優秀なビジネスパーソンは、自分とどこが違うのだろう——。多くの人が、一度はそんなふうに考えたことがあるはずです。
お話を聞いたのは、延べ17万3,000人のビジネスパーソンの行動分析を行なってきた、株式会社クロスリバー代表取締役の越川慎司(こしかわ・しんじ)さん。エリートをエリートたらしめている行動を明かしてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹
目的と手段をはき違えない
私が経営する株式会社クロスリバーのメイン事業は、企業成長支援事業です。働き方改革のアドバイザーとして、クライアント企業の利益向上につながる活動の実行支援を行なっています。
その事業においては、クライアント企業の「トップ5%社員」、それから「残り95%の社員」の行動をそれぞれAIによって分析します。「トップ5%の社員」とは、企業として戦略的に育成していこうとする、いわゆる幹部候補生です。
そうして判明したトップ5%社員に特徴的な行動を、残り95%の社員にも実行してもらえばどんな成果が出るのかということを、行動実験によって探っているのです。現時点ではこれまでに815社、延べ17万3,000人のビジネスパーソンの行動分析を行なってきました。
そのなかで見えてきた、トップ5%社員に特徴的な行動のいくつかを紹介しましょう。なかでも、残り95%の社員との決定的な違いと言えるのが、「目的と手段をはき違えない」ということです。
トップ5%社員は、成果に対してひたむきです。努力や作業というものは成果を挙げるための手段としか考えません。そりの合わない上司がいたとしても、成果を挙げるために必要であれば、ただの手段と考えてその上司ともうまくつき合っていこうとします。
一方、残り95%の社員は、企画書を作成するにもページ数を増やしてアピールしようとするといったふうに、どうしてもプロセスに頼ってしまうところがあります。手段を目的化してしまっているわけです。本当に必要な成果という目的に意識が向かっていないのですから、これでは成果を挙げにくくなって当然です。
オフィスではゆっくり、移動は速く
リーダーのトップ5%についても分析しました。コロナ禍のなかで見えてきたトップ5%リーダーの行動として、「人に会ったときにこそ特別なことをやる」というものがあります。
テレワークが急速に広まったいま、ただ会話をして情報共有をするだけならオンラインでも十分にできます。でも、取引先と価格交渉をする、謝罪をする、あるいは人間関係を深めるといったことは、やはり対面こそが「最強」です。そのことをわかっているからこそ、トップ5%リーダーは、人と会うときにはなにをするかを事前にきちんと決めるのです。
この行動に通じることであり、私自身もおもしろいと感じたものとして、「オフィスにいるときにはゆっくり歩く」という特徴もトップ5%リーダーには見られました。
コロナ禍の前は、逆にオフィスでは歩くスピードが速いというのがトップ5%リーダーでした。効率を重視する人たちだからです。速く歩いていろいろな人のデスクに行き、周囲をどんどん巻き込んでいたのです。
しかし、いまは出社する機会も減っています。トップ5%リーダーが言うには、その貴重な機会にまわりから「いま、ちょっといいですか?」と声をかけられるためにゆっくり歩いているのだそうです。
なんらかのトラブルを抱えている同僚からの相談を早く受けられたら、大きなトラブルに発展する前に解決に向けて動くことができます。あるいは、ちょっとした雑談から良好な人間関係を構築したり、新たなアイデアを生んだりすることもできます。
トップ5%リーダーは、いうまでもなく優秀な人です。そんな人がせわしなく歩いていたら、まわりからすると「忙しそうだし、いまは声をかけるのはやめておこうか」と思ってしまうもの。その結果、先の例で言えばトラブルが大きくなってしまうかもしれませんし、良好な人間関係を構築したり新たなアイデアを生んだりする可能性も狭めてしまうのです。
その代わり、会議のためにただ移動するといった場面では、歩くのがすごく速い。「オフィスではゆっくり、移動は速く」というのがトップ5%リーダーの行動です。
ため息をついて周囲を巻き込む
それから、ちょっと意外に思えることかもしれませんが、トップ5%社員には「自分の弱みを見せる」という特徴も見られます。そして、その結果として「ため息が多い」のです。
「自分の弱みを見せる」とは、不得意なものや苦手なものをまわりに見せるということです。優秀なトップ5%社員にも、もちろん苦手なこともあります。そういう仕事をやるときに、彼ら彼女らは「あ〜あ」ではなく「ハーッ」と強く吐き出すようなため息をつくのです。「エクセル苦手なんだけど、よしやるか、ハーッ」といった具合です。
どういうことかというと、ため息を苦手な仕事をやるためのスイッチにしているのです。苦手なことに対しては、どうしても取りかかりが遅くなりがちです。でも、トップ5%社員のなかには、「ため息をついたらとにかく取りかかる」習慣ができていますから、それだけ初動が早くなる。そうして、たとえ苦手な仕事であっても早く終えられるわけです。
そして、この行動には、ちょっとずるい効果も期待できます。トップ5%社員は、社内で一目置かれています。そんな人に対しては、「一緒に仕事をしたい」「ちょっと恩を売っておいて、今度のプロジェクトではぜひ助けてもらいたい」などと思っている人がたくさんいるのです。そのため、「私、エクセル得意ですから手伝いましょうか?」といった声がかかることになるのです(笑)。
もちろん、ただ助けてもらえることもメリットではありますが、このことのメリットはそれだけにとどまりません。いま、ビジネスにおける課題はかつてと比べてはるかに複雑になっています。どんなに優秀な人でも、ひとりだけでその課題を解決することは難しい。そこで、さまざまな専門知識やスキルをもった人たちを巻き込んでいく力が非常に重要となってきます。
自分の弱みを見せてまわりから声をかけてもらえれば、結果として周囲の人との関係を深め、チーム力を向上させることにもなるのです。
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【プロフィール】
越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表取締役、アグリゲーター。株式会社キャスター執行役員。1996年にNTTに入社、外資企業やベンチャーを経て、2005年、マイクロソフトに入社し、業務執行役員などを経験。2017年、クロスリバーを設立。全メンバーが週休3日・複業で、オンライン講演や講座を提供する。ベストセラーとなった『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書19冊。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。