「座りすぎ」で記憶力が低下する!? 仕事中に取り入れたい、脳機能回復のための3つの習慣

パソコンを前に、長時間座ったままで仕事をするビジネスパーソンは少なくありません。そのため、日ごろの運動不足を解消しようと、ジム通いやジョギング、あるいはウォーキングなどの習慣を取り入れる方も多いでしょう。しかし、最近気になる研究が発表されました。

座り続けていると体の健康だけではなく、脳の記憶機能に悪影響が及んでしまうのだとか。しかも、運動でも帳消しにできないとのこと。その真相と、予防策を探ります。

記憶と関わる脳の領域が、座りすぎで薄くなる

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のPrabha Siddarth氏ら研究チームは、45~75歳までの男女35人を対象に、「座っていること・運動・記憶形成」に関わるさまざまな調査を行いました。参加者に、「過去1週間の“座っていた平均時間”」と「運動の頻度やレベル」について確認し、身体計測や、アルツハイマー病などに関わる「アポリポタンパクE(APOE)」の検査、脳のMRI検査を実施したのです。

その結果、日頃から座っている時間が長ければ長い人ほど、「記憶の形成」に欠かせない脳の領域の皮質が薄くなっていたとのこと。しかも、その脳の領域と、運動強度との間には、相関関係が見られなかったそうです。(米科学誌『PLOSONE』4月12日オンライン版に掲載)

つまり、たとえ日ごろから運動をしている人でも、1日に座っている時間が長ければ、そのダメージを帳消しにできないということです。

座っている際の行動も多少は影響する

ただし、米国ズッカー・ヒルサイド病院のMarc Gordon氏や、研究を行ったSiddarth氏によれば、「座っている間に、何をしているかによって影響は異なるだろう」とのこと。

ただ座ってボーっとテレビを眺めているのと、座っていても、仕事の書類づくりや勉強、文章を書いたりクロスワードをしたり、もしくはコンピューターゲームといった「認知的な活動」をしているのとでは、影響の差が生じるかもしれないというわけです。つまり、後者の悪影響が少ないという可能性ですよね。

とはいえ、これはあくまでも可能性の話であり、両者とも座っている場合の比較です。座りっぱなしが、「記憶の形成」に欠かせない脳の領域に悪影響を及ぼすことに変わりないのです。

なぜ座りっぱなしはいけないのか

では、なぜそんなに座っていることがよくないのでしょう。先述した研究との関連は明らかにされていませんが、通常私たちが立ったり座ったりしていると、脚の筋肉がよく働いてくれます。このとき、筋肉の細胞内では「代謝」が盛んに行われているのだとか。

しかし、座ると脚の筋肉が活動せず代謝機能が鈍くなり、糖や中性脂肪が血液中で増えてしまうそう。さらに長時間座りっぱなしだと、全身の血流が悪化し、血液がどろどろになってしまうのだとか。その結果、病気のリスクが高まるのだそうです。それもこれも、脚の筋肉が全身の代謝機能を支えているからなのです。

座りすぎと健康との関係を研究しているNeville Owen博士は、「長時間座り続けると、体にあるいくつもの重要なスイッチがオフになってしまう」と説明しています。では、職場や学校で、どう予防したらよいでしょう。

座りすぎによる記憶力の低下を防ぐために

『老人と海』で知られる文豪ヘミングウェイは、立ったままタイプライターを打っていたといわれています。健康リスクへの懸念から、企業のスタンディングデスク導入も増えているそう。

座りすぎによる記憶力の低下を防ぐには、こまめに休憩をとり、「立ったり座ったりする」機会を増やす心がけが有用です。可能ならばミーティング等で、参加者に座りっぱなしの健康リスクや記憶力低下の可能性などを伝え、ご自身が所属する部署やチームを巻き込んで、「立ったり座ったりする」活動を習慣化するのがベストかもしれません。

とにかく、座っている時間が連続して長いことが大きな問題であり、座りっぱなしがよくないのは、全身の代謝機能を支える脚の筋肉が活動しないから。したがって、上記以外に個人レベルで行える予防は次の3つです。

1.デスクワークと、デスクワーク以外のタスクを交互に入れる タスクで強制的に立ったり座ったりを実現し、休憩をとるタイミングもつくります

2.社内のビジネスチャットだけではなく、席を立ち対面で話す 代謝機能を高めるだけでなく、会話で脳を刺激することができます。

3.座りながら交互に“かかと”の上げ下ろしをする エコノミークラス症候群の予防にもなるこの運動なら、座ったまま効率よく脚を動かせます。

ぜひ、取り入れてみてください。

*** 座っている時間が長い人は、たとえたくさん運動していてもダメージを帳消しにできないという研究結果がでていますが、だからといって運動が有用性を損なうわけではありません。『脳を鍛えるには運動しかない!』の著者、ハーバード大学医学部のジョン・J・レイティ博士は、「ニューロンの数を増やす効果がもっとも期待できるのは運動」だと説明しています。

大切なのは、「長時間座り続けないこと」です。脚を動かして、元気な脳と体で仕事に勉強に励んでくださいね!

(参考) 健康・医療情報でQOLを高める~ヘルスプレス-HEALTH PRESS|座り続けると脳の記憶機能に悪影響! 認知症の原因は運動不足よりも座ること? Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)|「座りすぎ」は脳にも悪影響、運動でも相殺できない可能性 - NHK クローズアップ現代+|“座りすぎ”が病を生む!? トラベルジェイピー 旅行ガイド|キューバでノーベル賞作家ヘミングウェイゆかりの地を訪ねる! こどもまなび☆ラボ|運動すると頭が良くなる? 運動と脳の関係性 厚生労働省|エコノミークラス症候群の予防のために 阿部和穂著(2017),『認知症 いま本当に知りたいこと101』,武蔵野大学出版会.

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