「文章が書けない」ということに悩む人もいれば、あまり気にしない人もいます。しかし、文章の適切な書き方がわからないと、自分の意見を持っていてもうまく言葉にして主張できず誤解されたり、せっかくの情報を発信できなかったり、教養を疑われたりする恐れがあるのです。
文章力に自信のない人・文章を書くのが苦手という人のため、文章がうまく書けない理由と克服方法をお教えします。
- 文章が書けない原因
- 文章が書けない人がやるべきこと1:9マス自問自答表
- 文章が書けない人がやるべきこと2:9マス類語変換ゲーム
- 文章が書けない人がやるべきこと3:100文字要約
- 文章が書けない人がやるべきこと4:読書
- 文章が書けない人にオススメの本
文章が書けない原因
まずは、文章が書けない原因を探ってみましょう。
1. 結論を準備できていない
文章を書きはじめるまでに時間がかかったり、書きはじめてもすぐに手が止まってしまったり、という人には、共通点があります。現役の東京大学経済学部4年生で、「東大生の頭の良さ」をテーマに多くの著書を持つ西岡壱誠氏は、以下のように指摘しています。
文章というのはしょせん、「結論」の言い換えでしかありません。どんな本もどんな記事も、1つ伝えたいことがあって、その「伝えたいこと」を言い換えて文章にしているだけなのです。
(引用元:東洋経済オンライン|東大生が教える「文章が苦手」が一瞬で治るコツ―得意な人には当たり前な「書く前」の準備)
つまり、結論=伝えたいことが明確になっていないから、文章を書けないのです。結論を念頭に置かずに文章を書き進めると、「この商品はまずデザインにこだわっており、素材が……」などと、内容が右往左往したり説明が順を追っていなかったりという事態になります。
一方、「この商品はデザインを一新したうえで、革新的な新機能を加えた全く新しい商品です」と、最初に結論を明確に決めておけば、スムーズに文章を書くことができます。そして、言いたいことが明確な文章は、読者にとっても理解しやすいのです。
2. 情報が整理できていない
結論がわからない、言いたいことを決められないというのであれば、情報が整理できていないのかもしれません。文章を書く前には、まず「情報の整理」が必要なのです。
情報を新たに収集したときだけでなく、以前から持っている知識・経験を文章化する際も、情報の整理は必要です。40万部を超えるベストセラー『プロ論。』など多くの著書があるライターの上阪徹氏は以下のように話しています。
素材が用意できたら、次はその素材を使ってどう文章を構成していくかを考えます。まずやるべきことは、面倒でも書き出した素材をもう一度しっかり見てみること。そして、それを整理してみることです。同じような素材なら、ひとまとめにしてみる。
(引用元:リクナビNEXT|上阪徹の超スピード文章術―どんどんアイディアを出す人は、いつ、どこで、何を「メモ」しているのか?)
