かつては「会社に指示された業務だけをこなしていればいい」という時代もありましたが、その考えは通用しない時代になりました。テクノロジーの進化とともに業務内容も高度化し、転職市場のなかで自分の人材価値を高めることが求められるなか、意欲的なビジネスパーソンの頭のなかは、やりたいことややるべきことでいっぱいになっています。そのような「なにから手をつけていいかわからない」状態を脱するために「付箋」を使うことをすすめるのは、メンタルコーチの平本あきおさん。社会人のモヤモヤを解消する付箋術を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
平本あきお(ひらもと・あきお)
1965年12月4日生まれ、兵庫県出身。アドラー心理学修士/メンタルコーチ。カウンセリング・コーチング・瞑想のプロ。米国アドラー大学院修士号取得(Adler University M.A. in Counseling Psychology)。東京大学大学院教育学研究科修士号取得(臨床心理)。オリンピック金メダリスト、メジャーリーガーなどのトップアスリートや有名俳優、上場企業経営者をコーチング。産業、医療福祉、教育、政治、芸能など各業界のリーダーや、起業家もサポート。11万人以上に研修。米国イリノイ州シカゴにて、アドラー大学院修士号(Adler University M.A. in Counseling Psychology)取得。東京大学大学院教育学研究科修士(専門は臨床心理)。大学卒業後、病院での心理カウンセラーや、福祉系専門学校の心理学講師を歴任。1995年阪神淡路大震災で両親を亡くしたことを機に、一念発起して渡米。アメリカでは、小学校や州立刑務所、精神科デイケアなどに、コーチングを初めて導入した。2001年ニューヨークテロ直後、日本に帰国し起業。「人が幸せになる、科学的で体系的な方法を見つけたい!!」10歳から探し求め、世界中の心理学、カウンセリング、コーチング、瞑想を統合し、包括的で再現性のあるオリジナルメソッドを30年以上かけて開発。「みんなにとって、本当はどうなったらいい?」目的論コミュニケーションでチャレンジを応援し合う社会を目指し、「自分と周りの人たちを幸せにする人生のリーダー」を育てる平本式3か月コースを主催。自己変革、組織変革、社会変革のための『人生変革メソッド』を伝え続ける。研修導入企業:ソフトバンク、本田技研工業、三菱UFJ銀行、富士通、旭化成、大和ハウス工業、他数100社。
頭のなかにあるものをすべて書き出し、整理する
比較的自由に時間を使えていた学生時代とは異なり、社会人の場合は多くの時間を仕事に割かなければならず、時間に追われている状態にあります。そんななか、やりたいこともやるべきことも山積みになっていて、なにから手をつけていいかわからないまま時間だけが過ぎていくというのは、多くの人が経験しているはずです。
このようなとき、頭のなかはまったく整理できておらずぐちゃぐちゃになっています。特に、情報過多社会とも言われる現代は、そういう状態を招く危険性がより増しているでしょう。
会社の上司や先輩から「こういう勉強もしたほうがいいよ」と言われるだけでなく、インターネットを介して大量の情報が入ってくるなかで、「こういうこともしてみたい」「将来のためにこれはやっておかなければ」と思うことが、かつてよりはるかに増えているからです。
そこで、「付箋」を使って頭のなかを整理してみましょう。まずは、仕事に限らずプライベートも含め、やるべきことややりたいこと、気になっていることなどをとにかく付箋に書き出していきます。そうするだけでも、頭のなかにあるものが見える化できますから、気持ちはずいぶんとすっきりします。
そして、書き出した付箋を眺めていると、「これは絶対に最優先でやらなければならない」「これはいますぐに焦ってやることでもないな」など、頭のなかにあったときには気づかなかったことも見えてきます。そうして優先順位をつけることで、「なにから手をつけていいかわからない状態」を脱することができるのです。
書き出すだけなら箇条書きやマインドマップでもできますが、付箋の場合は動かせるという点が大きな特徴です。優先順位の高いものは上に移動させる、必要ないと判断したものは捨てるなどすれば、取り組むべきことをより明確に認識できるはずです。
重要な決断をする場面でも、付箋術は有効
この付箋術は、あらゆる決断の場でも有用です。進学、就職、転職、結婚、転居など、長い人生には決断を迫られる場面が数多く存在します。そういったときに悩んで決断できないのも、頭のなかを整理できていないからです。
ビジネスパーソンが転職を考えているケースを例に考えてみましょう。まずは、転職をした場合のメリットとデメリットを思いつくままにすべて付箋に書き出し、それぞれを別の紙に貼りつけます。
それらを眺めていると、自分なりの気づきが必ずあるはずです。たとえば、メリットにもデメリットにも給料や休暇について書いていることが多ければ、仕事に関して待遇面が重要だと自覚できます。
それだけでも自分が気になっていることがはっきりしますから、頭のなかはずっとクリアになるでしょう。その人にとっては、転職で失敗しないために、待遇面が譲れないポイントだと意識できるようになになるからです。
「自分軸」を見つければ、転職の成功確率が上がる
いま現在は転職市場が活況ですから、転職について考えるケースについてもう少し踏み込んで解説していきます。転職のメリットとデメリットを挙げるときには、先ほど例に挙げたように、待遇面ばかりを考えがちです。誰でも、たくさんの給料がもらえて休暇も多いほど嬉しいですからね。
待遇面も大切な要素であるのはたしかです。40代や50代の人なら、「子どもを育てるために給料は絶対に下げられない」といったこともあるでしょう。しかし、これまで数多くのビジネスパーソンと接してきたなかで私が実感しているのは、20代など若い世代ほど、待遇面ばかりを優先して転職した結果、後悔している人がたくさんいるということです。
そこで、待遇面とは異なる基準、いわば「自分軸」を見つけてほしいと思います。そのためには、転職のメリットとデメリットではなく、いまの勤務先も含めてこれまで働いてきたなかで、「すごく嬉しかったこと」と逆に「すごく嫌だったこと」を付箋に書き出していきます。ここでのポイントは、なるべく具体的なエピソードを書くことです。そうすると、自分軸が見つけやすくなります。
たとえば、すごく嬉しかったこととして「会社にとってもチャレンジングな企画だったのに、自分に任せてもらえた」というものを挙げたとしたら、「若手にも大きな仕事を任せてくれる社風」といったものが自分軸と見ることができます。
あるいは、すごく嫌だったこととして「自分の成果は上司の手柄になるのに、自分がミスをしたときは責任を押しつけられた」というものを挙げたのなら、「適切な評価体系」とか「信頼できる上司」といったものが自分軸かもしれません。
そういった自分軸が見えてくれば、「御社の評価体系はどのようになっていますか?」など、面談において確認すべきポイントも明確になりますから、それだけ転職で成功する確率が高まります。
【平本あきおさん ほかのインタビュー記事はこちら】
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重要なタスクがひと目でわかる! ビジネスパーソンのための「付箋カレンダー術」
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。