製品ライフサイクルとは? 初心者のためのマーケティング講座

製品ライフサイクルとは? 初心者のためのマーケティング講座

製品ライフサイクル理論とは、商品が市場に出回ってから撤退するまでのあいだに、導入期・成長期・成熟期・衰退期という4つの段階があるとするマーケティング理論。英語そのままにプロダクトライフサイクル(Product Life Cycle: PLC)とも呼ばれます。

製品ライフサイクル理論をうまく理解・活用すれば、製品・サービスの売上を高めることができますよ。本稿では、製品ライフサイクル理論の概要と、製品ライフサイクル事例、製品ライフサイクル理論を応用したマーケティング戦略(製品ライフサイクルマネジメント)を解説します。

製品ライフサイクルとは

製品ライフサイクル理論とは、製品は販売開始~終了のあいだに「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」という4つのプロセスを通過するという考え。人間は赤ん坊→子ども→大人→お年寄りとステップを踏んで変化・成長していきますが、市場に出回っている製品にも同じようなことがいえるのです。

発売したてほやほやの赤ん坊の時期もあれば、伸び盛りの子どものような時期もあり、大人になるとすっかり成熟し、しだいに衰えて市場を撤退していく……というのが、製品ライフサイクルの一連の流れ。まずは、製品ライフサイクルの4段階を概観してみましょう。

  1. 導入期(赤ん坊)
    製品が販売されたばかりの時期。新しい市場(パイ)が生まれたばかりで、まだ売り上げは少ない。
  2. 成長期(子ども)
    製品の売上がある程度伸びはじめる時期。市場はどんどん大きくなっていく。
  3. 成熟期(大人)
    製品の売上が安定する時期。市場の大きさは上限に達し、シェアの奪い合いが激化する。
  4. 衰退期(お年寄り)
    製品の需要が衰退しはじめ、販売終了へ向かっていく時期。市場は小さくなっていく。

以下は、製品ライフサイクルの概要を図で表したものです。

製品ライフサイクルの概要

グラフを見るとわかるように、販売数・売上は、製品ライフサイクルの各段階に応じて大きく異なります。そのため、利益を最大化するには、製品ライフサイクルにおける各フェーズに合わせた適切なマーケティング施策が必要なのです。

製品ライフサイクル1:導入期(赤ん坊)

製品ライフサイクルの4段階を、それぞれ詳しく見ていきましょう。1つ目の段階は「導入期」です。

導入期は、人間で言えば生まれたての赤ん坊のようなもの。製品が市場に投入されたばかりで、売上がまだほとんど見込めません。むしろ、技術開発や広告などにコストがかかるという理由で、多くの場合は赤字になります。

導入期の製品例

2019年現在、導入期にある製品の例としては、自動運転機能つきの自動車が挙げられます。自動運転車は、製品そのものは出来上がっているものの、まだまだ市場には浸透していない段階です。

それでも、2018年には自動運転タクシーの営業が期間限定で実験的に行われるなど、徐々に市場への投入は始まっています。自動運転車が本格的に浸透しはじめるのは、法整備が完了する2030年頃だとみられているようです。

導入期の製品戦略

導入期の製品は、誰にも認知されていない状態。まずは、消費者に「欲しい」と思われるようなわかりやすい価値を持たせることが大切です。

たとえば、スマートフォンが登場したときのことを考えてみましょう。スマートフォンは「アプリによって機能を追加できる」「PCのように画面が綺麗」など、従来の携帯電話に比べて明らかに高性能でした。仮に、新製品として売り出されたスマートフォンが「今までのガラケーと変わらないじゃん」と思われる程度の性能しか有していなかったとすれば、わざわざスマートフォンに買い替えたいと思う人はそれほどいなかったはずです。

導入期の販促戦略

導入期の製品は認知度が低く、ほとんどの人に知られていません。そのため、まずは広告宣伝を通じ、製品の価値を認知させることが最重要課題となります。

2019年現在、自動運転車はまさに広報活動の真っ最中です。最近では、自動運転車のCMをよく見かけるようになりましたよね。「自分で運転しなくていい」「事故のリスクが減る」「人が運転しているのと同じように走れる」といったイメージが広がれば、自動運転車に対する心理的な抵抗感が減り、購買につながるはずです。

導入期の製品の顧客となるのは、全体の2.5%ほど存在するといわれる「イノベーター」と呼ばれる人たち。イノベーターとは、要するに「新しもの好き」のこと。新製品の情報をいち早くキャッチし、リスクを恐れずに購入する冒険心にあふれた人たちがイノベーターです。

導入期の製品を買ってくれるのは、100人中たった2~3人というわけ。誰彼構わず宣伝するよりは、なるべくその製品を必要としていそうな人たちに的を絞って販促活動を行うほうが合理的なのです。同時に、市場そのものさえまだ確立していない段階なので、市場調査を通じて顧客のニーズを知ることも大切な仕事となります。

以上、製品ライフサイクルの初期段階である「導入期」について解説しました。

製品ライフサイクル1:導入期(赤ん坊)

製品ライフサイクル2:成長期(子ども)

