勉強中は、チョコレートやグミなど、甘いもので糖分を摂取したくなりますよね。たしかに、糖質から生成されるブドウ糖は、脳にとって貴重なエネルギーです。
しかし、お菓子の食べすぎは血糖値の急上昇を招き、集中力が下がってしまう場合も。では、どうしたらいいのでしょうか? 甘いものが勉強にもたらすメリット&デメリットと、おすすめの間食を紹介します。
甘いものが勉強にもたらすメリット
甘いものは、勉強に以下のようなメリットをもたらします。
脳にエネルギーを補給できる
甘みのもとである「糖類」は、体内で「ブドウ糖」という最小単位の糖に分解され、エネルギー源として活用されます。特に脳にとっては必要不可欠な栄養素です。
ブドウ糖が脳のパフォーマンスを大きく左右することは、数多くの研究で証明されています。たとえば、広島大学が2011年に発表した研究だと、ブドウ糖溶液を飲んだ人は飲まなかった人より認知テストを速く解き終わる傾向がありました。
脳科学者の高田明和氏によると、ブドウ糖の供給が数分間途絶えるだけで、脳の働きが滞る恐れすらあるそう。脳のパフォーマンスを最大化して勉強に励むには、おやつや間食で定期的に糖分を補給することが大切なのです。
快感ホルモンが分泌される
前出の高田氏によれば、甘味が舌などの神経を刺激すると、快感ホルモンの「βエンドルフィン」や「ドーパミン」が分泌されるそう。このふたつのホルモンこそ、甘いものを食べたときの幸福感を生んでいるのです。
βエンドルフィンの別名は「脳内麻薬」。主な働きは、気分の高揚や鎮痛、ストレス緩和など。いわゆる「ランナーズハイ」(限界を超えたマラソンランナーが覚える快感)も、βエンドルフィンによる現象です。
一方のドーパミンは、報酬を得たとき・得られそうなときや、お酒を飲んだときに分泌され、喜びをもたらします。仕事や勉強をやり遂げたときの達成感や、楽しい予定を想像するときのワクワク感も、ドーパミンによるものです。ドーパミンは、快感だけでなく、やる気や集中力、学習能力などにも深く関係しています。
勉強の合間に甘いものを食べれば、上記のホルモンが分泌され、気分のリフレッシュやモチベーションの強化につながるのです。
気分がリラックスする
管理栄養士の足立香代子氏らによれば、甘いものをとると、幸せホルモン「セロトニン」がつくられやすい体内環境になるそう。セロトニンには、精神の安定作用や脳の活性化作用があるため、甘いものを食べるとリラックス感や満足感を得られるのです。
以上のことを考えると、勉強していて甘いものが食べたくなったら、あなたの心身は以下のような状態にあると言えそうです。
- 脳のエネルギーが不足している
- 勉強に苦痛を感じている
- 疲れてイライラしている
甘いものを食べれば、勉強で疲れた心身に活力を供給できますよ。
甘いものが勉強にもたらすデメリット
とはいえ、甘いものの食べすぎは、勉強に以下のようなデメリットをもたらします。
眠くなる
甘いものをたくさん食べると、血糖値(血中のブドウ糖濃度)が急上昇します。すると、血糖値を下げるホルモン「インスリン」が大量に分泌。血糖値は正常値よりも下がり、「低血糖」になってしまいます。
低血糖だと脳はエネルギー不足に陥り、眠気や集中力低下を招きます。甘いものを食べたあとや、お腹いっぱいご飯を食べたあと、強い眠気を感じることがありますが、それは「糖分をとりすぎたせいで糖分不足になった」という皮肉な状態。脳のエネルギー源であるはずの糖分も、過剰だと逆効果なのです。
イライラする
先述のように、糖分のとりすぎは低血糖を招きます。身体にとって、生命維持に不可欠なブドウ糖が足りない「危機的状況」です。
この危機を脱するため、闘争ホルモン「アドレナリン」が分泌され、肝臓に蓄積した物質からブドウ糖を生成して血糖値を上げてくれます。しかし、アドレナリンが多すぎると、イライラや怒り、不安感などがもたらされるので、勉強に集中できなくなってしまうのです。このような糖分過多によるネガティブ感情は、「シュガーブルース」と呼ばれることも。
