朝の会議で上司に質問され、「うまく答えられなかったな」と少し引っかかる。
商談後にふと、「もっといい提案の切り口があったのでは?」と考え直す。
――そんな「もやもや」を抱えたまま、一日が過ぎていく。
仕事のなかで生まれる小さな疑問や違和感。それらはたいてい、忙しさのなかに流され、数日後には忘れられてしまいます。
でももし、その「もやもや」を記録し、あとで見直し、アイデアに変えることができたら――日々の業務から、思考の深まりと発見を生み出す習慣が身についたらどうでしょう?
この記事では、天才たちのノート習慣に学びながら、ビジネスパーソンが実践できる「知識アーカイブ術」をご紹介します。
キーワードは、「蓄積」よりも「再活用」――ノートは進化の場になりうるのです。
偉人に学ぶノート習慣——天才の思考はノートに宿る
「賢い人になりたい」と思ったとき、私たちは何をすべきなのか――そのヒントは、「すでに賢さが証明されている人たち」の習慣にあります。
歴史に名を残す多くの偉人たちが「メモ魔」「ノート魔」だったことをご存知でしょうか? たとえば、レオナルド・ダ・ヴィンチは思索をスケッチと文章で残し *1、哲学者パスカルは断章的な思考の記録『パンセ』を残しました。*2
そして、発明王トーマス・エジソンは生涯で3,500冊以上ものノートを遺し、どう着想して、発展させ、実現していったのかを詳細に示したといいます。*3
そうしたなか、世界で最も高く評価されている創造性の専門家 Michael Michalko 氏は、エジソンの創造的思考戦略をふまえ、以下の創造的思考習慣を養うようすすめています。*3
- たくさんのアイデアを出す(量重視)
- 前提を疑う(思い込みが入らないよう)
- 自分と他者のアイデアをノートに記録する
- 自分と他者の失敗から学ぶ(無駄なものはない)
- 自分と他者のアイデア等を改善する方法を常に探す
ビジネスパーソンにも使える!エジソン流「知識アーカイブ術」
そこで筆者は、前項で紹介した創造的思考習慣を、仕事における学びに応用したらどうなるか考えてみました。
特に注目したのは、「アイデアを記録する、前提を疑う、改善方法を探す」といった一連の「思考の進め方」としての習慣です。
この流れは、単なるメモではなく、思考を深めて育てるプロセスともいえるのではないでしょうか。
そうして、ビジネスパーソンが日常の業務に無理なく取り入れられるよう、3ステップに整理してみたのが「知識アーカイブ術」です。情報をただ蓄積するだけでなく、あとで「育てて使う」ことを前提にしています。
各ステップを説明しましょう。
ステップ1. 毎日ひとつ問い、仮説を書き出す
仕事で気になったこと、違和感をもったことを「問い」として書き出す最初の工程です。まずは習慣づけるために、毎日ひとつの「問い」を目指します。
ステップ2. 書いた問い・仮説を、視点を変えて見直す
次に、「前提を疑う」「ほかの人ならどう考えるか」「逆にしてみたら?」という視点で、書いた内容を再チェックしてみます。
ステップ3. 自分なりの「改良案」を出してみる
仮説やアイデアに対して、「どうすればよくなるか?」を考えて書き加えます。
前出のMichalko 氏がアイデア発展のフレームワークとして取り上げているので *3、「SCAMPER」(以下【7つの質問】)を活用するといいかもしれません。*4
【7つの質問】
1.Substitute(置き換える)
2.Combine(組み合わせる)
3.Adapt(適応させる)
4.Modify(修正する)
5.Put to other uses(転用する)
6.Eliminate(取り除く)
7.Reverse or Rearrange(逆転する・再構成する)
このチェックリストを使って、問いや仮説にあれこれ「つっこみ」を入れていくと、自然と新しい切り口や可能性が見えてくるはずです。
「知識アーカイブ術」をシミュレーションしてみた
では実際に、どのようにして「知識アーカイブ術」を実践すればよいのか、具体的に考えてみました。
以下は、コンサルタント職の場合のシミュレーションです。
ステップ1:問いと仮説を書き出す
プロジェクト中に生まれた違和感や課題を「問い」として記録し、自分なりの仮説を添えておきます。
- 問い:なぜクライアントA社は、データ活用の重要性を理解しているのに実行に移せないのか?