頭の中だけで整理した気にならず、脳内の情報をきちんと「見える化」することが大事なのだそう。
電子書籍やインターネットから得た情報は、コピー&ペーストで整理しましょう。アナログ媒体から情報を仕入れたときも、パソコンやスマートフォンにメモしておけば、効率よく「可視化」できるそうですよ。
3. 語彙が不足している
文章を書くのが苦手という人には、語彙が少ない=語彙力が不足しているという傾向があります。語彙が少ないと、脳内のイメージをうまく言語化できず、「何か違うな……」と手が止まってしまうのです。
明治大学文学部教授で『大人の語彙力ノート』など多くのベストセラーを執筆した齋藤孝氏によると、言葉の「言い換え」を習慣化すれば、語彙力は簡単に養えるのだそう。語彙が増えれば、文章表現が豊かになり、単調で知性の感じられない文章を劇的に改善できるとのことです。
たとえば、「よくなる」という言葉は、「改善される」「改良される」「好転する」などと言い換えられますね。同じ言葉を繰り返さず、適度に言い換えれば、文章の読みやすさや見栄えが改善されます。
4. 「ウソ」をつけない
文章を書くこと自体には苦戦していなくても、「魅力的な文章が書けない」と悩む人がいる一方、多くの人を惹きつける文章を書く人もいます。
魅力的な文章を書ける人とは、どんな人なのでしょう? ソニーコンピューターサイエンス研究所上級研究員であり、脳科学者として様々なメディアで活躍する茂木健一郎氏は、以下のように説明しています。
特に話がうまいわけでもない。普段から文章を書いているわけでもない。そんな学生でも、いきなり「無茶ぶり」されると、「口から出まかせ」ができる。そして、面白いことに、「口から出まかせ」の表現でも、その人らしさは必ず出る。 脳は、「口から出まかせ」でいいと抑制を外したときに、奥底にある秘密を明かしてくれる。だからこそ、「口から出まかせ」は表現の有効な手段なのだ。
(引用元:プレジデントオンライン|「うまく書けない」病につける特効薬とは)
通常のライティングにおいては、「口からでまかせ」を書ける人こそが、文章をうまく書けるのだそうです。
たとえば、展示会のレポート記事中で、高揚感や満足感を表すために「私は外に出たら、思わずスキップしてしまった」と書いたとしましょう。もちろん、実際にスキップなどしていないわけですが、ただ「感動した」と書くよりも、感動がずっと伝わりやすい文章になるのです。
「文章が書けない」という人は、もっと大げさに表現することをためらうべきではなさそうです。
文章が書けない人がやるべきこと1:9マス自問自答表
文章が書けないという人がやるべきことを、具体的に紹介していきましょう。
まずは「9マス自問自答表」。9個のマスのなかに質問を書き込み、自らそれに答えていく、というものです。
9マス自問自答表は、伝える力【話す・書く】研究所所長で、2,800件以上もの取材やインタビュー歴がある山口拓朗氏が、著書『「9マス」で 悩まず書ける文章術』で紹介しているもの。9マス自問自答表を実践することで、文章を書くのに必要な情報を効率よく可視化できます。
「A社の新商品発表会」について記事を書くと想定し、9マス自問自答表を作ってみました。
質問をマスに記入していきます。質問はシンプルでかまいません。
次に、書き込んだ質問に答えていきましょう。質問はシンプルですし、自分で考えたわけですから、答えに困ることはほとんどないはずです。
誰でも思いつくような質問を9個並べるだけでも、しっかりと中身のある情報を得られるのが、9マス自問自答表のすごいところなのです。
次に、答えた情報を使って文章を書いていきましょう。「文章を考える」というより、「情報を文章に変換」していけばよいのです。
昨日は、大手電機メーカーA社が催す新作スマートフォンの発表会に行きました。ほかの商品の発表も予定されていたものの、今回の発表会のメインはスマートフォンであることが、事前の告知から伝わってきたのです。
会場入りしてみれば、企業関係者のグループや多くの報道陣でいっぱい。私は1人だったので、少し心細さを感じました。会場の雰囲気にあれほど圧倒されたのは初めてです。
15分ほどして、発表会がスタート。社長の挨拶のあと、新商品が次々と発表されていきました。発表が進むにつれて、周りから「そろそろかな」というような期待感が伝わってきたのを覚えています。
そしてついに、社長の「たいへんお待たせいたしました」という言葉を合図に、メインである新作スマートフォンの発表が開始。私を含め会場全体が食い入るようでした。新機能や発売日、価格など、実に多くの情報が解禁されましたが、なかでも私が驚いたのは、7種類ものカラーバリエーションです。
