「働き方改革」の推進もあって、かつてと比べれば有休も使いやすい状況にあるのが現在の日本社会です。ですが、上司や同僚が働いているときに自分だけが休むことに、どこか後ろめたさを感じるという人も少なくないはず。そんななかで、気持ち良く休むためにはどうすればいいのでしょうか?
お話を聞いたのは、「リーマントラベラー」の東松寛文(とうまつ・ひろふみ)さん。普段は大手広告代理店でバリバリ働きながら、週末を使って年に何度も海外旅行をするというスーパービジネスパーソンです。休みを取りやすい職場環境をつくる独自の方法を教えてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
「根回しして決定」ではなく「決定して根回し」をする
有休の申請をするとき、多くの人は最初に上司に相談しますよね。そして、許可がもらえたら休む。「根回し」をして休みを「決定」するという順番です。
もちろん、かつての僕もそうしていました。僕の場合、仕事が激務ということもあって、「たぶん休めないだろうな」なんて思いながら上司に相談していました。そういう気持ちを持っていますから、上司に「いまでなくてもよくない?」なんていわれると、ついつい流されてしまっていたのです。
でもいまは、確実に休みを取れる方法を使っています。それは、先の「根回し」と「決定」の順番を入れ替えて、休みを「決定」して「根回し」をするというふうに変えること。
僕が海外旅行の魅力に取りつかれたきっかけは、たまたま手に入れたNBAのプレーオフのチケットを無駄にしないために行ったアメリカ旅行でした(『社畜寸前だった男が「週末だけで海外旅行」をはじめたら、生き方も働き方も大きく変わった話。』参照)。それこそ、プレーオフは「いまでなくてもいい」というものではなく、「いまでないといけない」ものです。だからこそ、上司への根回しも熱意を持ってしっかりやることになる。そして、結果的に休みをもらえた。
こういう経験を重ねていった結果、休みを取りやすい環境をつくるために大切な要素の存在に僕は気づいていきました。それが、PDCAサイクルならぬ「DDCAサイクル」と僕が呼んでいるものです。
【休みやすい環境をつくるDDCAサイクル】
D:Decide=決定
D:Doing the spadework=根回し
C:Cutting the work time=時短術
A:Attentive=気配り
自ら「締め切り」を設定すれば仕事のスピードは上がる
最初のDは「Decide」、すでに触れた「決定」であり、このとき大事になるのは、「休む」という揺るぎない気持ちを自分のなかでつくること。そのための手助けとして、それこそかつての僕のように、観たいスポーツのチケットを取ってもいいし、航空券を取ってもいいでしょう。
次のDは「Doing the spadework」、「根回し」です。たしかに、有休などを使って休むことは社会人が持っている権利ではあります。でも、ただ権利を振りかざすだけでは、職場の人間関係を悪くしてしまうこともあり、結果的に休みづらい環境を自らつくるということになりかねません。休みたい理由を、上司や先輩、同僚などが納得しやすいかたちで、丁重に低姿勢で伝えることが大切です。
そういう意味では、上司の「おすすめ」を採用することも有効でしょう。僕の場合なら、すでに旅行好きということがまわりに浸透していますから、上司から「あそこは良かったよ」というふうにおすすめの旅先を伝えてくることもあります。そこで、「以前におすすめしていただいたところに行ってみようと思うのですが……」と伝えるのです。
もしかしたら、それは特別に行きたい場所ではないかもしれません。でも、長期スパンで考えて休みやすい環境をつくることを思えば、そういう戦略を取ることも大切です。上司の立場で考えれば、自分のおすすめに素直に従う部下はかわいく思えるはずです。
3番目のCは「Cutting the work time」、「時短術」です。頻繁に旅行に行くようになって気づいたことのひとつに、仕事のスピードはまだまだ上げられるということがあります。それまでも自分としてはバリバリと仕事をこなしているつもりだったのですが、仕事のやり方を見直せば、改善できるところがいくらでもあったのです。
旅行に行くと決めれば、絶対に休日出勤はできません。しかも、金曜日の夜には旅先へ向かって出発したい。そうすると、必然的にあらゆる仕事を前倒しでこなすことになり、さらには「どうすれば早く終わらせられるか」と仕事のやり方そのものも見直すことになる。
みなさんも「締め切り効果」という言葉を聞いたことがあるでしょう。世のなかにあふれるさまざまな時短術を学ぼう、駆使しようなどと思わなくとも、自ら締め切りを決めてしまえば、勝手に自分でより速く仕事をこなすようになるものなのです。
休んだあとこそバリバリと働く
最後のAは「Attentive」。先の根回しにも通じることですが、「気配り」です。平日に休むことはただ自らの権利を使っているだけのことではありますが、一方でそのあいだに働いている人たちが職場にいるのも事実。だとしたら、彼らに対して最大限の配慮をするべきでしょう。
そのための最強のツールというと、やはりお土産になります。お土産というものは、旅行に行ったという自慢をするものなどではなく、まわりに感謝を伝えるためのツールだと考えてください。ただ、選ぶものには注意が必要です。
0点のお土産の例を挙げれば、旅先の民族がつくったちょっとよくわからない置き物といったもの。買った本人は現地の空気に触れているわけで、そういうものもおもしろく感じるかもしれません。でも、ただ日常を送ってきた職場の人からすれば、そういうものには違和感しか持てないでしょう。
だとしたら、変に攻めるのではなく定番のものでいいのです。ハワイ土産にパイナップル型の「ホノルルクッキー」をもらって嫌な顔をする人はまずいません。そして、感謝の気持ちを伝えるためにも、ただお土産を職場に置いておくのではなく、まわりのひとりひとりに手渡しすることをおすすめします。
最後にもうひとつだけアドバイスをしておきます。それは、「休んだあとこそしっかり働く」ということ。
人は、休んだあとというのは「体力全快」の状態だと思い込んでいます。実際にはフルパワーで遊ぶような休みを送れば、心は全快でも体は疲れているでしょう。そこでだらだらと仕事をしてしまえば、まわりから「休んだうえに仕事をサボるやつ」というふうに思われかねません。
だからこそ、たとえポーズでもいいので、まわりにはバリバリと働く姿を見せる。そういう積み重ねが休みやすい環境をつくり、結果的には自分のためとなるのです。
【東松寛文さん ほかのインタビュー記事はこちら】
社畜寸前だった男が「週末だけで海外旅行」をはじめたら、生き方も働き方も大きく変わった話
「休日だらだら」はもったいなさすぎる。週末だけで世界一周した男がすすめる『最高の休み方』
【プロフィール】
東松寛文(とうまつ・ひろふみ)
1987年10月24日生まれ、岐阜県出身。大手広告代理店に勤めるかたわら週末を使って世界中を旅する“リーマントラベラー”。週末だけで人生を変えた経験から、“休み方研究家”としても活動する。2010年、神戸大学経営学部を卒業し、大手広告代理店に入社。社会人3年目の2012年、アメリカ・ロサンゼルスに行き、「世界にはこんなに自分の人生を楽しんでいる人がいる」と感動し、旅の魅力に目覚める。以来、年間7、8回のペースで海外旅行を続ける。2016年、ブログ「リーマントラベラー 〜働きながら世界一周〜」を立ち上げ、“リーマントラベラー”として活動開始。同年10月〜12月には日本で働いている平日を「トランジット期間」ととらえ、毎週末を使って5大陸18カ国を巡り「働きながら世界一周」を達成。現在は広告代理店に勤めながら「週末海外旅行」を続ける他、メディア出演、講演等も精力的にこなしている。著書に『サラリーマン2.0 週末だけで世界一周』(河出書房新社)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。