成功者は、失敗から学ぶことを知っています。挑戦の結果が失敗だったとしても、失敗の原因を分析し、次に活かすことを大切にしているのです。
みなさんも、自分や他人の失敗経験から学びを得る方法を知り、仕事や勉強に活かしてみませんか? 失敗から学ぶ具体的なプロセスや、偉人の名言を紹介します。
失敗から学ぶこと
失敗から学ぶこととはなんなのでしょう? 東京大学環境安全研究センターの特任研究員で、特定非営利活動法人・失敗学会の副会長である飯野謙次氏は、STUDY HACKERのインタビューで次のように語りました。
失敗の原因
失敗について考えると落ち込んでしまうから、できるだけ早く忘れたい……という人もいるかもしれません。しかし、次のチャレンジで成功をつかむには、失敗を直視するべきです。
飯野氏によると、失敗の原因を特定することで、今後の失敗を防ぐ方法をスムーズかつ的確に策定することが可能になります。同じような失敗を繰り返していては、成功が遠ざかるばかりですよね。失敗の原因がわかれば、成功の要因に気づくことも可能になるのです。
自分の弱点
失敗の原因を分析することは、自分の弱点を知ることにもつながるそう。
たとえば、分析の結果、「報連相の不足が原因で失敗することが多い」とわかれば、「自分は積極的にコミュニケーションをとろうとする姿勢が足りない」と気づけるでしょう。「コミュニケーションの量を増やそう/質を変えよう」と、自分の弱みの改善につながるはず。
自分の長所を意識することは大切ですが、弱点も把握しておくべきです。弱点を改善することで、成功がよりいっそう近づくでしょう。
割りきりの気持ち
飯野氏によると、失敗には対策できるものとできないものがあるそう。たとえば、用事に向かう途中で事件や事故を目撃し、警察や消防に通報していたら、遅刻してしまったとします。この遅刻は「失敗」かもしれませんが、通報せず立ち去ることはすべきではないため、対策を講じるのはほぼ不可能でしょう。
このような場合は、「諦めが肝心」と割りきることも必要だそう。失敗の原因を分析したうえで、対策できないことは諦め、対策できることに集中しましょう。
もちろん、対策できるはずのことを諦めてはいけません。失敗の原因を詳細に分析したうえで、どうやったら予防できたかをできるだけ突き詰めて考えるのです。すぐに「仕方のないことだった」と諦めず、これから紹介する方法を実践し、失敗から学ぶことで成功への切符をつかんでください。
失敗から学ぶ例
具体的に、どうすれば失敗から学ぶことができるのでしょう? 著名人の例とともに説明します。
羽生善治:心を落ち着けて失敗に向き合う
失敗を認め、失敗と素直に向き合うのは、誰にとっても難しいもの。自分が傷つくことや人から非難されることを恐れて、失敗から学ぶどころか隠したいと思いますよね。どうすれば失敗と向き合えるのでしょうか?
苦難を乗り越え数々の偉業を達成してきた将棋棋士・羽生善治氏でさえ、失敗に向き合うことは、意識的にやらなければうまくいかないと語っています。大切なのは、失敗後にミスを重ねて傷を深くせず、ばん回できない状況にしないことなのだそう。失敗直後は動揺しており、冷静さや客観性、中立的な視点を失っているため、ミスを重ねやすいので、一息つくことが大事なのだとか。
失敗してしまったら、焦りは禁物。まずは、お茶を飲んだり、おやつを食べたり、外の景色を眺めたりなど、休憩を挟んで気分をリフレッシュしてみてはいかがでしょう? 冷静な気持ちを取り戻し、失敗から学ぶ心の準備が整ったら、状況改善のため何ができるか、集中して考えましょう。
ビル・ゲイツ:失敗の原因を探る
失敗から学ぶには、失敗の原因を分析することも大切です。失敗の原因を突き止められれば、適切な対策方法がわかります。マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏も、著書『思考スピードの経営 デジタル経営教本』(日本経済新聞社、1999年)のなかで、失敗したら落ち込んでいる場合ではなく、いちはやく失敗の原因を探ることが大事であると、繰り返し強調しています。
以下では、畑村洋太郎氏の「失敗原因の分類」を参考にしつつ、失敗の種類ごとに原因と対策をまとめました。失敗の原因を探る参考にしてみてください。
- 無知
原因:本人の不勉強。
