オンライン上のコミュニケーションならではの難しさを感じているリモートワーカーは少なくありません。そもそも、オンライン上のコミュニケーションはなぜ難しいのでしょうか。主に社内コミュニケーションやストレスマネジメントを専門とする公認心理師の大野萌子さんが、その理由とあわせ、オンラインでも「感じがいい」と思われる人が共通して実践していることを明かしてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
大野萌子(おおの・もえこ)
神奈川県出身。公認心理師、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士、一般社団法人「日本メンタルアップ支援機構」代表理事。企業内カウンセラーとしての長年の経験を活かし、社内コミュニケーション、ストレスマネジメント、ハラスメント対策を専門とする。内閣府をはじめ、大手企業、大学などで6万人以上に講演、研修を行なってきた実績をもとに、テレビ、ラジオ、新聞などのメディアでも活躍。『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)は51万部のベストセラーとなった。ほかに『できる上司のZ世代をモンスターにしない言葉』(ビジネス社)、『ネガティブな自分のゆるし方』(クロスメディア・パブリッシング)、『介護のステキ言い換え術』(中央法規出版)、『10歳からの言いかえ図鑑』(幻冬舎)、『気持ちのきりかえ事典』(扶桑社)など著書多数。
オンラインでは、受け取る情報量が極端に減る
コロナ禍をひとつのきっかけとしてリモートワークが一気に広がりました。リモートワークには、自宅やカフェなど好きな場所で働けたり、通勤時間が削減できたりするなどメリットも多い反面、オンライン上のコミュニケーションでは、相手に「伝えることが難しくなる」といったデメリットも存在します。
そうなる要因はいくつかあるのですが、最大の要因となると、受け取る情報量が減ってしまうことではないでしょうか。私たちは、普段のコミュニケーションのなかで、ちょっとした相手の表情やしぐさ、雰囲気といったものから相手の気持ちを読み取っています。ところが、オンライン会議ツールなど画面越しでのコミュニケーションとなると、受け取る情報量が極端に減ってしまい、意思の疎通が難しくなるのです。
複数の人が参加するオンライン会議などで、ほかの参加者がまるで静止画のように見えた経験はありませんか? 表情が読み取れずに、相手が「なにを考えているかわからない」と思ったことがある人もいるでしょう。
人間は、単純に怒っている相手よりも、なにを考えているかわからない相手のほうが怖く感じるものです。怒っている相手であれば、「この人は怒っている」と理解できるため、「怒っている人」に対する接し方をしようとします。でも、なにを考えているかわからない相手に対しては、どのように接していいかわからないのです。もちろん、そのような相手に好印象を抱く人はいません。
「オーバーかな」と思うほどリアクションは大きく
逆に言えば、オンラインでのコミュニケーションにおいて「感じがいい人」と思われるには、相手に「なにを考えているかわからない」と思わせないことが大きなポイントとなります。
具体的には、表情も含めていつもより大きくリアクションするように心がけましょう。先にお伝えしたとおり、対面でのコミュニケーションであれば、自分のちょっとした表情の変化やしぐさも相手は把握してくれますが、非対面ではそうはいかないからです。相手の言葉にうなずくにも、「ちょっとオーバーかな」と思うほど大きくうなずいてちょうどいいくらいです。
また、オンライン会議の進行役を務める場合なら、事前に「時間配分を明確に示す」ことも大切です。対面であれば、誰かの発言中であっても、なにか伝えたいことがあるときに「ちょっといいですか?」と発言できますが、オンラインだとそうするのが難しいからです。これも、対面の場合と違って相手の目線や反応がわかりにくく、適切な発言タイミングを見極められないことによって起こる現象です。
すると、ほかの参加者たちが言葉を挟みにくいため、オンライン会議の場合には、ひとりで長々と話し続けるような人が出てきます。ですから、オンライン会議をスムーズに進行しようと思えば、「この議題は○分まで」「発言はひとり○分まで」といったかたちで時間配分を事前に示すことが有効となるのです。
発言がしにくいという意味では、発言をするためのルールを決めておくのもいいでしょう。カメラをオンにして挙手するルールにしてもいいですし、多くのオンライン会議ツールには「挙手」機能がありますから、それらを活用してもいいと思います。活発で意味のある会議にするためにも、参加者が発言したいときに抵抗なくそうできるような工夫をしてください。
メールを見たらとにかく即座に「受領連絡」をする
また、リモートワークの普及によって、メールの利用も以前に比べ増加しました。メールも、オンラインでのコミュニケーションのひとつであり、メール利用にも注意しなければならないことがあります。そのひとつが、「先延ばし」を避けるということです。
たとえば、ミーティングなどなんらかの日程調整をメールで頼まれたようなときに、つい返信を先延ばししてしまうことはありませんか? 日程が決まるまでに時間がかかる場合もありますから、「決まってから返信しよう」と思う気持ちも理解できます。
でも、なかなか返信がこない相手からすれば、「きちんと依頼が伝わっているかな?」と不安になってしまいます。これは、対面で依頼したのであれば絶対に味わうことのない気持ちです。
ですから、とにかくメールを見たら即座に「メールを受け取った」「依頼について承知した」という受領連絡の返信をしましょう。そのうえで依頼されたタスクを処理するのに時間がかかるのであれば、「いつまでにやればよろしいですか」「今週中でいいでしょうか」というように確認をすればすむ話です。
また、リモートワークによっていつでも働けるようになったため、夜間や休日のメールも増えています。そういったメールを送る場合、「休日(深夜)に申し訳ありません」と謝意を示したうえで、「週明け(○日の△時まで)にご対応いただければ結構です」「問題なければ返信は不要です」といったひとことを添えるのが好ましいでしょう。そうするだけで、相手は安心してプライベートの時間を過ごせます。
冒頭に触れたようなリモートワークのメリットを存分に享受するためにも、ちょっとした工夫や心遣いにより、逆にデメリットをなくすことを意識してほしいと思います。
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