仕事が速い人がもつ特徴はさまざまですが、大手外資系コンサルティング企業であるマッキンゼー・アンド・カンパニーを経てエグゼクティブコーチとして活躍する大嶋祥誉さんは、「コミュニケーションスキルの高さ」をそのひとつに挙げます。
仕事においてコミュニケーションスキルが重要であることは多くの人が認識しているところですが、そのことと仕事のスピードにはどんな関係があるのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
大嶋祥誉(おおしま・さちよ)
エグゼクティブコーチ、人材開発コンサルタント、TM瞑想教師、センジュヒューマンデザインワークス代表取締役。米国デューク大学MBA取得。シカゴ大学大学院修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ワトソンワイアットなどの外資系コンサルティング会社を経て独立。現在、経営者やビジネスリーダーを対象にエグゼクティブコーチング、ビジネススキル研修のほか、人材開発コンサルティングを行なう。また、TM瞑想や生産性を上げる効果的な休息法なども指導。自分らしい働き方を探究するオンラインコミュニティ『ギフト』主催。『AIを超えたひらめきを生む 問題解決1枚思考』(三笠書房)、『マッキンゼーで学んだ最高に効率のいい働き方』(青春出版社)、『マッキンゼーで叩き込まれた「問い」のちから』(三笠書房)、『マッキンゼーで学んだ「段取り」の技法』(三笠書房)、『マッキンゼーで学んだ速い仕事術』(学研プラス)、『マッキンゼーで叩き込まれた超速フレームワーク』(三笠書房)、『マッキンゼーで学んだ感情コントロールの技術』(青春出版社)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
「すぐに聞く」ことで周囲との信頼関係を築く
これまでに私が出会ってきた仕事が速い人のコミュニケーションに見られる特徴として、「すぐに聞く」ということがあります。
◆仕事が速い人のコミュニケーション術1
雑談レベルのことであっても、すぐに聞く
速くいい仕事をするには、社内外問わず多くの人からたくさんの情報を得ておく必要があります。だからこそ、仕事が速い人はすぐに聞き、情報通になっているわけです。
もちろん、「言った・言ってない」というトラブルを避けるためには、メールやチャットを使ってテキストとして残しておかなければならない場面もあります。しかし、そういった場面でなければ、「ちょっといいですか?」といった感じでいろいろな人に話を聞く人が、仕事を速く進められる傾向にあります。
そういう人は、部署を超えて多くの人に話を聞きます。「今度、こんな企画提案を任されているのですが、いいアイデアないですか?」など、直接的に仕事につながる内容ばかりではありません。雑談レベルのことでもどんどん話を聞いていれば、周囲と信頼関係を築けます。心理学の観点から言えば、人間の信頼関係は接触頻度の高さに左右されるものだからです。
結局のところ、人間はロジックではなく感情で動く生き物です。20代や30代など若手であれば、それこそ自分から周囲にどんどん話を聞いて、「かわいがってもらう」ことを目指しましょう。
そうすれば、「この人にお願いされたらしょうがないか」といった具合に助けてもらえることも増えます。自分ひとりだけの力で仕事をするのではなく、まわりから多くのサポートを受けられるのですから、それだけ仕事を速く進められるようになるというわけです。
周囲に「ギブ」をする人が、まわりから助けてもらえる
また、「聞く」という点で言えば、「尋ねる」という意味での「聞く」ではなく、誰かの話をただ「聞く」ことも有効な手段です。
◆仕事が速い人のコミュニケーション術2
話を「聞く」ことで相手に「ギブ」をする
なぜなら、多くの人は「自分の言いたいことを言いたい」「話を聞いてもらいたい」と考えているからです。家族やパートナー、友人とのあいだで、「ちょっと聞いてよ、今日こんなことがあって」とか「私の話、ちゃんと聞いてる?」といったせりふが頻出するのも、その表れなのでしょう。
悩みを抱えている人がいれば、たとえ気の利いたアドバイスはできなくても、ただ話を聞いてあげるだけでも十分です。そのように、話を聞くというかたちで相手に「ギブ」をしておけば、先の例と同じようなかたちで、周囲から助けてもらう「テイク」を受け取れることも増えていきます。
もちろん、「ギブ」するのは「話を聞く」ことでなくてもかまいません。旅行や出張に行ったならちょっとしたお土産を買ってくる。仕事でトラブルに巻き込まれた人がいれば助けてあげる。そうしたちょっとしたことの積み重ねが、周囲からのテイクを増やしてくれます。
「情けは人のためならず」という言葉がありますが、それはまさに真理です。アメリカのある大学が、仕事で大きな成果を挙げられる人とそうでない人の違いを研究したところ、最終的な結論は「運」となりました。ショッキングな答えかもしれませんが、その研究では肝心な運を高める方法にも触れています。
その方法こそ、周囲のために行動し、「いいやつ」と評価されるようになることなのです。「いいやつ」が困っていれば、周囲は自然と助けてあげようとするのは当然です。そうして、「いいやつ」は仕事を速く進められるのです。
上司を動かして仕事をスムーズに進める
それから、若いビジネスパーソンであれば、上司とのコミュニケーションも仕事のスピードを左右します。具体的には、「上司にとってのメリットを提案する」と、仕事を速く進められることにつながります。
◆仕事が速い人のコミュニケーション術3
「上司にとってのメリット」を提案する
上司というのは、会社の上層部や他部署との関係性のなかで、「あちらを立てればこちらが立たず」といったジレンマに悩んでいることも多いものです。そのとき、上司にとってのメリットを提案できれば、そのジレンマを打破して仕事を進められることもあるのです。
たとえば、なんらかの業務改善案を通したいとき、「この案だとあの部署とちょっともめそうだなあ……」といった具合に、上司が二の足を踏むケースはよくあります。
そのときに、「たしかに他部署に負担をかけることになるかもしれないが、最終的に大きな業務改善につながれば上司自身の評価が大きく上がる」というように、上司にとってのメリットに気づかせてあげるのです。そうして上司がその気になって業務改善案を通してくれれば、改善案が差し戻されて修正するといった仕事がなくなります。それだけ、仕事がスムーズに速く進められるのです。
いまの時代は、仕事における人間関係に対してドライな考え方をもつ人も増えています。プライベートを重視し、「会社の飲み会に参加しない若い人が増えている」とニュースを見聞きしたことがある人も多いでしょう。もしかしたら、みなさん自身もそんなひとりかもしれません。
しかし、会社に勤めているビジネスパーソンである以上、人間関係は避けて通れないものです。若手であれば、「上司を動かすこと」ができなければ速く仕事を進めて大きな成果を挙げることも難しくなります。上司を動かすためにも、「上司にとってのメリット」に着目したコミュニケーションを心がけてほしいと思います。
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