よりによってものすごく忙しいとき、自分の担当ではない仕事の助けを同僚に求められたら、あなたはどうしますか?
理由を述べて断るでしょうか。それとも、「断って嫌われたらイヤだ」「手伝えば私を好いてくれる」などと考え、自分を犠牲にして他者を優先するでしょうか。
もしも、常に後者で、心にモヤモヤ感を募らせているならば、「Yes!」と答える前の「自分への問いかけ」をおすすめします。専門家の見解をもとに説明しましょう。
「みんなを喜ばせようとする人」とは?
結婚・家族療法士(LMFT)のダーリーン・ランサー(Darlene Lancer)氏いわく、「誰もが愛され、受け入れられることを望む人生から始まる」とのこと。生まれたときから私たちのDNAに組み込まれている欲求なのだそうです。
しかし、そうした欲求は、一部の人々において少々歪曲しています。彼らは、人に愛され受け入れられるためには、自分を犠牲にすることが最良だと考えているそう。常に他者を優先させ、自分の要求や感情は脇に置いてしまうとのことです。
そんな彼らを、「People-Pleaser※(みんなを喜ばせようとする人)」と言うのだとか。じつは、彼らが繰り返す自己犠牲はとても危険なのです。
※八方美人という意味でも使われる。
「People-Pleaser」であることの危険性
ランサー氏によれば、「People-Pleaser」は自分のニーズを主張することに罪悪感を覚え、自分の利益のために行動することは利己的だと考えてしまうそうです。また、「人々が私を愛しているなら、私は愛らしい」「人々が私を親切だと言うなら、私は親切だ」と、何でも他者の評価や価値観を自分の基準にしています。そのため、「People-Pleaser」でいればいるほど、どんどん本当の自分から、自分自身が離れていってしまうとのこと。
たとえば「People-Pleaser」は、こんな理不尽な他人の要求まで叶えてしまいます。
- 同僚「いま忙しいよね?」
- あなた「うん、少しだけね(本当はものすごく忙しい)。どうしたの?」
- 同僚「社内会議の録音の文字起こしを頼まれているんだけど、ものすごく時間がかかっちゃって……。あなたのチームが会議で報告した内容の要約を、パパっと教えてもらえると助かるんだけど」
- あなた「うん、いいよ、会議で報告したのは……」
- 同僚「ありがとう! あ、ごめん、できたら要約を、テキストにして送ってもらっていい?」
- あなた「あー……うん、そのほうが早いよね。いいよ、わかった!」
- 同僚「うわあ、本当に助かる。なんかいつも、いろいろとごめんね」
もちろん、上の「あなた=People-Pleaser」は、忙しくて人の仕事を手伝っている場合ではありません。でも、嫌われたくないから、好かれたいから、自分の要求は隠し、他者を優先してしまいます。
しかし、ランサー氏によれば、こうした行為を繰り返していると、わずかな自尊心をあきらめ続けることとなり、ついには人生や人間関係における喜びと、情熱までも失ってしまうのだとか。本当は「自分の優先順位を低くしていること」に憤慨し、不満を感じ、落ち込んでいるからです。
もしも、あなたが少しでも自身にそういった傾向があると感じたならば、ぜひ次のPeople-Pleaserである自分から解放される方法をお試しください。
「人々を喜ばせる習慣」から解放されるには
ペパーダイン大学の非常勤教授で、結婚・家族療法士(LMFT)のテイホウ・スミス(Teyhou Smyth)氏は、常に自分を犠牲にしてみんなを喜ばせようとする習慣から解放されるための策として、『The Liberated Self: A People Pleaser's Guide to Better Relationships(解放された自己:人々を喜ばせる者のための、より良い関係へのガイド)』という本の内容を抜粋し、『Psychology Today』内で紹介しています。
他者からの要望に「Yes」と答える前に、次の質問8つを自身に投げかけてみるといいそう。
- 私はこのタスク(頼まれたこと)に深い関心があるの?
- 私が今ここで「Yes」と言うことで、愛する人・何かを称えられるの?
- 私は、誰かを怒らせたり動揺させたりするのが怖くて「Yes」と言うの?
- 自分以外に、このタスクを行なえる人はいないの?
- 私は(本当に)このタスクを行なう時間があるの?
- 私は(本当に)このタスクに興味があるの?
- 私にこのタスクを行なうエネルギーはあるの?
- このタスクを引き受けたら、自分自身や相手を恨まない?
もしも、自分を犠牲にしてばかりで心にモヤモヤが募っているならば、これらの質問は、いったん立ち止まる“いいきっかけ”になるはずです。
「自分の要求も感情も大切」だと思い出すために
また、スミス氏によれば、「自分の感情や要求を大切にすべきだ」ということを思い出させてくれる肯定の言葉もあるそうです。その内容は次のとおり。
- 「私の要求」は「ほかの人の要求」と同じくらい重要です。
- 私は、自分にとって何が最善かを気にかけています。
- 私が自分の要求をオープンにすることで、ほかの人も利益を得ます。
- 私は助けを求めることができるし、自分の要求を満たすに値します 。
- 私の自己主張は利己的ではなく、人間性を表現しています。
もちろん、自分を犠牲にして誰かに尽くすのはすばらしい行為です。しかし、「誰かの役に立てた」という喜びがなく、不満を募らせていくだけならば、「自分への無理強い」にほかなりません。
「自分が、自分の要求や感情を大切にしないのであれば、いったい誰が、あなたの要求や感情を大切にするでのしょう? 」とスミス氏は問いかけます。前出の質問や肯定の言葉とともに、この問いかけも心の片隅に置いてはいかがでしょう。
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自分ばかりを犠牲にし続けないための、「8つの質問」と「5つの肯定」を紹介しました。自分が「People-Pleaser」だと自覚した方、なんとなく思い当たる方は、ぜひお試しくださいね。
(参考)
Psychology Today|What Is People-Pleasing?
Psych Central|Are You a People-Pleaser?
【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部
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