社畜寸前だった男が「週末だけで海外旅行」をはじめたら、生き方も働き方も大きく変わった話。

リーマントラベラー東松寛文さんの人生を変えた週末海外旅行01

「休み方が下手」といわれることも多い、われわれ日本人。平日は仕事に追われ、週末にはだらだらと無為に過ごしてしまうという人も少なくないでしょう。

ところが、普段はビジネスパーソンとしてバリバリ働きながら、週末を使って年に何度も海外旅行をしている人がいます。

リーマントラベラー」の東松寛文(とうまつ・ひろふみ)さんは、その「週末海外旅行」によって、プライベートが充実したことはもちろん、働き方さえも大きく変わったと語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

人生を大きく変えたNBA観戦旅行

旅の魅力に目覚めるまでの僕は「社畜寸前」でした。勤務先が広告代理店ということで、仕事は激務……。早朝から終電まで仕事するのは毎日のこと。仕事絡みの飲み会があれば、そのあとに帰社して仕事をするということもありました。

でも、そういう仕事に対して疑問を持っていたわけでもありません。「社畜寸前」といったのは、僕自身は社畜になったつもりはまったくなくて、「仕事とはそういうものだ」と思っていましたし、むしろそんな生活を楽しんでいたからです。

その意識が大きく変わったのは、社会人3年目だった2012年のことでした。中学、高校時代はバスケットボール部に所属していたこともあり、なんとなくアメリカのNBAのニュースをチェックしていたら、ロサンゼルスで開催されるプレーオフのチケットがなんと8,000円ほどで買えるというんです。それで思わずチケットを買ったのですが、激務の日々を送っていましたから観戦に行けるとも思っていなくて、会社のデスクに宝物のようにチケットを飾っていました

でも、毎日のようにそのチケットを眺めているうち、本来の使われ方をしないそのチケットがかわいそうに思えてきた。しかも、僕がそのチケットを買ったせいで誰かが観戦できないわけで、チケットを使わないともったいないと思いはじめたのです。

試合が開催されるのは日本のゴールデンウィーク中でした。休日出勤があたりまえの職場ですが、1日だけ休みをもらえれば、3泊5日でなんとか行けるのではないかと考えました

いま思えば、この「最初にチケットを買った」という事実が大きかった。チケットを買う前なら、上司に休日を申請するにも及び腰になったはずです。でも、すでにチケットは手のなかにある。

そこで、そのチケットを辞表かのごとく懐に入れ、勇気を出して上司に休みたい旨を伝えました。「NBAのプレーオフ観戦という子どもの頃からの夢をかなえたい」と熱意を伝え、「1週間やゴールデンウィーク全部というわけではなく、1日だけでいいから休みが欲しい」とお願いしたら、上司も「そこまでいうんだったら」とOKをくれました。

リーマントラベラー東松寛文さんの人生を変えた週末海外旅行02

世界中で出会った「さまざまな生き方」

そうしてひとりで向かったのはアメリカのロサンゼルス。ところが、最初から大きなミスを犯してしまいました……。頼りにしていた『地球の歩き方』を忘れてきてしまったのです。

でも、結果としてこれがよかった。仕方ないので現地で地図を買って、ビクビクしながら「I want to go to a hotel.」みたいな拙い英語で現地の人に話しかけたら無事にホテルも見つかったし、もちろんプレーオフもしっかり楽しめました。

そして、なにより試合会場で衝撃を受けたのは、平日の昼間にもかかわらず、とにかく人生を楽しんでいる大勢の大人がいるということ。それまでの僕は、いわゆる社会のレールにきちんと乗るという人生を歩んでいました。でも、ロサンゼルスで出会った人たちは、自分で人生のレールを敷き、自分のために生きているように思えたのです。その体験が僕の人生を大きく変えました。

そういう意味で、もっとも思い出深いのは、2015年に訪れたキューバです。中心地のハバナには外国人観光客の姿も多いのですが、そこからちょっと離れると現地の人たちが「うちでご飯を食べないか」「ダンスパーティーをやろうぜ」というふうに次々と声をかけてくる。水たまりに入ってしまったときには、僕の靴を洗ってくれるおばちゃんまで現れたほどです。

