「やる気が出ない……」
「いつも疲れている……」
「仕事が面倒くさい……」
このように、エネルギー不足が続いている感覚はありませんか。
その原因は、毎日脳ばかり稼働させて、体をほとんど使っていないから。パソコンで仕事をする、スマートフォンに夢中になる――脳は常に多忙なのに、体はいつも静止状態ではないでしょうか。
脳は、体をケアしなければうまく働きません。スマートフォンの充電のように、脳もまた、活発に働くためには定期的なチャージ(充電)が必要なのです。今回は、日常生活のなかでできる脳を回復させる方法をご紹介します。
「たった10分の軽い運動」で頭が冴えわたる
毎日、運動をしていますか。おそらく多くの人が、「さすがに毎日やる時間なんてない」と回答するのではないでしょうか。
運動と聞くと、学生時代のきつい部活動や、ジムでの激しいワークアウトなどを思い浮かべるかもしれませんね。でもじつは、負荷がそれほど高くなくても、1日たった10分の軽い運動で脳にいい影響がもたらされることがわかっています。これを証明するのが、カリフォルニア大学アーバイン校と日本の筑波大学の学者チームによる研究です。
被験者の学生36名に、固定自転車のペダルを10分間ゆっくり漕ぐというきわめてゆるい運動をしてもらい、記憶力を必要とするテストを受けてもらいました。その結果、運動をしなかったときと比べて高い記憶力を発揮したそう。しかも、テストの難易度が高まるほど、運動をしたときとしなかったときの差が著しく現れたのだとか。
たった10分間の軽い運動でも脳に効果があるのであれば、少しの工夫で日常生活に取り入れられそうですよね。仕事の休憩時間に10分間ジョギングしたり、通勤にウォーキングを取り入れるためにひと駅歩いたりするのもよいかもしれません。ほんの10分間の軽い運動を毎日の習慣にすれば、体もすっきりし、頭も冴えた状態で仕事ができるのではないでしょうか。
「自然に触れる」と脳機能もメンタルも回復する
ミシガン大学の研究によると、市街地を歩いた人と公園を歩いた人に認知テストを受けてもらったところ、後者のほうが成績が20%高かったそう。自然に触れることで心が落ち着き、頭が冴えるのです。
自然を歩くときは、注意をどこかに集中させる必要がない。行く手を阻む障壁(混雑した交差点など)がほとんどないし、興味深い刺激で頭が適度にいっぱいになるから、積極的にどこかに注意を向けようとしなくなる。この状態が、集中力の回復を助けるのだ。
(引用元:カル・ニューポート(2016),『大事なことに集中する―気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』, ダイヤモンド社. )
また、自然と触れ合うことは、脳機能だけでなくメンタルヘルスにもよい影響を与えます。国立研究開発法人森林総合研究所の研究によると、森林浴には次のような効果があるそう。
- 脳の前頭葉の活動が沈静化:体がリラックスした状態になる
- 交感神経活動の抑制と副交感神経活動の昂進:体がリラックスした状態になる
- ストレスホルモン「コルチゾール」の濃度低下:ストレスを感じなくなる
- ナチュラルキラー細胞の活性:体の免疫力が高まる
たまには自然が豊かな場所に出かけてみてはいかがでしょうか。森林総合研究所の香川隆英博士によると、森林浴をしたい場合、芝生広場だけの狭い公園は、騒音や排気ガスといったストレス源が近いため、あまり好ましくないとのこと。理想は、小一時間程度で散策できる広さの森や公園だそうですよ。
「瞑想」で脳の厚みが増す
瞑想には、短期記憶と関連があるワーキングメモリの容量を増やし、集中力の持続を高める効果があります。カリフォルニア大学の研究によると、1日たった10分の瞑想を2週間続けた学生たちのGRE(大学進学のための共通テスト)の言語スコアが、460点から520点に上がったのだそう。
さらに、瞑想をすると脳のある部位が厚くなるということも判明しています。ハーバード大学、イエール大学、マサチューセッツ工科大学の共同研究によると、瞑想に熟練している人と瞑想していない人の脳をMRIで比べると、瞑想している人のほうが、大脳皮質の注意と知覚をつかさどる部位の厚みが増していたのだとか。瞑想は、たった2週間でも効果が出るうえに、長期的に見ても脳に大きなメリットを与えるようですね。
瞑想は、静かな部屋で決まった時間やらなければならないというイメージがあるかもしれません。しかし、オーストラリア有数の瞑想・マインドフルネス講師であるティム・ブラウン氏ブいわく、瞑想に必須な時間や場所はないのだそう。重要なのは、瞑想を完璧に行なうことではなく、瞑想の効果を得ること。時間や場所が確保できないから今日はやらない、明日もやらない……となってしまえば意味がありません。
まずは、瞑想を日常のなかに組み込み、少しずつその効果を得ていくことが大切です。たとえば、仕事の休憩時間に目を閉じ、自分の呼吸に意識を向けてみるのもひとつの方法。「時間がないから」「難しそうだから」と言わず、気軽に試してみてくださいね。
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体をおざなりにして、脳ばかりを酷使していませんか。日常生活のなかに、ほんの数十分の運動・瞑想を組み込み、たまには自然と触れ合うことで、脳をしっかり充電しましょう。そうすれば、フレッシュな頭で仕事に挑めるようになるでしょう。
(参考)
朝日新聞GLOBE+|ほんの10分の軽い運動でも、脳は活性化する>
カル・ニューポート(2016),『大事なことに集中する―気が散るものだらけの世界で生産性を最大化する科学的方法』, ダイヤモンド社.
Melos|森林浴の効果と方法を、森林総合研究所・農学博士に聞きました
ジェイク・ナップ(2019), 『時間術大全 人生が本当に変わる「87の時間ワザ」』, ダイヤモンド社.
Women’s Health|5 Things Anyone Starting Meditation Needs To Know
【ライタープロフィール】
Yuko
ライター・翻訳家として活動中。科学的に効果のある仕事術・勉強法・メンタルヘルス管理術に関する執筆が得意。脳科学や心理学に関する論文を月に30本以上読み、脳を整え集中力を高める習慣、モチベーションを保つ習慣、時間管理術などを自身の生活に取り入れている。