正解が溶けた時代の個性教育とは——AI時代に "輝く個" を。【岡内大晟氏 インタビューvol.2】

「個性を大事に」という言葉なら、どの学校も言う。

だが岡内大晟さんは、その言葉を使わない。いや、正確には、その言葉が指しているものが違う。青楓館高等学院が実践する「個性尊重教育」は、よくある「みんな違ってみんないい」でも、「ひとりひとりに寄り添う」でもない。どんな状態の子でも、変えることができる——その確信に基づいた、覚悟のある教育だ。

不登校特例校、フリースクール、STEAM教育——多様性を掲げる学校が増えるいま、岡内さんはあえてこう言い切る。「多様性の教育も、もう古い」と。では青楓館は何をしているのか。その中身を聞いた。

「個性教育」の誤解 ——個別指導でも、寄り添いでもない

——青楓館が掲げる「個性尊重教育」とは、どういうものですか。

岡内さん:よく誤解されるんですが、個別指導とかマンツーマン指導のことではないんです。そのレベルの話ではまったくない。不登校だろうが、発達障がいだろうが、貧困家庭だろうが、どんな状態の子でも輝かせることができる——それを教育の力で実現したいというのが、青楓館のやっていることです。

——「多様性の教育も古い」とおっしゃっていましたね。

岡内さん:ひとむかし前は競争社会で、ふるいにかける教育が主流だった。それへの反省から、いまは「寄り添い」の時代になって、不登校特例校やフリースクールが増えています。でも、これって一見良さそうに見えて、可能性が狭まっているんですよ。不登校特例校に行ったら、ある程度のキャリアしか用意されない。それが僕は許せない。多様性が存在するのは当然です。でも表面的な多様性に配慮するあまり、本来もつ個々のポテンシャルを狭めては本末転倒です。

——個別指導や寄り添いとは、何が違うんですか。

岡内さん:個別指導や寄り添いというのは、突き詰めると「決められたゴールへの個別最適化」なんですよね。その子のペースや特性に合わせながら、でも向かう先は最初から決まっている。もちろんそれが意味を持つ場面はあります。でもいまの時代、そのゴール自体が揺らいでいる。AIが出てきて、これまで「正解」だったものがどんどん溶けていっている。そういう時代に、定まったゴールに向かって最適化することと、その子自身が自分のゴールを設定して、自分の力で更新し続けていける個になることは、まったく別の話なんです。青楓館が追いかけているのは後者です。どんな状態からでも、自分で考えて動ける人間に変わっていける——そのビフォーアフターを本気で追いかける。それが青楓館の立ち位置です。

「承認されているかどうか」が、すべての起点だった

——実際にどんな生徒が来るんですか。

岡内さん:不登校の子、発達障がいの子、くすぶっている子が多いですね。進学校から来る子もいます。共通しているのは、承認されているかどうかという問題なんです。既存の学校の評価軸って、学力か部活かの二軸しかない。そこで評価されなかった子が来る、という感じです。

——進学校の子も来るんですね。

岡内さん:そうです。進学校に行っても、そこでの競争に落ちこぼれてしまう子もいる。完璧主義ゆえにきつくなってしまう子もいる。でも青楓館に来たら、朝早く起きられるねとか、アイデアが面白いねとか、いろんな角度で承認される。そしたら「あ、このままでいいんだ」と、個性が出てくる。

自由登校・バッジ制度・PBL ——「ゲームのように、社会から逆算する」

——具体的には、どんな学校生活を送るんですか。

岡内さん:週5日開校していますが、いつ来てもいつ来なくてもいい。大学みたいなイメージです。ただ、自由だけ与えても高校生はまだ不安なので、週1回の1on1でしっかり手綱を引きながらサポートしています。

——バッジ制度というものがあると聞きました。

岡内さん:ポケモンのジムバッジみたいなイメージです。特定のバッジを取得しないと参加できないPBLや部活動がある。バッジはブロンズ・シルバー・ゴールドの3段階で、社会から逆算してカリキュラムを設計しています。いまの子たちは資本主義のなかで、民主主義のなかで、AIの時代のなかで生きていく。だから教えなければならないのは、コミュニケーション能力、マインド、そして答えのない問いに向き合うゼロイチの力——この3つです。