- 仮説:
- 部署をまたいだ意思決定の流れが不明確
- 現場の実行スキルが足りない
- 投資対効果(ROI)を可視化するためのデータ基盤がない
- 補足メモ:部門間で意見が割れ、過去の失敗経験が影響している可能性
ステップ2:視点を変えて見直す
別の視点から「問いと仮説」を再検討します。
- 前提を疑う:実は「やりたくない」が本音? 惰性や失敗体験が前提になっているかも
- 他者視点:経営層は優先順位の問題 / 現場はリスク回避に動いている?
- 逆転思考:「成果を先に見せて動機づける」設計のほうが効果的かもしれない
ステップ3:SCAMPERでアイデアを発展させる
SCAMPER法を使って、仮説や施策を改良・展開してみます。
- Substitute(置き換える):
数字ではなく、他社事例で納得感を出す - Combine(組み合わせる):
業務改善ワークショップとセットで提案 - Adapt(適応させる):
小売業の事例を製造業に応用 - Modify(修正する):
短期スケジュールに変えて成果を早く見せる - Put to other uses(転用する):
出たアイデアを他部署でも使えるかたちに整理 - Eliminate(取り除く):
事前分析を省き、小さく試せるかたちで先に動き始める - Reverse or Rearrange(逆転する・再構成する):
「背景→理由→提案」ではなく、「成果→理由→背景」の順で経営層向けに伝える
ノートが、あなたの「第2の脳」になる
今回のシミュレーションを通して感じたのは、「知識アーカイブ術」が単なるメモ法ではなく、「思考の構造化と発展」を促すフレームとして機能するという点です。
問いや仮説を書き出すことで、頭のなかで漠然としていた違和感や未整理の気づきが、明確な言語としてかたちになります。
さらにそれを、視点を変えて見直し、SCAMPERを用いてアイデアを広げるプロセスを加えることで、思考が「点→線→面」へと展開していく感覚がありました。
この一連のプロセスは、情報のストックではなく、「意味づけと再利用のための記録」に近いものです。
つまり、ノートは記録を残す場所であると同時に「第2の脳」として機能しうるのです。その可能性を、シミュレーションながら強く実感しました……!
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ノートに考えを残すという行為は、一見すると地味で時間もかかります。けれど今回のシミュレーションを通して見えてきたのは、この小さなプロセスのなかにこそ、自分の思考を深め、再利用するための土台があるということです。
複雑で変化の速い現代のビジネスシーンでは、ひとつの課題に対して、即座に答えを出すことよりも、「なぜそう感じたか」「別の見方はできないか」と問い直せる力のほうが、むしろ重要になりつつあります。
知識アーカイブ術は、そうした「問い直す力」を自然と育ててくれる手段です。ノートを使って、自分の思考のかけらを拾い集め、あとで使えるかたちに整えておく——
そんなシンプルな習慣が、思考の幅や視野、そして提案の質に影響を与えるはずです。ぜひ一度、試してみてください。
*1: ダイヤモンド・オンライン|「知の怪物」ダ・ヴィンチはなぜ膨大なメモを残したのか?
*2: ダイヤモンド・オンライン|【哲学を要約】パスカル「人間は両極端の中間にいることでしか生きられない」の真意
*3: Think Jar Collective|Thomas Edison's Creative Thinking Habits
*4: 三菱UFJリサーチ&コンサルティング|SCAMPER法
STUDY HACKER 編集部
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