「どんな状態の子でも、変われる」——青楓館が目指す、教育の新しい「王道」とは【岡内大晟氏 インタビューvol.3】

2022年、ChatGPTが公開された。その後わずか2年で、AIは私たちの働き方を、学び方を、そして「人間にしかできないこと」の定義そのものを書き換えはじめた。教育の現場も例外ではない。AIが答えを出せるなら、何を教えるのか。AIが採点するなら、何を評価するのか。学校という制度の根拠が、静かに問い直されている。

そうした時代の変化を背景に、教育とAIの接点を切りひらこうとする動きが、官民学の連携によって加速し始めている。その中心的な存在のひとつが、一般社団法人教育AI活用協会(AIUEO)だ。文部科学省後援の「教育AIサミット」の主催、U18世代を対象とした「AIチャンピオンシップ」の開催など、AIUEOはAI時代の新たな学習モデルの構築と、教員のAIリテラシー向上を牽引しながら、日本の教育DXの方向性に大きな影響を与え続けている。

そのAIUEOから、一通のメールが兵庫県明石市の小さな通信制サポート校に届いた。「AI先端モデル校として認定したい」——一介の高校への打診としては、普通ではありえない話だった。

なぜ青楓館がAIUEOの目に留まったのか。そして岡内さんが描く「日本の教育の新たな王道」とは何か。シリーズ最終回、その問いに迫った。

AIUEOからのAI先端モデル校認定 ——「最初、夢だと思いました」

一般社団法人教育AI活用協会(AIUEO)とは?

一般社団法人教育AI活用協会(AIUEO)は、教育現場におけるAI活用の普及を通じて教育の質の向上を目指す団体。文部科学省後援の「教育AIサミット」の主催や、U18世代を対象とした「AIチャンピオンシップ」の開催など、官民学が連携した多彩な活動を展開している。AI時代の新たな学習モデルの構築や、教員のAIリテラシー向上を牽引し、日本の教育DXの方向性に大きな影響を与える存在だ。

——AIUEOからAI先端モデル校に認定されているとのことですが、どういう経緯だったんですか。

岡内さん:AI部を立ち上げ、「この活動を全国に広めたい」という思いで活動していたら、AIUEOの方からお声がけをいただきました。そこから私たちの取り組みを評価していただき、正式にAI先端モデル校として認定していただけることになったんです。

——AIUEOは青楓館の何を評価したんですか。

岡内さん:AI先端モデル校の定義は、AIを学校運営・教員育成・生徒活動の3層に戦略的に組み込み、「教育の質」「教師の成長」「生徒の主体的社会参画」を同時に加速させる学校。青楓館のAI部の生徒たちがコクヨのオフィスでAIについて社会人に向けて解説したり、東大や衆議院会館でワークショップを開いたり、シンガポールの国際AIコミュニティに参加したり。高校生が社会に出て、社会を動かす側に立っているという実態が、評価していただいた理由だと感じています。

岡内さん:僕がもともと感じていたのは、学校と社会が切り離されているということでした。社会を知らないまま教壇に立つことへの違和感も、経営者たちと向き合って感じた「学校が育てている人材と社会が求めている人材のギャップ」も、根っこは同じ問題です。だから青楓館では、在学中から社会との接続を徹底的につくっていく。高校生が社会に出て、社会を動かす側に立っている——その姿こそが、AIUEOの目には新鮮に映ったのだと思っています。

——青楓館が考えるAI時代に必要な教育とは何ですか。

岡内さん:ひとことで言えば、AIに代替されない「コミュニケーション力」と「思考力」「ビジネスの現場で通用する実践力」を重視した教育です。「どう生きるか」を自ら問い、ゴールを更新し続けられる「個性教育」こそが本質的な価値になると考えています。また、技術が進化するほど「AIをどう使うか」という人間の意志、つまり「道徳」が重要になります。青楓館ではAIを遠ざけるのではなく、自分のやりたいことを実現するための「最強の道具」として積極的に使いこなす適応力を養います。1on1やPBLを通じて、AIを相棒にしながら、自分らしく生き抜くための「本質的な人間力」を生徒たちに実装していく。それが私たちの目指す教育です。

AI先端モデル校に認定されている青楓館高等学院の授業の様子

AI時代に日本が世界に貢献できるもの ——「モラルだけは、世界一だと思っている」

——AI先端モデル校として、AIの活用はどう取り組んでいますか。

岡内さん:最初はAIで企業の課題解決をするといったわかりやすい取り組みから始めました。でもいま、世界に向けて発信していきたいのは、そのレベルの話ではなくて。AIをどう使わないか、AIをどううまく使うかのモラルを養っていくことです。このモラルという評価しにくいものを、どう可視化してケースにしていくか。それをAIUEOから期待されていると感じています。

