一流シェフが “道端の雑草” をみて新メニューを思いつくカラクリ。「発想のスパーク」はどうすれば生まれるのか?

仕事で成果を出すには「勘」「ひらめき」「感情」を重視することが大切――。かつて、ボストン・コンサルティング・グループの日本代表を務めた早稲田大学ビジネススクール教授の内田和成(うちだ・かずなり)先生はそう語ります(『“ロジック頼り” では感動は生まれない。一流が「勘」と「ひらめき」をとても大切にする理由。』参照)。

つまり、その力を身につけるには、勘やひらめき、感情を司る「右脳」を鍛える必要があるということ。では、どうすれば右脳を鍛えられるのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

自分だけの「データベース」を構築する「問題意識」

こういっては身も蓋もないかもしれませんが、ビジネスのための右脳を鍛えるには「たくさん経験を積む」しかありません。ただ、すべての分野で経験を積むのはどんな人間にも不可能ですから、「自分で分野を絞る」ことが大切です。

しかも、ただその分野の知識を得るだけでは不十分。知識を得るのなら、本を読んだり研修を受けたりするだけで済むことですよね? でも、その分野ではリアルタイムでなにが起きているのか、どういう問題があるのか、その業界の人はなにを感じているのか、といったことも知り、それらを蓄積していかなければ経験を積むとはいえないからです。

ただ、そこで難しく考える必要はありません。なぜなら、プライベートでは多くの人があたりまえにできていることだからです。やたらと映画や音楽に詳しい、美味しいものに詳しい、ファッションに詳しい、アイドルに詳しい……さまざまなジャンルに詳しい人がいると思います。いったんある分野に興味を持つと、どんどん知識が蓄積され、経験を積むことができる。プライベートでは普通のことです。

それなら、同じ発想を仕事にも持ち込めばいい。プライベートでは「趣味」となりますが、ビジネスにおいては「問題意識」と表現できます。わたしの場合なら、マーケティングや企業戦略、リーダーシップ、ビジネスモデルといったものになる。その問題意識によって、同じものもちがった角度から見ることになります。

たとえば、わたしはアイドルを見ても、かわいいかとかおもしろいかということにはまったく興味がありませんが……(苦笑)、アイドルブームが続く理由、利益を生み出す仕組みといったことには非常に関心がある。そうして、たくさんのものを見てどんどん経験を蓄積していき、「データベース」を構築する。その継続が、右脳を鍛え、独創的な発想を生むことになるのです。

一流シェフが新メニューを思いつく秘密

ここでひとつ具体的な例を挙げましょう。あるとき、三ツ星レストランのシェフに「どのように新しいメニューを考えているのか」と聞いてみたことがあります。一流のシェフですから、あたりまえのように「なにかおもしろいアイデアはないか」と四六時中考えている。でも、どんなに突き詰めて考えても、その延長でいいメニューを思いつくということはあまりないというのです

では、どんなときに思いつくのか? それは、気分転換をするなど、考えることを忘れているときなのだそう。たとえば、散歩をしていて目に入った雑草にヒントを得て突然思いつく。それこそ、ひらめきですよね。

そのひらめきを生むには、まず「問題意識」が必要です。このシェフの場合だと、「新しいメニューを開発したい」という意欲がある。これが、問題意識です。加えて、それによって蓄積された「データベース」も必要になる。たとえば、自分が過去に開発したメニュー、失敗したメニュー、他のレストランで見た盛りつけや興味をそそられたマリアージュ。それらがデータベースです。

そこに、道端の雑草を見たという「現象」が加わる。そこでようやく独創的なメニューを思いつくというわけです。これこそが、わたしが「スパーク」と呼んでいる発想の構造です。「現象」だけでスパークが起きることはほとんどありません。つねに「問題意識」を持ち、「データベース」を構築しているからこそ、雑草というような異色の「現象」によって新たな発想を得ることができるのです。

趣味のように “努力と思わず” 努力する

このように、本当にクリエイティブで人の心を動かすようなひらめきは、あるとき突然降って湧いてきたり、公式をあてはめるようなやり方で生まれたりするものではありませんし、右脳を鍛えるにも「脳トレ」といったゲームのようなもので手軽にできるものではありません。当然、地道さが求められます。

地道な努力は面倒なものです。でも、努力の面倒さを感じない、努力を努力とも思わないということもあるでしょう。先にお伝えした「趣味」などは、その最たるものでしょう。好きなものを追求することが苦であるはずがありません。だったら、仕事を好きになる、仕事に関する問題意識を持つ分野を好きになればいいのです。あるいは、好きなことを仕事にするべきです。

優れた経営者のほとんどは、基本的に仕事が好きといっていいでしょう。さらには好奇心旺盛です。いろいろなことに興味を持つ――それは問題意識の幅を広げることにほかなりません。そして、仕事が好きだからこそ、強い好奇心によって目に入ったあらゆるものを仕事に結びつけて考えることができる。ごく自然に、仕事で成果を出すための右脳を鍛え、スパークを生む土壌を整えているということなのです。

【内田和成さん ほかのインタビュー記事はこちら】 “ロジック頼り” では感動は生まれない。一流が「勘」と「ひらめき」をとても大切にする理由。 “ただの作業” は仕事にあらず。仕事が遅い人はそもそも「仕分け」ができていない。

『右脳思考』

内田和成 著

東洋経済新報社(2018)

【プロフィール】 内田和成(うちだ・かずなり) 東京都出身。早稲田大学ビジネススクール教授。東京大学工学部電子工学科を卒業後、1984年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)を修了し、MBAを取得。日本航空を経て、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)に入社。2000年6月から2004年12月までBCG日本代表を務める。ハイテク、情報通信サービス、自動車業界を中心にマーケティング戦略、新規事業戦略、グローバル戦略の策定、実行支援を数多く経験。2006年には米国『Consulting Magazine』誌により「世界の有力コンサルタント25人」に選出。同年より現職となる。『ゲーム・チェンジャーの競争戦略 ルール、相手、土俵を変える』(日本経済新聞出版社)、『BCG経営コンセプト 市場創造論』(東洋経済新報社)、『スパークする思考 右脳発想の独創力』(KADOKAWA/角川書店)など著書多数。

【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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