発表会が終わったとき、今までで一、二を争うほどの感動と興奮に、私は思わず「おお~」と声を漏らしていました。発売はもうすぐだという情報もあったことから、私だけでなく、会場にいたほかの人々や、このニュースを耳にしたユーザーも、同じくらいのワクワク感を覚えているに違いありません。
文字数が多くなりすぎてしまった場合、「必要な情報がきちんと書かれている文章」を目指し、不要な部分を削っていきましょう。この文章の場合、下線部分は自分の気持ちや感覚であり、情報としての重要度は低いので、優先的に削ることになります。
9マス自問自答表をやってみると、情報を十分に得られるので、途中で手が止まることはなく、「文章が書けない」という事態にはなりません。
文章が書けない人がやるべきこと2:9マス類語変換ゲーム
文章が書けないという人に対し、山口氏は「9マス類語変換ゲーム」も紹介しています。「9マス類語変換ゲーム」は、9個のマスを使って類語を表にするもの。文章を書くのに必要な語彙力を養うことができます。
中央のマスに、類語の知識を広げたい単語を書きます。今回は「大きい」と書いてみました。
そして、周りのマスに類語、つまり「大きい」を言い換えた単語を書き込んでいきます。「巨大な」「ラージサイズ」「山のような」など、いろいろ思いつくのではないでしょうか。
「9マス類語変換ゲーム」をやる際は、制限時間を設けるのがおすすめ。「頑張ればなんとかクリアできる時間」を設定して緊張感を持つほうが、脳のトレーニングになります。
次は、制限時間を10分に設定して「社会」の類語を考えてみます。
7分くらいで埋められました。
時間内にマスを埋められなかった場合、お題が難しすぎたのか、自分がその単語を苦手としているのか、考える必要があります。もし苦手としている場合、その単語の類語を調べてから再挑戦しましょう。
文章が書けない人は、スキマ時間などに9マス類語変換ゲームをやってみれば、ゲーム感覚でメキメキと語彙力を養えますよ。
文章が書けない人がやるべきこと3:100文字要約
文章が書けないという人には、「100文字要約」もおすすめ。
「100文字要約」では、新聞の社説や本を要約していきます。新聞や本の要約がトレーニングとして効果的だと話すのは、国語講師としてテレビなどで活躍する吉田裕子氏です。
要約の練習に適した教材が新聞です。特に「社説を100字程度で要約する」というのが、要点を見つけ、簡潔にまとめる練習になるでしょう。(中略)また、文章の要約とは別に、本1冊の感想をコンパクトに書く習慣を通じても、要約力を鍛えることができます。
(引用元:東洋経済オンライン|読み書きを鍛えるのに「要約」が最強なワケ―新聞や書籍で簡単に練習できる)
吉田氏によると、社説の要約と本の要約ではコツが異なります。社説の場合、「タイトルや小見出し」「導入部」「太字などで強調している部分」「締めくくり部分」に注目したうえで、次の2点を導き出すことが大事なのだそう。
- [話題]何について述べているのか
- [結論]結局どのようなことを言いたいのか
「何の話か」「何が言いたいのか」という疑問に答えるように要約をするのが、よいトレーニングになるのだそう。「リード文」と呼ばれる冒頭の要約文章がついている記事を使えば、まずリード文を隠して要約し、書いたものをリード文と照らし合わせることで、答え合わせができるとのことです。
一方、本を要約する際のポイントは以下のとおり。
- [話題]何についての本なのか
- [見どころ]この本の面白い点はどこか
- [感想]自分はどう感じたか
本の内容全てを網羅しようとするのではなく、「話題」「見どころ」「感想」の3点に絞って、新聞の書評欄のように100字でまとめましょう。書くべき情報が決まっていれば文章が書けないということもなく、スムーズに書き進められます。
文章が書けない人がやるべきこと4:読書
文章が書けない人がやるべきこととして、最後に紹介するのが「読書」です。
前述の「9マス自問自答表」「9マス類語変換ゲーム」を提唱している文章術のプロ・山口拓朗氏は、StudyHackerのインタビューで、語彙力を伸ばすための方法として「本を読むこと」を勧めています。本を読むことで、一般の人がインターネット上に載せている文章とは質が違う「磨かれた言葉」に触れられるのだそう。
1冊の本は、完成するまでには、編集者が何度も何度も読み込んだり、プロが入念に校正を行なったり、細かな部分にまで赤字を入れて修正を繰り返したりと、多大な労力がかけられています。徹底的に言葉を磨いたうえで、世に送り出されているわけです。
