「トップ5%リーダー」は部下のやる気をあてにしない。代わりに “2つの仕組み” で仕事の質を上げている

越川慎司さんインタビュー「トップ5%のリーダーがつくっている2つの仕組み」01

チームを率いる「リーダー」は、もちろんメンバーのなかで優秀な人が選ばれます。ただ、リーダーたちのなかにもトップレベルの優秀なリーダーもいます。そんなエリートリーダーにはどんな特徴が見られるのでしょうか。

延べ17万3,000人のビジネスパーソンの行動分析を行なってきた、株式会社クロスリバー代表取締役の越川慎司(こしかわ・しんじ)さんによると、「トップ5%のリーダーは、メンバーのやる気をあてにしない」のだそうです。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹

会議の冒頭に2分だけ雑談をする

私が経営する株式会社クロスリバーでは、クライアント企業における「トップ5%社員」、それから「残り95%の社員」の行動をそれぞれAIによって分析しています。「トップ5%の社員」とは、企業として戦略的に育成していこうとする、いわゆる幹部候補生のこと。その分析を通じて、クライアント企業の生産性を高め、成長を支援しているのです。

その事業のなかで、「トップ5%リーダー」に特徴的な行動が見えてきました。そのうちのひとつが、「やる気をあてにしない」というものです。

やる気があるときに仕事をするのであれば、やる気がないときには仕事をしないということになってしまいます。もちろんそれでは成果を挙げるのは難しくなるでしょう。そこで、トップ5%リーダーは、やる気に頼ることなく必要な行動をし続ける仕組みづくりをしているのです。

その仕組みの一端を紹介しましょう。トップ5%リーダーがあてにしないのは、自分のやる気だけではありません。メンバーのやる気もあてにしないのです。メンバーのやる気が大きく関わることのひとつに、社内会議があります。

コロナ禍によって急増したオンライン会議においては、別の仕事、いわゆる内職をしている人、あるいはテレビや動画共有サイトを見ているというふうにサボっている人が、じつに41%にもなることが私たちの調査で明らかになりました。もちろん、その人たちは会議に対して「やる気がない」人たちです。

会議を仕切るリーダーとしてはなんとかしなければなりません。そして、トップ5%リーダーが行なっているのは、「会議の冒頭で必ず雑談をする」というものでした。

越川慎司さんインタビュー「トップ5%のリーダーがつくっている2つの仕組み」02

会議前に雑談をすれば、発言が増えて会議が早く終わる

私たちの調査では、会議において参加メンバーが一番集中しているのは最後の5分、そして「最初の1分」だとわかりました。会議の結論はきちんと聞かなければなりませんから、最後の5分に集中するのは当然のことです。

一方、会議のアジェンダを確認するためには開始直後の時間も重要であるはずですが、なんとわずか1分で多くの人たちは集中できなくなっているのです。そこで力を発揮するのが、雑談です。

その目的は、ただくだらない話をすることなどではなく、「参加メンバーの共通点を見つける」ことにあります。というのも、共通点を見つけることで会話が弾むようになるからです。みなさんにも、ただ出身地や共通の趣味が同じだっただけで、初対面の人とも会話が盛り上がった経験があるでしょう。

トップ5%リーダーが、「最初の1分」の前に行なう雑談でよく使うテーマは「飲食」でした。性別や年齢、あるいは国籍や人種が違っても、なにも食べない、飲まないという人はいません。飲食は、すべての人にとってのまさに共通点なのです。

トップ5%リーダーは、自ら話を切り出します。午後イチのオンライン会議であれば、「お昼にオムライスをつくろうとしたら失敗しちゃったよ」「みんなは自炊派? 外食派? テイクアウト派?」といった具合です。それに対して「外食派ですね。今日のお昼は近くのラーメン屋に行きました」なんて答えが誰かから返ってくれば、「みんなが好きなラーメンを教えてよ」というふうにさらに話を膨らませます。

そうして、「博多で食べたとんこつラーメンですね」「私、福岡出身ですよ」などとメンバー間での会話が増えてくればしめたもの。発言しやすい空気は会議が始まっても残るものですから、メンバーの発言が増えて結果的に会議を早く終えられることにもなります。

私たちの調査では、会議の冒頭に雑談をすることで、そうしない場合と比べて会議における発言者数が1.9倍、発言数が1.7倍になり、会議が早く終わる可能性が45%高まることがわかりました。

越川慎司さんインタビュー「トップ5%のリーダーがつくっている2つの仕組み」03

やる気をあてにせず資料作成を進めさせる「フィードフォワード」

また、会議のほかに「資料作成」も、メンバーのやる気に大きく左右されるもののひとつです。資料作成においても、トップ5%リーダーは、メンバーのやる気をあてにせずに行動継続させる仕組みをつくっています。

特に若いメンバーの場合は、「こんな要素を入れたら上司に気に入られるだろう」「評価されるだろう」というふうに想像しながら資料を作成します。その結果、資料のページ数は増えます。そんなページを私は「忖度ページ」と呼んでいますが、じつは80%のリーダーたちはそんな忖度ページは見てもいません。まったく必要のない資料を、メンバーがつくってしまっているということです。

しかも、そんなふうによかれと思って自分なりに頑張ってつくった資料にダメ出しをされてつくり直さなければならない状況になれば、メンバーのやる気はそれこそ一気に低下してしまいます。その結果、期限までに資料ができないことにもなってしまいかねません。

そんな事態を招かないよう、トップ5%リーダーが行なっているのが、私が「フィードフォワード(feed forward)」と名づけた手法です。資料が完成してから「ここはよかった」「ここはよくないから直そう」というふうに評価をするのは、「フィードバック(feed back)」です。そうではなく、資料が完成する前に評価をするわけです。

具体的には、「進捗20%の段階で、1分間、イメージが合っているか確認し合う」ということ。手書きの目次だけができた段階でもいいので、進捗20%の段階でチェックするのです。そうすれば、完成してからつくり直させるような大きな無駄をなくすことができますし、メンバーがやる気を失って資料の修正が進まないという事態も避けることができます。

39社でフィードフォワードを採用してもらったところ、忖度ページは絶滅し、資料をつくり直させる「差し戻し」が74%も減ったことがわかりました。とても再現性が高い手法のため、すぐに効果を実感できると思います。

越川慎司さん

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29歳の教科書

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  • 作者:越川 慎司
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【プロフィール】
越川慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー代表取締役、アグリゲーター。株式会社キャスター執行役員。1996年にNTTに入社、外資企業やベンチャーを経て、2005年、マイクロソフトに入社し、業務執行役員などを経験。2017年、クロスリバーを設立。全メンバーが週休3日・複業で、オンライン講演や講座を提供する。ベストセラーとなった『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書19冊。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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