製品ライフサイクルにおける2番目の段階は「成長期」です。成長期は、いわば育ち盛りの子どものような状態。市場が急速に拡大し、売上がどんどん伸びていく期間です。

成長期の製品例

現在成長期を迎えている製品の例は、VRゲーム。2012年頃に家庭用VRゴーグル(ヘッドマウントディスプレイ)の開発が本格化して以来、ソニーの家庭用ゲーム機「PlayStation VR」をはじめ、家庭用のVRゴーグルが徐々に普及しつつあります。

とはいえ、VRゲーム関連製品は、まだ「一家に一台」というほど普及しているわけではなく、これからまだまだ伸びしろがある、成長途上だといえるでしょう。今後、VRゲーム用ソフト・ハードがさらに充実すれば、市場はさらに拡大していくとみられます。

成長期の製品戦略

成長期には、どんどん拡大していく市場を狙って新規業者がぞくぞくと参入してきます。似たような価値・機能のライバル製品が増えるため、他社の商品に埋もれないよう、自社製品に付加価値や独自性をつける必要があるのです。

付加価値・独自性をつける方法としては、企業ブランドの確立や、機能・サービスの拡充、低価格モデルの開発などが代表的です。経営コンサルティング企業、ローランド・ベルガー日本法人会長の遠藤功氏によると、差別化戦略において重要なのは、「ほかでは味わえない」「他社が簡単には真似できない」という独自性なのだそう。

遠藤氏は、製品の差別化に成功した事例として「石釜bake bread茶房TAM TAM」(以下「TAM TAM」)を紹介しています。神保町にある「TAM TAM」は、行列が絶えない大人気の喫茶店。看板メニューのホットケーキは、主に2つの独自性を持っており、店の人気を支えているそう。

1つ目の独自性は、ホットケーキを石窯で焼いていること。石窯は、オーブンよりも厳密に温度を管理できるため、外はサクサク、中はしっとりとした唯一無二の食感を生み出すことができるのです。また「石窯で焼いたホットケーキ」というのは珍しいので、話題性が抜群ですよね。

2つ目の独自性は、ホットケーキの味。生地にバニラアイスとリコッタチーズが入っており、甘味だけでなくほのかに塩気も混ざっている、ユニークな味わいを生むのだそうです。

成長期の製品戦略を考えるときには、「他社に埋もれない独自性があるか?」「すぐ真似されてしまわないか?」ということも考慮しながら、ブランディングをしていきましょう。

成長期の販促戦略

成長期は、まるでブレイク中のアイドルグループのように、放っておいてもどんどんファン(顧客)が増え、市場が拡大していく時期です。いわゆる「出せば売れる」という状態のため、需要に応えるためには出荷量や販売網を拡大していく必要があります。より多くの製品を出荷できるよう生産ラインを拡大する、製品の取り扱い店を増やすなどの対策により、なるべく多くの製品を、多くの人へ届けられる体勢を整備していきましょう。

また、成長期には、すでに多くの人が製品の存在を知り、購入を検討しはじめています。携帯電話を例にすると、誰もが「スマホ」というものについて知っているけれど、メーカー・機種はよくわからない、という段階。したがって、テレビCMや電車の吊革広告などのマス広告を利用し、不特定多数の人に向けて自社製品をアピールするのが効果的といえます。

以上、製品ライフサイクルにおける「成長期」について解説しました。

製品ライフサイクル2:成長期(子ども)

製品ライフサイクル3:成熟期(大人)

製品ライフサイクルにおける3つ目の「成熟期」は、市場が限界まで成長しきって利益が安定しはじめた段階です。人間でいうと、大人にあたります。

成熟期の製品例

成熟期の製品の具体例として挙げられるのはパソコンです。今やパソコンは、必要な人に必要なぶんだけ普及しきってしまったため、さらに普及率が高まる余地はなさそうですよね。

「うちはまだワープロを使っていて、これからパソコンを導入するんだ」なんていう企業は、もうほとんどないでしょう。拡大しきったパイのなかで、少しでも多く他社のシェアを奪っていく、あるいは守っていくための戦略が、成熟期の肝になってきます。

成熟期の製品戦略

成熟期には、もう伸びしろがないところまで育ちきったパイを、各企業が奪い合います。生き残るには、どのような戦略をとればいいのでしょうか。「コトラーの競争地位戦略」というマーケティング理論を元に見ていきましょう。

コトラーの競争地位戦略では、ポジションや戦略を判断基準とし、企業を「リーダー」「チャレンジャー」「ニッチャー」「フォロワー」の4種類に分類します。

1. リーダー(例:マクドナルド)

リーダーは、業界トップのシェアを誇る企業です。ブランド力や経済規模でも他社より優位に立っています。

リーダーのポジションにある企業は、2位以下の企業に追い抜かれないよう、つけ入る隙を与えない戦略をとることが重要です。競合他社が値下げをすればリーダーも追随する、他社が新しいアプローチの商品を出したなら同種の商品を販売する、という具合に、顧客を奪われないための対策が軸になります。

2. チャレンジャー(例:モスバーガー)

