危機管理専門家「どんどん修羅場を経験しなさい」――知恵はこうして身についてゆく

小林宏之さんインタビュー「危機管理専門家が語る修羅場のすすめ」01

総飛行時間1万8500時間を超える日本航空の元パイロットで、現在は危機管理専門家として活躍する小林宏之(こばやし・ひろゆき)さん。長い現役時代には、それこそ数々の「修羅場」を経験してきました。

その小林さんが説くのが、「修羅場を経験することの重要性」です。その真意とはどんなものでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/穴沢拓也

人が嫌がる仕事に対して自ら立候補する

普通の人は、自ら好き好んで「修羅場を経験したい」とは思わないかもしれません。でも、プライベートで無用のトラブルに巻き込まれるようなことならともかく、仕事において修羅場を経験することには大きなメリットがあります。自分自身で修羅場を経験することによって「自分だけの知恵を身につけられる」からです。

しかしながら、「よし、修羅場を経験しよう!」と思ったところで、勝手に向こうから修羅場がやってくることはありません。でも、周囲が嫌がるような仕事に対して、自ら手を挙げるということならできるのではないでしょうか。

私の場合、日本航空で現役の機長だった頃に中東の航路の責任者に自ら立候補しました。当時の中東は、イラン・イラク戦争から始まり、湾岸戦争が勃発するなど、まさに危険地帯。でも、私は「死なない限りは実力がつくし知恵がつく」と考えて立候補したのです。もちろん、大変ではなかったなんて絶対に言えませんが……その経験があるからこそ、いまはこうして危機管理の専門家として活動できているわけです。

小林宏之さんインタビュー「危機管理専門家が語る修羅場のすすめ」02

小説、ドラマ、映画、格言、古典を通じて修羅場を経験

もちろん、これは少し特殊なケースですから、みなさんの職種によってはそういう修羅場と言えるような仕事はそうそうないかもしれません。その場合にも、修羅場を経験せずして知恵を身につけることはできます。

たとえば、歴史小説などの書籍を読んだり、テレビドラマや映画などを観たりすることもそう。そのとき、修羅場に置かれているような登場人物の立場に立って、「この状況に対して自分だったらどう感じるだろうか」「自分だったらどんな判断や決断をするだろうか」と考えるのです。もちろん、ノンフィクションではなくフィクションの作品でもかまいません。要は、さまざまな作品に触れるときに、のんべんだらりと内容を享受するのではなく、登場人物の立場に立って自ら主体的に考えることで、作品中の修羅場を経験するわけです。

あるいは、格言や古典に触れることも有効な手段ではないでしょうか。格言や古典は、先人たちのさまざまな経験のエキスです。それらを知ることで労せずして知恵を身につけられるのですから、そうしない手はありません。

ただ、大切なのは「知識を知恵にしなければならない」ということ。格言や古典を知っただけでは、それはただの知識に過ぎません。それを、自ら解釈して自分のものにすることで、初めて自分にとって有益な知恵になるわけです。

私の場合でひとつ例を挙げるなら、「失敗しないように事前に準備をする」という意味を表す「転ばぬ先の杖」という言葉がそれに当てはまります。私は、危機管理専門家という立場上、さまざまなところで「失敗しないように事前に準備をする」ことの重要性を説いています。基本の徹底、確認の徹底ができなかったときの怖さを知っているからこそ、「転ばぬ先の杖」という言葉も身にしみる。そのように、「知恵を身につけよう」という姿勢で格言や古典に触れれば、みなさんだけの知恵になる格言や古典ときっと出会えるはずです。

小林宏之さんインタビュー「危機管理専門家が語る修羅場のすすめ」03

失敗をただの失敗で終わらせない思考

でも、一番のおすすめを挙げるなら、実際に修羅場を経験した人の話を直接聞くということになります。その人はどんな修羅場を経験し、どう感じて、どんな判断や決断をしてその修羅場を乗り越えたのかを聞くのです。

もちろん、そのときは先にお伝えした小説や映画に触れる際と同じように、「自分だったらどう感じるだろうか」「自分だったらどんな判断や決断をするだろうか」と考えましょう。それによって、実際にはその修羅場を経験していないにもかかわらず、ある程度の実感を持って自らの知恵を身につけることができるはずです。

加えて、失敗というものをどうとらえるかも大切。修羅場はスムーズに乗り越えられるものではありません。乗り越えるまでにはいくつもの失敗を重ねることになるでしょう。そこで「失敗してしまった……」とただ悲観的に失敗をとらえてしまっては、得られるものは何もありません。

そうではなく、「自分で犯した失敗は成功の最高の材料だ」ととらえることが肝心です。先に、修羅場を経験することのメリットとして「自分だけの知恵を身につけられる」ことだとお伝えしました。自分自身の失敗だからこそ、経験した嫌な思いなども含めて強烈に頭と心に刻まれることになる。そうして、「失敗しないためにはどうすればいいか」と考えられるようになるのです。

「Fail first」という言葉を知っていますか? 「最初に失敗しなさい」という意味の言葉で、アメリカ社会に根づいているものです。日本では一度の失敗も許されないという風潮もありますが、アメリカはそうではありません。まさに「失敗こそ成功の母」という考え方が根づいており、失敗から何を学んだかを重視するのです。そう考えて、貴重な修羅場で経験する失敗をただの失敗で終わらせないようにしてほしいと思います。

小林宏之さんインタビュー「危機管理専門家が語る修羅場のすすめ」04

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  • 作者:小林宏之
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【プロフィール】
小林宏之(こばやし・ひろゆき)
1946年10月4日生まれ、愛知県出身。危機管理専門家。元日本航空パイロット。1968年に日本航空に入社以来、42年間、一度も病欠などによるスケジュールの変更なく乗務を続ける。乗務した航路は、日本航空が運航したすべての国際線と主要国内線であり、総飛行時間は1万8500時間に及ぶ。社内では飛行技術室長、運航安全推進部長、運航本部副本部長、首相特別便機長、湾岸危機時邦人東南アジア人救出機長などを歴任。また、社外でも宇宙開発事業団(現宇宙航空開発機構)危機管理嘱託委員、日本人宇宙飛行士安全検討チーム、原子力発電所運転責任者講習講師などを務める。現在は、危機管理の講師として活動する傍ら、航空評論家としても活躍中。『旅客機・エアライン検定 公式テキスト 航空機の構造や航空管制の知識が身につく』(徳間書店)、『JALで学んだミスをふせぐ技術』(SBクリエイティブ)、『航空安全とパイロットの危機管理』(成山堂書店)、『ザ・グレート・フライト JALを飛んだ42年 太陽は西からも昇る』(講談社)、『JAL最後のサムライ機長』(ポプラ社)、『機長の「健康術」』(CCCメディアハウス)、『機長の「集中術」』(CCCメディアハウス)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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