「具体化」できなければ伝わらない。曖昧な表現を「伝わる表現」にするふたつの方法

具体的になにかを伝えている様子

「『なるはや』でお願いします」――こんな言葉で仕事の依頼をしている人はいませんか? 相手からすると、「結局いつまでなの?」と困惑してしまうだけです。伝えたいことをきちんと相手に伝えるうえで「具体化力」こそが最重要だと語るのは、「伝える力【話す・書く】研究所」所長の山口拓朗さん。具体化力の重要性、そして具体化力を高めるふたつの方法を教えてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子

【プロフィール】
山口拓朗(やまぐち・たくろう)
1972年生まれ、鹿児島県出身。伝える力【話す・書く】研究所所長。山口拓朗ライティングサロン主宰。出版社で編集者・記者を務めたのち、ライター・インタビュアーとして独立。27年間で3800件以上の取材・執筆歴がある。現在は、執筆や講演、研修を通じて「論理的に伝わる文章の書き方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「売れる文章&コピーのつくり方」など、言語化やアウトプットの分野で実践的なノウハウを提供。2016年からアクティブフォロワー数400万人の中国企業「行動派」に招聘され、北京ほか6都市で「Super Writer養成講座」を23期開催。『苦手なまま会話術』(大和書房)、『「感じのいい」ビジネスメール』(永岡書店)、『1%の本質を最速でつかむ理解力』(日本実業出版社)、『マネするだけで「文章がうまい」と思われる言葉を1冊にまとめてみた。』(すばる舎)など著書多数。中国、台湾、韓国など海外でも20冊以上の著書が翻訳されている。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

伝えたいことを言語化するうえで重要な「具体化力」

人と人は基本的に言葉でコミュニケーションを図りますから、自分の思いや言いたいことを適切な言葉と伝え方で相手に届ける「言語化力」が重要であるのは明らかです。そして、その言語化力は、「語彙力」「具体化力」「伝達力」の3つに分けられると私は考えています。

自分が言いたいことを表す最適な言葉を選ぶにも、相手の言葉を理解するにも、語彙力は欠かせません。また、伝える内容が曖昧であるよりも具体的であればあるほど相手に届きやすくなりますから、具体化力も必要です。さらに、同じことを伝えるにも相手に合わせた言葉をチョイスするといった伝達力もまた重要でしょう。

そして、これら3つの力のうち、仕事をするうえで特に重要なものが具体化力です。仕事では指示や依頼をする場面が数多くあります。デザインを依頼するときに、「格好いい感じでお願いします」とデザイナーに伝えたらどうなるでしょうか?

「格好いい」という曖昧な表現をどうとらえるかは人それぞれです。依頼者は「モノトーンでクールな感じ」をイメージしていたのに、相手は「ビビッドでにぎやかな感じ」を格好いいと思っているかもしれません。そんな状況では、依頼者がイメージするデザインが上がってくる可能性は低いでしょう。

また、指示や依頼をする側だけでなく、受ける側にとっても具体化力は重要です。相手の言葉が曖昧だと感じた場合、具体化力が高い人なら、「『格好いい』ってどのようなイメージをもっていますか?」「イメージに近い資料などはありますか?」と、相手の思いを具体化する質問をすることができます。そうして、よりスムーズに仕事を進められるようになるのです。

伝えたいことを言語化するうえで重要な「具体化力」について語る山口拓朗さん

相手に「どういうこと?」と聞かれる人に欠けている「5W3H」

具体化できるようになるための方法はいくつもありますが、ここでは、「1. 『5W3H』で具体化する」「2. 『なぜ→たとえば』メソッドで具体化する」という、ふたつの方法を紹介します。

まず「5W3H」から解説していきましょう。「5W3H」は、以下の8つの疑問詞を意味します。

【伝えたいことを具体化する「5W3H」】
  • When      いつ・どこまでに(期限・期間・時期・日程・時間)
  • Where      どこで・どこへ・どこから(場所)
  • Who       誰が・誰に(主体者・対象者・担当・役割)
  • What      なにを・なにが(目的・目標・用件)
  • Why       なぜ・どうして(目的・理由・根拠・原因)
  • How       どのように(方法・手段・手順・様態・様子)
  • How many    どのくらい(程度・数量)
  • How much    いくら(価格・費用)

上司になにか報告をしたようなときに、「それってどういうこと?」「ちょっとわからないところがあったんだけど」などと聞き返される場合は、たいていこの「5W3H」のどれかが抜けています。

会話であればこの上司のようにすぐに質問されるでしょうから、その場で不足分を補うこともできます。しかし、文章の場合はそうはなりません。たとえば、新サービスの案内メールを受け取った取引先が興味をもってくれたのに、そのサービスの開始日時が漏れていたとしたら、わざわざ問い合わせてくれる人は少数派でしょう。そうして、せっかくのチャンスを逃してしまいます。

もちろん、コミュニケーションの内容によって「5W3H」のすべてを埋められないケースもありますが、埋めれば埋めるほど伝える内容が具体的になり、確実に相手に伝わりやすくなります

相手に「どういうこと?」と聞かれる人に欠けている「5W3H」について語る山口拓朗さん

思考を深めて意見の説得力を増す「なぜ→たとえば」メソッド

伝える内容を具体化するふたつめの方法が、「2. 『なぜ→たとえば』メソッドで具体化する」というものです。これは、最初に思いついたざっくりした意見や感想を、「なぜ?」「たとえば?」と自問することで具体化していくシンプルなメソッドです。

会議の場で、A、B、Cの3つの案のうちA案に賛成するとします。どの案に賛成するかは人それぞれですが、ここで重要なのはなぜA案に賛成するのかという理由です。その理由を示して初めて、周囲が納得するかどうかが決まるからです。つまり、結論と理由はセットでなければならないのです。「なぜ?」の理由を言えなければ、「なにも考えていない」と思われても仕方ありません。

あなたが営業担当者だとします。お客さまに商品のミネラルウォーターを紹介する商談で、「この水、すごくいいんですよ」と言うと、相手から「どうしてですか?」と聞かれました。「いやいや、いいものはいいんです」では商談は進展しませんよね。そこで、「なぜ?」に対して「富士山のふもとで採取した水で健康効果が高いからです」と言えたなら、相手が興味を示してくれる可能性は高まります。

加えて「たとえば?」と自問すれば、思考がさらに深まり、言葉の説得力が増していきます。このケースなら、「たとえば?」と自問して「ミネラル成分が豊富で、病気で体調を崩していた人が飲み続けたら回復した」「デトックス作用や脂肪燃焼促進作用があり、ダイエット効果も期待できる」といった健康効果の具体例を示せたら、商談相手に対する説得力はさらに増します。

言葉のなかには、思考をリードする働きをもつものがあり、「なぜ?」「たとえば?」もそういった類の言葉です。「なぜ?」「たとえば?」と自問すれば、自然と「理由」「具体例」を考えることになりますから、「なぜ?」「たとえば?」と自分に問いかけるのを習慣にしていきましょう。そうすることで、みなさんの具体化力は大きく向上していくはずです。

曖昧な表現を「伝わる表現」にするふたつの方法についてお話しくださった山口拓朗さん

【山口拓朗さん ほかのインタビュー記事はこちら】
ビジネスで「言いたいことが伝わらない」をなくす。「使える語彙」を身につけ言語化力を上げる方法
1文は長くても60〜70字に収める。言葉が相手に届く、「伝達力」を磨くテクニック

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