(引用元:STUDY HACKER|「言葉を知らない」では深い思考ができぬ。語彙力を伸ばす大切な習慣――“文章術のプロ” 山口拓朗さんインタビュー【第4回】)
さらに、山口氏は、「自分がいる業界の本」を推奨しています。IT業界にいるならIT関係の本、教育業界にいるなら教育関係の本を読むことで、業界内のコミュニケーションで通用する語彙力を身につけられるのだそうです。そして、業界内の語彙力を十分に養ったうえで業界外の本に手を出し、語彙の幅を広げていくというのが、理にかなった順序だとのこと。
仕事上の文章が書けないというだけでなく、職場でのコミュニケーションがとりにくいという人にも、おすすめの方法です。
文章が書けない人にオススメの本
最後に、文章が書けないと悩む人にオススメの本を、3冊紹介しましょう。
『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』
山口氏の著書『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』は、書く作業自体よりも情報の収集・整理に時間をかけるのが大事だと指摘。山口氏ならではの図を用いて、情報の扱い方が解説されています。
文章を書くにあたっての情報の重要性がわかる一冊です。
『超スピード文章術』
本記事で取り上げた上阪徹氏の『超スピード文章術』。コツをつかめば長い文章でも簡単に書けるようになると、具体的な根拠を提示して教えてくれます。上阪氏は、特に次のポイントを強調しています。
十分な素材があれば、余計なことはしなくていい。素材があれば、長い文章でも迷わず速く書けるということです。(中略)書く段階において私が心がけていることは、素材さえ集まれば、できるだけ速く、さっさと書いてしまう、ということです。
(引用元:上阪徹 (2017), 『超スピード文章術』, ダイヤモンド社.)
難しく考えないで取り組むべきだと、書くのが苦手な人の背中を強く押してくれる内容。誰にでもおすすめできますが、特に「長い文章が書けない」と悩む人は必読です。
『マジ文章書けないんだけど ~朝日新聞ベテラン校閲記者が教える一生モノの文章術~』
ことばデザインワークス「マジ文ラボ」主宰で、文章に関する著書の多い前田安正氏のベストセラー『マジ文章書けないんだけど ~朝日新聞ベテラン校閲記者が教える一生モノの文章術~』。
各業界の著名人から絶賛された本書は、35年以上に渡る物書きとしてのキャリアから生まれたアドバイスを、惜しげもなく披露しています。学生やビジネスパーソンなら誰しもが欲しがる文章力を、ストーリー仕立てでで解説する構成は、タイトルからも感じられる親しみやすさ。
メールや手紙、企画書や報告書にいたるまで、細かなテクニックが解説されており、句読点の使い方や、「は」や「が」などの接続助詞についても学ぶことができます。文章を書くための全てを一から吸収できる、文章を書けない人にとって最高の教科書です。
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文章を書ける・書けないは生まれつきの才能ではなく、学びと実践によって決まるもの。文章が書けないと悩んでいる人は、この記事で紹介したトレーニングを試してみてください。
STUDY HACKER|新聞の「100文字要約」が文章力と読解力のトレーニングに最高なワケ。
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ダ・ヴィンチニュース|語彙力は“言い換え”のバリエーションで変わる!「すごい」「頑張ります」「本当に」の洗練された“言い換え”とは?
プレジデントオンライン|「うまく書けない」病につける特効薬とは
STUDY HACKER|使える言葉がどんどん増える! 5分でできる「9マス類語変換ゲーム」で楽しく語彙力アップを。
齋藤孝 (2017), 『大人の語彙力ノート 誰からも「できる!」と思われる 』, SBクリエイティブ.
山口拓朗 (2016), 『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』, 日本実業出版社.
上阪徹 (2017), 『超スピード文章術』, ダイヤモンド社.
前田安正 (2017), 『マジ文章書けないんだけど ~朝日新聞ベテラン校閲記者が教える一生モノの文章術~』, 大和書房.
武山和正
Webライター。大学ではメディアについて幅広く学び、その後フリーのWebライターとして活動を開始。現在は個人でもブログを執筆・運営するなど日々多くの記事を執筆している。BUMP OF CHICKENとすみっコぐらしが大好き。