればよいのでしょうか。「褒める際の言葉のかけ方」に絞って考えてみましょう。

1990年代、コロンビア大学は以下のような実験を行なっています。

10歳から12歳までの子どもたち約400人を対象に知能テストを行なう。

テストのあと、子どもたちには実際の成績を隠し、個別に「あなたの成績は100点満点中80点」と全員に告げる。その際、子どもたちを3つのグループに分け、グループごとに成績を伝える際のコメントを変える。

グループ1:「本当に頭がいいんだね」
グループ2:「努力の甲斐(かい)があったね」
グループ3:何もコメントしない

コメントを伝えた後に、さらに2つの課題のうちから1つを選んでもらう。

課題1:難易度が高いが、やりがいのある課題
課題2:簡単に解け、学びの少ない課題

子どもなんだから、全員が「難しい課題」を回避して「簡単に解ける課題」を選ぶに決まっているじゃないかと感じる人も多いかもしれませんが、じつはそうではありません。

実験の結果、「頭がいいんだね」能力を褒められたグループは、約65%が「簡単な課題」を選びました。何もコメントされなかったグループは、約45%が「簡単な課題」を選びました。そして、努力を褒められたグループで「簡単な課題」を選んだのはわずか約10%。約90%が「難しい課題」を選んだのです。

実験者であるクラウディア・ミューラー氏と、キャロル・デュエック氏いわく、結果や知能を褒められると、「賢く見られたい」という気持ちが生じて失敗を恐れるようになったり、「能力があるのだから自分は頑張らなくてもできるはずだ」と考えたりするようになるのだそう。

すなわち、人を褒めるときには、「努力」「過程」を褒めるのが効果的です。たとえば、部下が仕事で結果を出した場合に、「あの案件を勝ち取ってくるなんてすごい。会社に○○万円もの利益をもたらしたよ。君は本当に仕事ができるね」といった褒め方はNG。

「おめでとう。毎日頑張っていたのを見ていたよ。たくさん努力を重ねてくれたからこその結果だね。この結果に自信を持ってね。いつも頑張ってくれてありがとう」と、あくまで努力を褒めることで、モチベーションにつながり、今後の活力にもつながるでしょう。

部下が結果を出せなかった場合でも、「結果は思い通りにはならなかったけど、毎日遅くまで準備をしたり、膨大な量の資料をリサーチしたり、本当によく頑張ったね。こんなに頑張れるなんてすごいよ。この努力は絶対に次につながるよ」と、努力や過程を褒めればよいのです。

効果的にやる気を出させる褒め方をし、努力を継続させることで、エンハンシング効果で内発的動機づけが高まる可能性が上がるでしょう。

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エンハンシング効果と対照的な「アンダーマイニング効果」

外発的動機づけによって内発的動機づけが高まる「エンハンシング効果」についてご説明しました。じつは、全くもって対照的な効果である「アンダーマイニング効果」というものも存在します。

アンダーマイニング効果とは、外発的誘因によって内発的動機づけが低下すること。心理学教授のマーク・レパー氏らは、絵を描くのが好きな園児に「上手に描けたらご褒美をあげる」と予告し、絵を描いた園児に実際にご褒美を与えました。すると、園児は、その後、ご褒美がもらえない場では、以前は抱いていた内発的動機が低下してしまったのだそう。

また、心理学教授のエドワード・L・デシ氏が大学生を対象に行なった実験でも、同様の結果が出ています。パズルの好きな大学生に、うまくできたら金銭を与えると告げ、同様の実験を行なったところ、内発的動機づけが低下してしまったのだそう。

たとえば、イラストを描くのが趣味だった人がイラストレーターになり、自分の作品に金銭が支払われるようになると、もうお金にならない絵を描く気は失せてしまうかもしれません。料理が趣味だった人が自分の作った料理をSNSに投稿し、たくさんの「いいね」をもらうと、もうSNSで映えるような料理しか作りたくなくなってしまうかもしれません。

上記のような、アンダーマイニング効果という現象について、デシ氏は認知的評価理論と呼ばれるもので説明しています。認知的評価理論とは、外部要因に対する受け止め方によって、内発的動機づけが促進されたり、抑制されたりすることを説明したものです。

桐蔭学園理事長で心理学者の溝上慎一氏は、認知的評価理論について、内発的動機づけが人の行動を高い質で動機づけると述べながら、以下のように説明しています。

課題に関連した外部要因(たとえば、報酬が与えられる、〆切が設けられる等)は時として、個人の課題に対する内なる欲求を阻害し、やらされ感を強め、自律性や有能感を低下させる。結果、内発的動機づけを低下させる。

(引用元:溝上慎一の教育論|(用語集)内発的動機づけ・自己決定理論

つまり、自発的に行なっていた事柄に、報酬が与えられることによって、他者に行動を強制されているように感じられ、やる気を失ってしまうのですね。

エンハンシング効果を利用するつもりが、アンダーマイニング効果に陥っては困りますよね。では、アンダーマイニング効果に陥らないようにするには、どうすればよいのでしょうか。

溝上氏の研究によると、内発的動機づけを阻害する要素と、内発的動機づけを高める要素は以下の通り。

【内発的動機づけを阻害する要素】

  • 監視されること
  • 提出〆切を設けられること
  • ルールや制限を設けられること
  • 目標が課せられること
  • 指示・命令されること
  • 競争があること
  • 評価されること

【内発的動機づけを高める要素】

  • 楽しいと感じること
  • 励ましを受けること
  • 肯定的なフィードバックが得られること

また、認知的評価理論によると、金銭などの報酬は、内発的動機づけを低下させやすい一方、言語的な報酬は、内発的動機づけを高めやすいのだそう。エンハンシング効果を利用して、部下や後輩の指導にあたる際には、「言葉」「努力や過程」を褒めるのが最も効果的だと言えるでしょう。

***
人にやる気を出させるのはなかなか難しいものですよね。人のモチベーションを上げたいとき、内発的動機づけを高めるエンハンシング効果を活用するのは、非常に有力な方法と言えます。エンハンシング効果を狙う際には、努力や、結果に至るまでの過程を褒めるように心がけましょう。

(参考)
コトバンク|動機づけ
脇田里子, 越智洋司(2003), “内発的動機づけを高める自己評価の試み”, 研究報告, 45巻, pp. 117-123.
越智啓太編(2016), 『心理学ビジュアル百科』, 創元社.
Mueller, Claudia M. and Carol S. Dweck (1998), “Praise for Intelligence Can Undermine Children's Motivation and Performance,” Journal of Personality and Social Psychology, Vol. 75, No. 1, pp. 33-52.
PRESIDENT Online|「1日5回」部下を褒めると劇的に伸びる
現代ビジネス|日本人はなぜ「挑戦」しなくなったか~失敗を恐れる脳はこう作られる
コトバンク|学習意欲
溝上慎一の教育論|(用語集)内発的動機づけ・自己決定理論

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