医師「手書きが脳にいいのは当然」――脳を刺激する “最高のアナログ習慣” してますか?

医師の長谷川嘉哉先生が「手書き」をすすめる理由01

いま、パソコンやスマートフォンをまったく使わない仕事は、本当に限られた一部となりました。そのため、かつてと比べて圧倒的に減っているのが、文字を「手書き」する機会です。

そんな時代の流れのなか、脳神経内科・認知症の専門医である長谷川嘉哉(はせがわ・よしや)先生は、「高度な脳の働きを維持するために、意識的に手書きの機会を増やすべき」といいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹

手書きが脳にいいのは「当然」のこと

脳神経内科を専門とする立場上、私はいろいろなところでこんな質問をされます。「何かを書くとき、パソコンやスマホを使うのではなく、手書きのほうが脳にはいいですか?」と。

この質問に対しては、「当然です」としか答えようがありません。言葉はちょっと厳しくなりますが、こんなことを聞いてくる人の質問力には疑問を感じてしまいますね(苦笑)。

だって、みなさんも子どもの頃から、勉強して何かを記憶したいときには、手で書いて覚えてきたわけですよね? なぜかというと、そうしたほうが記憶しやすいと感覚的にわかっているからです。そして、記憶しやすいということは、脳をしっかり使っている、つまり脳を鍛えていることになるのですから、当然、脳にもいいということになる

私が著書などでお伝えしているのは、特別なことではありません。そういった、多くの人が昔からやっていることに、医学的な裏づけをしているだけなのです。では、手で書くことは、医学的に見て脳にどんな影響を与えるのでしょうか。

まず、何かを書こうと思えば、書くべきことを脳の海馬という記憶を司る部分から引っ張り出す必要があります。そして、引っ張り出した記憶を脳の前頭葉という部分で統合して文章を考える。そして、日本語の場合なら、漢字とひらがな、カタカナの使い分けを考える必要もある。漢字とひらがな、カタカナそれぞれを使うにあたって、じつは使う脳の部分が異なるのも大きなポイント。それだけ脳の広い範囲を使うことになるからです。

ここまでは、手書きではない場合も同じでしょう。でも、いざ手で書くとなったら、みなさんは何を考えるでしょうか?

まずは「ボールペンで書こうか、筆で書こうか」などと考えて筆記用具を選びますよね。そして、「紙全体に大きく書こうか、太く書こうか、紙の端に小さくかわいらしく書こうか」というように、絶えず考えながら書く。もちろん、指を使うにも、キーボードを叩くより、手書きのほうが、より細かい作業が求められます。

つまり、手書きのほうが、脳をそれだけたくさん使うことになる。ですから、「手書きが脳にいい」ことは当たり前なのです

医師の長谷川嘉哉先生が「手書き」をすすめる理由02

脳の働きを維持するには使い続けるしかない

もしかしたら、みなさんのなかには、こんな疑問も持っている人もいるかもしれません――「大人になってからでも、脳の働きを取り戻すことができるのか」と。「脳自体は幼いときに完成する」という話を聞いたことがある人もいるでしょう。そういったことから、先のような疑問を持つのもわかります。

たしかに、人間の脳は3歳くらいまでの間にできあがります。その後は、1日に約10万個ずつ脳の神経細胞は死んでいく。1年間にすれば3,650万、50年でいったら18億を超える数字になります。そう聞くとものすごい数字に思えますよね。でも、脳の神経細胞自体はもともと数百億もの数がありますから、死んでいく神経細胞の数は、たいした問題ではないのです。

それよりも、脳を使わないことによって、ネットワークが退化することこそが問題です。先に述べたように、人間の脳は3歳くらいまでの間にできあがります。でも、3歳以降のほうが、人間は高度な脳の使い方をできますよね。それは、脳の中に高度な神経ネットワークができるからなのです。だとしたら、そのネットワークを退化させないようにするのが重要になる。

高齢者の中には、脳が萎縮している——つまり脳の神経細胞が減っているにもかかわらず、とても元気な人がたくさんいますよね。そういう人たちは、しっかり脳を使って、ネットワークを維持しています。逆に言えば、脳の神経ネットワークを維持するには、脳を使い続けるしかないということです。

医師の長谷川嘉哉先生が「手書き」をすすめる理由03

手書きメモの習慣で手書きの機会を増やす

では、どんなふうに手書きの機会を増やせばいいのでしょうか。

日常生活の中でその機会を増やすことを考えれば、メモの習慣が大切になるでしょう。いまは、スマートフォンのメモアプリを使っている人も多いかもしれません。でも、忘れてはならないことや思いついたことなどをその場でパッとメモするなら、手書きのほうが手っ取り早い。手っ取り早くて脳にもいいのですから、やはりメモは手書きにするべきでしょう

ちなみに私は、手書きするものとしてメモとノートを使っています。普段のメモに使っているのは、フランスの文房具メーカー・RHODIAのメモパッド。有名ですから、知っている人も多いでしょう。コンパクトで、ポケットなどに入れていても邪魔になりません。

そして、ノートはコクヨの「測量野帳」という製品です。なんと、発売60周年を迎えた大ベストセラーなのだとか。私は、そんなことを知る前から愛用していました。

これは、その名のとおり、測量業務の現場の声を生かして開発された製品です。そのため、薄くて丈夫で、立ったままでも書きやすいのが特徴。分厚いノートを大事に持ち歩くのではなく、雑に扱えますし、どんどん使い捨てていくイメージで使えるわけです。私は、メモパッドに書きとめたことを、この測量野帳でまとめるといった使い方をしています。

そういうふうに、普段の生活の中で手書きの機会を増やすのは、記憶という観点からもメリットがあります。というのも、人間は自分で思っている以上に「ビジュアル」で物事を覚えていることが多いからです。

メモにしても、「あのことは、メモ帳の右上のほうにこんな色のペンでこんな感じの書き方でメモしていたな」というふうに覚えていることもあるでしょう。でも、決まったフォントのメモアプリだったとしたら、こうはいかないはずです。

もちろん、仕事の関係上、データにしておかないとならないものもあるでしょう。ですから、手書きのメモとアプリ等を使い分けるのがいいのかもしれませんね。

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【プロフィール】
長谷川嘉哉(はせがわ・よしや)
1966年2月14日生まれ、愛知県出身。名古屋市立大学医学部卒業。医学博士、日本神経学会専門医、日本内科学会専門医、日本老年医学会専門医。毎月1000人の認知症患者を診療する日本有数の脳神経内科、認知症の専門医。祖父が認知症であった経験から、2000年に認知症専門外来及び在宅医療のためのクリニックを岐阜県土岐市に開業。これまでに20万人以上の認知症患者を診療した結果、認知症と歯、口腔環境の関連性にいち早く気づき、訪問診療の際に歯科医・歯科衛生士による口腔ケアを導入。さらに、自らのクリニックにも歯科衛生士を常勤させるなどし、認知症の改善、予防を行い、成果を挙げている。「医科歯科連携」の第一人者として各界から注目を集める。『認知症専門医が教える! 脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』(かんき出版)、『一生使える脳 専門医が教える40代からの新健康常識』(PHP研究所)、『親ゆびを刺激すると脳がたちまち若返りだす!』(サンマーク出版)、『公務員はなぜ認知症になりやすいのか』(幻冬舎)、『患者と家族を支える認知症の本 増補版』(学研メディカル秀潤社)、『介護にいくらかかるのか? いざという時、知っておきたい介護保険の知恵』(学研教育出版)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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