そんな現地の人たちを触れ合ううちに気づいたのは、世界には僕なんかが想像もできないほど多様な生き方があるということでした。そして、世界中のいろいろな人の生き方を見て、僕なりの生き方を自分で選びたいと思った――。それこそが僕が旅にはまった最大の理由です。

リーマントラベラー東松寛文さんの人生を変えた週末海外旅行03

仕事の効率もクオリティーも上がる旅行の効能

おもしろいことに、そうして頻繁に海外に行くようになると、普段の仕事の仕方にも大きな変化が表れました

週末に旅行に行こうと思えば、金曜日の夜には出発しないと時間がもったいないですよね。だとしたら、それまでのように終電までだらだらと仕事をするわけにはいきません。とはいえ、金曜日にいきなり頑張ったところで、仕事が終わるわけもない。つまり、しっかりとスケジュールを組んで、月曜から仕事を順次終わらせていく必要があるわけです。

そう考えて大きく変わったのは、「締め切り」に対する意識です。締め切りというのは、基本的には上司や先輩、クライアントなど自分以外の誰かに決められてしまうものですよね。でも、週末に旅行に行くために、仕事を全部前倒しにして自分で締め切りを決めるようになったのです。

すると、今度は仕事に対する主体性が大きく上がった。仕事に対しては、どこかで「やらされているもの」「やらないといけないもの」という認識が誰しもにあるものでしょう。それが、「自分のための仕事」に変わった。そうなれば、仕事のクオリティーも効率もどんどん上がる。さらに、そういう働き方に慣れると、旅行に行かない週でも同じように働けるようになりました。

すると、旅行に行かない週には空き時間が生まれることになります。そして、これまではなかなか会えなかった学生時代の友人や異業種の知人と飲みに行く、映画を観る、本を読むというインプットの時間をつくれるようになった。さらに、そのインプットは仕事にもつながっていくといういういいサイクルが生まれました。旅行に行きはじめたことは、僕にとってはまさにいいことづくめというわけです

日本人は休み方が下手だとよくいわれます。もちろん、肉体的な疲労が蓄積しているというときには、休日にゆっくりと休むのもいいでしょう。でも、一度「自分の人生の主役は誰なのか」と考えてみてほしいのです。

そういうただ体力を回復させるための休み方は、翌週もしっかり働けるためのものと考えると、自分のためというより会社のためのものといえます。そんな休み方ばかりを続けたとしたら、10年後、20年後に振り返ったとき、自分の手元にはなにも残っていないでしょう。

だとしたら、旅に限らず、やっぱりなにかの「気づき」を得るような休みを増やしてみることをおすすめしたいですね。

リーマントラベラー東松寛文さんの人生を変えた週末海外旅行04

【東松寛文さん ほかのインタビュー記事はこちら】
週末だけで海外旅行 “リーマントラベラー” 直伝! 魔法の「DDCAサイクル」で休みが圧倒的に取りやすくなる。
「休日だらだら」はもったいなさすぎる。週末だけで世界一周した男がすすめる『最高の休み方』

【プロフィール】
東松寛文(とうまつ・ひろふみ)
1987年10月24日生まれ、岐阜県出身。大手広告代理店に勤めるかたわら週末を使って世界中を旅する“リーマントラベラー”。週末だけで人生を変えた経験から、“休み方研究家”としても活動する。2010年、神戸大学経営学部を卒業し、大手広告代理店に入社。社会人3年目の2012年、アメリカ・ロサンゼルスに行き、「世界にはこんなに自分の人生を楽しんでいる人がいる」と感動し、旅の魅力に目覚める。以来、年間7、8回のペースで海外旅行を続ける。2016年、ブログ「リーマントラベラー 〜働きながら世界一周〜」を立ち上げ、“リーマントラベラー”として活動開始。同年10月〜12月には日本で働いている平日を「トランジット期間」ととらえ、毎週末を使って5大陸18カ国を巡り「働きながら世界一周」を達成。現在は広告代理店に勤めながら「週末海外旅行」を続ける他、メディア出演、講演等も精力的にこなしている。著書に『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』(河出書房新社)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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