甘いものを食べすぎれば「血糖値が急上昇→反動で低血糖になり眠くなる→アドレナリンが出てイライラする→甘いものが食べたくなる」という悪循環に陥り、心身のコンディションが最悪になってしまうのです。
依存のリスクが高まる
甘いものは、βエンドルフィンやドーパミンの分泌を促すため、強い快感を与えてくれます。快感が強いということは、依存性も強いということ。お酒やギャンブル、麻薬などと同じです。
加齢医学研究者・白澤卓二氏によると、糖分は、麻薬のような「禁断症状」を引き起こすことがあるそう。「甘いものを食べないとイライラする」のが典型でしょう。糖類の禁断症状は、アルコールや薬物ほど強力ではありませんが、そのため気づかないうちに依存してしまっているのです。
◆糖類依存・禁断症状の例
- 甘いものが常に手元にないとイライラする
- 食後にはデザートが欠かせない
- 仕事終わりに甘いものを買わないと気が済まない
甘いお菓子や糖分は「マイルドドラッグ」と呼ばれることもあります。ポテトチップスやハンバーガーなどのジャンクフード、コーラなどの清涼飲料水も、マイルドドラッグです。勉強の合間に甘いものを食べることが多い方は、糖類依存にならないよう、頻度や量に注意しましょう。
勉強中におすすめの甘いもの
甘いものの食べすぎは、以上のようなデメリットをもたらすため、勉強中に甘いものを食べたくなったら気をつける必要があります。では、具体的にどのような食品が適しているのでしょう? 3つの具体例をご紹介します。
ビターチョコレート
ビターチョコレートは糖分が控えめなので、血糖値が急上昇するリスクが低く、勉強中に適した食品です。また、「カカオポリフェノール」および「テオブロミン」という成分により、集中力アップや気分のリラックス効果をもたらしてくれます。
カカオポリフェノールとは、カカオ豆に特有のポリフェノール。血行を促進して脳を活性化させたり、脳細胞のもとになるタンパク質「BDNF」の分泌を促したりします。株式会社明治などによる2014年の共同研究でも、カカオポリフェノールの多いチョコレートを被験者に4週間摂取させたところ、脳血流量の増加、認知テストの成績向上、血中BDNF量の増加などが実証されました。
テオブロミンは、カカオなど一部の植物だけが含む苦み成分です。内科医の板倉弘重氏によると、気分のリラックス、集中力・記憶力アップなどの効果があるそう。チョコレートを食べるとリラックスできるのは、テオブロミンのおかげなのです。
同じくカカオ豆を原料とするため、ココアでも同様の効果を得られます。糖分控えめなタイプや、砂糖や脱脂粉乳を含まないカカオ豆100%の「ピュアココア」を選びましょう。
◆ビターチョコレートのメリット
- 糖分が控えめ
- 脳血流量が増え、脳が活性化する
- 脳を育てるタンパク質「BDNF」が増える
- 気分がリラックスする
- 集中力が高まる
- 記憶力が高まる
バナナ
バナナの糖分は、体内への吸収が緩やか。つまり、バナナは血糖値を急上昇させにくいのです。
管理栄養士の沼津りえ氏によると、バナナが含む主な糖は、ブドウ糖・果糖・ショ糖の3つ。ブドウ糖はすぐエネルギーに変わる一方、果糖・ショ糖の吸収には少し時間がかかります。3つの糖がバラバラのタイミングで吸収されるため、血糖値の上昇が穏やかなのです。
バナナは、食物繊維・ビタミン・ミネラルなども豊富に含んでいます。1本当たり約86kcalと、意外と低カロリーなのも嬉しい点です。
◆バナナのメリット
- 血糖値の上昇が穏やか
- 食物繊維・ビタミン・ミネラルなども豊富
- 低カロリー
無糖タイプのお菓子
近年、「無糖」をうたうガムやアメ、グミ、チョコレートなどが多く店頭に並んでいます。血糖値が急上昇しにくいため、勉強中でも安心して食べられるでしょう。
