深夜、ラジオを聞きながら受験勉強に励む――そんな光景はひと昔前のものになりましたが、勉強中、なんとなくラジオを流している人もいるのではないでしょうか。ラジオを流しているとくつろいだ気分になれますし、自分ひとりで勉強する寂しさも紛れますよね。
とはいえ、ラジオを聞きながらだと集中力が下がる可能性が高いため、あまりオススメできません。勉強中にBGMを流したいなら、ニュースやトークなどの言語情報を含むラジオは避けるべきなのです。
そこで今回は、ラジオが勉強の効率を下げてしまう理由、勉強時間に流す音楽の選び方や注意点を解説したうえで、勉強に有用なラジオ番組やラジオを聞ける便利なアプリケーションをご紹介しましょう。
勉強中にラジオを聞くのはOK?
ラジオは勉強用BGMに適しておらず、勉強の効率を下げてしまう可能性があります。精神科医の樺沢紫苑氏によると、ラジオを聞きながら勉強するのは「マルチタスク」の状態であり、パフォーマンスが悪くなりやすいそうです。
マルチタスクとは、複数の作業や情報処理を同時にこなしている状態。以下のような、いわゆる「ながら作業」がマルチタスクです。
- ラジオを聞きながら勉強する
- テレビを見ながら本を読む
- 歩きながらスマートフォンを操作する
私たちの脳は、ひとつずつ情報を処理する「シングルタスク」しかできません。マルチタスクの状態だと、脳が疲れ、パフォーマンスが低下してしまいます。そのため、「ラジオを聞きながら勉強する」というマルチタスクは避けるべきなのです。
勉強中にBGMを流すのはダメなの?
ラジオを流しつつ勉強すべきではないとはいえ、「BGMがないと物足りない」「音楽を聞きながらのほうがはかどる」と感じる方も多いでしょう。じつは、無音環境だとパフォーマンスが低下するというデータもあるのです。
工学研究者・五藤寿樹氏の論文「オフィス環境における積極的環境効果について」(1992年)によると、オフィス労働者を3つのグループに分け、以下のように異なる環境で作業させてパフォーマンスを測定した実験があるそう。
- 環境音楽を流す→パフォーマンス向上
- ラジオを流す→変化なし
- 無音→パフォーマンス低下
一方、BGMがパフォーマンスに与える影響は、歌詞の有無が左右していることもうかがえます。山形大学が2009年に発表した短報によれば、「歌詞のある音楽」「歌詞のない音楽」「無音」の条件だと、作業のミスが最も多かったのは「歌詞のある音楽」だったそうです。総合的に考えると、勉強時には、歌詞のないBGMを邪魔にならない程度の音量で流すのがベストだと言えるでしょう。
ただし、樺沢氏によると、音楽は単純作業の効率を高めやすい一方、複雑な作業の妨げになる恐れがあるそう。勉強の場合、簡単な計算や漢字の書き取りなど単純な作業ならBGMが効果的かもしれませんが、難しい問題を解いたりテキストの文章を読み込んだりする際の深い思考を邪魔してしまうかもしれませんね。
勉強中のBGMがプラスに働くかマイナスに働くかは、勉強内容やそのときの気分、個人の性質などで変わるでしょう。気が散ると感じたらBGMを止めるなど、臨機応変に対応してください。
◆勉強用BGMを使うポイント
- ラジオはNG
- まったくの無音もNG
- 歌詞のない曲を選ぶ
- 勉強内容や気分によってBGMの有無を切り替える
勉強中にBGMを流したいなら、ラジオをつけるのではなく、歌詞のない音楽を選ぶといいでしょう。
ラジオの代わりにオススメの勉強BGM
ラジオの代わりに勉強中に流すBGMとして、3つのパターンを紹介します。
歌詞のない音楽
先述のとおり、勉強用BGMには、歌詞がない楽器のみの曲(インストゥルメンタル)がいいでしょう。なかでも、集中力を高める効果が期待できるのは、「1/fゆらぎ」という特殊な振動パターンをもつ楽曲です。
