会議室で頭がぼんやりとする午前10時。パソコンの画面を見つめながら「また今朝も調子が出ない………」とため息をつく。
一方、夕方になるとどんどんアイデアが湧いてきて、周りが帰り始める頃にようやく本調子に。「もしかして自分は、仕事への意欲が足りないのかも………」と自己嫌悪に陥ることも。
こんな経験をお持ちの方、実は夜型なだけかもしれません。
朝型が「効率的」「成功への近道」とされる中で、夜型の人は自分の働き方に自信を持てなくなりがちです。しかし、科学的には夜型ならではのメリットがあり、それを活かした仕事術で、むしろキャリアアップにつなげることができるのです。
本記事では、あなたの夜型体質を「弱み」から「強み」に変える方法をご紹介します。新しい働き方として注目を集める「クロノワーキング」も交えながら、具体的な実践法をお伝えしていきます。
【この記事で分かること】
- 夜型の人が持つ「創造性」という意外な強み
- 夜型の特性を活かした仕事の組み立て方
- 新しい働き方「クロノワーキング」の導入ステップ
- すぐに始められる夜型向け生産性向上テクニック
夜型人間は創造性が高い
一般的に朝型が賞賛される風潮があります。しかし、科学的には、夜型の人にも強みがあると言われています。それは「創造性が高い」ということ。
イタリアのボローニャ大学で1,254人を対象に行われた研究では、夜型の人の特徴が明らかになりました。マルコ・ファブリ氏らの研究チームによると、夜型の人は「朝遅く起きる傾向があり、1日の後半に活動的」という特性を持っているそうです。*1
たとえば、朝7時や8時の起床がつらく感じる、正午を過ぎてから仕事が急にはかどり始める、という経験をお持ちの方は、夜型の可能性が高いといえます。
さらに興味深いのは、夜型の人は右脳型思考が優位だということ。*1 つまり、感情や直感を活かした創造的な発想が得意なのです。この特徴は、新規プロジェクトの企画立案や、クライアントへの提案資料作成の場面で活きてきます。また、問題解決が求められる会議やブレインストーミング、さらにはデザインや設計作業などでも、夜型ならではの発想力を発揮できるでしょう。
このような創造性の高い仕事は、夜型の人が最も集中力を発揮する午後から夕方にかけて行うことで、よりパフォーマンスを高められます。自分の集中力の波を意識して仕事を組み立てることで、夜型という特性をキャリアアップの武器に変えることができるのです。
夜型のデメリットとその対策
夜型には先に述べたようなメリットがありますが、当然デメリットもあります。それは「社会的時差ぼけ」と「疾患リスク」。それぞれご説明していきましょう。
国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部の北村真吾氏は、夜型の人が無理に早起きをして朝型の生活を送ることで「社会的時差ぼけ」になる可能性を指摘しています。*2
寝ようとしても寝られず朝早く起きる生活が続き、たまった睡眠負債を解消しようと休日に昼近くまで寝る。しかしその晩寝つけず、翌週もまた次も睡眠負債がたまっていく悪循環に陥る。睡眠のタイミングが毎週ずれると、時差のあるところへ毎週行っているような状態に。
たとえば、平日は深夜1時に寝て朝7時に起きる、休日は深夜2時に寝て朝10時に起きるといった具合に睡眠をとっていると、睡眠時間の差によって体内時計がずれ、社会的時差ぼけになってしまうのです。時差ぼけの状態では、体調が優れず仕事のパフォーマンスも低下してしまいます。
さらに、夜型の生活によって「糖尿病、心臓疾患、うつ病などの疾患リスクを高める」可能性もあると北村氏は指摘しています。*2
北村氏は、社会的時差ぼけを防ぎ疾患のリスクを下げるためには「起きる時間は変えないこと」が大切だと述べます。*2 眠りにつく時間は遅い夜型だとしても、起床の時間は変えずに、日中に眠いと感じるようなら仮眠をとって睡眠時間を確保することをおすすめします。
夜型を活かす「クロノワーキング」
活動しやすい時間帯には個人差があり、それを示すのが体内時計のパターン「クロノタイプ」です。「クロノタイプ」とは朝型・夜型といわれる生活リズムの専門用語で、遺伝子と年齢によって決まるとされています。*2
この「クロノタイプ」に合わせて仕事の時間を調整する働き方を「クロノワーキング」と呼びます。朝型の人は午前8時から午後4時まで、夜型の人は午前11時から午後7時まで働くといった具合に、自分の体内時計に合わせて仕事をする考え方です。*3
日本の企業でこうした働き方を完全に実現するのは簡単ではありませんが、通常の勤務時間で働く場合でも、夜型の人なりの工夫ができます。
睡眠の専門家リンジー・ブラウニング氏は、生産性が低い時間帯には単純作業を、ピーク時には集中を要する仕事を組み込むことを提案しています。*3
午前中のまだ頭が冴えない時間帯にはメールチェックや資料整理といった定型業務を。そして頭が冴えてくる午後には、企画立案や重要な商談といった創造的な仕事を入れていくのです。
1日のタスクを事前に書き出し、メリハリをつけた仕事の組み立て方を意識することで、夜型でも効率的な働き方が可能になります。さらに、創造性が高まる午後の時間帯に重要な仕事を集中させることで、キャリアアップにもつながっていくはずです。
より自由度の高い働き方を望むなら、フリーランスという選択肢もあります。特に夜間業務の多いカスタマーサポートやITエンジニア、あるいはデザインや執筆といった創造性が求められる職種は、夜型の特性を活かしやすいでしょう。
夜型タイプかどうかをチェックしてみよう
夜型の特性を活かした働き方を考える前に、まずは自分が夜型タイプかどうかを確認してみましょう。以下のチェックリストを使って、あなたの傾向を見てみましょう。
あなたは夜型かもしれない?セルフチェック
以下の項目をチェックしてみましょう
生活リズム面
仕事面
3つ以上当てはまる方は、夜型の特性を持っている可能性が高いでしょう。
これらの特徴は欠点ではありません。先に述べたような創造性の高さを活かし、自分に合った働き方を工夫することで、むしろキャリアの武器となる可能性を秘めているのです。
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夜型の人は右脳型思考が優位で創造的な発想が得意という強みがあります。この特性を活かす方法は、自分の生産性が高まる時間帯を意識して仕事を組み立てること。
フレックスタイムやフリーランスといった柔軟な働き方を選択するのも一つの方法ですが、通常の勤務形態でも工夫次第で夜型の強みを発揮できます。
自分の特性を理解し、それを活かした働き方を実践することで、確かなキャリアアップにつなげることができるでしょう。
※引用部分の太字は筆者が施した
*1 Marco Fabbri, Alessandro Antonietti, et al. (2007), “Circadian typology and style of thinking differences,”Learning and Individual Differences, Vol.17, No.2, pp.175-180.
*2 AERA dot.|朝型か夜型かの約50%は遺伝的に決まる 個人の特性「クロノタイプ」を知って睡眠負債、社会的時差ぼけを防ぐ
*3 STYLIST|‘Chronoworking’ is the healthy work behaviour we should all be adopting in 2024
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。