脳神経内科・認知症の専門医である長谷川嘉哉氏は、高度な脳の働きを維持できるよう、手書きの機会を増やすべきだと述べます。2020年7月にはノルウェー科学技術大学が、タイピングより手書きのほうが脳の働きを活発にすると発表しました。
しかし、手書きのノートや手帳は「どこに書いたのかわからなくなってしまうこと」が難点です。そこで今回は、心理学・認知科学的なテクニックで手書きしながらノートの中身を検索しやすくする方法を紹介します。まずはふたつの効果を説明しましょう。
1.「カクテルパーティ効果」
ミーティングの様子などを録音すると、雑音が入り込んで聴き取りにくいことがあります。心理学を専門とする宮城大学教授の茅原拓朗氏によれば、録音された雑音だらけの音は、私たちが鼓膜で受け取っている音波そのものなのだそうです。
それなのに、私たちが雑音を感じることなく普通に会話ができるのは、高度な脳の働きに支えられているからなのだとか。この働きをカクテルパーティ効果と呼ぶそうです。ざわついたパーティで相手の声を聴き分けたり、自分の名前や関心があるワードだけがよく聴こえてきたりすることを指します。この脳の働きは言語経験(聞いたことがある言葉や文章)によって増強されるとのこと(最後の一文はEdward Chang氏ら研究チームと、Christopher Holdgraf氏ら研究チームの研究で得られた知見)。
また、1994年に京都大学が行なった研究では、視覚的なカクテルパーティ効果の存在も実証されています。自分や関心事に注意が向くのは聴覚的なカクテルパーティ効果と同じで、あらゆる人の顔写真があっても自分の顔は見つけやすいこと、興味を抱くコンテンツはパッと目に入ること、赤を意識するとやけに赤い看板や車が目に入ることなどが例に挙げられます(カラーバス効果とも呼ばれる)。
2.「シグニファイア」
もうひとつは、認知科学者のドナルド・ノーマン氏が提唱したシグニファイアです。対象物をどう取り扱うのか、手がかりを示すことを意味します。
たとえば公共のゴミ箱の投入口が、捨てる物の種類(ペットボトル・新聞・その他など)に応じて形状を変えているのも、ネット上の動画再生ボタンも、エレベーターの開閉マークがついたボタンもシグニファイアです。
これにより、人は迷うことなくゴミの分別をすることができ、ネットの閲覧者は直観的に動画を再生することができ、エレベーターに乗った人は能動的にドアを開閉することができるわけです。
マーケティングではシグニファイアを――
過去に経験した行動を無意識に行う心理傾向
(引用元:ECのミカタ|すぐ使えるテクニック!! ~通販で役立つ「行動心理学」とは??~)
とも表現しています。
“手書きのノート” の中身が検索しやすくなる方法とは?
では、前項で紹介した「カクテルパーティ効果」と「シグニファイア」を活かした、検索しやすい手書きノートの書き方を、筆者がなんでもかんでも書き込んでいるネタノートを用いて説明しましょう。
⇒ステップ1:「見たことがある」を活かそう
たとえば書き込む内容が研究成果等であれば、自分がよくネット上で目にする電子ジャーナルやプレスリリースのフォーマットを簡単にまねて書きます。本人が「これは○○ネタだ」とわかればいいので、書き方にバラつきがあっても問題ありません。
こうすることにより「カクテルパーティ効果(カラーバス効果)」が生まれて、パラパラとノートをめくる際に目的の情報を探しやすくなります。
筆者の場合は、研究等のプレスリリース上部に四角い囲みがある印象や、「発表者・研究ポイント(概要)・研究背景・研究成果」といった見出しがある印象が強いので、それをまねています。
(※ノート内参考:慶應義塾|将来の期待が自制心の強い意思決定を形成する 経験がない環境でのヒト脳の機構)
ヘルスケア関連ならたとえばトクホのマークなど、よく目にする印をまねて書き込むのもいいでしょう。トクホ風のマークを意識してページをめくれば、そればかりが目に飛び込んでくるはずです。
(※ノート内参考:大学ジャーナルオンライン|日中に烏龍茶を飲むと睡眠時の脂肪燃焼が促進される、筑波大学が検証)
映画のネタは、よく見かける映画情報サイトのフォーマットで書きます。下の例で言えば、映画情報サイトの特徴であるDVD等のパッケージ画像と、評価用の星を5つ書くだけ。それらを意識してページをめくれば、すぐ同カテゴリを選別できます。
(※ノート内参考:Yahoo!映画|メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬)
⇒ステップ2:「ここに注目!」させよう
さらにシグニファイアを与え、パラパラとノートをめくる際に書き込んだ内容を直観的に把握できるよう工夫してみます。
その工夫とは、概要あるいは重要なポイントを示す言葉を「丸で囲み、矢印で指す」こと。そのシグニファイアがあれば、思わず動画の再生ボタンを押してしまうように、思わずそこに注目してしまいます。
なおかつカテゴリごとに色分けしておけば、より見つけやすくなるでしょう。
たとえば映画なら、人それぞれに作品を特徴づけているものが異なります。好きな俳優さんの初監督作品であったり、意外な組み合わせの出演者だったり、おもしろいセリフであったりなどなど……。
それは自分自身が一番よくわかっているので、どんな情報であっても「これは、この部分が特徴だと言えるはず」などと深く考えず、直観的に丸で囲み、矢印で指しておきましょう。
直感で与えたシグニファイアは、再度目にしたとき今度は直観を与えてくれるはず。「あ、ここに書いていたんだ」がグッと早くなりますよ。ぜひお試しあれ。
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今回は心理学・認知科学的なノート術を紹介しました。よろしければ『“手書きのノート” の中身がパッと検索できる、物理的・視覚的・脳科学的アプローチ』も参考にしてみてくださいね。
(参考)
ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト|若者も子どもも、タイピングより手書きのほうが、脳活動が活発に
KAKEN|視覚的カクテルパーティ効果の研究-なぜ自分の姿は見つけやすいのか?- (KAKENHI-PROJECT-06851009)
AdMarket|Webマーケティング担当者必見!サイト制作で使える行動心理学―その3―【Webプロモーション活用術】
STUDY HACKER|医師「手書きが脳にいいのは当然」――脳を刺激する “最高のアナログ習慣” してますか?
Nature Research|【神経科学】パーティーの喧騒の中で相手の声を聞き取るための脳内機構
ECのミカタ|すぐ使えるテクニック!! ~通販で役立つ「行動心理学」とは??~
日本心理学会|ガヤガヤした場所でも話ができるのはなぜ?
Wikipedia|アフォーダンス
Wikipedia|シグニファイア
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