1文は長くても60〜70字に収める。言葉が相手に届く、「伝達力」を磨くテクニック

文章を作成している様子

同じことを伝えるにも、相手にうまく伝えられる人もいれば、そうでない人もいます。その違いを生んでいるのは、「伝達力」です。「伝える力【話す・書く】研究所」所長の山口拓朗さんは、「相手の知識などによって使う言葉を変えるなど、より相手に伝わりやすくなるように工夫する力」こそが伝達力だと言います。どのような工夫をすれば、伝えたいことをしっかり相手に届けることができるのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子

【プロフィール】
山口拓朗(やまぐち・たくろう)
1972年生まれ、鹿児島県出身。伝える力【話す・書く】研究所所長。山口拓朗ライティングサロン主宰。出版社で編集者・記者を務めたのち、ライター・インタビュアーとして独立。27年間で3800件以上の取材・執筆歴がある。現在は、執筆や講演、研修を通じて「論理的に伝わる文章の書き方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「売れる文章&コピーのつくり方」など、言語化やアウトプットの分野で実践的なノウハウを提供。2016年からアクティブフォロワー数400万人の中国企業「行動派」に招聘され、北京ほか6都市で「Super Writer養成講座」を23期開催。『苦手なまま会話術』(大和書房)、『「感じのいい」ビジネスメール』(永岡書店)、『1%の本質を最速でつかむ理解力』(日本実業出版社)、『マネするだけで「文章がうまい」と思われる言葉を1冊にまとめてみた。』(すばる舎)など著書多数。中国、台湾、韓国など海外でも20冊以上の著書が翻訳されている。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

どんな場面でも「相手が理解しやすい言葉」を使う

自分が伝えたいことがどれだけはっきりしていても、その伝え方によっては相手にきちんと思いを届けられません。わかりやすい例が、医師ではないでしょうか。医師ですから、診察をしたら患者に伝えたいことは明確に認識しているでしょう。

ところが、患者からするとなにを言っているのかわからない、いわば患者に優しくない医師もいます。一方、医療の専門知識をもたない患者の目線に合わせて、わかりやすい言葉を選んで症状や治療法を丁寧に教えてくれる医師もいます。

両者の違いを生んでいるものこそ、「伝達力」です。伝達力とは、同じことを伝えるにも相手の知識などによって使う言葉を変えるなど、より相手に伝わりやすくなるように工夫する力を指します。

伝達力を上げる原則のひとつは、先の医師の例のように、「相手が理解しやすい言葉を使う」ことでしょう。医師が患者になにかを伝えるときと同じように、たとえば上司が部下に指示を出したり指導をしたりするときにも、部下にわかりやすい言葉を使う必要があります。

ビジネスパーソンとしての経験が長い上司のほうが、部下より多くの知識や言葉をもっている可能性は高いですよね。部下に対してもつい自分の言葉で伝えようとしがちですが、その言葉は部下に理解できないかもしれません。よって、部下のレベル感に合わせて言葉を選ばなければならないのです。

専門性が高い業界にいる人ならなおさらでしょう。専門性が高いということは、一般の人が知らない専門知識や専門用語が多いということです。その業界内の人だけと仕事をするのなら問題ありませんが、業界外の人たちと協働するようなプロジェクトでは、言葉のチョイスに注意しなければなりません。

いろいろなシチュエーションが考えられますが、いずれにせよ、どんな場面でも相手が理解しやすい言葉を使うことを強く意識してほしいと思います。

どんな場面でも「相手が理解しやすい言葉」を使うことについて語る山口拓朗さん

「一文一義」を意識して、1文を長くても60〜70字に収める

また、伝達力を上げる原則には、「1文を長くても60〜70字にする」というものもあります。これは、「ひとつの文にひとつの情報だけを盛り込む」という「一文一義」を徹底するためです。日本語は、文末に「。」がつきます。そうしてひと区切りをつけることで、相手は読んだり聞いたりした情報を「こういうことか」と整理できるのです。

でも、なかには「、」を繰り返してだらだらと長い文章を書いたり長く話し続けたりする人もいます。相手からすると話の最初のほうの内容も覚えておかなければならないために脳のリソースが無駄に割かれ、情報を整理できずにわかりにくさが生まれます。

そのような事態を避けて相手に伝わりやすい内容にするために一文一義を心がける必要があり、その目安がだいたい60〜70字なのです。70字を超えるようなら、「文を分けることはできないか?」「余計な話を入れたり無駄な修飾語を使ったりしていないか?」とチェックし、修正しましょう

また、テクニカルな部分で言うと、「大事なことは繰り返す」という方法も有効です。「最初に結論から伝える」というテクニックもありますが、その肝心な結論も相手に忘れられたら伝わらなかったのと同じですよね。

そこで、「繰り返しになりますが」「くどいかもしれませんが」などと前置きし、最も重要な結論を最後に繰り返しましょう。相手からすれば印象に残りますし、「これが言いたいことなんだな」と理解できます。

「一文一義」を意識して、一文を長くても60〜70字に収めることについて語る山口拓朗さん

相手は基本的に「自分が聞きたいこと」しか聞かない

最後にお伝えしたいのは、「ベネフィットを伝える」ということ。ベネフィットとは、「顧客にとっての、その商品やサービスの利点」を意味するマーケティング用語です。人は、商品やサービスの細かい特徴よりも自分にもたらされる利点を知りたいと考えているため、ベネフィットを顧客にきちんと伝えるのはビジネスにおいて重要です。

そして、これは普段のコミュニケーションにも言えます。人は、基本的に自分が聞きたいことしか聞こうとしないのです。そうであるなら、情報発信する側としては、相手が欲しがる言葉を差し出す必要があるというわけです。

この重要性を認識したのは、私の失敗からでした。妻とまだ結婚する前、誕生日プレゼントとして彼女に緑色のつぼを贈ったことがあります。でも、彼女はよろこんでくれませんでした。彼女が好きな北欧インテリアを扱うショップで選んだので店のチョイスは悪くなかったと思うのですが、彼女のニーズはまったく満たせていなかったのです。

彼女からは、「これからもあなたと付き合っていきたいからはっきり言うけど、プレゼントは私が欲しいものをちょうだい」と言われました……(苦笑)。その言葉はいまだに私にとって重要なもので、その経験が、文章を書くときも話をするときも「相手が求めているものを提供しなければならない」と教えてくれたのです。

彼女の気持ちを考慮せず緑色のつぼを贈った私のように、自分が伝えたいことだけを伝えても、こちらが思うようなかたちで相手が受け取ってくれるとは限りません。自分の希望と同時に相手にとってのベネフィットを伝えなければ、相手の心には響かないのです。

言葉が相手に届く、「伝達力」を磨くテクニックについてお話しくださった山口拓朗さん

【山口拓朗さん ほかのインタビュー記事はこちら】
ビジネスで「言いたいことが伝わらない」をなくす。「使える語彙」を身につけ言語化力を上げる方法
「具体化」できなければ伝わらない。曖昧な表現を「伝わる表現」にするふたつの方法

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