仕事においては、「段取り」が重要だとよく言われます。では、みなさんはこの段取りとはどんなものでどこに重要性があると考えているでしょうか。
お話を聞いたのは、新入社員は最初に段取りを叩き込まれるというマッキンゼー・アンド・カンパニーに勤務していた、エグゼクティブコーチの大嶋祥誉(おおしま・さちよ)さん。段取りとはなにか、そしてよりよい段取りをつくるために必要な思考についても解説してくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
必要な「段取り=流れ」を知らなければ、どんな仕事もできない
「段取り」とは、もっと簡単な言葉でいうと「流れ」になるでしょうか。
流れは、仕事に限らずなにをするにも必要です。たとえば、カレーをつくるときにはどんな流れがあるでしょう? まずスーパーに行って肉や野菜といった具材を買います。帰宅したら、それらを切って、炒めて、煮て、ルウを入れてさらに煮込む。最後に皿に盛りつけてようやくカレーが完成します。
では、カレーというものを知らず、これら一連の流れをまったく把握していない人がいたとしたらどうですか? 当たり前ですが、そんな人がカレーをつくれるはずもありません。
これは、カレーをつくるための流れですから笑い話に聞こえるかもしれませんが、仕事だって同じこと。仕事で求められる最終的なアウトプットは、皿に盛られたカレーに当たります。それをつくる流れを把握していない人が、求められるアウトプットを生み出せるわけがないのです。
ですから、初めての仕事でもうまく結果を出せる人は、最初に、求められる最終アウトプットとそれを生み出すための流れを必ず把握しようとします。
上司から資料作成の仕事を任されたとしたら、まずその資料を作成する目的を確認するでしょう。そして、必要なものはスライドが何十枚にもなるパワポ資料なのか、あるいはいわゆるペライチの資料でもいいのかといった、上司の求める最終アウトプットも確認します。
次は、そのアウトプットを生み出すための作業の流れを考える段階。さらに、流れをステップに分けて、それぞれのステップでやることをリストアップします。こういった細かな流れをひとつひとつこなして、ようやく上司が求める資料というアウトプットを生み出せるのです。
最終アウトプットを生み出すための流れをステップに分けて、それぞれのステップでやることをリストアップすると、仕事の「設計図」とも言うべきものを把握できます。その設計図は、同じような仕事にあてはめて使えるものです。資料作成の設計図を把握した人なら、その後は似たような資料作成の仕事をよりスムーズにこなせるようになるでしょう。そうしていくつもの設計図を自分のものにしていくことが、ビジネスパーソンとしての成長と言えます。
流れのまとまりである「設計図」を改善する「ミニマム思考」
ただ、そういった設計図にもまだ改善の余地があるかもしれません。どこかに無駄な流れがあるかもしれないですし、もしかしたらアウトプットしようとしているもの自体が間違っている可能性だってあります。
そこで、設計図を改善してよりスムーズでスピーディーに仕事をこなせるようになるため、あるいは正しいアウトプットをするために、「ミニマム思考」というものも知っておいてほしいと思います。ミニマム思考とは、「最小のエネルギーで求められるアウトプットを生み出す思考」を指します。
ビジネスシーンでは、海外の企業と比べて日本企業の生産性が低いとよく問題視されますが、その要因の一端は、このミニマム思考が足りないことにもよるのでしょう。同じアウトプットを生み出すにも、日本企業では最小ではなく多くのエネルギーを費やしてしまっているのです。
では、最小のエネルギーで求められるアウトプットを生み出すために最も重要なものとはなんでしょうか? その答えは、仕事における「ゴール」を明確にすることです。
ゴールが見えていない人が、ゴールにたどり着くことはできません。逆にゴールをしっかりと把握していれば、そこに至るまでの道のりも見えますから、その過程に必要な流れも見えてきます。さらに「絶対に欠かせない流れ」を明確にすると、最小のエネルギーで、求められるアウトプットを生み出せるようになるというわけです。
「バリュー」の認識次第で、アウトプットも設計図も変わる
このゴールは、「バリュー」と言い換えてもいいかもしれません。バリュー(value)とは「価値」を意味する英語ですが、ビジネスパーソンにとっては、「仕事を通じて顧客に提供する価値」と定義してもいいでしょう。広い意味では「社会に提供する価値」とも言えます。
誰もが自らの仕事を通じてそれぞれのバリューを提供しています。そのバリューの認識次第で、最終的なアウトプットも必要な設計図も変わってくるのです。
体組成計や活動量計などで有名な、ある計測器メーカーを例に挙げましょう。このメーカーは、人気の外食事業も展開しています。これはあくまでも私の推測に過ぎませんが、この展開にこそ、バリューの認識が大きく関わっているのだと思います。
もし、そのメーカーの社員が「より高品質の体組成計をつくり提供すること」だけをバリューだと認識していたら、はたして外食事業に進出していたでしょうか。おそらく、そうはならなかったかもしれません。
「自分たちのバリューはなにか?」という問いに対する回答を、ただ体組成計などをつくることに留まらず、「私たちは体組成計などの計測器を通じて『健康』を提供すること」だと認識していたからこそ、「健康的でおいしいメニューを提供する外食事業」というアウトプットに行き着いたのだと思います。
このように、バリューの認識によってアウトプットそのものが変わることもあるのです。もちろん、アウトプットが変わるのですから、それを生み出すために必要な設計図、流れも変わってくるわけです。
みなさんも、自分の仕事のバリューについてあらためて考えてみてください。すべての仕事は、「誰かのお悩み解決」のために存在します。よく考えてみることで、自分の仕事を通じて、これまでには考えてもいなかった人の悩みを解決できるかもしれません。
そうして新たなバリューを認識できれば、例に挙げた計測器メーカーのように、まったく別の分野で新事業を立ち上げるといった大きな仕事につながることもあるでしょう。
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【プロフィール】
大嶋祥誉(おおしま・さちよ)
エグゼクティブコーチ、作家、TM瞑想教師、センジュヒューマンデザインワークス代表取締役。米国デューク大学MBA取得。シカゴ大学大学院修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー、ワトソンワイアットなどの外資系コンサルティング会社を経て独立。現在、経営者やビジネスリーダーを対象にエグゼクティブコーチング、ビジネススキル研修のほか、人材開発コンサルティングを行う。また、TM瞑想や生産性を上げる効果的な休息法なども指導。自分らしい働き方を探究するオンラインコミュニティ『ギフト』主催。『マッキンゼーで学んだ「段取り」の技法』(三笠書房)、『マッキンゼーで学んだ速い仕事術』(学研プラス)、『マッキンゼーで叩き込まれた超速フレームワーク』(三笠書房)、『マッキンゼーで学んだ感情コントロールの技術』(青春出版社)、など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。