対策:失敗の予防策や既存の解決法を勉強する。 - 不注意
原因:体調不良や過労による、注意力の欠如。
対策:体調不良時は、重大事故につながりかねない作業を中止する。 - 手順の不順守
原因:決められたルールを守らなかった。
対策:作業手順をマニュアル化し、遵守を徹底する。 - 誤判断
原因:状況を正しく理解していなかった。判断の基準や、決断プロセスを誤った。
対策:さまざまな状況を想定し、シミュレーションする。 - 調査・検討の不足
原因:知識・情報が不足していた。十分な検討を行なわなかった。
対策:失敗が深刻化しないよう、対処方法を事前に考えておく。 - 未知
原因:誰も知らない原因不明の現象に遭遇した。
対策:未知の失敗をむやみに避けず、新たな創造への貴重な糧としてとらえる。
詳しく知りたい場合、失敗の構造や失敗原因を図式化した、畑村氏の「失敗まんだら」をご覧ください。
スティーブ・ジョブズ:失敗は成功へのプロセスだと考える
失敗から学ぶには、失敗を成功へのプロセスだと考え、チャレンジを続けることも大切です。アップル社の共同設立者スティーブ・ジョブズ氏は、「終着点は重要じゃない。旅の途中でどれだけ楽しいことをやりとげているかが大事なんだ」という名言を残しています。成功のために失敗から学ぶという四字熟語「試行錯誤」で台頭した成功者の一人ですよね。
ジョブズ氏は、「Apple Store」を全世界に進出させる前、倉庫内に実物大の店舗を作ってみたのだそう。でき上がった店舗は、顧客のニーズとまるで合わない代物となり、大失敗だったとのこと。
しかし、ジョブズ氏は諦めませんでした。顧客のニーズに応えようとアイデアを練り直し、試行錯誤を続けた結果、販売・体験・技術サポートを兼ね備えた、新しいコンセプトの店舗をオープン。「Apple Store」の世界的な展開につながったのです。
ジョブズ氏の例が示すように、成功する人には、失敗を成功へのプロセスと考える傾向があります。心理学者ジェイソン・モーザー氏らが2010年に行なった実験では、被験者のマインドセット(思考傾向)によって、失敗への受け止め方が異なることがわかりました。
- 固定型マインドセット:知性や才能は変えられないと考える。失敗に着目しない。
- 成長型マインドセット:知能も才能も努力で伸びると考える。失敗に目を向ける。
失敗への着目度が高い人ほど、失敗後の課題に正解しやすかったそうです。失敗とは、成功に必要な知識を体感・実感するためのプロセスなのですね。
是枝裕和:失敗の指摘はアドバイスだと考える
間違いを指摘されてはじめて、自分の失敗に気づくこともありますよね。しかし、素直に指摘を受け入れられず、非難されたように感じたり、意固地になって失敗を認められなかったりするかもしれません。そんなとき、「改善すべき点をアドバイスしてくれたんだ」と考えれば、失敗を成功へのチャンスに変えられるのではないでしょうか。
2018年のカンヌ国際映画祭で、最高賞にあたる「パルムドール賞」を受賞した『万引き家族』の監督である是枝裕和氏も、失敗を指摘されたことで学んだ経験を語っています。是枝氏は昔、現場が思いどおりにならずパニックに陥り、「やらせ」をしてしまったところ、カメラマンから「おまえ、こんなものを撮りたいのか!」と怒鳴られたのだそう。それによって、自分の失敗に気づけたのだそうです。
こういう経験をしていかないと、目の前の世界を自分の思った通りに捻じ曲げて変えていくことが演出だと誤解したまま、ディレクターになっていったかもしれません。(中略)ディレクターになって一本目の番組でそんな失敗があったおかげで、その後、僕はものすごく演出というものに対して自覚的になりました。
(引用元:山中伸弥,羽生善治,是枝裕和,山極壽一,永田和宏(2017),『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』,文藝春秋.太字による強調は編集部が施した)
是枝氏は、かけ出しの頃に失敗を指摘されたことで、人の心に深く訴えかける作品を次々と生み出す、一流の映画監督となりました。皆さんも、自分では気づけなかった失敗を指摘されたら、悔しい気持ちや恥ずかしい気持ちをぐっとこらえて、貴重なアドバイスとして受け止め、失敗から学ぶチャンスに変えてみてはいかがでしょう?