——PBLとはどんなものですか。

岡内さん:プロジェクトベースドラーニングといって、常時10個ほどのプロジェクトが動いています。企業の商品開発を一緒にやったり、地方の街おこしイベントをやったり。コクヨのオフィスでAIについて社会人に向けて高校生が解説するとか、東大や衆議院会館でワークショップをするといったこともあります。社会って変えられるんだということを、高校生のうちから体で学ぶ場です。

青楓館高等学院のPBL(プロジェクトベースドラーニング)の様子

変化は「徐々に」ではなく「ポン」と来る ——1on1が生む、人間の本来のエネルギー

——1on1では具体的に何をするんですか。

岡内さん:カウンセリング・メンタリング・コーチングの3種類を、生徒の精神状況に合わせて使い分けています。入学してすぐの、心を閉ざしている子にポジティブな未来の話をしたら、拒絶されてしまう。だからまず、カウンセリングで徹底的に寄り添う。どんなに倫理的におかしいことを言っても、「そっか、辛かったんだね」と。承認100%、伝えることゼロから始めます。

——そこから、どう変わっていくんですか。

岡内さん:変化って、徐々に来ないんですよ。ポンと来る。顔色が全然違う、目つきが変わる、言い訳をしなくなる。そして一番わかりやすいのは、悩みの種類が変わることです。「学校に行けるかどうか」で悩んでいた子が、企業や行政と取り組むプロジェクト(PBL)のリーダーになって「メンバーがついてこない」と悩んでいる。「WBSの進捗が遅れている」と悩んでいる。それってもう、仕事の悩みじゃないですか。保護者の方に「成長しましたよ」と伝えるとき、この悩みの変化を見せると、一番伝わります。

——「寄り添う」教育との違いが、そこにありますね。

岡内さん:そうです。寄り添われる側のままでいるのと、自分が動かす側に回るのは、まったく別の話です。人が本来持っているエネルギーを取り戻す、という感覚に近い。Z世代の子たちが職場で「全然仕事しない」と言われることがあるけれど、本当はちゃんと頑張りたいし、誰かに叱ってほしいとさえ思っている子もいる。そのエネルギーを解放していくのが、青楓館のやっていることだと思っています。

青楓館高等学院の1on1の様子

「用の美」——教育者は、背中で語らなければならない

——教員に対して、どんなことを求めていますか。

岡内さん:社内のクレドの1丁目1番地に、「用の美」という言葉を置いています。製造業の言葉で、実用性を追求した結果として生まれる美しさのことです。大谷翔平があれだけ打球を飛ばせるのに、太っていない。機能を極めた結果、美しい体になっている。あれが用の美だと思っていて。

——それを教育に当てはめると?

岡内さん:何を言うかより、誰が言うかです。目が曇っていてギラギラした人間が「大人になると楽しいよ」と言っても、楽しそうに見えない。教育者たるもの、まず自分が背中で語れる存在でないといけない。これを一丁目一番地にしているので、うちの教員はみんなすごくプレッシャーを感じながら成長しています。

——教員の採用も、かなり厳しいと聞きました。

岡内さん:倍率は350倍以上です。一次選考から全部、自分で見ています。子どもたちにとって一番身近な大人が先生なんです。その先生がしんどそうにしていたら、大人になりたいと思えない。だから先生が輝いていることが、何より大事だと思っています。

個性と品性 ——「自由には、責任が伴う」

——個性を尊重するということは、何でもありになるわけではないですよね。

岡内さん:そうです。うちは「個性と品性」という言葉を大事にしています。わがままじゃダメで、品が重要だと。民主主義のなかでしか、個性は出せないんですよ。自由と責任は同じ分だけある。ゲームだけしていたいという個性も尊重するけれど、それを社会のなかでどう生かすかを一緒に考える。個性を解放しながら、社会との接続を同時につくっていくのが、青楓館のやっていることです。

「どんな状態からでも、自分で考えて動ける人間に変わっていける」と語る岡内さん

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「個性を大事に」という言葉は、いまや誰でも言う。だが青楓館がやっているのは、その言葉を本気で実装することだ。寄り添うだけでも、ふるいにかけるだけでもなく、どんな状態の子も変えていく——その教育が、国内外から注目されている理由が、話を聞いてよくわかった。次回は、その青楓館がこれから日本の教育をどう変えようとしているのかに迫る。

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【ライタープロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
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