職場で感情的になってしまう? 「自己距離化」の技術があなたのキャリアを開く理由。

企画書のフィードバックに頭を抱える社員

「この部分は、もう少し工夫が必要ですね」

何度も練り直した企画書への上司のその一言に、思わず表情が強張る──。
仕事で感情的になってしまうシーンに、心当たりはありませんか?

たとえば、準備に時間をかけたプレゼン直前、同僚から「このデータの解釈、間違ってない?」と指摘され、動揺して頭の中が真っ白に。

あるいは、チームミーティングで「それは現実的ではない」と一蹴された提案に、反論の言葉を飲み込みながら、内心では怒りが込み上げてくる。

じつは、職場での感情をコントロールし、冷静さを取り戻すための効果的な方法があります。心理学の研究から生まれた「自己距離化」という技術。

この記事では、感情に振り回されず、プロフェッショナルとしての判断力を維持するための具体的な方法をご紹介します。

自分と距離を置く—自己距離化とは。

仕事で感情的になってしまう人の多くは、「頭では分かっているのに、その場の感情に飲み込まれてしまう」と悩みを抱えています。そんな職場でのジレンマを解消する心の状態として、「自己距離化(Self-Distancing)」という概念が注目を集めています。

『夜と霧』などの著書などで日本でも有名なオーストリアの精神科医、心理学者フランクルは、自己距離化を「自己距離化とは、状況から距離を置き、状況を客観化すること」と説明しています。*1

心理学者イーサン・クロス博士がこの自己距離化を行なう技術を「ディスタンシング」として紹介し、近年話題になりました。

文字通り「自己と距離を置く」こと。具体的には、外部の観察者や、未来の自分、あるいは他人の目線を通して、自分が置かれた状況をとらえ直すことで、過剰な感情反応を抑え、建設的な問題解決につなげることができます。

自分をあらゆる感情から距離をとっているイメージ

「自己距離化」を実践! その具体的な訓練法

1. 他者視点で感情をコントロールする「自分対話」

多くの心理テクニックは「わかっているけど、実践は難しい」というもの……。

しかし、自己距離化を実現する方法の中で、「自分対話」はすぐに始められる最も実践的な方法です。

仕事で感情的になりやすい場面には、おおよそのパターンがあるのではないでしょうか。上司からの厳しい指摘、同僚との意見の食い違い、予想外のクレーム……。このような状況で、スマートフォンのメモ帳ひとつあれば始められるのが「自分対話」です。

たとえば、次のように問いかけてみてください。

  • もし親友が「上司に話を全否定された」と相談してきたら、私は何と声をかけるだろう?
  • 「プレゼン直前に資料の大幅修正を求められた」と後輩が困っていたら、どんなアドバイスをする?

このとき大切なのは、問題を書き出すこと。朝の15分、通勤電車の中やデスクに向かう前に、手帳やスマートフォンのメモ帳を開いて、職場での気がかりな出来事を書き留めます。そして、それを「友人の相談」だと想像して、客観的なアドバイスを自分に送るのです。

この「他人事として考える」習慣が、職場での過度な感情的反応を防ぎ、より冷静な判断を可能にしてくれます。

2. “半年後の自分”になって考える、「タイムマシン思考法」

感情的になってしまうとき、その多くは「目の前の出来事が重大すぎて」と感じているものです。しかし実際、仕事での多くの問題は、時間が解決してくれる厄介事だったりします。この事実を活用するのが「タイムマシン思考」による自己距離化です。

具体的には、怒りや焦りを感じたとき、次のように自問してみましょう。

  • この案件、半年後の自分から見たらどうだろう?
  • 来年のいま頃、今日の出来事を思い出して、私は何を学んだと感じているだろう?

たとえば、重要なプレゼンでの失敗も、半年後には「あの失敗があったから、いまのプレゼンスキルがある」と振り返れるかもしれません。上司との意見の衝突も、1年後には「あのとき冷静に対応できなかった自分を反面教師にしている」と考えられるでしょう。

このように時間軸をずらして考えることで、いまの感情をコントロールしやすくなります。目の前の問題が「将来の自分を成長させるための出来事」として見えてくるはずです。

3. 仕事を”プロセス”として捉え直す、「フレームワーク活用法」

感情的になってしまいそうな局面も、細かいステップに分解すれば、冷静に対処できるようになります。この「フレームワーク思考」も、自己距離化を実現する効果的な方法のひとつです。

たとえば、クライアントとの難しい交渉で怒りや焦りを感じたとき、以下のように問題を分解してみましょう。

【交渉プロセスの例】

  • Step1:クライアントの本質的なニーズを特定する
  • Step2:自社にできることとできないことを整理する
  • Step3:代替案を3つ以上用意する
  • Step4:提案と譲歩のポイントを明確にする

このように、感情が高ぶりやすい状況を「プロセス」として整理すると、「これは個人の問題ではなく、ビジネス上の課題解決ステップのひとつ」と冷静に受け止められるようになります。

大切なのは、自分の感情と目の前の課題を切り離して考えること。仕事上の問題を「解くべき方程式」のように捉えることで、感情的な反応を抑制し、より建設的な解決が可能になるのです。

4. 感情をコントロールする「言葉の距離化」テクニック

仕事で感情的になったとき、私たちは「私は失敗した」「私には無理だ」と、自分を直接的に否定してしまいがちです。しかし、この言葉の使い方を少し変えるだけで、自己距離化が驚くほど簡単に実現できます。

具体的には、職場での困難に直面したとき、次のように言い換えてみましょう。

  • 「私はダメな上司だ」→「田中さん(自分の名前)は、今回の部下との関係で悩んでいるんだね」
  • 「私には向いていない」→「彼は新しい環境に慣れる過程にいるんだ」

この「自分の名前」や「彼/彼女」という第三者的な言葉遣いには、怒りや焦りから自分を守る不思議な効果があります。まるで、親しい友人の相談に乗るように、冷静な視点で問題に向き合えるようになるのです。

職場での実践ポイントは、この言い換えを「心の中での対話」として行なうこと。ほかの人に聞こえる必要はありません。静かに自分と対話することで、感情と適切な距離を保てるようになります。

未来の自分を見つめているイメージ

仕事の質を変える「自己距離化」という考え方

 職場で感情的になることは、誰にでもあります。しかし、その感情との向き合い方で、仕事のパフォーマンスは大きく変わってきます。自己距離化は、そのための具体的な方法を提供してくれます。

この記事で紹介した4つの方法をおさらいしましょう。

  • 他者視点での自分対話
  • タイムマシン思考
  • プロセス化による感情コントロール
  • 言葉遣いの工夫

どの方法も、特別な準備や時間は必要ありません。通勤電車の中で、デスクに向かう前に、あるいは会議の合間に、すぐに実践できます。

怒りや焦りに振り回される代わりに、少し距離を置いて状況を見つめ直す。この小さな習慣が、あなたの仕事の質を確実に向上させていくはずです。

***
仕事において「感情的をコントロールする」ことと「成果を出すこと」は、実は深く関係しています。自己距離化という視点を持つだけで、あなたの仕事における選択肢は広がり、より良い判断が可能になります。

この記事を読んでくださったあなたは、すでにそのための具体的な方法を手にしています。この先、職場で困難な状況に直面したとき、きっとその価値を実感されることでしょう。

(参考)

*1 創造法編集社|ヴィクトール・フランクルまとめ

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

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