皆さんは、月にどのくらいの本を読んでいますか?
本を読んでスキルアップを図るのはビジネスパーソンにとって重要だとは思いつつも、忙しくてなかなか読み進められない、という人は少なくないはず。また、この1冊がなかなか読み終わらないせいで積読本がたくさん……なんてことに悩んでいる人も多いのではないでしょうか?
そのような人は、何冊もの本を同時に読み進める「並列読書」を実践することで、むしろ読書効率を上げてたくさんの本を読みこなせるようになるかもしれません。ここでは、実際に筆者が並列読書を実践して感じたメリットやそのコツについて紹介したいと思います。
「並列読書」でつかんだ成果
筆者は昔から、2冊の本を同時に読むのが習慣となっていました。必ず、一方が小説、もう一方が実用書です。常に鞄に2冊の本を入れておくことで、出先で時間ができたときにも「今はこっちを読みたいな」と思うほうを手に取ることができるというのが理由です。そのことが、本格的な並列読書を始める際にも橋渡しになったように思います。
本格的な並列読書を始めたのは、大学院入試に向けての勉強の際でした。入試で問われる学問領域は広い範囲に渡っていたため、試験当日までに読みこなさなければいけない学術書の数は非常に多く、最初にリストを作ったときには頭を抱えてしまいました。さらに、読み進めていくにつれて「これも読まなければならない」という本が次々と増え、リストはどんどん過酷なものへと変わっていったのです。しかし、広い範囲の知識が必要なのに、1冊の本にこだわって丸一日かじりつく、ということはできません。
そこで1日の勉強時間を区切って、複数の分野に関する本を並列して処理することにしたのです。そのことが結果的に学習効率を大きく上げ、無事大学院に合格することにつながりました。1冊ずつ丁寧に処理していたら、おそらく合格ラインまで知識が及ばなかったと思われます。
では実際にどのようなメリットを感じたのか、具体的に紹介したいと思います。
並列するからこそのメリット
並列読書の最大のメリットは、知識が広がるスピードが段違いだということです。
知識というのは一本道ではなく、むしろネットワークのように相互に結びつきながら平面的に広がっています。並列読書を行うと、同時に読んでいる本の内容がリンクしたり、時には食い違ったりすることによって、平面的な知識のネットワークが見通しの良い状態で手に入ることになります。
とくに同じ知識や理論が複数の本で登場すれば、ああこれは大事なことだな、とその重要性も認識されますし、反復の効果で記憶にも残りやすくなります。逆に同じ物事に対して全く別の見解が示されていれば、その問題を巡った多角的な視点を獲得し、柔軟な発想や見解を導く手助けにもなってくれます。このような知識の相乗効果というものが、並列読書の最大の魅力です。
さらに、並列読書をすると1冊にのめり込みすぎずに読むことができるので、必要な情報だけ拾い上げる読み方が身につきます。そのことによって、結果的に1冊ずつ読むよりも、1冊の本を処理するスピードが上がっていくのです。
効率が上がる要因として、集中力の限界との関係があります。人間がひとつのことに集中し続けられる時間には諸説ありますが、せいぜい1~1.5時間程度と言われています。個人差もあるでしょうが、あまり長い時間1冊の本を読み続ければ、最後のほうでは集中力も切れ、内容にも飽き、効率が落ちることは避けられません。
なので集中力が切れてしまう前に別の本に移り、新しいテーマを新鮮な気持ちで読むことで集中力の持続を助け、効率を落とさずに読書を進めることが可能になるのです。
この場合、飽きてしまって読み進まなくなった……とか、ついついSNSなどを開いてサボってしまった、などという状況よりも「別の努力に切り替えた」と感じることで罪悪感がなく、モチベーションの維持にもつながります。
このように効率の面でさまざまなメリットのある並列読書ですが、その実践のためにはちょっとしたコツがあります。次に、私自身が実践していたコツをいくつか紹介したいと思います。
並列読書の効果的な方法
並列読書をする際に最も注意するべき点は、選ぶ本の内容です。
最も効率が良くなるのは、近いテーマの本を2冊以上並行することと、違うテーマの本もラインナップに含めることです。
近いテーマの本の中で同じ内容に出会えば、その重要性に気づけるのはもちろんですが、違うテーマの本の中で同じ内容に出会ったときにはさらに「根本的にはつながっているんだ」と強く実感することもでき、知識の網の目がグッと広がることになります。
また、違うテーマの本を混ぜておくことは、1冊に飽き始めたときの切り替えの選択肢として重要にもなりますし、読書を始めようと思ったときに、最も気分に合った1冊を手に取ることができるでしょう。そのときに一番読みたい本を読むというのは、読書の効率のうえで非常に重要なことなのです。
次に大切なのは、なるべく1冊をすばやく処理していくことです。つまり、熟読するのではなく、飛ばし読みや斜め読みを使いながら大雑把に内容をつかむことを心がけるのです。そうすると内容が理解できずに終わるのではないか? と思ってしまうかもしれませんが、実際は違います。読み始める前にその本の主旨や構成をきちんと認識しておけば、飛ばしながら読んだとしても重要な部分はしっかり抽出することが可能です。
具体的な方法としては、本を開いたらまずはまえがき、次に目次、それからあとがきに目を通して「筆者が一番言いたいことは何か」「どこで何を言っているのか」という2点を確認しておきましょう。そうすることで1冊にかじりつかずに並列読書を試みても、飛ばし読みをしていっても、1冊の内容をつかみ損ねることがなくなるはずです。
最後に重要なのは、毎回続きを読み始めるとき、必ず数ページ前から「どのような流れでここに至っているのか」を確認してから続きに進むということです。並列読書をしている限り、続きを読み始める前には必ず他の本に一度集中しているはずです。そうすると、今までこの本では何を言っていたか? ということが記憶から抜け落ち、曖昧になってしまうリスクがあります。
そこで、毎回少し前に戻りながら前回のおさらいをし、その上に続きを積み上げていくことで、知識が途切れるのを防止していくことが重要です。これを繰り返していくと、反復することで本の内容が脳に定着しやすくなる効果もあるため、一石二鳥になります。つまり、1冊を一気に読み切ってしまうより、一度他に移ってからまた戻り、思い出すという行為を通して、知識はどんどん強固になっていくのです。
*** 世の中には数えきれないほどの本が存在していて、そのすべてを読み通すのはどんなに読書家でも不可能です。だからこそ並列読書を通し、最大効率で必要な知識を身につけ、少しでも多くの本に触れていくことが重要なのです。
(参考) 成毛眞 (2008),『本は10冊同時に読め!―本を読まない人はサルである!生き方に差がつく「超並列」読書術』, 三笠書房. Happy Life Style|1冊の本を集中して読まない。 LIG|速読術に頼らない!?本を速く読むための簡単で効果的なテクニック5つ