近ごろ、時間が経つのが速くなった気がする。気づいたらあっという間に1年が過ぎてしまった! そう感じている人はいませんか?
今回は、年をとると時間が経つのが速くなるのはなぜなのか、その理由を探ったうえで、時間の経過のスピードを緩め、限られた時間をより長く楽しむ方法をご紹介します。
年をとると時間が経つのが速くなるってホント?
子供のころは、1日が長く、小学校で1学年終えることが長い道のりのように感じたもの。しかし、大人になってからは、1日どころか1週間さえあっという間! 毎週のように、「ついこの前月曜日になったと思ったら、もうまた次の月曜日が来てしまった」と思うこと、ありませんか?
これは、あなただけではありません。この感じ方は万国共通で、さらには実験でも検証されています。例えば、数十秒から数時間という経過時間を被験者に評価してもらうと、加齢に伴って、より短い時間を報告するようになるのだそう。
年をとると時間が経つのが速くなるのはなぜ?
心理学では過去100年以上にわたり、年をとると時間が経つのが速く感じる理由を解明するための試みがなされています。しかし、いまだはっきりとした答えは出ていないのが現状。
そんな中、オランダのグローニンゲン大学の心理学者、Douwe Draaisma教授は、数々の科学賞や文学賞を受賞した著書『Why Life Speeds Up As You Get Older: How Memory Shapes Our Past(なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか 記憶と時間の心理学)』で、現在その理由として有力だとされている3つの説を紹介しています。
説1. 望遠鏡効果
望遠鏡を使うと、遠くの物でもくっきり見えることで、実際よりも近くにあるという印象を受けますね。何億光年も離れた星なのに、望遠鏡を通してその星がはっきり見えると、なんだか手が届きそうな気がしてきませんか。
これと同様に人は、過去の離れた過去の出来事を、実際よりも近い時間の出来事だと感じやすいのです。例えば「大学の入学式で〇〇君と初めて話した」というような記憶は、昔のことなのに実際の年月よりも最近の出来事のように感じられます。
実験でも、人は過去の出来事に対して実際より最近の日付をつける傾向にあるとわかっているそう。昔起こったことを最近のことのように感じるため、時間が経つのが速くなったと感じるわけです。
説2. レミニセンス効果
臨場心理学では「レミニセンス効果」とは、人は年をとると直前の記憶よりも若いときの出来事のほうの記憶を多く思い出しやすいことを指します。以前の出来事をより多く思い出す傾向にあるので、時間が速く経ってしまったかのように感じるのです。
これには「時間標識」が関係しています。幼い頃、若い頃は、知らないことが多く、毎日が新鮮な驚きに満ちており、印象に残る“初体験”の出来事もあふれていますね。そのぶん時間標識が多いもの。その結果、若い頃は時間が長く感じられるのです。
一方、年を重ねるにつれて次第に新たな感動が減っていき、時間標識も少なくなります。時間標識が少ないほど時間が速く過ぎるように感じるため、年をとると「すぐ一年が過ぎてしまう」と感じるのです。
人生の中で重要な出来事はいつも20代で起こる?
レミニセンス効果を裏づける、18歳以上のアメリカ人対象にした実験結果を見てみましょう。
「国家的にまたは国際的に重要な出来事」を様々な年齢の人に挙げてもらったところ、大恐慌・第二次世界大戦・ケネディ大統領暗殺などの多くの回答があったそう。しかし、被験者の年齢別に回答の内容を分析すると、各年齢層が20代の頃に起きた事柄を挙げていることが判明したのだとか。
どの世代にとっても、世界を揺るがすインパクトのある出来事は20代に起きていたことになります。やはり若い頃の出来事は印象に残りやすいものなのですね。
説3. 体内の生理時計のリズム
生理的なメカニズムとして、人は体温が高いと時間を長く感じるようです。若い頃は代謝が良く、比較的体温が高いので、時間経過を遅く感じます。特に子どもは体温が高いですよね。
一方、代謝は加齢に伴い低下するため、年を重ねると体温も下がってきます。その結果、相対的に実際の時間が加速したように感じられるようです。
千葉大学の心理学者である一川誠教授は、著書『大人の時間はなぜ短いのか』の中で、「同じ1日の間でも、代謝の関係で午前がゆっくりで午後が速く感じられる」と述べています。代謝と時間の経過の感じ方はこんなにも関係しているものなのですね。
時間の経過を遅くするには?