とはいえ、まったく糖質が含まれていないとは限らないので要注意。糖質が0.5%以下であれば、「無糖」と表示できるからです。「ノンシュガー」「シュガーレス」「糖質ゼロ」などにも同じことが言えます。
「砂糖不使用」という表記にも注意してください。砂糖を使っていないとはいえ、砂糖以外の糖質が含まれている場合があります。たとえば、「砂糖不使用のイチゴジャム」には、イチゴ由来の糖分はもちろん、甘味料が含まれているかもしれません。
さらに、甘味への依存にも気をつけましょう。糖分が少ないお菓子でも、人工甘味料・非糖質系甘味料などにより、強い甘味がついていることがあります。油断してバクバクと食べすぎるのは禁物です。
ナッツ
くるみ・アーモンド・ピーナッツなどのナッツも、勉強中の間食に適しています。糖質が少ないため血糖値が上がりにくいほか、少量でも食べ応えがあるので、小腹を満たしたいときにはちょうどいいでしょう。
フードアナリストのとけいじ千絵氏によると、ナッツは脳を育てる「ブレインフード」。脳の神経細胞の働きに欠かせない「オレイン酸」「αリノレン酸」などの多価不飽和脂肪酸(オメガ3)を多く含んでいるからです。
なかでも、くるみは多くのオメガ3を含んでいます。特にαリノレン酸は、くるみ以外のナッツからはほとんど摂取できません。さらに、くるみには、ビタミンEやメラトニンなど10種類以上の抗酸化物質も入っています。
◆ナッツのメリット
- 糖質が控えめ
- 少量でも食べ応えがある
- 脳の栄養になるオメガ3が豊富
ビターチョコレート・バナナ・無糖タイプのお菓子・ナッツという4つのおすすめ食品をご紹介しました。繰り返しになりますが、勉強中に甘いものを食べるときは、量・頻度が過剰にならないよう十分注意してください。
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勉強中の適度な甘いものは、心身をリフレッシュさせ、元気を取り戻してくれます。ただし、糖分のリスクには要注意です。解説したメリット・デメリットをふまえ、糖分過多にはくれぐれもお気をつけを。
(参考)
農畜産業振興機構|「優れた砂糖の効果を知って、食生活を豊かに!」
農畜産業振興機構|暮らしの中の砂糖の効用
名井幸香・遠藤加菜・日隈眞理子・松川寛二(2011),「血中グルコース濃度の認知機能および心血管系応答への影響について」, 広島大学保健学ジャーナル, 9巻, 2号, pp.31-37.
e-ヘルスネット|β-エンドルフィン
WELLMETHOD|【医師解説】低血糖でうつやパニック? 糖質の摂りすぎが招く危険症状と6つの改善策|チェックリスト付
鶴巻温泉病院|第15回 闘争モードになるまでの時間 交感神経の働き
白澤卓二(2012),『「砂糖」をやめれば10歳若返る!』, ベストセラーズ.
みんなの健康チョコライフ|チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究 最終報告
NIKKEI STYLE|ココアに7つの健康効果 冷え解消や筋力アップにも
SAQP|食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)
スミフル|専門家にお聞きしました!「バナナの栄養」
NIKKEI STYLE|カギは血糖値 脳のパフォーマンスを上げる食事術
日経DUAL|子どもの「育脳」のために魚、卵、ナッツを取ろう
石原結實(2016),『「脚」を鍛えると「脳」が若返る! ボケを防ぐ運動・食事・習慣』, 秀和システム.
山田雅久 著, 林進 監修(2013),『脳を老化させない食べ物』, 主婦と生活社.
【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。