「リーダー」と言うと、どのような人が頭のなかに思い浮かぶでしょうか? リーダーは「先導者」「統率者」という意味ですから、ぐいぐいと部下を引っ張っていく、いわゆる外向型の人がイメージしやすいかもしれません。しかし、そんな一般的なイメージをよそに、いまの時代には「内向型のリーダーこそが求められている」と言うのは、脳科学者としての知見を活かしてさまざまな研究をする西剛志さん。そう言える理由に加えて、内向型の人がチームをまとめるためのコミュニケーション・テクニックについても解説してくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
西剛志(にし・たけゆき)
1975年4月8日生まれ、鹿児島県出身。脳科学者。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、才能を引き出す方法を紹介し、企業から教育者、高齢者、主婦などを含めてこれまで3万人以上に講演会を行なう。『ザ!世界仰天ニュース』『カズレーザーと学ぶ。』(ともに日本テレビ)、『モーニングショー』(テレビ朝日)などテレビ出演も多い。2019年、『脳科学的に正しい 一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)で著者デビュー。『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)は20万部のベストセラーに。ほかに『世界一やさしい自分を変える方法』『見るだけで自然に脳が鍛えられる35のすごい写真』(ともにアスコム)、『脳科学者が教える「やりたいこと」の見つけ方』(PHP研究所)、『認知バイアスの教科書』(SBクリエイティブ)など著書多数。
内向型のリーダーこそが、いまの時代に求められている
かつての日本の企業社会には、外向型の性質をもったリーダーが多く存在しました。会社の指示こそが絶対であり、その指示を部下たちに確実に伝え、ぐいぐいと引っ張っていく必要があったからです。このような外向型のリーダーは、いわゆるトップダウン型のリーダーです。
しかし、時代は大きく変わりました。いまの時代に求められているのは、トップダウン型とは対照的に、下からメンバーを支えるようなボトムアップ型のリーダーです。価値観の多様化が進み、しかも人手不足が大きな社会問題となっているなか、「指示通りにやれ」というトップダウン型の指導だけをしていては、若いメンバーはすぐに会社を辞めてしまいます。
そこで、チームのメンバーそれぞれの意見を尊重し、メンバーをサポートするようなボトムアップ型のリーダーが求められるようになったのです。そして、このボトムアップ型のリーダーに向いているのが、内向型の性質をもった人です。なぜなら、内向型の人は他人に共感する能力が高いことが近年の研究でわかっているからです。メンバーをサポートするボトムアップ型のリーダーにとって、共感力は不可欠のスキルです。
ただ、内向型の人でもまったくの無策であれば、メンバーの力を最大限に引き出す有能なリーダーになるのは難しいでしょう。そこで、内向型の人に特に有効な、メンバーとのコミュニケーション・テクニックをいくつか紹介していきます。
相手との心理的距離を縮める「リフレクティブ・リスニング」
「メンバーと会話をしても盛り上がらない」という悩みは、内向型のリーダーの多くが抱えるものです。内向型の人は、思考を司る脳の前頭前野という部分が外向型の人よりも発達しており論理的思考が習慣化しているため、目的のない行動を苦手とします。そのため、雑談が無駄に思えてしまい、メンバーとの距離を縮められないことも少なくありません。
そこで試してほしいのが、「リフレクティブ・リスニング」というテクニックです。「反射的傾聴法」とも呼ばれ、心理学の研究でも、コミュニケーション相手との心理的距離を縮めることができると立証されています。
やり方は難しくなく、「相手が言ったことをそのまま反射して返す」だけです。いわゆる、オウム返しと呼ばれるものであり、たとえば、こんな具合です。
メンバー「ハイキングに行って、すごくリフレッシュできましたよ。自然のなかを歩くのも久しぶりでしたから」
リーダー「ハイキングに行ってリフレッシュできたんだ。それはよかったね。自然のなかを歩くのは久しぶりだったの?」
メンバー「忙しくてなかなか時間がとれませんでしたから。半年ぶりくらいですかね。でも、思いきって出かけて正解でした」
リーダー「確かにいま忙しいもんね。でも、正解だった」
メンバー「はい。夏でも都市部に比べて涼しかったですし」
たったこれだけのことですが、メンバーからすると「自分の言葉をきちんと聞いてくれ、自分を理解してくれている」「自分に寄り添ってくれている」と感じ、安心感を得ることができます。そうして、メンバーとの心理的距離が縮まるのです。
命令ではなく「問いかけ」でメンバーを動かす
また、「指示を出すのが苦手」というのも、内向型のリーダーが抱えがちな悩みです。リーダーとしてメンバーを適切に動かして協力を得ることができなければ成果を生むのが難しくなりますが、内向型の人は控えめであるがゆえに頼み事を苦手としているのです。
そこで、私が「ピグマリオン・クエスチョン」と名づけたテクニックを使ってほしいと思います。これは、「他人から期待されると、その期待に応えようとする心理的効果」である「ピグマリオン効果」を活用したものです。
たとえば、指示待ちの傾向があるメンバーに、「自分で考えて動けるようになってほしい」というメッセージを伝えるとします。内向型のリーダーが、「自分で考えて動け」と強い命令形で伝えるのは難しいでしょう。でも、内向型のリーダーでも相手に問いかけることは抵抗なくできます。
このケースなら、「あなたは、言われなくても自分で考えて動ける人だと思いますか?」とメンバーに問いかけるのです。1on1ミーティングなどでいきなり言われるとメンバーも面食らうかもしれませんが、日常会話のなかでさらっと投げかけてみましょう。
人間には、よりよい選択肢、自分がそうなりたいと思う選択肢を選ぼうとする心理があります。わざわざよくない選択肢を選ぼうとする人はいません。そのため、先の問いかけに対して、「はい、もちろんです」「場面にもよりますが、どちらかと言うとそうだと思います」といった答えが返ってくる可能性が高いのです。
そして、そのように返答をした時点で、メンバーの脳は「言われなくても動いている自分」を想像し、「そのイメージに自分を近づけていこう」「言われなくても動いている自分になろう」とするのです。リフレクティブ・リスニングもピグマリオン・クエスチョンもシンプルなテクニックですが、その効果は絶大だと言えます。
【西剛志さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。