“ロジック頼り” では感動は生まれない。一流が「勘」と「ひらめき」をとても大切にする理由。

アイデアの正当性を裏づけるデータを求められる――ビジネスの場ではよくあることですが、その理由は、ビジネスの現場では「論理的思考」が大切だとされるからです。ところが、かつてボストン・コンサルティング・グループの日本代表を務めた早稲田大学ビジネススクール教授の内田和成(うちだ・かずなり)先生は、「論理的思考だけではなく、勘やひらめきも大切だ」と語ります。自身の経験も踏まえて、その「ロジック」を教えてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

「感情」を抜きに考えて経験した大失敗

ビジネスにおいて、論理的思考が大事だということはいうまでもありません。とはいえ、それだけで十分かといえばそうではない。左脳による論理的思考だけでなく、右脳による「勘」「ひらめき」というものも非常に重要なものだからです。

また、人間は基本的にロジックではなく「感情」で動く生き物です。その感情にうまく働きかけないと、仕事もうまくいきません。わたしは長くコンサルタントとして仕事をしてきました。その間、ビジネススクールで学んだ知識や手法、つまりロジックだけでは人間は動かないということを嫌というほど経験することになったのです。

わたしが、ボストン・コンサルティング・グループに入社したばかりの頃のこと。はじめて携わるプロジェクトで、ある業界で中堅に位置する会社のコンサルタントをしました。さまざまな角度から状況を分析した結果、その会社は単独では生き残れないことが明らかになった。我々は、大手企業と組んだらどうか――簡単にいえば買収に応じたらどうかと提案しました。

役員会でそう報告し、社長以下の了承も得た。これで無事に仕事を終えられたとわたしは思っていました。ところが、プロジェクトの慰労会の席で予想外のことが起こった。クライアントの社長は「お話はよくわかりましたが、わたしの目が黒いうちはご提案を実行することはありません」といったのです。

「これまで大事にしてきた従業員やお客様、育んできたブランドを簡単に手放すわけにはいかない」。彼の気持ちを察するなら、そういうものだったでしょう。わたしが学んだのは、彼が正しいかどうかではなく、彼の「気持ちをくみ取れなかった」ということ。気持ちに沿った提案ができなかったのです

ロジックとして正しいことをいうのは簡単です。でも、クライアントを納得させ、苦渋の決断かもしれないけど「仕方ない、やらざるを得ない」と思わせてはじめて仕事が成り立つわけです。「人間は感情で動く」ということを痛感させられた出来事でした。

気持ちに訴えないと、おもしろいものは生まれない

また、「勘」「ひらめき」に救われたケースもあります。それは、とある企業の差別化戦略を策定するプロジェクトでした。さまざまな策を検討しましたが、どれも決定打にはなりそうもない。それこそ、完全に袋小路に入っているような状況でした。

うんうんとうなっているとき、突然ひらめいた。「策があると思っているのが間違いではないか」と。「策がない」のであれば話は変わる。その業界はどんどんコモディティ化していて、コストでいえば上位企業が優位なのだから、会社の規模がポイントになる。そこで、2位3位連合をつくってはどうかと提案したのです。実際、その企業はその提案に乗り、その後は業界のリーダーになりました。

ただ、勘やひらめきが大切だといっても、「ただの思いつき」と混同してはいけません。この例なら、たいして考える前に安易に2位3位連合を提案しても、クライアントからすれば受け入れることはなかったでしょう。わたしがさまざまな策をさんざん検討したあと、考え抜いたあとだから納得してくれたわけです。

重要となるのは、まずは「とことん考える」こと。そうすれば、とことん考えた延長線上とは別のところになるかもしれませんが、道は必ずひらけるのです

ロジックに頼りすぎることによるいちばんの弊害は、ごく単純な表現になりますが、おもしろくない答えになりがちだということ。算数の足し算や掛け算の答えを見ても、多くの人は別におもしろいとは感じないでしょう? 「すごい!」と思わされたり、感動させられたりするものは、明確なロジックやテクニックとは別のものが生んでいるように思うのです。

そういう部分はビジネスにおいても大切な要素です。企業という組織も根本は人でできていて、人の集合で成り立っています。だからこそ、人の気持ちを大事にしないといけません。人間は心を動かされたときにはじめて「おもしろい!」とか「やってみよう!」と思うものです。ロジックで導いた「算数的な正解」では誰もワクワクドキドキさせられない。つまり、社内外問わず誰の心も動かせないということです

プライベートの「あたりまえ」を仕事に取り入れる

ワクワクドキドキさせるということとはちょっとちがう話になりますが、じつは、多くの人がプライベートでは人の気持ちをきちんと大事にしているものです。あなたが勤める会社に転職したいと友人から相談があったとしましょう。紹介というかたちで友人は面談を受けたものの、残念ながら不採用になった。その結果を伝えるときに、「今回の試験には落ちたよ」なんて簡単にはいえませんよね?

友人の気持ちを思えば、単刀直入にはいえないから、「ちょっと飲みに行かないか?」なんて誘う。友人も、あなたの口調などから「もしかしたら、落ちたかな……」と察して心の準備をするかもしれない。本題を切り出すにも、「今回はたまたまタイミングが悪くて……」とかあることないこと交えて、友人の気持ちを大切にするのが普通のコミュニケーションでしょう。

プライベートでこういうことをしても誰もおかしいなんていいません。でも、仕事となると、「情を挟んではいけない」「もっとロジカルに考えて行動しろ」なんていわれる。でも、本当にそれが正しいのでしょうか?

プライベートで普通にやっていることを仕事にも取り入れる――。そういう発想が必要だとわたしは考えます。もちろん、なにを取り入れるかということは考えなければなりませんが、「人の気持ちを考える」という姿勢については、間違いなく仕事にも取り入れるべきものだと思います。

【内田和成さん ほかのインタビュー記事はこちら】 一流シェフが “道端の雑草” をみて新メニューを思いつくカラクリ。「発想のスパーク」はどうすれば生まれるのか? “ただの作業” は仕事にあらず。仕事が遅い人はそもそも「仕分け」ができていない。

『右脳思考』

内田和成 著

東洋経済新報社(2018)

【プロフィール】 内田和成(うちだ・かずなり) 東京都出身。早稲田大学ビジネススクール教授。東京大学工学部電子工学科を卒業後、1984年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)を修了し、MBAを取得。日本航空を経て、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に入社。2000年6月から2004年12月までBCG日本代表を務める。ハイテク、情報通信サービス、自動車業界を中心にマーケティング戦略、新規事業戦略、グローバル戦略の策定、実行支援を数多く経験。2006年には米国『Consulting Magazine』誌により「世界の有力コンサルタント25人」に選出。同年より現職となる。『ゲーム・チェンジャーの競争戦略 ルール、相手、土俵を変える』(日本経済新聞出版社)、『BCG経営コンセプト 市場創造論』(東洋経済新報社)、『スパークする思考 右脳発想の独創力』(KADOKAWA/角川書店)など著書多数。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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