もう同じ過ちを繰り返さない! 原因分析が捗る「失敗まんだら」ってどんなもの?

もう同じ過ちを繰り返さない! 原因分析が捗る「失敗まんだら」ってどんなもの?

人の思考や行動のパターンは、ある程度決まっているもの。そのため、「同じ過ちを繰り返す」ということが起きがちです。でも、そのときに「またやっちゃった……」とただ落ち込んでいるだけでは、何も変わりません。どうすれば、同じ失敗を繰り返さないようになるのでしょうか。

著書『ミスしても評価が高い人は、何をしているのか?』(日経BP)が注目を集める、NPO失敗学会副会長の飯野謙次(いいの・けんじ)先生は、「失敗まんだら」を使うことをすすめます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

工業界の事故分析によりできあがった「失敗まんだら」

私が副会長を務めるNPO失敗学会では、失敗の事例を分析し、同じ失敗を繰り返さないために、「失敗まんだら」というものをつくることを奨励しています

このベースとなっているのは、失敗学会の会長であり、福島原発事故における政府の事故調査・検証委員会の委員長も務められた畑村洋太郎先生が1996年に出された著書『続々・実際の設計 失敗に学ぶ』(日刊工業新聞社)に掲載した以下の図です。

「設計における失敗の原因」をテーマにした失敗まんだら

これは、工業界における108件の事故事例の事故原因を分析・細分化し、グルーピングしたもの。新たに事故が起きた場合、これによって事故原因を特定し、その後の予防策に生かそうというわけです

たとえば、工場で事故が起きたとき、組織の場合には事故原因の分析がなかなかうまくいかないこともある。というのも、事故原因を個人の責任に帰属させるということが起きがちだからです。「工場の事故なら、工場長の責任だ!」というわけです。そうして、組織的な問題があることに気づかないということが起こるのです。

でも、この失敗まんだらがあれば、話は変わってきます。誰もが冷静に、「組織的な問題はなかったのか」と考えられますから、本当の事故原因を特定できますし、その後の予防策の策定もスムーズに的確に行なうことができます

個人で「失敗まんだら」をつくることのメリット

これは工業界における失敗まんだらですが、もちろん、その他さまざまな業界や、あるいは個人でも失敗まんだらをつくることが可能です。

たとえば、わたしの著書『ミスしても評価が高い人は、何をしているのか?』(日経BP)にも掲載している下記の失敗まんだらは、私自身のものです。

飯野謙次氏の過去の失敗を分析した失敗まんだら

これは、私自身の過去の失敗を分析し、その原因がどこにあるのかと分類したものです。何か失敗したとき、人はついその事実自体に目を向けて、「失敗しちゃった……」とくよくよしてしまいますよね。

でも、この失敗まんだらを見る癖があればどうなるでしょうか? 失敗してしまったのは、計画そのものがよくなかったのか、伝達ミスがあったのか、それとも地震が起きたなどの不可抗力だったのかと失敗の原因を冷静に探り、どうすれば同じ失敗を繰り返さないで済むかと考える方向に意識が向くようになるのです。

また、失敗まんだらを使った分析により、何度となく同じ原因によって失敗を繰り返していたようなことがわかれば、自分の弱点を知ることにもなる。たとえば、失敗の内容自体は違っても、その原因が「伝達不良」にあることが多いとわかれば、こまめに連絡を取り合ったり、予定直前の最終確認をしたりするといった対処法を取ることもできるでしょう。

個人で「失敗まんだら」をつくることのメリット

失敗には、対処できることと対処できないことがある

失敗まんだらを使うときに注意してほしいのは、簡単に「注意不足」だと決めつけないこと。失敗の原因を探るとき、つい広くとらえて「注意不足だったな」と考えてしまうものですが、突き詰めていくと「計画自体に無理があった」というようなこともあります。本当の失敗原因にたどり着けるように、冷静な目で失敗を分析するように注意してください。

また、「諦めが肝心」という考え方も大切。なぜなら、失敗には対策ができるものとそうではないものがあるからです。私の失敗まんだらでいえば、「計画不良」「学習不足」「伝達不良」については対策ができます。計画がよくなかったのであれば計画の立て方を見直せばいいし、学習不足だったなら勉強すればいい。

でも、「注意不足」「自然」については、対策を講じるのは難しい……。人の性格や癖を変えるのは簡単ではありませんが、注意不足の場合なら、たとえば失念しないように重要なことはきちんとメモを取るといった多少の対策を講じることはまだできるでしょう。

でも、地震の発生を抑えることはまず無理ですよね。また、急ぎの用事に向かう途中に交通事故を目撃したという場合には、警察に通報して聴取に応じる必要もあるでしょう。そのような倫理面に関わることも防ぎようがありません。そういったことが失敗の原因だった場合には、くよくよしても仕方ありませんから、潔く諦める。対処できることだけについてしっかり対処していくという考え方を持ちましょう

そして、この失敗まんだらはどんどん更新していくべきものです。何か失敗をしたとき、これまでになかった新たなことが原因だとわかれば、それを書き込んでください。そうしてオリジナルの失敗まんだらをつくることが、あなた自身が同じ過ちを犯すことを防ぐために、大いに役立ってくれるはずです。

失敗には、対処できることと対処できないことがある

【飯野謙次さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「失敗しても評価が高い人」が失敗したときにしている大切なこと
なぜかミスが多い人は “この4つ” に原因がある。

【プロフィール】
飯野謙次(いいの・けんじ)
1959年12月9日生まれ、大阪府出身。NPO失敗学会副会長。東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後、General Electric原子力発電部門へ入社。その後、スタンフォード大学で機械工学・情報工学博士号を取得し、Ricoh Corp.へ入社。2000年、SYDROSELP設立し、ゼネラルパートナーに就任。2002年、NPO失敗学会副会長となる。企業や社会の発展に寄与するために、マネジメント面も踏まえながら失敗についての講演活動を続けている。『思考停止する職場 同じ過ちを繰り返す原因、すべてを解決するしかけ』(大和書房)、『仕事が速いのにミスしない人は、何をしているのか?』(文響社)、『設計の科学 創造設計思考法 失敗知識のウェブ脳モデル』(養賢堂)、『設計の科学 チームづくりの数学 ユング分析心理学とプラトニック変換』(養賢堂)、『「失敗をゼロにする」のウソ』(ソフトバンククリエイティブ)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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