頭に浮かんでくるさまざまな雑念に惑わされ、仕事や勉強に意識を集中できない。そんな経験はあなたにもあると思います。「早くお昼にならないかなぁ」「週末は何をしようかなぁ」といった他愛もない雑念もあれば、心配事や悩みなどに思考を持っていかれることもあるでしょう。
「今、この瞬間」に集中できていると、作業効率は高くなりますし、「ランナーズハイ」のようにとてもいい気分で作業に取り組むことができます。一日があっという間に感じるほど夢中で作業をしているときは、とても充実感を感じますよね。
そんな、雑念のない集中状態を自分で作る方法を、本稿で詳しく学んでいきましょう。マインドフルネス(瞑想)のやり方、ゾーンへの入り方など、雑念を捨てる方法をご紹介します。
雑念とは
まず、「雑念」とは何かを明らかにしましょう。小学館の「デジタル大辞泉」によると、雑念とは「気持ちの集中を妨げるいろいろな思い」。いかにもネガティブな印象を受けますね。雑念を持っていると、仕事や勉強に取り組むのが難しくなってしまいそうです。
雑念と似た言葉に「邪念」がありますが、どう違うのでしょうか? 同じく「デジタル大辞泉」によると、邪念とは「悪意やたくらみを秘めた、よこしまな考え。邪心」あるいは「心の迷いから来る妄想。雑念」とのこと。邪念という言葉は「よこしまな考え」という意味で使われることが多いですが、雑念と同じ意味を持っているのですね。
雑念を消すべき理由
上述のとおり、雑念とは、集中を乱してしまうもの。忙しい現代にあって、限られた時間で仕事や勉強をこなすには、雑念はできるだけ消すべきだといえるでしょう。
私たち人間は、簡単なことで雑念に頭を支配され、集中力を失ってしまう生き物です。テキサス大学オースティン校が2017年に行なった実験では、被験者の学生を以下の3通りに分け、集中力を要する認知能力テストを解かせました。
- 自分のスマートフォンを隣の部屋に置いておく。
- 自分のスマートフォンを、バッグか服のポケットに入れておく。
- 自分のスマートフォンを机の上に置いておく。
スマートフォンを卓上に置いていたグループの得点は、隣の部屋に置いていたグループを、大きく下回ったそうです。もちろん、テスト中、全てのスマートフォンはサイレントモードでした。通知や着信がなくても、私たちは、スマートフォンが目の前や近くにあると考えただけで、雑念にとらわれ、集中力を失ってしまうのです。
脳科学者の中野信子氏によると、私たちが雑念に惑わされやすいのは、生命維持の観点から見れば自然なことなのだそう。危険の発生に備え、常に周囲に意識を向けているのが生命としての「普通」なので、100%の純度で何かに没頭するのは困難なことなのです。
私たちは、ただでさえ雑念にとらわれやすい生き物だということがわかりました。だからこそ、雑念を払う方法を意識して実践する必要があるのです。
雑念を払う方法1:紙に書き出す
雑念を消すのにオススメの方法を3つご紹介します。1つ目の方法は、考えを紙に書き出すこと。習慣コンサルタント・古川武士氏は、2つのリストを推奨しています。
「やることリスト」を書く
まず書き出すべきリストは、「やることリスト」(ToDoリスト)。今抱えている「やるべきこと」を書き出すと、それらを記憶するために使われていた脳のエネルギーが解放されるので、目の前の作業に集中しやすくなるのだそうです。
たとえば、「今日はトイレットペーパーを買って帰らなきゃ」と思っているだけでも、思考の何割かがトイレットペーパーのことに割かれてしまいます。「トイレットペーパー」という雑念が、仕事や勉強への集中を邪魔してくるのです。
そんなときは、「トイレットペーパーを買う」と紙に書き出しましょう。そうすれば、トイレットペーパーの件を覚えている必要がなくなり、頭からトイレットペーパーが追い出されます。雑念が消え、目の前の作業に集中力を向けることができるのです。
「心配事・不安リスト」を書く
古川氏によると、心配事や不安は精神疲労のもとになるのだそう。どんなにささいな心配事でも、紙に書き出してみるのがオススメです。書き出すことで、不安が明確に言語化されるだけでなく、「やることリスト」と同様に頭から追い出されるので、雑念が消え、仕事や勉強に集中できるようになります。
雑念を払う方法2:「フロー」状態になる
雑念を捨てる方法としては、「フロー」という状態になることも有効です。
フローとは、時間を忘れて夢中で作業にのめり込むような「超集中状態」のこと。1970年代に心理学者ミハイ・チクセントミハイ氏が提唱した概念で、スポーツ界では「ゾーン」という呼び方をされることもあります。
『Google流 疲れない働き方』(SBクリエイティブ、2018年)などの著者でコンサルタントのピョートル・フェリークス・グジバチ氏によれば、フロー状態になると「疲れずに」「短時間で」「高いアウトプットを」出せるようになるので、近年ではスポーツ界だけでなく、ビジネス界でも注目を集めているのだそうです。
