日々、やらなければならないタスクに追われるビジネスパーソン。そんな毎日を送っていては、なかなか「幸せ」にはなれそうもありません。
「習慣化のプロ」である古川武士(ふるかわ・たけし)さんは、幸せになるためには、「タスクなど『頭のなか』ばかりではなく、『心』と対話することが大事」と言います。では、どうすれば自身の心と対話できるのでしょうか。古川さんは、自らも実践するあるノート術をおすすめします。
構成/岩川悟・清家茂樹 古川さん写真/玉井美世子
「書く」という行為によって、自分の心と対話する
私は幸福感を高めるためのいくつかの習慣を提唱していますが、それらを「15分」という単位で行なうことをおすすめしています。15分といえば1日のうちのわずか約1%の時間です。しかし、たった1%の時間でも、自分のために「投資」できれば人生は大きく変わります。
そして、幸福感を高めるための習慣のひとつが、「放電&充電日記」というものです。多忙な現代に生きる私たちは、日常のなかで常に「頭のなか」と向き合っています。それこそ、たくさんの仕事に追われている社会人なら、「あれもしなければいけない」「これもしなければいけない」と、頭のなかのタスクとばかり向き合っているはずです。
一方で、「心」と対話する時間はとても少ない。でも、しっかり心と向き合うことなくストレスばかり感じていては、心を満たせるはずもなく、つまりは幸せなど感じられるはずもないのです。
そこでぜひやってほしいのが、「書く」という行為。書くことは、自分の心と対話する手助けをしてくれます。
ストレス対策のコツのひとつは、「客観視」にあります。書くという行為は、物事を客観視するために最適な方法です。書いて言語化することで、外側から客観的に物事を見ることができるようになります。
人間は、悩みや問題に直面していると、そのことにばかり集中してしまい、客観的に物事を見ることができなくなりがちです。そうならないために、自分が置かれている状況や自分の感情を書き出すことによって、心を整理するのです。
そうして客観的に自分の心に向き合い、自分の心と対話することは、次のような多くのメリットを生んでくれます。
【自分の心と対話することのメリット】
- 目の前のことに高い集中力を発揮できるようになる
- オンとオフをきちんと切り替え、いまを楽しめるようになる
- 無用な不安や焦り、自己嫌悪などのストレスが減る
- 周囲の人にイライラしたり八つ当たりしたりすることがなくなる
どうでしょう? いいことずくめですよね。いいことずくめということは、もちろん幸福感が高まるということです。
ストレスのパターンを知り、ストレスに対処する「放電日記」
では、いったいどのようにして自分が置かれている状況や自分の感情を書き出せばいいのでしょう。そこで、私がおすすめするメソッドが、「放電&充電日記」です。
「放電」とは、「自分のテンションが下がった出来事」。そして、「充電」とは「自分のテンションが上がった出来事」です。1日のうちに起こったそれらの出来事を書き出してみてください。
ポイントは、それこそ心と向き合い、「感情」に着目すること。日記というと、普通は起こった「出来事」だけを書きつづってしまいがちです。そうではなく、その出来事によって自分がどんな感情を抱いたのかというところを意識してみてください。
「今日は雨でランニングができなかった」という出来事だけで終わらせるのではなく、「あー残念」という感情も書き添えるイメージです。そうすることで、「放電&充電日記」はみなさんに多くのものをもたらしてくれます。
「放電日記」は、自分が感じる「ストレスのパターンを把握し、ストレスに対処する」のに最適です。
毎日のストレスは、つい「スルーしたほうが楽」だと思って、目をつぶってしまいがちです。でも、「楽」だと感じるのは、その瞬間だけのこと。日々のストレスをスルーするというのは、心のなかにゴミをため込んでいくようなものなのです。そして、ストレスをスルーすればするほど、たくさんのゴミに囲まれた心を立て直すことは難しくなるでしょう。
そうではなくて、「放電日記」によって、「自分はどんなことにストレスを感じやすいのか」ということを知ってください。そして、あえてストレスと向き合い、ストレスを自覚するのです。そうすることで、「どうすればストレスを感じなくなるのか」「このストレスにどう対処すればいいのか」と考え、最終的にストレスを軽減させることができます。
幸せのために重要な自己効力感を高める「充電日記」