1/fゆらぎとは、「パワーが振動数に反比例する」という特性をもったゆらぎのこと。1/fゆらぎは、人間の生体活動にも観察されているため、精神を癒やす効果があると考えられています。
『日本調理学会誌』に掲載された論文「聴覚刺激による積極的休養が味覚嗜好および食物摂取に及ぼす影響」(2010年)では、「1/fゆらぎが強いと考えられる楽曲」として、以下の4つが挙げられました。勉強用BGMを選ぶ際の参考にしてみてください。
◆1/fゆらぎが強いと考えられる楽曲
- アヴェ・マリア(シャルル・グノー)
- タイスの瞑想曲(ジュール・マスネ)
- インドの歌(ニコライ・リムスキー=コルサコフ)
- カンタービレ(ニコロ・パガニーニ)
自然の音
「川のせせらぎ」「森のざわめき」といった、自然の音もオススメです。自然の音には1/fゆらぎが含まれているため、精神を安定させる効果が期待できます。また、自然の音には楽曲のようなメロディやリズムがないため、勉強中に気をとられることは少ないでしょう。
自然の音は、YouTubeなどの動画投稿サイトや、音楽配信サービスなどで再生できます。音楽に飽きたときや、癒やされたいときに活用してみてください。
ホワイトノイズ
音楽を耳障りだと感じる方には、ホワイトノイズもオススメです。ホワイトノイズとは、音の周波数の全帯域が等しく含まれているノイズのこと。例としては以下のとおりです。
- テレビの砂嵐
- 飛行機のなかの音
- 雨の音
飛行機や新幹線の車内だとなぜか集中できる、雨の音を聞くと気持ちが落ち着く、という方は、ホワイトノイズで勉強の効率が上がるかもしれません。ホワイトノイズも、動画配信サイトや音楽配信サービスで見つかります。
勉強BGMのメリットや選ぶコツについて詳しく知りたい方は、「勉強中のイヤホンはOK? NG?」もご参照ください。以上、ラジオ以外の勉強BGMをご紹介しました。
ラジオを使った勉強法
先述のように、ラジオは勉強中のBGMとしては適しません。しかし、通勤中や家事中に情報をインプットするには便利な手段です。学習や教養に関する番組も多いので、勉強ツールとしてラジオを活用することも可能でしょう。
筆者もよくラジオを聴きますが、ラジオならではのメリットとして感じるのは、出演者の話をじっくり聴けることです。
テレビだと、教養番組に専門家がゲスト出演しても、ひとつのトピックに関するコメント時間はせいぜい20~30秒、長くても数分程度。しかも、話題は次から次に移り変わります。しかし、ラジオのタイムスケジュールは比較的ゆったり組まれているため、ひとつの話題について専門家の話を長く聴けることが多いのです。
また、脳神経外科医の板倉徹氏によると、ラジオを聴くことには脳の活性化効果も期待できるそう。ラジオには音声情報しかないため、想像力が刺激され、テレビや動画サイトなどの映像メディアよりも脳を活発に使うからです。
脳の活性化効果が特に高いラジオ番組は、意外にも「天気予報」だそう。各地域の状況を、地図を見ず脳内に描くため、高い注意力・想像力が必要とされるからです。
◆ラジオを聴くメリット
- ほかの作業をしながら情報収集できる
- 有識者の話をじっくり聴ける
- 脳が活性化する
普段からラジオを聴く習慣があると、情報収集や脳の活性化ができるので、結果として勉強の助けになるでしょう。
勉強にオススメのラジオ番組・チャンネル
ラジオを勉強ツールとして使いたい方に向けて、一般常識や教養が身につく「文化・教養系」、英語学習に役立つ「英語系」というふたつのアプローチから、個人的なオススメのラジオ番組をご紹介します。なお、情報は2020年9月時点のものです。
文化・教養系
よみラジ
『よみラジ』は、読売新聞の編集委員などが、ニュースを専門的な知見で解説する番組です。新聞をじっくり読めない多忙な人も、その週のニュースのエッセンスを把握できます。
森本毅郎 スタンバイ!
