勉強が続く人は「勉強する理由」を複数もっている。「6つの動機」あなたはいくつ当てはまる?

ノートを広げて勉強しているビジネスパーソン

みなさんはなぜ勉強をするのでしょうか? ビジネスシーンに限った話ではありませんが、「インターネットを介して膨大な情報を容易に得られるいまは、知識を得るような勉強は必要ない」といった声も聞かれます。

しかし、認知心理学をベースに効果的な学習法を研究している学習院大学文学部教授の篠ヶ谷圭太先生によれば、いまという時代だからこそ「知識が重要」なのだそうです。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
篠ヶ谷圭太(しのがや・けいた)
1982年2月4日生まれ、東京都出身。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。慶應義塾大学先導研究センターパネル調査共同研究拠点研究員、日本大学経済学部教授を経て、2024年4月より学習院大学文学部心理学科教授。専門は教授・学習心理学。認知心理学に基づいて、教育現場と協働しながら効果的な学習法や指導法を研究している。著書に『予習の科学 「深い理解」につながる家庭学習』(図書文化社)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

AI社会だからこそ「知識」が重要

「今後のAI社会においては、AIがもっていない『考える力(思考力)』を磨くべきだ」といったことがよく言われます。しかし、だからといって「知識」が必要ないわけではありません。

たしかに、インターネットで検索すればさまざまな情報(知識)が見つかります。だからこそ情報(知識)を蓄えるのではなく、それらを使って考える力を磨くことの重要性が増しているというわけです。このロジックは筋が通っているように思えます。

でも、そのように検索した情報については、頭のなかにある知識に照らし合わせながら理解したり解釈したりしなければなりません。極端な話をすれば、日本語の知識がない人が日本語で書かれた情報を理解することなどできませんよね。

脳の情報処理のメカニズムから言えば、「これからは思考力を磨くのが大事だから、知識は必要ない」などとはとうてい言えないのです。むしろ、「思考力を磨いていくためにも、多様な知識を蓄えておかなければならない」と言えるでしょう。

思考力は単体で取り出すことはできません。我々が思考するときには必ず知識を使っているのですから、知識を無視して思考力だけを育てたり鍛えたりはできないのです。つまり、さまざまな知識を得る勉強は、これからの時代にも変わらずビジネスパーソンにとって重要なものだと言えます。

AI社会だからこそ「知識」が重要だと語る篠ヶ谷圭太先生

6つに分類される「勉強する理由」

ただ、その重要性はわかっていても、「忙しくてなかなか勉強できない」「勉強が続かない」と悩むビジネスパーソンも多いでしょう。そのような人に知ってほしいのが、「学習動機」です。学習動機とは、教育心理学において「勉強する理由」を意味する用語で、以下の6つに分けられます。

【学習動機の分類】

学習動機の分類の図

篠ヶ谷圭太(2024)『使える! 予習と復習の勉強法』筑摩書房

「充実志向」は、勉強そのものがおもしろいから勉強するというものです。2つめの「訓練志向」は、勉強の結果として自分の能力を高めることによろこびを見いだしているタイプです。次の「実用志向」はビジネスパーソンの人に多いかもしれません。仕事や生活に活かすための勉強です。

「関係志向」は、「友人と一緒に勉強を始めたから」など、他者につられて勉強をするというもの。子どもたちのなかには、「先生が好きだから頑張りたい」という関係志向をもつ子がよく見られます。「自尊志向」は、「ライバルに勝ちたい」「いい成績をとって自慢したい」など自分のプライドのために頑張るというものです。

最後の「報酬志向」は、「ほめられたい」「いい成績をとってお小遣いをアップしてもらいたい」など、心理学において「外発的動機づけ」と呼ばれるものです。また、「叱られたくないから」といった罰を避けるための動機も報酬志向に含まれます。

6つに分類される「勉強する理由」について話す篠ヶ谷圭太先生

複数の動機があれば、根気強く勉強を続けられる

では、みなさんはなぜ勉強するのでしょう? 先の話の流れから、「思考力を高めたいから」という答えをイメージした人もいるかもしれません。これは、訓練志向と言えると思います。

ここで知っておいてほしいのは、勉強する動機がひとつだけだと危険だということ。なぜなら、その動機がなくなれば勉強をやめてしまう可能性が高まるからです。

「知人に誘われたから」と関係志向だけでなんとなく勉強を始めた人がいるとします。すると、その知人が勉強をやめてしまったら、やはり同じように勉強をやめてしまいかねません。

でも、その勉強をするうちに、「これは本当に仕事に役立ちそうだ」「将来的には収入アップにもつながるかもしれない」「そもそもこの勉強自体がおもしろくなってきた」など、ほかの学習動機を見つけることができていたら、知人が勉強をやめても、きっと高いモチベーションをもって根気強く楽しく勉強を続けられるはずです。

この学習動機については、じつは私自身がその重要性を痛感しているものでもあります。大学院生のときには自分の研究に没頭できたのですが、大学教員となると、授業やその準備はもちろん、いろいろな校務や学会の仕事をしなければなりません。さらに、家庭をもてば家事や子育て等やらなければならないことは増えるわけで、研究者でありながらもなかなか自分の研究が進められないのです。

そこで私は、研究会への参加や共同研究といった研究交流は継続して行なうようにしています。「次の研究会までにあの論文を読んでおこう」「ほかの仲間も頑張っているから負けないようにしよう」というふうに、関係志向や自尊志向にも支えられながら、研究を進めているわけです。

いずれにせよ、学習動機のレパートリーを増やしておくことをおすすめします。冒頭でお伝えしたとおり、多様な知識を得る勉強は、ビジネスパーソンにとって今後も重要であり続けます。勉強を続けられるかどうかが、みなさんの人材価値を左右するのです。

勉強が続く人がもつ「6つの動機」についてお話しくださった篠ヶ谷圭太先生

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