チャレンジャーとは、リーダーの座を奪おうとしている、ナンバー2以下の企業です。リーダーより規模やブランド力などの点で劣っているため、真っ向勝負を挑むのではなく、リーダーが簡単に真似できないような独自性を打ち出すことでシェアを奪っていくのが、王道の戦略となります。

3. ニッチャー(例:バーガーキング、フレッシュネスバーガー)

ニッチャーは、その名の通りニッチな(狭い、マニアックな)顧客をターゲットとする企業です。音楽業界でたとえるなら、世間的にはほとんど知名度がないけれど、一部のファンにカルト的な人気をもつバンドのような存在です。

一部のニッチな需要に向けて特化しているため、市場は小さいですが、利益率は高く、リーダーやチャレンジャーから追随されにくいという長所があります。

4. フォロワー(例:ロッテリア)

フォロワーは、他プレイヤーとの対決を避けながら穏便に生き残ることを目指すプレイヤーです。主に、リーダーやチャレンジャーがターゲットにしない(うまみの少ない)顧客をターゲットにし、なるべく競合と戦わなくていいような戦略をとります。

成熟期の販促戦略

成熟期は、市場に製品が行き渡っているため、成長期に比べて需要が少なくなった段階です。企業側から積極的に製品を売り込み購買にこぎつけるという通常の営業スタイル(プッシュ型営業)では、利益効率が悪くなってしまいます。

したがって、成熟期には、釣り糸を垂らして顧客が来るのを待つ「プル型営業」にシフトするのが好ましいでしょう。具体的な方法としては、WebサイトやSNSなどを通して消費者に有益な情報を提供し、顧客に自社サイトを訪問してもらう、というものがあります。

また、成熟期には、既存顧客の維持も重要な課題です。クーポンの提供や割引などを積極的に行い、顧客が離れていかないような工夫をしましょう。

以上、製品ライフサイクルにおける成熟期について解説しました。

製品ライフサイクル3:成熟期(大人)

製品ライフサイクル4:衰退期(お年寄り)

「衰退期」は、製品ライフサイクルが終わりにさしかかり、市場規模が縮小していく段階です。人間でいうと、年をとって体力が衰えてくる時期にあたります。

衰退期の製品例

衰退期の製品例としては、DVDプレイヤーが挙げられます。「DVDはまだまだ現役では?」と思うかもしれませんが、最近では動画コンテンツのほとんどがインターネット上で購入できるようになりましたし、テレビ番組の録画データはハードディスクに保存するのが一般的になりましたよね。そのため、DVDという記録媒体は下火になっていくことが予想されるのです。

衰退期の製品戦略

衰退期には利益が減少していく一方なので、製品の改良やサービス拡充のために投資する必要はありません。衰退期の戦略の肝となるのは、どのタイミングで市場から撤退するべきか、適切な時期を見極めること。

なるべく速やかに手を引くことが望ましいのですが、市場撤退をするためには、少なくとも2つの問題をクリアしなければなりません。ひとつは「雇用問題」、もうひとつは「既存顧客問題」です。

「雇用問題」とは、市場撤退に伴って仕事を失ってしまう従業員をどうするか、という問題。もちろん、リストラなどの無慈悲な対応はなるべく避け、別の部署での仕事を与えるなどの対策ができれば理想的です。

一方の「既存顧客問題」とは、製品を使いつづけてくれている顧客へのサポートをどうするか、という問題。たとえば、突然パソコンのメーカーが撤退し、サポートを打ち切ることを宣言したら、放り出された顧客は困ってしまいますよね。そのような事態を防ぐため、撤退後もしばらくは既存顧客へのサポートを継続していく必要があります。

衰退期の販促戦略

衰退期に市場から撤退すると「あの企業は事業に失敗したんだな」というマイナスイメージを持たれてしまう恐れがあります。そのリスクを回避するには、撤退する製品の代わりとなる新製品をリリースすることで、「撤退ではなく、製品が移行したんだ」というイメージを印象づけることが大切です。

たとえば、任天堂から2006年に発売された家庭用ゲーム機「Wii」は、2013年に生産を終了しました。しかし、次世代機となる「Wii U」が発売されたことで、「Wiiはもう終わった」というマイナスイメージを持たせず、顧客を新製品へスムーズに誘導することに成功したのです。

以上、製品ライフサイクルにおける衰退期の戦略について解説しました。

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製品ライフサイクルは、市場に製品を投入する際に考慮すべき基本的なフレームワークです。製品ライフサイクル管理をせず闇雲に製品開発や販促を行っていると、コストの無駄が大きくなったり、思うような利益が得られなかったりと、市場での苦戦を強いられるリスクが高くなってしまいます。

まずは、自社製品が今どのフェーズにいるのか、今どんな対策をすべきなのか、しっかり把握することから始めましょう。

(参考)
NRI 野村総合研究所|プロダクト・ライフサイクル
森ビル株式会社|世界初 自動運転タクシーサービスの公道営業実証実験スタート
J-marketing.net|イノベーター理論
IGN Japan|昭和に始まり、現在に至るVR史
東洋経済オンライン|神保町「大行列喫茶店」に学ぶ3つの差別化戦略
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【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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