——AIの活用でいえば、中国やシンガポールが圧倒的に速いですよね。

岡内さん:速さでは勝てない。日本はまだAIを教育に本格導入しないという判断をしていて、本格的な導入は2030年以降とも言われている。その土俵で戦っても意味がない。でもモラルだけは、日本人が世界に誇れるものだと僕は思っています。道徳心、協調性、他者への敬意——これはAIが発達すればするほど、むしろ重要になっていく。そこを日本発で世界に示していけると思っています。

本物が生き残るために ——「大資本が入ってきたら、負けるかもしれない」

——規模が大きくなっていくなかで、心配していることはありますか。

岡内さん:規模が大きくなるほど、言葉だけが広まるリスクも高まる。それが正直、一番怖いところです。個性尊重とか1on1とか、言葉にするのは簡単ですから。でも言葉と中身が一致しているかどうかは、入ってみないとわからない。青楓館自身も、そこは常に問い続けないといけないと思っています。

——そういう競合に対して、青楓館はどう戦いますか。

岡内さん:大資本が入ってきたら、負ける可能性はあると思っています。正直に言うと。でも、勝てる理由は「人」しかないと思っていて。

で生徒ひとりひとりの状態を見極めながら、カウンセリング・メンタリング・コーチングを使い分けられる教員がいるかどうか。採用倍率350倍以上の選考を全部自分で見て、「用の美」——背中で語れる教育者であることを一丁目一番地に置いて、その基準を妥協しないでいられるかどうか。そういうことは、お金があっても資本があっても、すぐには真似できない。ここだけは絶対に世界一だという自信があります。だからここを伝え続けていくことが、唯一の答えだと思っています。

青楓館高等学院1on1の様子

10年後のビジョン ——「日本の教育の王道になる」

——10年後、青楓館はどうなっていたいですか。

岡内さん:日本の教育の王道になっていないといけないと思っています。数万人規模の学校になっていること。そして、自己肯定感のアンケートで「自分のことが好きですか」という問いに対して、世界平均を上回るイエスが返ってくる状態。この2つがマストだと思っています。

——卒業生には、どうなってほしいですか。

岡内さん:2つだけです。後悔してほしくない。そして、青楓館出身であることを、誇らしく思ってほしい。それだけです。学力でも、偏差値でもなく、その子が自分の人生を自分のものとして生きていけているかどうか。そこだけを見ていきたいと思っています。

——最後に、いまの日本の教育に対して、岡内さんが一番伝えたいことは何ですか。

岡内さん:どんな状態の子でも、変われる。それだけです。生まれた家庭がどうであっても、不登校であっても、発達障がいがあっても、ふるいにかける教育でも、ただ寄り添うだけの教育でもなく、どんな状況からでも変われるという教育の可能性を、王道にしたい。それが青楓館のやっていることであり、自分が人生をかけて取り組んでいることです。

教育さえあれば可能性は広がる、と語る岡内氏

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26歳で学校をつくり、開校3年でAIUEOと連携し、10年後に日本の教育の王道を目指す。岡内さんの言葉に、根拠のない楽観はない。

思えば、岡内さんが一貫して問い続けてきたのはひとつのことだ。学校と社会が切り離されている、という矛盾。教育実習で「語る資格がない」と感じた26歳の違和感は、400人の経営者との対話を経て確信に変わり、AO入試の現場で「どんな子も輝ける」という実証を積み重ね、青楓館という形に結実した。その道のりは遠回りに見えて、一本の太い必然の筋が通っている。

青楓館が実践していることの本質は、「個性を尊重する」という言葉の先にある。正解そのものが多様化し、AIが既存の「正解」を次々と書き換えていく時代に、決められたゴールへの最適化を競わせることにどれほどの意味があるのか。青楓館が追いかけているのは、その子自身がゴールを設定し、自分の力で更新し続けていける個を育てることだ。

AIUEOが青楓館の活動に注目した理由もそこにある。彼らが心動かされたのは、シンプルに「高校生がAIを活用して、自分たちのやりたいことを自分たちの手で実現していく姿」——その圧倒的な熱量に感動したのだという。

だがインタビューを通じて感じたのは、青楓館が実現しつつあることは、もしかしたら教育業界の議論がまだ追いついていない場所にあるのかもしれない、ということだ。競争でも多様性でもなく、「どんな状態からでも変われる」という教育の可能性——それを、理念としてではなく、ひとりの教育者が自分のリスクを取って実装し続けている。そこに、この学校の真価がある。

その覚悟が本物かどうかは、これからの青楓館が証明していくことになる。

【ライタープロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
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