失敗から学ぶための名言・格言
失敗して落ち込んだときは、失敗から学ぶことで成功をつかみとった偉人たちの名言・格言に触れてみてはいかがでしょう? つらい気持ちに寄り添い、力づけてくれる先人たちの言葉は、苦しいときほど心に強く響き、失敗に向き合うパワーを与えてくれるかもしれません。失敗のポジティブなとらえ方や、失敗したら次に何をすべきかを伝えてくれる、偉人達の名言・格言をご紹介します。
トーマス・エジソンの言葉
トーマス・エジソンは、生涯に1,000件以上の発明をし、電気事業にも成功した発明家・起業家です。エジソンは、白熱電球を長く点灯させるためのフィラメント(発光・発熱部分)の素材を探す過程で失敗を繰り返し、およそ20,000回にものぼる実験の結果、日本産の竹が最適だと発見しました。
私は実験において失敗など一度たりともしていない。これでは電球は光らないという発見を、いままでに20,000回してきたのだ。
(引用元:藤嶋昭(2011),『時代を変えた科学者の名言』,東京書籍.太字による強調は編集部が施した)
どうして、エジソンは度重なる失敗にもめげずに挑戦を続けられたのか? 上記の言葉からは、失敗を成功へのプロセスとしてポジティブにとらえる成功者のマインドセットが、ストレートに伝わってくるようです。
吉野彰の言葉
旭化成名誉フェローの吉野彰氏は、スマートフォンやノートPCといったIT機器に欠かせない「リチウムイオン電池」の開発者。2019年、環境問題を解決する未来社会を切り開いたとして、ノーベル化学賞を受賞しました。授賞式の前月に吉野氏が語った、失敗にまつわる言葉をご紹介します。
失敗の中で『ああ、これを学びましたね』というのは残りますよね、失敗は失敗でもね。蓋をしちゃったら終わっちゃうじゃないですか。そこから学ぶことは何もないことになっちゃう。失敗したときこそ『失敗の原因を自分に問い詰めろ』と。
(引用元:毎日放送オフィシャルサイト|ノーベル化学賞受賞決定・吉野彰氏 成功の秘訣は「失敗」とサラリーマンゆえの「嗅覚」 太字による強調は編集部が施した)
吉野氏は、リチウムイオン電池にたどり着くまで、3つのテーマで失敗を経験したそう。しかし、失敗のたびに原因を分析し、失敗から学んだ結果、4つ目のテーマ・リチウムイオン電池で大成功を収めたのです。失敗の原因に向き合い、学んだことを次に活かせば、成功に至れるのだと教えてくれる言葉ですね。
柳井正の言葉
柳井正氏は、ユニクロを運営するファーストリテイリング代表取締役会長兼社長。35歳で父親の跡を継ぎ、小郡商事の社長に就任したものの、ほとんどの従業員に辞められてしまうという経験をしたそうです。自分一人で何でもやらねばならない状況のおかげで、「まずは全部自分でやってみることが大事」だと学べたとのこと。
致命的にならない限り、失敗はしてもいい。やってみないとわからない。行動してみる前に考えても無駄です。行動して修正すればいい
(引用元:ビジネス哲学研究会(2008),『決断力と先見力を高める 心に響く名経営者の言葉』,PHP研究所.太字による強調は編集部が施した)
試行錯誤を繰り返すうち、柳井氏は一流のビジネスパーソンとなり、会社を大企業に育て上げました。失敗を恐れてなかなか一歩が踏み出せないとき、「まずは行動してみよう!」と背中を押してくれる言葉です。
リーチ・マイケルの言葉
リーチ・マイケル氏は、ラグビー日本代表のキャプテンとして、2015年のワールドカップで世界ランキング3位(当時)の南アフリカを破り、「ブライトンの奇跡」と呼ばれる番狂わせを成し遂げた人物。2019年のワールドカップでは、「ONE TEAM(ワンチーム)」というスローガンのもと、初のベスト8進出に貢献しました。
リーチ氏は、2015年のワールドカップで日本代表を指揮したエディー・ジョーンズ氏のストイックな姿勢を引き合いに出しつつ、失敗から得られるものの価値について述べています。
失敗することは本当に大切だと思う。失敗の恐ろしさをよく分かっている人は、準備もたくさんするし、心から勝ちたいと思うことができる。
(ラグビーW杯2015日本代表全31名(2016),『日本ラグビーの歴史を変えた桜の戦士たち 選手たちが自ら明かす激闘の裏舞台』,実業之日本社.太字による強調は編集部が施した)
揺るぎなく頂点を目指すジョーンズ氏の根底には、オーストラリア代表の監督を辞めさせられたという経験があったのだそう。リーチ氏自身、2011年のワールドカップでニュージーランド代表に惨敗した失敗経験から、「日本チームが弱いという偏見を変えたい!」と強く思うようになったとのこと。2019年のワールドカップにおける大活躍の背景には、失敗経験から得た、強いモチベーションがあったのですね。
