すべてのビジネスパーソンにとって、「話術」は大切なスキルです。プレゼンや商談ではもちろん成果に直結しますし、普段の雑談や会議などでも、話がわかりやすくおもしろい人のほうが得ですよね。
そもそも、ほとんどの仕事は人とのコミュニケーションで成り立っています。たとえば、物を売るということは、商品の良さを、なるべく魅力的にわかりやすく伝えるということ。また、会社組織が結束し、ひとつのビジネスに向かっていくためには、メンバーどうしでアイデアや理念を共有することが欠かせません。
今回は、「なんだか伝わらない」「おもしろくない」話し方をする人のNGポイントを3つ取り上げ、どのような点に気をつけて改善すべきなのか、詳しく解説していきます。
1.「主題がわからない」のはNG
1つめのNGは、「主題」がわかりにくい話し方です。主題とは、その話におけるメインのテーマのこと。これがまず共有できていないと、どれだけ言葉を尽くしても相手に話が伝わらない、ということが起きてしまいます。
まずは、以下の「伝わらない」例文をご覧ください。
大きくて枝が広がっている、すごくきれいなイチョウの木がありました。
いったいどこがダメなのでしょうか? 元NHKアナウンサーの松本和也氏によると、その答えは、「イチョウの木」という単語が出てくるタイミングが後ろすぎるという点です。
この例文は、「イチョウの木」について説明していますよね。「大きくて」も「枝が広がっている」も「すごくきれいな」も、すべて「イチョウの木」を説明(修飾)しています。したがって、「イチョウの木」こそがこの文の主題である、ということになります。
しかし、この「イチョウの木」という主題が文の後ろにあることで、何について話しているのかわからないまま、話が進んでいくことになります。結果として、理解しにくい話し方になってしまうのです。
より伝わりやすい話し方にするには、ひと言めに「イチョウの木がある」と主題を示し、その後で説明を重ねていくという順番にするのがよいですよ。
「○○で、××で、……△△なイチョウの木」
× 最後まで聞かないと主題がわからない
↓
「イチョウの木は○○で、××で、……△△である」
◎ ひと言めで主題がわかる
したがって、「イチョウの木(主題)がありました。これは大きな木で、枝も広がっていて、すごくきれいだったんです」という順番で話すのがベター。まず「イチョウの木」という主題が最初に示され、その後に説明文が従属する、という関係性を明確にすることができます。文章としても読みやすいですが、話し言葉として聞くと、さらにその差は歴然とするはずです。
2.「間(ま)がない」のはNG
2つめのNGは、「間(ま)」がない話し方。
たとえば、「おいしいコーヒーを淹れるためには、お湯の温度は85℃がよい」ということを伝えたいとします。もちろん、このまま伝えても情報としては過不足なく伝わるでしょう。しかし、相手を惹きつけられる話し方ではありません。「間(ま)」がないためです。
「間」とは、話の結論に至るまでにかける時間、つまりクイズで言う「シンキングタイム」のようなものにあたります。シンキングタイムが長いほど、聴き手はクイズの答えについて深く考え、「答えを知りたい」という気持ちがかき立てられます。反対に、出題されたそばから答えが明かされてしまうクイズなんて、おもしろくもなんともありませんよね。
この例の場合は、「お湯は85℃がよい」という答えをストレートに教えるのではなく、少し焦らしてから答えを伝えることで、より興味を持ってもらうことができるのです。
松本氏は、「間」のあるよい伝え方の一例として、以下のものを挙げています。
「コーヒーをおいしくしたい(問い)。何を一番大切にしますか? 豆ですか、水ですか? 水からいきましょう。お湯は何度にしたらいいと思いますか? 85度です(答え)」
(引用元:プレジデントオンライン|話をおもしろくするアナウンサー話術5 ※太字、()の文章は筆者が施した)
この例では、「コーヒーをおいしくしたい(問い)。……<間>……85度です(答え)」という具合に、問いと答えの間に言葉を挟み込み、たっぷりと間を取っています。それにより、聴き手が「コーヒーをおいしくする方法は何だろう?」と考えるシンキングタイムが生まれ、より引き込まれる話し方になっているのです。
3.「比較」と「数字」がないのもNG
NGの3つめは、聴き手に量などのイメージが共有されにくい話し方です。
ある物の大きさや数の多さなどを伝えたい場合には、その量感を明確に伝える必要があります。その際に役立つのが「比較」と「数字」です。
たとえば、ある人の身長が190cmあると聞くと「大きいなあ!」と驚きますよね。私たちは、日本人男性の平均身長が175cmくらいであることを知っているため、それと「比較」して15cmも大きいことに驚くのです。
しかし、「全国に歯科医は7万件ある」という情報ならどうでしょうか。この「7万件」という数字は、「身長190cm」と違い、多いのか少ないのかいまいちピンときません。それはなぜか? 比較対象がないために、数字の持つ意味が伝わらないのです。
ビジネススクールのグロービス経営大学院教員である鈴木健一氏は、以下のように解説しています。
人間は常に比較をして生きています。目に入るものも大きいか小さいか、美しいか美しくないか。何かを選択するときも、どちらを選べば自分にとって有利か不利か、損か得か。逆にいえば比較をしないと意味の抽出ができない。この比較を端的に行えるのが数字なのです
(引用元:プレジデントオンライン|孫正義、ジョブズ、鈴木敏文……数字で語る!「スピーチの心理学」[2] ※太字は筆者が施した)
先の歯科医の例に、「コンビニは全国に5万件ある」という比較対象を加えてみましょう。すると、聴き手は「あんなにたくさんあるコンビニよりも、さらに多いなんて!」と、すごさを理解してくれるはずです。コンビニがいかにたくさんあるか、ということは誰もが共有しているため(自宅の周りだけでも5件あるなど)、「物件数の多さ」という量感の基準になるのです。
- この200日で売れたiPhoneは400万台。 → 1日あたり2万台が売れた
(※アップルの創業者、スティーブ・ジョブズのプレゼンより) - 人間の脳細胞をすべて直列につなげると16万km → 地球4周分の長さ
- 地球の直径は12000km、月の直径は3400km → 地球がメロンなら、月は梅の実
このように、比較対象と数字を設けることで、より具体的にイメージを共有することができるようになりますよ。
***
- 主題を最初に示す
- 間を取る
- 比較対象と数字を示す
話し上手になるための、3つのコツを解説しました。すぐにでもまねできるものばかりなので、プレゼンや日常会話の中に取り入れてみてくださいね。
(参考)
プレジデントオンライン|話をおもしろくするアナウンサー話術5
プレジデントオンライン|孫正義、ジョブズ、鈴木敏文……数字で語る!「スピーチの心理学」[2]
プレジデントオンライン|孫正義、ジョブズ、鈴木敏文……数字で語る!「スピーチの心理学」[1]
ナショナルジオグラフィック|人間の脳の神経線維は地球何周分?
ダ・ヴィンチニュース|地球がメロンの大きさだったら…? 科学の世界のスケール感を知ろう
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。