一方の「充電日記」をつけることには、「自己効力感を高める」という効果を期待できます。
ここでみなさんにふたつのお願いをしてみましょう。ひとつめのお願いは、「過去の失敗体験をいくつか教えてください」というもの。そして、ふたつめは「過去の成功体験をいくつか教えてください」というものです。
どうでしょう? 失敗体験はすぐにいくつも思い浮かべられたのに、成功体験はなかなか思い出せなかったという人も多いのではないでしょうか。
これは、人間がもつある種の防衛本能によるものです。大むかしに大自然のなかで暮らしていた私たちの祖先にとって、日々の失敗や成功はそのまま生死に直結するものでした。だからこそ、失敗しても運よく生き残れた場合には、二度と同じことを繰り返さないために、脳が成功よりも失敗を強く記憶するようになったのです。
現代に生きる私たちにも、自動車の運転時など、内容によっては即座に死につながる失敗もあるでしょう。もちろん、それほどの大きな失敗ではなくとも、自身に大なり小なり危険やトラブルを招くことになりうるケースはたくさんあります。そのため、私たちの脳も、やはり成功よりも失敗を強く記憶するようになっているのです。
その脳の働きにより、じつは日常にもたくさんの成功やいいことが起きているにもかかわらず、私たちはその出来事をスルーしがちです。
そこで、「今日はこんないいことがあった!」「こんなことができた!」というふうに、日々のテンションが上がった出来事や成功体験を「充電日記」に書き出して、しっかり向き合うのです。そうするうち、「自分はできるんだ!」と自己効力感は確実に高まり、ひいては幸福感もどんどん高まっていくはずです。
ちょっと回りくどかったかもしれませんが、この「放電&充電日記」がもつ一番の効果は、「自分の幸福感を下げることはなにか、幸福感を上げることはなにか」がわかるということです。
それらは、「自分はどんな習慣を身につければいいか」を知る判断材料にもなります。先の記入例にあるように、「放電日記」に「今日は雨でランニングができなかった」、「充電日記」に「5時半に起きてランニングができた!」と書き込んだ人なら、それこそランニングを習慣にできれば、幸福感がどんどん高まっていきます。
最後に、書き方についてアドバイスをしましょう。「放電&充電日記」は、「放電日記→充電日記」の順に書くことをおすすめします。なぜなら、テンションが下がった出来事や失敗体験を出しきったあとに、テンションが上がった出来事や成功体験を書くことで、気持ちをよりポジティブな状態にすることができるからです。
また、書くタイミングは、朝がおすすめ。放電や充電にあたる出来事は夜寝るまで続くため、前日を振り返るかたちで朝に書くのがいいでしょう。
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子どもの頃は「宿題だから」と日記をつけていたのに、いつしかまったく日記をつけなくなってしまった……。おそらく、ほとんどの人に当てはまるのではないでしょうか。それは、日記をつけることになんらかのメリットを見いだせていないからかもしれません。
でも、日記をつけることで幸せになれるとしたらどうですか? もちろん、日記には日々を振り返り自身の思考を整理できる、あるいは文章力が向上するといったメリットもあります。多くのメリットをもち、かつ幸福感を高めてくれる「放電&充電日記」を始めてみましょう。
※今コラムは、古川武士 著『習慣化のプロが教える 幸福感を高める7つの小さな習慣』(プレジデント社)をアレンジしたものです。
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【プロフィール】
古川武士(ふるかわ・たけし)
習慣化コンサルティング株式会社代表取締役。1977年、大阪府に生まれる。関西大学卒業後、日立製作所などを経て2006年に独立。約5万人のビジネスパーソンの育成と1万人以上の個人コンサルティングの経験から「続ける習慣」が最も重要なテーマと考え、日本で唯一の習慣化をテーマにしたコンサルティング会社を設立。オリジナルの習慣化理論・技術を基に、個人向けコンサルティング、習慣化講座、企業への行動定着支援の事業を開始。2016年には中国で6000人規模の習慣化講演を行い、本格的に海外進出をはじめる。著書は現在21冊、累計95万部を超え、中国・韓国・台湾・ベトナム・タイなど海外でも広く翻訳され読まれている。