Douwe Draaisma教授は、「レミニセンス効果」と「体内の生理時計のリズム」説が特に有力だと考えているようです。では、時間の流れが速くなるのを止めるには、どうすればいいのでしょうか?
自分の体の老化はそう簡単に止めることができないので、生理時計のリズムを変えるのは難しいもの。定期的に運動をしていたら代謝を保ちやすいのかもしれませんが、基本的には加齢に伴う生理的な現象なので、ある程度仕方ないことでしょう。
一方、レミニセンス効果ならば、その特性を利用して、時間の流れを遅くすることができるかもしれません。そのためには、私たちの「時間標識」を変える必要があります。The British Psychological Societyの心理学者やライターのJessica Stillmanは、時間経過を遅くするために、以下の方法を提案しています。
解決策1. マインドフルネス・瞑想
英国心理学会の学者がまず提案するのは、「今この瞬間に、偏った価値判断を加えることなく、意識的、能動的な注意を向けること」を指すマインドフルネス。そして、マインドフルネスでしばしば用いられるのが「瞑想」。
瞑想をするときは、一瞬一瞬を肌で感じることができます。そしてマインドフルネスを実現することで、ぼんやりと物事をとらえるのではなく、細部まで気にかけ、「今、ここ」に集中できるようになります。
瞑想を通してマインドフルネスの状態を手に入れることで、 「瞬間」を大切にできる人に生まれ変わり、時間の流れを緩やかにすることができるのです。
解決策2. 芸術にふれる
英国心理学会の心理学者は、芸術にふれることも効果的であると述べています。なぜなら、芸術にふれることで感覚が研ぎ澄まされ、目の前のシンプルなことに対して再び敏感になれるから。1日の印象を大きく変える、日常の中の細部に気づけるようになるのです。
例えば、すばらしい生の音楽。例えばオーケストラの生演奏からは、そのときにその場所でしか味わうことのできない、団員の息遣い、儚さを伴った一瞬の美しさが感じられます。
絵画鑑賞も同じ。パッと目を向けただけではわからない、細かい筆のタッチや、画家の魂が込められた描写。急いでばかりいては気づけない、シンプルなものの中に美しさを見出す審美眼を磨くことが可能になります。
その結果、普段の生活の些細なことに気を払い、ちょっとしたことに幸せを感じるようになり、時が速くなる減少に歯止めをかけることができるのです。
解決策3. 具体的な目標を掲げる
普段から目標を掲げ、達成に向けて行動することも有効な手段です。特に「1日の計画」のような、短い期間の目標を設定してみましょう。
忙しい毎日の中でも、その日の終わりに「今日もやるべきことができた」と思えれば、達成感と充実感を感じることができます。その結果、1日1日が存在感のあるものに変わり、人生の時の流れが緩やかになります。
解決策4. 初めてのことに挑戦する
知らない場所へ行き、知らない人に会い、初めてのことに挑戦してみましょう。例えば、海外旅行に初めて行くと、まるで子供時代に戻ったかのように、見たことのない街並みや食べたことのないローカルな料理に驚いてばかりですね。
再び、何もかもが新鮮に感じられる場所に行き、今までやったことのないことにチャレンジすることで、刺激的で楽しい経験ができるだけでなく、時の流れを緩めることもできるのです。
解決策5. いつになっても学び続ける
一生を通して知的好奇心を持ち続けるのも役に立ちます。さまざまな事象に対して関心を持ち、今まで気を払っていなかったことに疑問を投げかけるだけで、生活の細部に対して「なぜ?」「おもしろい」と感じ、毎日がより濃いものに変わります。
また、例えば読書をするとき、本と自分との一対一の関係に焦点を当てることができますね。目の前の対象に集中することで、時間の経過のスピードを緩めることもできようですよ。
*** なぜ年をとると時間が経つのが速くなるのかがわかれば、時間の経過を緩めることもできるようになります。時のスピードを遅くし、限られた時間をより多く楽しむための5つの方法、ぜひ試してみてくださいね。
(参考) Douwe Draaisma(2009),『なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか 記憶と時間の心理学』,講談社. 一川誠(2008),『大人の時間はなぜ短いのか』,集英社. The British Psychological Society|Our growing tendency to “chunk” our experiences could explain why life speeds up Inc.com|New Study: Here's Why Life Speeds Up as You Get Older (and How to Slow It Back Down) Inc.com|5 Ways to Make Time Slow Down