応用神経科学者が解説「勉強意欲を上げるコツ」。やる気を発揮できる脳の状態はこうしてつくる

青砥瑞人さんインタビュー「勉強のやる気を高める方法」01

ビジネスパーソンがよりよいキャリアを歩もうと思えば、仕事や人生に関係するような学びが重要であることは言うまでもないでしょう。でも、多忙な日々を送りながら学び続けることは簡単ではありません。

では、どうすれば勉強に対するモチベーションを高められるのでしょうか。脳の研究をさまざまな分野に生かす「応用神経科学」を専門とする青砥瑞人(あおと・みずと)さんは、「ふたつの神経伝達物質の特徴を知り、自身の内面に目を向けることが大切」と言います。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

「応用神経科学」ってどんな学問?

私が専門とするのは「応用神経科学」という学問です。おそらく、ほとんどのみなさんに馴染みがないでしょう。応用神経科学を含む神経科学は、生物学や物理学、化学といったいわゆる自然科学のひとつです。神経科学が扱うのは、その名のとおり身体の神経系。脳も神経に含まれますから、メディアに頻繁に登場する脳科学も神経科学の1分野です。脳などの神経を細胞レベルや分子レベルから読み解いていくというものが神経科学となります。

その神経科学が役立つ場面の多くは、医学や薬学です。でも、人間はあらゆる場面で脳を使っているのですから、脳を扱っている神経科学の応用先は医学や薬学にとどまるものではありません。たとえば、神経科学が、医学や薬学以外に最初に応用されたのは、マーケティングの世界でした。どうすれば商品を効率的に売ることができるか、脳の仕組みから考えようというわけです。

そのように、現在では神経科学の進歩によってその応用先がどんどん広がっています。もちろん、その応用先には教育や学びといった分野も含まれます。医学や薬学だけではなく、より広く多様な分野への神経科学の応用を研究する学問――それこそが、私の専門とする応用神経科学です。

青砥瑞人さんインタビュー「勉強のやる気を高める方法」02

モチベーションの鍵を握るふたつの神経伝達物質

先にお伝えしたとおり、神経科学が応用される分野には教育や学びも含まれます。そこで、社会人として勉強したいと思いながらも悩みを抱えている人に神経科学の見地から助けになりそうなポイントをご説明しましょう。勉強に関して社会人が抱える悩みというと、「モチベーションが上がらない」がそのひとつではないでしょうか? 忙しく働きながら勉強しなければならないのですから、それも当然のことです。

モチベーションを上げるための鍵を握っているのは、「ドーパミン」「ノルアドレナリン」というふたつの神経伝達物質です。どちらも有名ですから、その名をみなさんも耳にしたことがあるかもしれませんね。

ドーパミンは、なにかに好奇心や興味をもつことで分泌されやすくなる神経伝達物質です。たとえば、コーヒーが好きな人が「コーヒーを飲みたいな」と思ったら分泌されている可能性が高い。なにかを「やりたい!」とか「知りたい!」といった気持ちによって分泌されるのですから、当然ながらドーパミンはモチベーションに寄与することが考えられます。

一方、ノルアドレナリンがもたらすのは、なにかを「やらなければならない」といったプレッシャーをともなったかたちでのモチベーションです。試験前夜や、納期が迫った仕事に追われているとき、「やらなければ!」と、普段以上に集中力を発揮できてなんとか乗りきった経験がみなさんにもあると思います。

なぜそんなことができるのかというと、脳のあらゆる力を高めて鋭敏化する働きをノルアドレナリンがもっているからです。でも、その働きは弊害も生みます。脳が鋭敏化するため、やらなければならないこと以外のことに対しても過敏になり、注意の分散を招くのです。「勉強しなければならない」というときほど、周囲の雑音や、少し前にあった嫌な出来事、自分のなかで気になっていることなどに注意が向かって集中できないことがあるのは、それが理由です。

青砥瑞人さんインタビュー「勉強のやる気を高める方法」03

モチベーションを保つために、自身の内面に目を向ける

そんなときに重要な役割を果たすのが、先に解説したドーパミンです。「やらなければならない」といった気持ちもたしかに重要なものですが、それだけでは注意が分散してしまってモチベーションが持続しにくい状態です。

そこで、「やらなけばならない」ではなく「やりたい!」という気持ちにともなって分泌されるドーパミンが重要となってくるというわけです。脳の力を鋭敏化させるノルアドレナリンの効果をある程度残しつつ、注意の分散というデメリットをかき消すことを考えましょう。

そうするためには、自らの内面を知ることこそが最重要。というのも、どんなことに対して「やりたい!」と感じるかは、十人十色だからです。コーヒーが好きな人ならコーヒーを目にすればドーパミンが分泌されて「コーヒーを飲みたい!」というモチベーションが高まりますが、コーヒーが嫌いな人なら当然そうはなりません。そこで、自分の内面を知り、勉強などやらなければいけないことのなかにも、「やりたい!」と思える要素や楽しみを見いだしていくことが大切になってきます。

私自身も、納期が迫った仕事に対しては、「やらなければならない」と思ってノルアドレナリンが優位になった状態で臨むこともあります。でもそこで、自分の注意が分散していることに気づいたなら、その仕事のなかで自分のやりたいこと、やろうとしていることにフォーカスするのです。そして、さらにはたとえなかったとしても楽しみを見いだそうとしています。

ここまでの内容を見て、「少し難しそうだな」と思った人もいるかもしれません。もちろんある程度のトレーニングは必要ですが、モチベーションが生まれたり注意が分散したりする仕組みをいったん知ってしまえば、これは意外にできてしまうことです。そして、そのためにも普段から、「自分はどんなことに興味があるのだろう?」「どんなことに楽しみを感じるのだろう?」と、自分の内面に目を向けることを意識してください

青砥瑞人さんインタビュー「勉強のやる気を高める方法」04

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勉強力の高い人は「ストレスとの付き合い方」がうまい。“ストレス=絶対悪” はじつは誤解だ
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【プロフィール】
青砥瑞人(あおと・みずと)
1985年4月4日生まれ、東京都出身。DAncing Einstein Founder & CEO。日本の高校を中退後、米UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の神経科学学部を飛び級卒業。脳の知見を、医学だけでなく、そして研究室だけに閉じず、現場に寄り添い、人の成長やWell-beingに応用する応用神経科学の日本におけるパイオニア。また、AI技術も駆使し、NeuroEdTech®/NeuroHRTech®という新分野も開拓。同分野にていくつもの特許を保有する「ニューロベース発明家」の顔も持つ。人の成長とWell-beingに新しい世界を創造すべく、2014年に株式会社DAncing Einsteinを創設。対象は未就学児から大手企業役員まで多様。空間、アート、健康、スポーツ、文化づくりと、さまざまな分野に神経科学の知見を応用し、垣根を超えた活動を展開している。著書に『HAPPY STRESS 最先端脳科学が教えるストレスを力に変える技術』(SBクリエイティブ)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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