思わぬ失敗をして落ち込み、思考停止に陥りそうになったなら、失敗にまつわる名言・格言を口に出してみてはいかがでしょう? もう一度立ち上がり、失敗から学ぶ勇気をもらえるかもしれませんよ。
失敗から学ぶための本
最後に、失敗から学ぶためにオススメの本を2冊ご紹介します。
畑村洋太郎『失敗学のすすめ』
「失敗体験には、人の関心や興味を惹き付ける不思議な力があり記憶に残りやすい」と語る、東京大学名誉教授・畑村洋太郎氏のベストセラー本をご紹介します。畑村氏は、福島原子力発電所における事故調査・検証委員会委員長や、NHKのドラマ『ミス・ジコチョー~天才・天ノ教授の調査ファイル~』の「失敗学監修」も務めた、失敗学の権威です。
『失敗学のすすめ』では、失敗から学ぶ具体的な事例を挙げ、「失敗は成功の母」であることを科学的に実証しているほか、以下をはじめとする膨大なノウハウが詰め込まれています。
- 失敗が起こる仕組みの詳細な分析
- 失敗を創造のプロセスに変える「思いつきノート」のつけ方
- 失敗情報を知識化し、伝達する方法
学術書のような難しい表現は使わず、一般向けに分かりやすく書かれているので、失敗から学ぶための入門書としてぴったりの一冊です。
マシュー・サイド『失敗学の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』
なぜ失敗は起こり、繰り返されるのか? 失敗を減らすためにはどうしたらよいのか? 医療ミス・航空墜落事故・冤罪(えんざい)など、さまざまな事例を取り上げ、失敗のプロセスを丹念に検証した本です。
著者のマシュー・サイド氏は、オックスフォード大学を首席で卒業し、卓球のイングランド代表としてオリンピック出場経験も持つコラムニスト。Google社や元サッカー選手のデイビッド・ベッカム氏などを挙げつつ、失敗から学ぶのに欠かせない「試行錯誤」と「成長型マインドセット」を解説しています。
『失敗の科学』では、人間の心理や組織論に触れつつ、組織における失敗の構造がドラマティックに解き明かされます。筆者も、まるでサスペンスやヒューマンドラマ小説を読んでいるように、グイグイ引き込まれました。「失敗から学ぶ」とはどんなことか、興味深く理解できる、オススメの一冊です。
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失敗から学ぶ大切さを、多くの成功者が語るのは、失敗こそが成功へのプロセスだから。皆さんも、飛躍のチャンスをつかむため、失敗から学ぶコツを実践してみてはいかがでしょう?
(参考)
畑村洋太郎(2005),『失敗学のすすめ』, 講談社.
佐藤智恵(2014),『世界のエリートの「失敗力」 彼らが「最悪の経験」から得たものとは』, PHP研究所.
マシュー・サイド著, 有枝春 訳(2016),『失敗学の科学 失敗から学習する組織、学習できない組織』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
山中伸弥・羽生善治・是枝裕和・山極壽一・永田和宏(2017),『僕たちが何者でもなかった頃の話をしよう』, 文藝春秋.
ビジネス哲学研究会(2008),『決断力と先見力を高める 心に響く名経営者の言葉』, PHP研究所.
ビル・ゲイツ 著, 大原進 訳(1999),『思考スピードの経営』, 日本経済新聞社.
ジム・コリンズ 著, モートン・ハンセン 著, 牧野洋 訳(2012),『ビジョナリーカンパニー4 自分の意志で偉大になる』, 日経BP社.
国土社編集部(2019),『伝えよう 心にのこる偉人たちの名言』, 国土社.
藤嶋昭(2011),『時代を変えた科学者の名言』, 東京書籍.
ラグビーW杯2015日本代表全31名(2016),『日本ラグビーの歴史を変えた桜の戦士たち 選手たちが自ら明かす激闘の裏舞台』, 実業之日本社.
毎日放送オフィシャルサイト|ノーベル化学賞受賞決定・吉野彰氏 成功の秘訣は「失敗」とサラリーマンゆえの「嗅覚」
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【ライタープロフィール】
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。