どうすればフロー状態になれるのでしょうか? 予防医学研究者の石川善樹氏、健康コンサルティングを手がける株式会社 Campus for Hでリサーチャーを務める西本真寛氏は、フローに入る方法として、以下の4つのステップを紹介しています。
ステップ1:強く感情を揺さぶる
1つ目のステップは、感情を強く揺さぶること。これからやることに対するワクワク感、目標達成に対する熱意、あるいは締め切りのプレッシャーや「こんな仕事やりたくない!」という怒りなど、感情が動けば何でもいいのだそう。感情の内容がどうあれ、脳は「とにかく感情が大きく動いた」と認識するので、集中力のスイッチが入るキッカケになるのです。
ステップ2:リラックスする
感情をたかぶらせたら、次はうって変わって、一気にリラックスします。「ゆっくりと呼吸する」「かわいい動物の癒やし動画を観る」「お茶を飲む」など、自分に合った方法で結構です。
両氏によると、フローに入るには、リラックスしつつ適度なストレスがかかっている状態が理想なのだそう。ステップ1~2によって、リラックスとストレス(興奮)が共存した状態を意識的に作るのです。
ステップ3:「ちょっと上」の目標を立てる
ステップ1~2でマインドセットをしたら、ステップ3では、これから取りかかる作業の目標を立てます。注意したいのは、「○○時までに○○を終わらせる」というような目標だと、単にタスクをこなしているだけの感覚になり、モチベーションにはつながりにくいということ。
自分ができる「ちょっと上」のレベルを目標を設定するのがポイントです。具体的には、以下のような例が挙げられます。
- 定型文をやめ、メールの文面にひと工夫加える。
- いつもは2時間かかる作業を、1時間半で終わらせる。
ステップ4:作業に入る前のルーティンを行なう
ステップ4は、仕事・勉強前のルーティンを行なうこと。石川氏・西本氏によれば、いつも儀式のように同じ動作をし、自分の心構えや環境を整えることが、集中力アップに重要なのだそう。デスクの周りを掃除する、パソコンを開く前に深呼吸をするなど、ちょっとしたことでいいので、仕事モード・勉強モードに入るスイッチを決めておきましょう。
上記の4ステップを実践すれば、雑念が消え、仕事に集中しやすくなりますよ。
雑念を払う方法3:マインドフルネス(瞑想)を行なう
早稲田大学人間科学学術院の熊野宏昭教授によると、私たちは、過去の後悔や未来への不安といった雑念に気を取られ、「今この瞬間」に集中できないことが多いのだそう。過去や未来にとらわれすぎると、“心ここにあらず” の状態になり、精神的ストレスを抱えることにもつながります。
雑念を捨て、「今、ここ」に集中する方法として有効なのが「マインドフルネス(瞑想)」です。マインドフルネスは、Apple社の創業者スティーブ・ジョブズ氏が日課にしていたことから注目を浴び、最近では脳科学的な観点からも研究されています。
熊野教授が紹介するマインドフルネスの手順は以下の通りです。
- 背筋を伸ばして椅子に座る。
- 目を薄く開け、斜め下を見る。
- いちばん楽に感じるペースで呼吸する。特にコントロールする必要はない。
- 息を吸ったとき、お腹や胸が膨らむ感覚に意識を向けながら、心のなかで「膨らみ、膨らみ」と唱える。
- 息を吐いたときに縮むお腹や胸を感じながら、「縮み、縮み」と心のなかで唱える。
- もし雑念が浮かんできたら、「雑念、雑念。戻ります」と心のなかで唱え、再び呼吸に意識を戻す。
マインドフルネスの目安は1日10分程度ですが、慣れてきたら時間を伸ばして取り組んでもいいのだそう。なかなか呼吸に集中できないときでも、焦らずゆったりとした気持ちで取り組みましょう。雑念を振り払いたいとき、ぜひマインドフルネスを実践してみてください。
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雑念を消すのに有効な方法を3つご紹介しました。仕事や勉強に集中できないときは、上記の方法を試してみてください。
古川武士(2017),『成果を増やす 働く時間は減らす 高密度仕事術』, かんき出版.
東洋経済オンライン|「机にスマホ置く人」ほど集中力が続かない理由
Medical Xpress|The mere presence of your smartphone reduces brain power, study shows
ZUU online|「解決能力は4倍、学習スピードは2倍」フロー状態に入るために必要なこと
日興フロッギー|3分でわかる「集中力」の鍛え方 第3回 超集中状態「フロー」に入る方法
日興フロッギー|3分でわかる「集中力」の鍛え方 第4回 うかつにデスクに座ってはいけない。仕事前にやるべきこととは
NHKオンライン|「マインドフルネス」とは?めい想の方法・効果と「呼吸のめい想」のやり方
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。