『森本毅郎 スタンバイ!』は、フリーアナウンサーの森本毅郎氏による朝の情報番組。政治・経済・スポーツなど、あらゆるジャンルのニュースを押さえています。
荻上チキ Session-22
『荻上チキ Session-22』は、評論家の荻上チキ氏による “発信型ニュースプロジェクト” です。時事や社会問題を掘り下げつつ、リスナーの行動につながるような建設的議論を展開します。
須田慎一郎のこんなことだった!!誰にもわかる経済学
『須田慎一郎のこんなことだった!!誰にもわかる経済学』は、元経済誌記者・須田慎一郎氏による経済番組。市場の動きやヒットの背景など、「経済のおもしろさ」にフォーカスします。経済を学びたい人はもちろん、知的好奇心が旺盛な人や、世のなかの最新動向を知っておきたい人にもオススメです。
古舘伊知郎のオールナイトニッポンGOLD
『古舘伊知郎のオールナイトニッポンGOLD』は、フリーアナウンサー・古舘伊知郎氏によるトーク番組。笑いをふんだんに交えつつ、時事問題について古舘氏の持論を展開します。ニュースで聞き慣れた話題について「そんな見方もあったか!」とうならされることが多く、気づきや驚きの多い番組です。
放送大学
放送大学のチャンネルでは、法学や歴史学、心理学など、さまざまな講義が毎日放送されています。大学レベルの専門的な知識を身につけられますよ。
英語系
ラジオ英会話
NHKの『ラジオ英会話』では、身近な話題についてしゃべったり、自分の意思を伝えたりするための実践的な表現を学べます。中学校までの基本を習得できている人向けです。
実践!Let's Read the Nikkei in English
『実践!Let's Read the Nikkei in English』は、日本経済新聞を英語で読むことを通じ、実践的なビジネス英語を身につける番組。英語と経済を同時に学べるので、一石二鳥ですね。
NHK WORLD RADIO JAPAN News
『NHK WORLD RADIO JAPAN News』は、日本と世界のニュースを海外向けに発信する、ポッドキャストの番組です。英語だけでなく、中国語やスペイン語など17の言語に対応しています。
TED Radio Hour
『TED Radio Hour』は、ポッドキャストの番組。知識人のスピーチで知られる『TED』のキュレーターが、過去のTEDスピーチを厳選して解説します。『TED』のファンや、英語力にさらなる磨きをかけたい人にオススメ。
ラジオを勉強ツールとして活用したい方は、ぜひ聴いてみてください。
ラジオを聴けるアプリ
ラジオで勉強したい方のため、ラジオを聴けるスマートフォン向けアプリケーションをご紹介しましょう。
radiko
最も代表的なアプリケーションが「radiko」(iOS/Android)。国内のほとんどのラジオ番組が配信されています。放送後1週間以内なら、「タイムフリー」機能で聴くことが可能です。
有料会員になると、住んでいるエリア外の番組も聴ける「エリアフリー」機能が使えます。ラジオのヘビーリスナーは、ぜひインストールしておきたいアプリケーションです。
ラジオクラウド
「ラジオクラウド」(iOS/Android)は、過去のラジオ番組を聴くことに特化したアプリケーション。一部の番組の過去放送回や、インターネット限定音源などがストックされています。いつも聴いているお気に入りの番組がある方や、好きな放送回を繰り返し聴きたい方にオススメです。
また、音源をダウンロードできるため、オフライン環境でもお気に入りの番組を楽しめます。
NHKラジオ らじる★らじる
「NHKラジオ らじる★らじる」(iOS/Android)は、NHKのラジオ放送を聴けるアプリケーション。「radiko」では聴けないNHK第2放送も聴けるため、NHKラジオのヘビーリスナーにオススメです。放送後1週間以内なら、終了した番組を聴くことができます。
ポッドキャスト
ポッドキャストとは、インターネットラジオのようなもの。放送局だけでなく、企業や個人もさまざまな番組を配信しています。先述した『TED Radio Hour』など海外のコンテンツにも触れられるため、特に外国語を勉強中の方には大いに役立つでしょう。
ポッドキャストを利用できるアプリケーションは複数ありますが、iOSなら「Apple Podcasts」、Androidなら「Google ポッドキャスト」はいかがでしょうか。これらのアプリケーションを駆使し、ぜひラジオを勉強に役立ててみてください。
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ラジオを聞きながらの勉強は、あまり効率的ではありません。しかし、ラジオ番組をうまく活用すれば、通勤中などのスキマ時間を有意義に過ごすことができます。
BGM代わりになんとなく聞き流しがちなラジオですが、その価値や利用方法を見直してみてはいかがでしょうか。
(参考)
YouTube|マルチタスクはやめなさい!【精神科医・樺沢紫苑】
五藤寿樹(1992),「オフィス環境における積極的環境効果について」, オフィス・オートメーション, 13号, pp.13-21.
門間政亮・本多薫(2009),「音楽に含まれる言語情報が文章課題に与える影響に関する検討」, 人間工学, 45巻3号, pp.170-172.
樺沢紫苑(2019),『学び効率が最大化するインプット大全』, サンクチュアリ出版.
FUTURUS|人間を生かし、 名曲をも生み出す 「1/fゆらぎ」の謎【前編】
新R25|「集中力を上げる効果はない」とわかっていても、脳研究者が仕事中にBGMをかける理由
伊藤輝子(2010),「聴覚刺激による積極的休養が味覚嗜好および食物摂取に及ぼす影響」, 日本調理科学会誌, 43巻3号, pp.151-159.
東洋経済オンライン|脳を鍛えたければ「ラジオ」を聞け!
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。